「日本は雨だよ」
そんなカトクを送ってきたミンギュのご機嫌は良い。でもとりあえずそれを、ウォヌは既読スルーでやり過ごす。
仕事前だからってのもあるけれど、ミンギュに対して怒ってもいたから。
木曜日だから当然仕事なのに、腰のだるさをウォヌは引きずっている。ここ数日ずっと。
無視し続けてるからか、ミンギュはグループのカトクの方で「ウォヌヒョ〜ン」とか言い出した。絶対それに誰かが「ウォヌがどうした?」とか言い出すのが判ってて。
「ウォヌヒョンちょっと拗ねてるんだよ」
ミンギュが言うのに、「ウォヌが拗ねるか?」と素直に疑問形だったのはホシで、さすがチングって感じ。
「その場にいれば拗ねても見せるし怒ってる振りもするだろうけど、ウォヌが本気で拗ねたり怒ったりすることなんて、滅多にないだろ」そう言ったのはウジで、やっぱりチングだと思う。
でも残ったチングのもう1人、ジュンが「じゃぁ今がその滅多にない時だな」ってさらっと言った。
いやほんと、さすがチング。
まだまだグループのカトクではホウコンの話題が尽きなくて、本当ならウォヌだってそこにいっぱい感想を書いたり、いつかは俺らもって書きたかったっていうのに、あんまりにもあんまりでそんな気力も起きなかったここ数日だった。
月曜日。身体がだるかった。でも原因は判ってるし、1日中座り仕事で腰が痛すぎて、世の中の社会人を尊敬した日。
それでもなんとかやり過ごしたし、その夜には大人しく寝たってのに......。
ちゃんと大人しく寝たはずの次の日、どうにかやり過ごせそうだったのに突然、子どもが手放したオモチャの人形みたいに身体に力が入らなくなって、身体全部が重たくて。クラクラするというか、なんていうのか。
頭も割れるように痛いし、胸なのか胃なのか腸なのか。いやもう内蔵なのかもしれない。全部が不快だった。
吐けば多少は楽になるのかとトイレに籠もってみても、結局上からも下からも何も出ない。
限界が遠いのか近いのかすら判らなくて、結局ウォヌが助けを求めたのはジョンハンだった。
「早退しろ。迎えに行くから」
ジョンハンは当然のようにそう言ったけど、それならジョンハンまでもが早退してしまう。それにまだ働き始めたばかりで、しかも金曜日にウォヌがホウコンに行ったことは周知の事実なのに、その後に早退なんてしたら仕事をサボってると思われてしまうだろう。
だから絶対、どうにかして業務終了まではいると言えば、ジョンハンはそれに「マジメか」って呆れながらも了承してくれた。
でもウォヌの業務終了の瞬間には迎えにきたから、ジョンハンは確実に早退したんだろう。
日曜日にホウコンに参加してたんだから、絶対にサボったって思われるはずなのに。そう言えば、「俺ライブも行ったし打ち上げも出たから疲れてるんで」って半休使うって言って早退したから、何も問題ないだろと笑ってた。隠しもしなかったらしい。でもウォヌのことがなければ、早退なんて絶対しなかったはずなのに。
迎えに来たといっても、ジョンハンはタクシーでやって来て、ウォヌを乗せてタクシーで帰っただけだった。
でもジョンハンがそこにいてくれるっていう安心感が、どれだけウォヌのしんどさを和らげたか。
タクシーの後部座席で身体から力を抜きまくってジョンハンにもたれられる安心感はハンパなかった。
「どこか調子、悪いのか?」
そう言いながらもおでこに手を当てられる。
素直に言ってしまいそうになるけど言えることは少ない。でも自分だってなんでこんなに不調なのかが判ってなかったから、答えられることは少なかった。
「なんか、クラクラする。頭が重たい。痛いとかよりも、本当になんか、重たい............」
腰も痛い。それも言おうか言うまいか迷ってやめておいた。きっと言ったってジョンハンは笑ったりしないし、呆れたりもしないはず。
そうは判っていても言えなかった。
「ウォヌや」
それなのにジョンハンは、ウォヌの不調の原因に、ウォヌ以上に聡かった。
でもジョンハンがさらりと言った、「お前のそれ、半分以上は寝不足だろ」って言葉は、ウォヌに染み込むはずもなかった。
だって、もっと寝てない時だってあった。
カムバ時期なんて1日分の移動時間や仮眠をあわせたって数時間もなくて、家に戻れて倒れるように寝ても次の瞬間には仕事だと起こされて。
コンサート時期だって、海外に行く時は空の上で爆睡できるからと、練習時間とは別に、さらに仕事を詰め込んでたりもしたのに......。
「それはないって」
もっとちゃんと否定したかったけど、出た声はか細かったかもしれない。
でもジョンハンは「そうだって。俺も何度かやったから判る」と気にした風でもなく笑ってた。
「俺等が知ってる睡眠不足はさ。緊張と興奮がいつも側にあって、身体はもう限界だから寝るのもほんとにバタンキューだろ。でも普通に暮らしてる人たちはさ、パソコンとか書類とか前にしてずっと座ってるのが基本でさ。そんな中で睡眠不足だからって寝る訳にもいかなくて。踊ってれば一瞬で過ぎるような数時間を目と頭を使って耐えてたら、今のお前みたいな状態になるんだよ」
ジョンハンの言葉に驚いてたら、「俺も最初はビックリした」とやっぱりジョンハンは笑ってた。
マンションの前まででも良かったのに、ジョンハンは部屋までついてきて、ウォヌの着替えまで手伝ってベットの中にウォヌのことを押し込むところまでしっかりやって行った。
「ミンギュには、俺から言おうか? あいつはきっと俺らみたいな生活したとしても、気合と根性で乗り切れそうだから、言わなきゃ気づかないぞ」
何を? と訪ねそうになったけど、ギリギリとどまった。
でもミンギュは、それでもウォヌのことを気遣ってくれている。だってナマではしなかったし、一番奥までは突いてこなかった気がするし。
ウォヌが何を考えたかがわかったのか「バカお前、眠れなくなるぞ」とジョンハンがまた笑ってた。
枕元に水まで置いて、それからジョンハンは帰って行った。
少しだけ寝た。いつもなら寝てるウォヌを覗き込むようにして「ケンチャナ?」って言ってくるミンギュがいるはずなのに、今は遠い。
それでも帰ってくれば一緒に暮らせる。生活の時間帯は違うし、同じ車に乗っての移動も滅多にないけれど、当たり前のようにウォヌの寝る横に潜り込んでくるミンギュがいる。
ミンギュはよくウォヌに「寂しいよ。会いたいよ」ってカトクを送ってくるけれど、ウォヌは大抵「俺も」としか返さない。
だってウォヌが寂しいとか会いたいとか言ったら、ミンギュは絶対にもっと寂しくなって会いたくなるはずだから。
「あぁでも俺も会いたいよ」
ただそう呟いただけだから、ミンギュには届かないはずなのに、なんでか届いちゃう気がした。
朝は普通にやって来て、当たり前だけどまた仕事で。
「休めば?」
ジョンハンはわざわざそれだけのために電話をくれたけど、よく寝たからか次の日からは大丈夫だった。
ミンギュからは当たり前のように愛してるとカトクが届く。今がどこで、会えるまであと何時間でって。見知らぬ街並みの写真ばかりだったのか、見知った街並みの写真になっていく。
会いたかったって言おうか、それとも、俺お前のせいでえらい目にあったんだけどって言おうか。
でも黙っておこうか。
だってきっと、抱きしめられたら抱きしめ返してしまうから。不埒な思いはウォヌにだってちゃんとあるから.........。
The END
3053moji
2025/7/17〜2025/11/5