注意......
続きものだけど、別に前を読まなくても読めるかも。
そしてはじめに諸々書くのが面倒になってきたので、contentsを作った。
社内恋愛がはじまる世界線10
「雨が降ってるから、今日は休むだろ」
エスクプスがそう言った時、ベッドの中でまだ全裸の状態で沈んでたジョンハンは、どこの世界に雨が降ったからって仕事休むやつがいるんだよ......と思ってた。遠足じゃねぇぞって......。
でももぞもぞと起き出してシャワーもして頭も少しスッキリしてみれば、窓の外は稀に見る豪雨と風で、テレビの中でしか見たことのないような、そこらに置いてある何かが飛ばされていくところだった。
「さっきは自転車飛んでた」
エスクプスが「食い物はあるし、のんびりしようぜ」と言うのに、「だな」とだけ答えたジョンハンは、のんびりするのにこれ以上ないってぐらい最適なスウェットをもそもそと着る。
「別に着なくてもいいのに」
すぐ脱ぐんだから......みたいなことをエスクプスは言っていたけど、とりあえず無視っといた。
いやでも昼間っからいただけないことをするのも悪くない。
天気ではないけれど、それでも夜とは違う雰囲気は、それだけでも楽しめそうだった。
自分たちの時間を自分たちらしく好きに楽しむ予定だったのに、最初に電話をかけてきたのはジョシュアだった。
「ドギョムに連絡取れないんだけど」って。
会社の電話を鳴らしても誰も出ないし、ドギョムのスマホも出ないしと言って「守衛室とか、緊急連絡先とか知らない?」と訪ねてきた。
ちょっと待ってなと言って、何かあった時に電話をかけるって言う電話番号を調べてやった。
ジョシュアはありがとうと言って電話を切ったけど、「お前それ、パワハラホットラインの電話番号じゃん」とエスクプスが横から言ってきたけど。
「別にいいだろ。何かあったら、24時間いつでも電話くださいって書いてあるんだから」
そう言ったら、「まぁいっか。繋がるなら、どこかの電話番号でも、教えてくれるかもしれないし」とエスクプスもあっさりしたものだった。
車でも飛ばされそうな風がしばらく続きそうだとニュースでは言っていたから、ジョシュアがいくら慌てたって会社にはまだ行けそうもないだろう。でも、ジョシュアならどうにかしそうだったけど......。
エスクプスとの距離を詰めて、さぁ自分たちの時間を楽しもう......って感じだったのに、次に電話をかけてきたのはミンギュだった。
「ちょっとハニヒョン、ウジヒョンどうにかしてよッ」って、珍しくもプリプリしながら。
どうやらウジがウォヌに、正確にはホシを使ってウォヌに連絡してくるらしい。まぁウォヌが使えないと思ったらミンギュにも連絡してくるらしいけど。
「いやでも最初は俺に連絡してきてたけど」と状況を説明しようとするミンギュを遮って、「わかった。こっちでどうにかするから」とジョンハンは請け負っていた。
電話を切った後に、「安請け合いしていいのか?」とエスクプスは言ったけど、「まぁ大丈夫だろ? ウジは働きたいだけだろうし」とジョンハンは笑ってた。「とりあえず、またジョシュアから連絡くるまでは楽しもうぜ」とか言いながら。
大分長く楽しめるはずだったのに、ジョシュアからの連絡は結構早かった。
教えてもらったパワハラホットラインは外部の弁護士事務所に繋がっただけらしく、会社のことなんて何も判らなかったと怒ってたけど、まぁ弁護士事務所だってそんなことで電話をかけてこられも困るだろう。パワハラホットラインなのに......。
でもジョシュアは珍しくムカついたのか、「いざって時に役に立たないパワハラホットラインになんの意味があるんだよ」って怒ってたけど。
いや、パワハラを受けた時には意味はありそうだけど......とはジョンハンは思ったけど、言わなかった。
まだまだジョシュアのお怒りモードは続きそうだったのに、「あ、ヤバイぞ」って割り込んできたエスクプスの言葉があっさり止めた。
見ればテレビで、とある銀行の地下に水が入ってきたっていう映像が流れてた。もちろん金庫室とか、セキュリティに関係する場所は映されていないけど、銀行ほどの場所でも水が流れてくるのなら......と思わせられる映像だった。
しかもそこの銀行は会社の隣りの隣りにあるビルだったし......。
「当たり前のこと言うけど、落ち着くまで家にいて様子見るって選択肢は?」
ジョンハンがいつになくまともなことを言った。
でもジョシュアは「ボイラー室にいる気がする」とだけ言った。
多少は入ってきたとしても、そこまで水がくることはないだろう......と言いたかったけれど、テレビでは結構な水が銀行に入ってきてた。そして確かにドギョムは鈍臭く、自分の安全を確保してどっかの会議室で昼寝でもしてそう......とは、到底思えなかった。
「わかった。どうにかする。だけどドギョミの無事を確認したら、ウジのパソコンの電源を入れてやって」
止めたってジョシュアは行くだろう。どうにかして。
それならせめて、出来る範囲で手伝ってやった方がいいはず。
本社勤務はエスクプスやジョシュアの方が長いってのにって思いながらも、でも超イレギュラーは自分向きだなとジョンハンが笑う。
本当は水陸両用車とかがあったら良かったんだけどと言いつつも、ジョンハンが用意したのは四駆の、しかもかなりしっかりしたジープだった。
「川も渡れるらしいから、多分会社までは行ける。でも入れないかも」
会社の入口にはきっと水害対策で土嚢が積まれてるはずだから、そしてそれを越えて水があるなら、扉は開けられないだろう。
「いい。その時はガラス割ってでも入る」
いやもうそこまで覚悟があるなら何を言ってもしょうがないだろう。
「言っとくけど、運転手付きだから。車では会社に突っ込めないからな」
ジョシュアを拾う場所を決めて、段取ってやった。
借りは増えたが返せる宛もある。
パソコンの電源が入ればウジだって喜んで働くだろうし、色々邪魔されなければ、ミンギュだって今後の頼み事も嫌な顔せずに引き受けてくれるだろう。
「だれ? ムンジュンフィって」
ジョンハンが電話で車の都合をつけてたのを聞いてたのか、エスクプスがやっと落ち着いたジョンハンに問いかける。
「うちのライバル会社、ほら、中国から進出してきてる」
それだけ言ったら理解したようだった。
でもライバル会社の、そして中国人とどうやって車を出して貰えるほどに仲良くなったかは謎だったようだけど。
同じパーティに参加した時に、ジョンハンと同じぐらい注目を浴びてた人間がいた。その整った見目から誰も近寄らなかったのに、キレイな顔なら鏡で見慣れてると、気にしなかったのはジョンハンだけだった。
どちらも見た目だけならパーティはよく似合うのに、もっと辛いものが食べたかった男と、もっと雑多な場所で酒を飲みたかった男は意気投合してパーティを抜け出した。
お互いがライバル会社だったと知ったのは、そんな飲み食いを終えて楽しく過ごした後だっただけ。
「そんなはなし、俺にした?」
「しただろ? 男前にあったぞって前言ったじゃん」
「俺よりも?」
そう聞いてから、エスクプスは思い出したようだった。だってその時も同じことを言ったから。
そしてその時と同じように、「お前とは系統が違うかも。あっちはなんだろ? the整ってますって感じだから」ってジョンハンが言ったから。
「俺のほうが当然好きだろ?」
思い出したっていうのに、エスクプスはその時と同じことを聞く。
「ん〜、多分」
ジョンハンが笑って、やっぱり同じ答えを返す。
「なんだよ多分て」
「絶対に、変えてくれるんだろ?」
あぁそう言って、あの時だって2人だけの夜を過ごしたのに。今は昼間だけど、きっともう誰からも連絡は来ないはずだから。
雨風が恐ろしいほどに凄くたって、それが少しずつ落ち着いてきてたって、テレビで被害の報告が続いてたって、川のようになった道路を1台の車が走ってたことがニュースになってたって。
2人は邪魔されることなく、2人だけの時間を過ごしてた。
The END
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