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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

社内恋愛がはじまる世界線2 釜山編

このおはなしはについて

続き物ではないつもりですが、「社内恋愛がはじまる世界線」をお読みいただけると、きっともっと楽しいとは思われます。

最初のがクパン編だとすれば、今回は待望の(?)社内恋愛~の釜山編。つまりはミーニー編です。エヘヘ^m^

このおはなしを、トップのcontentsに載せて良いのか? とは、最初のクパン編も思ったんですが、今回もそう思いそうですwww
まぁ、気長にどうぞよろしくお願いいたします。 

sevmin.hateblo.jp

 

社内恋愛がはじまる世界線2 釜山編

「ウォヌの破壊力半端ねぇから、5秒以上目はあわせない方がいいし、5メートル以内に近づかない方がいいぞ」

そうミンギュに言ったのはウジで、その時は「何それ」と笑ったはずなのに、全然本気にしてなかった。

だけどほんとに半端なかった。でも言い訳をするなら、目の前の男がウォヌ本人だとは知らなかったんだ。うっかり近づいて、真正面から見つめあっちゃって、しかも「え、誰?」って言った少し掠れたその声に、何もかも鷲掴みにされるなんて予想できるはずもない。

名乗って挨拶して、それから事情を話して。って本当はしたかったのに、「何やってんのアンタ」って思わず言ってしまったのは、熱があるのに無理をし過ぎて、脱水症状まで起こし始めてるってのに、それでもまだ書類を手に働こうとしてるその姿にイラってしたから。

いつもなら釜山支社には大抵のことはどうにかしてしまえるユンジョンハンがいて、いつだって冷静であぁ見えて根性論が好きなウジがいて、ウォヌはその後ろで地味に見えて堅固に、確実に仕事のフォローをするのが常だったらしいけど、2人は現在本社に出向中で、そんな時に起きたトラブルに、ウォヌはほぼほぼ一人で対応していたらしい。

もちろん他にも社員はいたけれど、ユンジョンハンの代わりも、ウジの代わりも、できる奴なんて早々いないだろうとは、ミンギュだってもう判ってた。

それでもミンギュが釜山に来ることになったのはほぼほぼ偶然だったはず。
たまたま仕事中に使ってたプログラムが固まって、「待ってくれ、頼む。今はどうか」とパソコンに向かって盛大に頭を下げていたところをウジに見られてた。
数時間かけて整えたあれやこれやも入ってて、助けてくれるなら、きっと悪魔とだって手を組むぐらいの心境のところに、「助けてやろうか?」って言ったのがウジだった。

当然、助けて貰った。
感謝してもしきれなくてコーヒーだってなんだって、飯ぐらい驕る気満々だったのに、「貸しにしとく」と言われて、それを全然忘れてなかった3日後ぐらいに、「キムミンギュ、貸しを今返せ」と言われて、なんでか釜山に出向くことになっていた。

「いや、貸しがなんか、物凄く大きくなった気がする」

そう言えば、「お前が貸しをすぐに返さないからだろ。ウジに貸し作るなんて、俺は怖くてできないね」とジョンハンに冗談なのか本気なのかみたいなことを言われて、慄いたほど。

釜山で現場がトラブっているのに、後に残して来た人間が運悪く体調を崩したとか。

ぶっきらぼうに見えて親切だし、適当なことをしそうに見えて丁寧だし、何よりアイツが作る稟議書には優しさがある」

稟議をどう読み解けば優しさになるのかは判らないけれど、ユンジョンハンは釜山に残してきた人のことをそう言った。

「ハニヒョンに言わせたら、大抵は優しい奴だとか、良い奴だとか、悪い奴じゃないとか、次はきっとできる奴だとか。全部そういう感じになるじゃん。キムミンギュ、気をつけろよ。ウォヌの破壊力半端ねぇから、5秒以上目はあわせない方がいいし、5メートル以内に近づかない方がいいぞ。アイツと仕事した相手は絶対、一度はしみじみと、チョノヌしんどいって言うからな」

ウジはそう言って、「まぁでもお前無駄にデカいから、大丈夫そうだけど」とミンギュの肩を、結構力強く叩いた。

「いや、無駄じゃないんで」

そう言ったけど無視された。
当然仕事だから会社から交通費は出るし、ホテル代だって出るという。
でも結局、ホテル代は浮いてしまった。

ミンギュが仕事を黙々と片付けてる間も、ふらふらなのにウォヌはその場から離れずにいたけれど、ミンギュの仕事ぶりに出来る奴と認識してくれたのか、気づけばズルズルと身体から椅子から滑り落ちていた。多分もう、自分の身体を支える体力も残ってないんだろう。

カトクでジョンハンとウジに仕事とウォヌの状況を説明すれば、「悪いけどウォヌのこと、家まで連れてって、帰ったら薬もあるから」と返信が来た。
釜山の中でもそれほど都会な感じの場所にない支社だったからか、ウォヌの家は支社の3つ隣りの1階に骨董品やさんが入ってる雑居ビルの3階にあって、カトクではパスワードも送られてきた。

まぁ親しい先輩後輩なら、家の暗唱番号を知ってたっておかしくないけど......って思ったら、そこはウォヌとウジが暮らす家で、その前はジョンハンが住んでいた家でもあったらしい。

ちょっと古めだけれど、エレベーターもあって助かった。何より助かったのはやっぱり距離が近かったから。
同じぐらいのガタイだから、さすがにお姫様抱っこなんてできないし、肩を貸して歩かせるにももう立ってもいられない状態で、しょうがないとばかりに会社の中にあった部長クラスのだろうなっていう椅子を勝手に拝借した。

ウォヌを乗せて、コロコロのついた椅子を押す。
ビルを出るのに段差もなくて助かった。

部屋の中は、結構広かった。それは仕切りも何もなかったからで、大体左右に分かれて物が置いてあって、どっちもそれほどとっ散らかってはいなかったけど、誰のものかは一発で判った。
壁際に置かれたシングルベットの細身タイプはウジのだろうし、逆にダブルのサイズはウォヌのだろう。

他人様の家だというのに、状況が状況だったから、ウォヌをベッドに寝かせた後に、ミンギュは好きなように動いた。
薬を探したし、ウォヌの着替えを探したし、身体を拭けるようなタオルを探して、勝手にお湯を沸かして。
当然それでウォヌの身体を拭いて着替えさせた。

熱を測って水分を補給させて、それからまた汗を拭いてやって、熱が高すぎれば冷たいタオルで関節に当ててやって。そうしながらも持ち帰った仕事も片付けつつ。
結構親身にケアをしたっていうのに、大分熱が下がったのか、朝ベッドに起きて座り込んだ状態でウォヌは、「で、誰?」って掠れた声で言った。

ボサボサの頭に、胸元がはだけた状態で、まだ熱があるからかほんのりと赤い肌は、なかなかどうして煽情的だったかもしれない。

名乗って、ウジヒョンから暗唱番号を聞いたと言えば、「え、年下?」って驚かれた。
まぁガタイの良さから年齢より上に見られることはよくあるから、大したことじゃない.........って思った次の瞬間に、「俺の範疇外」って言われて自分で驚くほどにショックだった。

後から聞けば、ウォヌはそれを自分は教育担当じゃないっていう意味で言ったらしいが、そんなの判るはずがない。
年下ってことがハンデになるんだと考えた次の瞬間には、ハンデがあったって自分はやれる......っていう、謎な強気な気持ちにもなった。でもそれぐらい、ミンギュは自分に自信があって、自信があると言えるほど努力することも嫌いじゃなくて、そんな自分が好きだったから。

「何か食べられそう?」

そう聞けば、ウォヌはかなり長い間考えて、ミンギュがもう一度同じことを聞きなおそうかと思った頃にようやく「冷麺?」とか病人が食べるのはどうかと思うようなものを口にした。
しかも「ちょっとピリ辛で」とか、細かい希望まで口にした。
そりゃできる。自慢じゃないが、店を出したって成功するんじゃないかと自負してるぐらいなんだから、ちょっとピリ辛の美味い冷麺なんてミンギュにしてみれば朝飯前で、無理難題でもなんでもない。

ただ体調が悪い人間に作って良いかはちょっと悩んだ。
でもまぁ、食べたいものがあるってことは、元気になってきた証拠かもしれない.........と、ミンギュはパパパと作ってみせた。
それこそ、他人様の家の冷蔵庫を勝手に開けて。

「うま」

ウォヌはそれを、時々小さく呟きながら完食した。
少しでも料理をするなら、タレの作り方とかを聞いてくるはずなのに、ウォヌは何も聞いてこないから、日ごろから食べる専門なのかもしれない。
口の端を少しだけあげて小さく、でも幸せそうに笑うその姿は常なのか、それとも体調不良中だから大人しめなのか。

料理がうまい男ってどう? とか、本当は聞きたかった。年下ってハンデを補って余りあるんじゃないかって、確認したかった。
我慢したのは相手が病人だからで、決して出会ってからの時間じゃなかった。

「着替えは?」

汗をかいて気持ち悪いだろうとそう聞けば、ウォヌはまたしばらく考えて、それから「脱ぐからいい」とか言う。
ベッドの中に戻ったとしても、多分それじゃぁ風邪は悪化するだろう。それに今は解熱剤が効いてるだけかもしれないのに。

勝手に家の中をうろついて、シャワーブースの前でタオルを見つけた。それから台所横のサンルームで洗濯機を見つけて、その中にかわいたシャツを見つけた。
タオルはお湯で絞って、シャツと一緒に差し出せば、動きもゆっくりだったけど、ウォヌは黙って着替えはじめる。

「背中、俺が拭くから」

そう言えば、ウォヌはミンギュのことを見上げてきたけれど、別段困った風でも戸惑う風でもなく、トロかったけど、それでもタオルをミンギュに差し出してきた。
背中を拭いて、ついでに首もとも拭いて、そのまま肩や首を揉んでやれば、ウォヌはずっと目を閉じてそれを堪能してる風だった。

「なぁ、俺のパンツは?」

そして聞かれた。当然のように。
着替える時に下着も着替えたくなったんだろうけど、いや、はじめての家だってのに、なんでミンギュがパンツの場所を知ってると思うのか。

「どこ?」

問いかけにウォヌがちょっと考える。
ちょっとだけ待った。場所を教えてくれると信じて。だけどいくら待っても、ウォヌはパンツの在りかは言わなかった。
いやたぶん、熱がまだあるんだろう。

「後で探しとくから」

だからそう言ったってのに、なんでかウォヌは、「ん」って言いながらパンツに手をかけた。
着替えがないなら、見つかるまではなくてもいいという、男らしいというか、潔いというか、そういう判断なんだろう。

思わず後ろを向いたミンギュは、「いやなんで俺、後ろ向いたんだろ」って声に出して言ってしまったほど。
動きはトロいけど、それが余計に、ミンギュのどこかを刺激する。
熱がある状態のウォヌだからこそなのか、そうじゃなくてもそうなのか。ミンギュはそれを、確かめたくなったほど。

なんでか下半身裸でベッドに戻っていったウォヌのために、台所を片付けつつも胃に優しいスープを作りつつも、洗濯機を回しつつも掃除しつつも、パンツを探す。
完全に他人の家だというのに、小一時間も家事をすれば、なんだって見つけられたし大体ことは判ったし、そこは普通に野郎が会社の近くで同居生活をしてるだけの家だった。

冷蔵庫には、ウジオンマから届いた味噌1はご飯につけて食べる用で、味噌2はスープ用で、味噌3は野菜につけて食べる用ってメモが貼られてたけど、冷蔵庫の中にあった味噌には番号なんて振ってなくて、ややこしいことこの上ない。
味見してどの味噌かを確認しようとして、全部がお子様用なのか甘かった。
それでもまぁいっかと、当然のように勝手に食べた。
それから勝手にそこらにある本を手に取って、ソファで寛いで、仕事ももうここから通おうとか勝手に決めて、ウォヌが次に起きたら履かせなきゃとパンツをその辺に置いてってしてたら、うっかりミンギュだって睡魔に負けて眠ってた。

起こされたのは、腰にシーツを巻いたウォヌに寄って、突かれたから。
なんでかテレビなのかエアコンなのか、リモコンで突かれた。

「あ、起きたんだ」
「............」
「なに? どうかした?」
「............お前、誰?」

いやそれを聞かれたのは何度目だろう。思わず考えたけど、それよりも今が一番不審な感じで聞かれたことに気がついた。
リモコンで突かれているし、なんとなく距離を取られているし。
そんな疑問がウォヌにも伝わったのか、「それ、俺のパンツなんだけど」って言われてみれば、なんでかしっかりと左手がウォヌのパンツを握りしめていた。

物凄い不審者を見る目をしたウォヌに、何度目だよって思いながらも自己紹介をする。
体調不良もあったからだろうと自分も慰めつつも、パンツを差し出しながらも「飯食えそう?」と聞けばウォヌは頷く。
不審者だと思ってる相手が作った飯は食うのかってまた別のツッコミを入れたくなったけど、やっぱり食べてるウォヌは静かで口元だけで笑う。

「なにこれ美味い」

時々小さく呟きながら。
結局釜山にいる間、ミンギュはずっとウォヌの部屋にいた。正確にはウォヌとウジの部屋だったけど。
そこから仕事に行って、そこに戻ってくる。
聞けば少し歩けば市場もあるとかで、昼休みに買い物をすませて一度部屋に戻って、ウォヌの昼飯の世話をしてからまた働いて、夕飯には新鮮な海鮮丼とかを作っちゃったりして。

「どうしよう。俺、お前がいない暮らし、耐えられないかも」

何か甘いものが食べたいと言えば簡単に店で食べるようなパンケーキが出てきたり、朝からほっこりしたものが食べたいと言えば、田舎のハルモニが作ってくれそうなご飯や汁物やおかずが出てきたり。

「あ、俺、、お前の歓迎会やってないな。もう送別会と混みでいいよな」

ウォヌのミンギュに対する扱いは結構雑だったというのに、ミンギュはただただ、美味いと呟きながら口元だけで笑うウォヌから目が離せなくなって行った。

きっちり2日休んでウォヌは仕事にも復帰した。
ミンギュが結構頑張ってたから、ウォヌは病み上がりに無理する必要もなくて、「なにお前」と呟いていた。

すでに自己紹介は済んでいるっていうのに、課長補佐がミンギュとウォヌをそれぞれ紹介してくれた。
心の中で、いやもう全部見た仲だから......とか思ってたけど、表情には出さなかったはずなのに。

「俺はもう、全部きっと見られたけどな」

って呟いたウォヌがいて、意味が判らなかったのか課長補佐が聞き返したっていうのに、なんでかウォヌは上司なその人を無視してた。
まだ体調不良が少し残ってるのかと思ったら、日頃かららしい。
勤務態度に低評価がつくんじゃないかと心配になったほどだけど、「コイツはこんな感じだからいつも」と無視られた人が笑ってた。

ちなみに課長補佐なその人は、課長補佐なのにパイプ椅子に座って仕事をしてた。聞けば椅子が突然無くなったらしい。
どう考えてもウォヌを運ぶために家に持ち帰った椅子なはずなのに、ウォヌはやっぱり素知らぬ顔をしてた。そしてその椅子はなんでか、家のパソコン机の前にしっかりと置かれている。返す気はないのかもしれない。

「年下じゃ、ダメなんですか?」

なんでそんなことを聞きたくなったのか。
お前にしかできないような、そんな仕事の仕方はするなと小言を言われていたウォヌが、「別に誰が代わってくれてもいいですけど、いつも結果、俺にしかできないじゃないですか」と口にしたからかもしれない。

絶対に自分なら助けられるはずで、ウォヌにしかできない仕事ができるはずで、横に立てるはず。
そう思った瞬間には口に出ていた。
明日か明後日には釜山を後にするっていうのに。

「お前ならいいかも」

ウォヌが言った。ミンギュのことを見もせずに。
視線は手元の書類から離しもしない。それなのにウォヌの口から飛び出した言葉は、かなりの威力をもってミンギュのことを打ち抜いた。
それはウォヌがミンギュの仕事ぶりを見て、お前なら任せてもいいかもっていう意味だったなんて............。いやもちろん。仕事はできるし、ミンギュ的にもウォヌの側に立ちたいっていう意味も含んだけれど、それ以前に、ウォヌの言葉はいつだってミンギュを惑わせた。いや勝手に誤解してるのかもしれないけれど、とにかくミンギュは、勢い余って仕事中だというのに、ウォヌの手を取ったほど。

「ん? なに?」
「俺、仕事もできるけど、料理も洗濯も掃除も、DIYもキャンプも運転も、得意なんです」

手を掴まれてたって、いきなりそんなことを言われたって、ウォヌは平然としてて、頷いてるだけだった。それはまるで、「わかってる」って言われてるみたいで............。

「そうだな。一緒に暮らすのに、こんなに有り難い人材はいないかも」

不意にウォヌが言った言葉は、ミンギュにしてみれば「一緒に暮らそう」と言われてるようなもんだった。
ただただウォヌは、朝から鼻歌うたいながら料理して洗濯して掃除してたミンギュのことを思いだして言っただけだったのに............。

ちょうど釜山支社では、ジョンハンもウジも、本社で成果を出しているから、戻ってこないかもしれない......なんて囁かれてもいて。
出世をするならそりゃあ支社よりも本社の方がいい。でも出世と言ったって、班長とかリーダーとか主任とか、肩書きはつけども実際には何の権限もなくて後輩たちに威張ってるだけの人間は多い。それすら超えていく自信は当然あるけれど、別にそれでも社長になりたい訳でもない。
いつだってミンギュは自分がしたいようにしてきただけで、仕事だってなんだって、自分がしたいからしてきただけだ............。

それなら釜山だって何も問題ないかもしれない。
言葉が通じない海外って訳じゃない。食べ物は美味しい。暮らす場所もある。そして何より隣りにいて欲しい人がいて、一緒に暮らしても良いとも思って貰えてる。

「じゃぁ俺が釜山に来ます」

だからミンギュは気づけばそう宣言してた。
でもウォヌは、いやウォヌ以外の、ミンギュ以外の全員が、釜山支社に気を使っての発言だと捉えていて、本社勤務で若手のホープと聞いているミンギュが本気で釜山に来るなんてことは、あるはずがないと思ってた。

でもミンギュの気持ちも、その行動力も、またやりたいことをやり遂げる実行力とか達成力とかも、欲しいものは絶対に手にしようとする案外貪欲な性格も、釜山には知る人はまだいなくて.........。

本社に戻ったミンギュが爆速で異動の辞令を半ば脅迫するようにもぎ取って戻ってくるとは、誰も思わなった。

「待たせた?」

ミンギュは勝手知ったる......ウォヌとウジの部屋の暗唱番号を見もせずに解除して、驚いてるウォヌにそんなことを言った。当然ウォヌは待ってなんかなかったし、戻ってくるとも思ってなかったし、なんなら勝手に家に入ってくるとも思ってなくて。
慌てすぎて一瞬いろいろ繋がらなかったのか、ミンギュに向かって「ごめん、誰だっけ」とか言ったウォヌだった。

「ッ嘘でしょ? え? 俺ここ、笑うところ?」
「いや嘘じゃないけど大丈夫。ちょっと焦って名前が出てこなかっただけ、思い出した」

後からその時のはなしを聞いて、「ウォヌじゃなければそれ叫んでるし警察呼ばれてもおかしくないから......」と言ったのはジョンハンで、「お前、犯罪者と紙一重だな......」と言ったのはウジで、2人とも明らかに言葉を失う感じで呆れていた。
でもミンギュはウォヌを落としたけど。

「俺、戻って来たよ」

ミンギュにそう言われてはじめて、ウォヌは何かがおかしいって気づいたらしかった。
ウォヌにだって好意を示してくれる人は、少なからずいただろう。でもウォヌの素っ気ない態度に諦める人の方が多かったし、時には強気で告白をする人もいたけれど、ウォヌの無反応を拒絶と取って勝手に玉砕していく人がほとんどだった。案外ウォヌの中で色んなことがストンと落ちるまでに時間がかかるだけなのに、それを知らない人がほとんどだったからだろう。

そういう意味じゃ、ミンギュは最強だったかもしれない。はなから諦めるとか、無理かもしれないなんて気持ちは微塵もなくて、同性同士じゃん......っていう大きな壁すら気にも留めず、「俺、ウォヌヒョンには最適だと思う」とか、本気で口にしてたから。

それから無造作にウォヌのことを抱き締めて、「ほら、ウォヌヒョンも全然嫌じゃないでしょ? 嫌悪感とかないでしょ? 他で試さなくていいけど、これ、俺だからだよ」と押しが強かった。

「韓国ナムジャの典型だな。落とすまでは強引なとことか」

ウジが呆れてそう言ったけど、ウォヌは「いやでも、無理強いはしなかったよ」とか言っていたから、ある意味どっちもどっちだったのか、本当に運命だったのか。

恋愛には不向きそうなウォヌとの恋は、9割がミンギュの独り相撲だと誰もが思っていたっていうのに、ウジが荷物を引き取りに釜山に戻って来てみれば、家の中ではミンギュの後ろをついて回ってるウォヌがいた。

「お前何してんの?」

そうウジが聞けば、「何が?」ってウォヌが言う。でもそう言った側からウォヌは、部屋の中を移動していくミンギュの後ろをついて行く。

「だから、お前なんで、キムミンギュの後ろをついて歩いてんの?」

物凄い明確に質問したウジに、「あぁ、だってなんか、気になるから?」って言ったから、本人も何が気になるかは判ってないのかもしれない。
でも今ミンギュはタオルを畳んでるだけだったから、「タオルの畳み方が?」って聞いたら、ウォヌが笑って「タオルの畳み方が気になる奴がどこにいるんだよ」と答えてくれた。

「え、じゃぁお前、キムミンギュがタオルを畳むのが、気になるってこと?」
「うーーーん、どうだろ?」
「ちょっと、突き詰めないであげてよ。そこは」

2人のやりとりを聞いてたミンギュが思わず笑って助け船を出したけど、トイレ掃除をしてるのも見てるらしいし、ベッドメイキングも見てるらしい。
それじゃぁまるで、はじめて見た人間を親鳥と勘違いするひな鳥みたいなもんじゃん......とウジは思ったらしいが、「定期的に釜山の美味しいものをそっちに送るよ」とミンギュが言ってきたから、それ以上は黙ることにしたとか......。

「お前が無理やり釜山に異動とかするから、俺が本社に異動になったんだかんな」

そう最初は文句を言ってたはずのウジだったのに、引っ越しの準備はほぼしてくれていたし、美味しい料理は食べさせて貰ったし、釜山料理も送ると約束してくれて、しかも本社で仕事に役立ちそうな情報を丸っと教えて貰ったりもして、結構ウハウハだった。

「お前本気でこっちに骨埋める気かよ。まぁ別に俺はいいけど」
「いや、ウォヌヒョンが異動になるなら着いていくよ」
「ウォヌは異動とかしそうにないタイプだから、大丈夫だろ」
「いや、ウォヌヒョン自身はそうでも、仕事なんだから辞令ってことがあるじゃん」
「ないない。あいつに限ってないない」

荷物を引き取りに来たついでに仕事の引継ぎもして、数日ウジは元自分の部屋に居続けたけど、その間喋ってるのはもっぱらウジとミンギュで、2人の会話の中身が自分のことだというのに、ウォヌは大抵聞いているのか聞いてないのか。でも楽しそうに笑ってることもあれば、ボーっとしてることもあったけど、それでも「仕事ではこう見えても抜かりないからコイツ」とウジは言っていた。

ウジはあっさり「じゃぁな」と去って行ったけど、最後の日にウォヌに向かって、「お前、ほんとにアイツでいいの?」と聞いていたのを知っている。
一瞬「余計なこと言わないでよ」って言いかけたけど、それよりも早くウォヌが「わかんないけど、全部嫌じゃないから」と答えてた。
それをいつか、「愛してるから」って言葉に変えられる自信がある。ウジが帰ってからそう伝えれば、ウォヌは「ん、そっか」ってだけ。

ユンジョンハンとウジという、とびきりの2人がいなくなったというのに、釜山支社は順調だった。それやキムミンギュが来たからだろう。そしてヤル気だったからかもしれない。
仕事は完璧なのに、時折物凄いうっかりをやらかす。そんなところも人として好感が持てたのか、すぐに人気者になったし、なんでかデキる男は時々シュークリームとかを手作りして会社で配ってた。
そりゃモテないはずがない。でも誰かがミンギュに告白しただとか、そういう話は一切なかった。
それはミンギュが内緒だけどって言いながら、ウォヌのことを「俺の好きな人」とバラしていたからだけど、それを本気に取る人もいなかった。普通に色々面倒になるのを避けてそう言っているんだろうと思われただけで。

でも2人の関係は順調で、「社内恋愛してるんだよ。俺たち」ってミンギュが嬉しそうに言えば、ウォヌは「じゃぁお前、今日残業な」とか言って、理不尽に仕事を押し付けていたけれど。

「大好きウォヌヒョン」

ミンギュが幸せそうにそう言ったって、「お前の稟議差し戻しな」とウォヌはつれなかったけれど............。
でもミンギュの仕事が終わらなければ、ウォヌも何かしら仕事をして残ってた。

「だってお前がいないと、俺の飯は誰が作るんだよ」

ってことらしい。
いやさすがに今日はもう「ピザとチキンでいい?」って日でも、「なんでもいい。でも俺の食べる分はお前が取り分けるだろ」って言うウォヌがいて。
それを聞いて幸せそうに「当然だろ」とミンギュが笑う。

The END
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