バーノンはいつだって、物語の中の王子様みたいだと言われるけれど、お姫様に出会ったことはない。
それにほんとに王子様みたいだと言ったその口で、「まぁお前は確実に通り過ぎるだろうけどな」って、なんでか笑われる。
でも確かにそうで、きっと目の前にお姫様みたいな人がいて、バッチリ目があったとしても、立ち止まるかというと通り過ぎるだろうから。
「困ってたら助けるかもしれないけど、眠ってるお姫様にキスしたりはしないと思う」
そう言えば、それじゃぁいつまでたっても物語は終わらないどころかはじまらないじゃんと、なんでかスングァンが怒ってる。
「でも、きっとシンデレラみたいな人より、シンデレラのお姉さんとかの方が好きかも。なんでもムキになって、必死で、時々イジワルで」
王子様とシンデレラのお姉さんの物語じゃ、はなしが変わっちゃうじゃんとやっぱりスングァンがプンスカしてるけど、「でもお前はお姫様ってタイプじゃないじゃん」って言ったら、ちょっとだけ考えてからニヤニヤしてたから、それなりに伝わったんだろう。
でもしばらくしたら、「え? なに? 俺が王道じゃないって言ってんの?」とまたプンスカ怒りはじめたけど。
「え? なに? 自分が王道だと思ってんの?」って真似して言ってみたら、「そりゃ虐められたりしても負けないし、悲劇の主人公とかは違うと思うし、イヒヒヒって笑うこともあるけど、俺だってギリギリ王道だと思う」とスングァンが謎に必死だったから、「なんだよそれ」と笑ってしまう。
森の中で、とびきりキレイなお姫様に会ったって、きっと通り過ぎる自信がある。
7人の小人と楽しそうに暮らすお姫様よりも、気づけば8人の小人になってそうな特別なお姫様以上の人を知っているから。
楽しそうに歌って、ムキになって怒って、何にも負けなさそうで。でも小さいことに傷ついて泣いたりして。
「お姫様なんて俺はいいよ」
そう言えば、「王子様のお前が好きなのに」とスングァンは言うけれど。
「俺はお前がお姫様じゃなくても好きだけど」と珍しくバーノンがそんなことを言えば、真っ赤になってスングァンが逃げてった。
でもすぐにスングァンが戻って来て「俺だってお前が王子様じゃなくたって好きに決まってるだろッ」って叫んでまた逃げてった。
やっぱり笑う。
王子様が通り過ぎたら、お姫様はきっと悲し気な顔をして見送るだろう。
でもスングァンはきっと追いかけてきて怒って、もう一度やり直させそうな気がする。そう思って、やっぱりバーノンは笑った。
The END
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