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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

No War! Seventeen's Story 16

注意......

「No War!」は続き物です。そして長いです。
どこかからたどり着いた方はひとまず、contentsページからどうぞ。

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No War! Seventeen's Story 16

「俺らが行くよ」

ドギョムの言うことは誰も信じなかったくせに、それでもそう言ってくれたのはディエイトとジュンで、「騙されたと思って信じてよ」っていうドギョムの泣き落としに、「騙されてみる」と乗ってくれたのが2人だった。

「だって俺らは、スングァニの不在を知ったのも最近だから」

そう言ってジュンが笑う。
真剣に旅立つ算段をはじめたのを見て、少しだけ皆がドギョムの言葉を信じ始めたかもしれない。

でもいなかったことの再確認になってしまえば、ウォヌはもう耐えられないかもしれないからと、3人がスングァンを探す旅に出ることは伏せられた。

ディノは家に帰ったし、ホシとウジとジョシュアとバーノンは、スングァンが最後にいた場所からはじめると、今日も同じ場所に立つ。
ミンギュはいつも通りウォヌと一緒にのんびりと過ごして、エスクプスとジョンハンは、しばらく何もしないと宣言して、ただ寝てる。

誰も期待してないドギョムとジュンとディエイトの旅は、だからこそ余計に気合が入っていたかもしれない。

松葉杖代わりの木の棒を持っていただけのジュンだったのに、ミンギュが器用に肩を支えることができるように改良したからか、なんだかんだと遅れを取るのはドギョムだった。

最初は、「ジュニヒョンとミョンホの幽霊説、なにあれ」と笑ってたって言うのに。

ジュンもディエイトも、普通の顔して話しながら歩いてるのに、なんでかスタスタスタスタと進んでいく。

「ディノとウォヌが最初は真剣だったけど、今はもう完全にふざけてるだろ?」
「そうだよ。ウォヌヒョンがなんでも譲ってくれる状態だったのに、ウジヒョンが余計なこと言うから、扱いが途端にぞんざいになったんだよ」
「ぞんざい? ウジヒョンはなんて?」
「本当に幽霊だったら、大切にしすぎたら満足して成仏しちまうぞって」

そう言ったディエイトもジュンも楽しそうに笑うけど、ドギョムはすでに笑う余裕がなくなってきたかもしれない。

本当は、『あれは、ジュニヒョンが悪いよ。ウジヒョンに向かって、さらに小さくなった? とか言うから』って言ってやりたかったけど、それを言うには立ち止まる必要がありそうで......。

2人は楽しそうに話し続けてるのに、ドギョムは大分、そのスピードに息が切れてきていた。
それでもそのスピードを落とさなかったのは、目指す先にスングァンがいたから。
1人で戻ってきた時にも川を渡るのは大変だったのに、3人いれば、どうにかなるもんだった。何かを提案しても答えてくれる誰かがいて、何かを考えるにも1人では足りない知識が補完されて、何かを決断するにも力強い後押しがあって。

だから、あの日スングァンにあった場所まで戻ってくるには、それほどの時間はかからなかったかもしれない。

「さぁ、こっからは、探すんだろ?」

ジュンが言う。でもなんだか自信に満ちた言い方で、「見つからないはずがないと思う」って笑ってた。
向かう先の方向も判ってるし、今スングァンが名乗ってる名前も判ってる。ハルモニと一緒だったから、住む場所を移動するってことも考えにくいし、きっと探されてるとも思ってないだろう。そこまで話し合って、3人でバラけるか、全員で一緒に片っ端から回るかを決めた。

3人とも同じ意見で、それぞれが少しずつ違う場所を目指すことにした。とりあえず1日、行ける所まで行ってそれぞれで探してみようって。その方が時間の短縮ができるはずだから。どんなことがあっても、夕方には同じ場所に戻ることを決めて。

1人になって歩きだしたジュンは、景色を楽しんでいた。別に誰かを探す素振りも見せず、焦ってる様子もなく、勢いよくここまで来たことが嘘のようなその姿は、ただただ楽しそうだった。

それは、スングァンにもうすぐ会えると信じているから。

絶対会える。会えないはずがない。いつだって強く強く願えば、すべては現実となる。
そう思って生きてきたし、事実そうだったし。

だから会える。もうすぐ。ブスングァンに。そう信じながら歩き続けて2時間と少し。
山の麓から少しあがった所にポツリポツリと家がある、村とも呼べないような場所にたどり着いた。
誰か人を見つけたら、「弟を探してる」と言ってみようかって思ってたのに、井戸らしき場所にしゃがみ込むその後ろ姿を見ただけで、ジュンにはそれが誰かが判った。

しゃがむ時にいつも踵が浮いているからバランスが悪くて、いつだって後ろに倒れそうになってて、何度それを支えただろう。
井戸のそばにしゃがみ込んでいたその姿が、立ち上がる。そのままスッと立ち上がれず、一度右膝をついてから立ち上がるその姿に、足のどこかがうまく機能してないのかと不安になる。

でも生きていればいい。生きていてくれるだけで、全然いい。
そう思いながらジュンが一歩踏み出した時、スングァンが振り返った。
いつだって楽しそうに笑ってて賑やかで、でも誰よりも寂しがりやで優しくて、いつだって「ヒョンッ」って言いながら駆け寄ってくれる。

「ヒョンッ!」

懐かしく思い出したその姿のままに、スングァンがヒョンと言う。
物凄く嬉しそうな笑顔に、思わず「スングァナッ」と呼びかけそうになったけれど、その前に誰かが「ヒョンジュナッ」って言いながらジュンの横を通り過ぎて行った。

「どうしたの? 戻ってきたの?」

スングァンが嬉しそうな、少しだけ甘えた声を出す。
それはかつて、自分に向けられていたものだった。

「ハルモニたちを迎えに来た。ここはもう無理だろう。悪いな、一緒に来いとは、言ってやれなくて」

それはかつて、この地にいた人なんだろう。
色んな場所で、小さな町や村が途絶えていくのをジュンだって見てきたから、この場所が打ち捨てられた理由もなんとなく判る。自然の厳しさよりも、恩恵の方が少なくなっただけのこと。
きっと今の世の中では、世界中でそんなことが起きていて、弱いものがいつだって残される。

「ほら、川で釣った魚と、育ち切れてないやつばっかりだけど、コグマと」

最後の優しさなのか、その人はスングァンに食料を渡して去って行った。明日には、家族を連れてここを出るって挨拶をして。
スングァンが小さく「ありがと」っていうのが聞こえた。悲しいのを我慢してるようなその声に、駆け寄って抱きしめてやりたくなるのをジュンだって我慢する。

去り際、もう一度ジュンはその人とすれ違う。
当然のように見慣れない顔だから話しかけられて、知り合いを探してると答えて。
この村は井戸が枯れたから、ほとんど人はいなくなったっていう話を聞いた。
残されたのは行くあてのない、新しい土地で再出発なんて難しい弱者ばかりだってはなしも。

見知らぬ相手だったのに警戒されなかったのは、ジュンが足を負傷していたからかもしれない。

「ヒョンッ!」

さっきまで、哀しそうにまたしゃがみ込んで途方にくれていたのに、スングァンが自分以外をヒョンと呼んで、こっちに向かって慌てて駆けてくる。でもそれは小走りにも満たない速度で、力強くもなくて。
残される理由は、そういうことなのかもしれない。

「ヒョンッ! あのねッ」

スングァンが、見知らぬ男に縋りつく。

「ヒョンの家の、畑を、貰ってもいい? もう戻らないなら、いらない? こないだの雨で、うちの畑は土が流れちゃったから」
「あぁ、もう戻らないから、好きにしていい。雑草しかなくても、まだうちの畑の方がましだろうしな」

捨てていくものなのだから、断りも何もいらないはずなのに、「ありがとうヒョン。冬までの間に頑張ったら、きっとどうにか冬は越せると思うから」って礼を口にしたスングァンは嬉しそうだった。

「井戸が枯れてるんだから、畑だけあったってどうにもならないぞ」

せめて最後は前向きな言葉をかけてやればいいのに、男は最後まで否定的な言葉を残して去っていく。でもスングァンは、「うんでも大丈夫。今より全然、ずっとずっとましだから」って最後まで手を振ってた。

思わずジュンは、スングァンの斜め後ろから、一緒になって見知らぬ男に手を振ってしまったほど。
きっとスングァンは、ジュンのことをその見知らぬ男と一緒に来た人間だとでも思ってたのかもしれない。それまでは気にもしてなかったのに、ジュンがその場に残ってることに気づいてはじめて、驚いていたから。

慌てて取り出してきた警戒心は、笑っちゃいそうになるほど可愛くて。
ビクついてることを必死に隠してるのも、ジュンには丸わかりで。

「お、お兄さんは、な、なに?」

自分に向けられるスングァンの声は、いつぶりだろう。
不信感があらわな声に表情だったけど、そんなこと一つも気にならなかった。
笑う姿も、お道化る姿も、甘えてくる姿も、全部全部覚えてるから。

「人を探してるんだ。こっちで見かけたっていう人がいたから、足を運んだんだけど、この村は人が出てってしまったっていう話だから、見つからないかも」

ジュンがそう言えば、まだ警戒しつつも「うちはハルモニと2人だし、あっちに行けば、もう少し人がいるだろうけど、探してる人がいるかは......。それに長雨のせいで道も崩れてるから......」と親切だった。杖をついてるジュンの足を気づかってもくれた。

それからスングァンは、ジュンに会釈して家へと向かうのか、それとも新しく自分の畑になった場所にでも向かうのか、ちょっと気持ちは浮上したのか足取り軽く去って行く。

滝壺を見つけて楽しくなって飛び込んでケガをした時、ハオに怒られたけど後悔なんてしなかった。だって楽しかったし、次も見つけたらやっぱり自分は飛び込みそうだし。
でもはじめて今、後悔したかもしれない。
足さえ万全だったなら、ここまでの道のりを走破して、「見つけた!」って全員に伝えられたのに......。

ジュンは、歩いてきた道を戻る。
ドギョムと、ディエイトと、再会する約束をした場所まで......。

 

The END
4005moji