朝起きて、顔を洗う。
仕事に行く準備をしなきゃなって思いながら、コーヒーを飲む。
時計を気にしながら着替えて。
大抵のドラマでは社会人はそういう感じで描かれてるのに......。
朝、抱きしめて離さない男の腕から逃れて起き上がるのに必死で、結局は「ヤーなんだよぉ〜もぉ毎日」と言えば、「仕事か？」って聞きながら起きる奴がいる。
「仕事に決まってるだろ。遅刻するだろ」
ジョンハンが起きたら着いてくる。
顔を洗う横でタオルを差し出してくれるのはありがたいけど、トイレの前でも待たれるのはどうかと思う。
「ヤー。そこにいるなって。コーヒーでも入れとけよ」
そう毎回言わなきゃどかない男は、それでも「オッケー」と軽く答えてトイレの前から去っていく。
ユンジョンハンの新しい日常は、ちょっとおかしい。
もっと寂しいはずなのに。
もっともっと、孤独を感じるはずなのに。
「いやでも俺ら、なかなか一緒にいられないじゃん」
何故かそう言って、コーヒーを持ってトイレの前に戻ってくる男のせいだろう。絶対......。
確かに、ずっと一緒にはいられない。
前はずっとずっとずっと一緒だったから特に。
でもそれでも一緒にいすぎではあると思う。
しかもこの男は、スケジュール的に一緒にいられると見たら、まずバーノンに小遣いをやってスングァンを誘い出させ、スングァンがウキウキでバーノンのところにお泊りに行ったのを見計らってやってくる。
「だってせっかく一緒にいられるんだから、ずっとギュッとしてたいじゃん」
とか言いつつ、トイレのドアすら開けようとする......。
「ヤー。じゃぁパンも焼いとけって」
そう言ったら今度も素直に「オッケー」と去って行くけど。
だから「バターも塗って、それから冷蔵庫の中に瓶に入ったジャムがあるから」とも伝えておく。
愛はある。確かにある。幸せでもある。
でも仕事に行く前から、だいぶ疲れたかもしれない。
そんな素振りも見せないけど。だってエスクプスが盛大に拗ね始めるから。それに何を言ったって、「でももう少ししたらまた会えなくなるじゃん」って悲し気に言われると、負けるしかなくなるから......。
離れてる時間なんてきっと一瞬なのに、それでも寂しいと目をウルウルさせるから。
笑いそうにもなるけれど、その気持ちはジョンハンだって一緒だった。
だって、愛があるから。確かにあるから。寂しいのは一緒だから。
「ジョンハナ～、パンが焼けた～」
バカみたいに幸せそうな声で呼ぶ声に「お～」って返す。
ユンジョンハンの新しい日常は、想像してたのと、やっぱりちょっと違ってた。
The END
1068moji
20250531
