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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

社内恋愛がはじまる世界線4 地下ボイラー室編

注意......

続きものだけど、別に前を読まなくても読めるかも。
1はクパン編で、2はミーニー編で、3でまたもやクパン編で、今回の4は謎な「地下ボイラー室」編です。

sevmin.hateblo.jp

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社内恋愛がはじまる世界線4 地下ボイラー室編

目が覚めた時、見たことのない天井に『飲み過ぎた』とは思ったものの、そこが自分の会社の地下ボイラー室だとは、思ってもみなかったジョシュアだった。
それ以前に、布団にくるまれているとはいえ、何も着てないのが感覚で判って、しかも自分の身体に後ろから抱き着くように手を回してる男がいて、『ヤバイ。これ俺もしかしたらやらかしたかも』と珍しくも動揺したから............。
男同士だから派手に飲んで意気投合して脱いで抱き合って眠っただけ......とかってことも、なくはないだろう。とりあえずどこも痛くはない。何も記憶してないけれど、自分が押し倒した方かもしれない。
「あ~。しくった」
思わずそう口にしたら、隣りで寝てたはずの男がビクっとなったから、どうやら相手も起きているっぽかった。
それなら腕をどければいいのに、それ以降はピクリとも動かない。
だからジョシュアは落ち着いてきた。
冷静さが自分の1番良いところじゃないかと常々思ってる。別段仕事がよくできる訳でもない。それでも重宝されてるのは、人をよく見てることと、どんな時でも慌てたりしないからだと自負してた。
人間、どんな時でもはったりは大事で、強気で生きていれば大抵のことは自分の思った方向に行く。多少紆余曲折があったとしても、それだけは確実に。
エスクプスやジョンハンが見れば、ニヤリと笑ったのがバレただろうが、見知らぬ人からしてみればそれは柔らかい微笑みだったかもしれない。
「起きてる? 俺は起きたけど」
実はアメリカ人だから、どんな時でも「ごめん」なんて口にはしない。
そういう意味でいうと、相手はアメリカ人ではなかったようで、ジョシュアが話しかけた瞬間には飛び起きてベッドから落ちる勢いで地面に下りるとそのまま土下座して「ごめんなさいッ」と謝った。
とりあえず自分がどれだけ悪かったとしても、加害者にはならないっぽいとまた少しだけニヤリとしたジョシュアだった。
「許すかどうかは、ちゃんと話を聞いてから決める。それでいい?」
何も覚えてないくせに、当然のように言った。優しく微笑みもしたから、相手はきっと話を聞くことで情状酌量してくれるんだとでも思ったかもしれない。

話は簡単なようで複雑で、でも案外簡単だった。
昨夜、ジョシュアはエスクプスやジョンハンや、その他大勢と飲んでいた。急遽巻き込まれるようにして動き始めた仕事がどうにかなった祝いの席だったのに、「最後までちゃんとしてた奴が会計な」とか、謎なことをジョンハンが言い出したから。
いや、ジョシュアだってエスクプスだってヘルプってだけで、ヘルプする理由もないのに駆り出されたっていうのに、なんで支払いまで持たなきゃいけないんだか。そう文句を言ったら2人に「ケチ臭い奴だな」と理不尽な言いがかりまでつけられた。
それで余計にいつもより飲んだ記憶がある。そうしないと2人して早々に消えそうだったから。
酔いつぶれたジョシュアは支払いは免れたけれど、その後の面倒まではちゃんと見てくれなかったようだった。
「で、俺たちヤった?」
話してる間にうっすらと思い出したのは、はじめて会ったはずの眼の前の男と、濃厚なキスをしてた自分だった。
でも気持ち良かったはず。嫌ではなかったのは確実で、なんか、ノリノリだったのは自分の方だったかもしれない。
だからそう聞いたのに、さらにガバリと頭を下げられた。
こりゃ押し倒された方かもしれない......とは思ったものの、押し倒したのは自分の方だったらしい。何故かノリノリで上に乗り上げたとか。しかし事は未遂だったようだ。
謝った理由も、「俺のが全然ダメで、最後までできなかった」だったから。
いやまぁ見知らぬ男にイケイケで押し倒されたって、息子が元気なままって方が珍しだろって慰めたら、「見知らぬ男じゃないし......」と言われ、またしても微妙にピンチになったジョシュアだった。
もう少しで「で、お前誰?」って言いそうになったのを耐えたけど、「ごめん俺、寝起きは視力悪くて」って、謎な言い訳をしてやり過ごした。
「ヒョンメガネなんてかけてた?」
そう言われたから年下なんだろう。
「いや、コンタクト。滅多とつけないけど」
普通に聞いてたらじゃぁ視力なんて悪くないじゃんとバレるけど、目の前の男は「そうなんだ」って納得してた。その姿もじっと見るけど、やっぱり思い出せなかった。
人を覚えるのは得意だし、大抵の場合一度言葉を交わせば忘れないはずなのに。
救いの手は、多分ジョシュアをこんな目にあわせたであろう張本人からやってきた。
『シュア生きてる? お前と一緒にいるのは、イ・ソクミンな。無下に扱うなよ。会長の隠し子だって噂だから』
さらりとカトクを読んで固まった。そして思わずジョシュアは「うげ......」って口にしていた。
最後までやってなくて良かったけれど、こりゃ本当にしくったかもしれない。
「ごめん、ここどこ?」
とりあえずジョシュアはモードを換えた。もはや勝ち負けとか言ってる場合じゃないかもしれないと、サクッと色々聞くことにしたのだ。
「ボイラー室」
「どこの?」
「地下の」
「どこの地下?」
「え? 会社の」
「............誰の会社の?」
「え? 俺らの会社の?」
ジョンハンからのカトクを見たから、そうじゃないかと思ってはいたけれど、やっぱりそうだった。
地下にボイラー室ぐらいはそりゃあるだろう。だけどそのボイラー室に、それなりなベッドが置いてある意味が判らない。
それほど小綺麗ではないが、それでもちゃんとしたベッドだったから、そこらの連れ込みホテルかどっかだと勝手に思っていた。
まぁ考えようによっては、仕事には遅刻せずに行けるってことだろう。服がちゃんとあればだけど。
「いやなんで最後疑問形なの?」
「え、だってなんか、問い詰められてる気がして」
「ごめん名前は? ちゃんと自己紹介させて。俺はホンジス。まぁジョシュアでいいよ。営業。年次も言う?」
何も着てないのに、ジョシュアは爽やかな笑顔で自己紹介をした。
素直なのか真面目なのか、それともちょっと抜けてるのか。自己紹介されたから自分もしなきゃいけないっていう誰が決めたかも定かじゃないルールに則って、「イ・ソクミンです。ドギョムでいいけど」と名乗ってくれた。
「所属は?」
「えっと、一応人事で」
「人事ってボイラー室で何するの?」
「えっと、人手が足りない時に色々駆り出される感じの、手伝いを」
ドギョムが真面目に答えてる。
ジョシュアが『じゃぁ人手が足りてる時は何してんだよ』とか考えてるとも知らずに。
「俺の服は?」
とりあえず場所が判って、相手の名前が判った。後は服さえ身にまとってしまえば、問題はほぼ片付いたようなもんだろう。
必殺なかったことに......だって、できる気がする。
「あ、ちょっと待って」
そう言ってドギョムはなんでかベッドの下を探り出す。そしてそこから2人分の服を引っ張り出してきた。
なにその大切な何かをベッドの下に隠すって小動物みたいなやつは......とか思っていたら、「昨日ヒョンが、洋服を全部ベッドの下に押し込んだんだよ」とか言われ、いや自分か......となってクラクラきた。
ちょっとだけ、しばらく酒は控えようとかも思ったり。
まぁでも、覚えてないことはなかったようなもんだ......と、一瞬で開き治る。
「しわしわだな......」
お気に入りのシャツを手にしながらそう口にしたけれど、自分がやったのならしょうがない。
でも着れるならなんでもいい。
そしてさっさとここを出てしまえば、きっとここには二度と来ないだろう。
それなのに、着替え終わる頃、後ろから話しかけられたのは「お昼どうする? ヒョン」だった。
お昼どうする?
普通に聞いたら普通の言葉過ぎて、ジョシュアは逆に意味が判らなくなった。
3回以上は頭の中で、『お昼どうする?』を繰り返したかもしれない。とりあえず自分が知ってる意味以外に、何か意味がないか......も考えたけれど、どうしたって『お昼どうする?』には『お昼どうする?』以外の意味はないだろう。
「食べるけど」
自分でも、そりゃそうだろう......みたいな言葉を返したなって自覚はあった。絶対ドギョムだってそう思ってるだろうって思ったのに、ドギョムは全然そんな風もなく、続けて「うん、どこで?」と聞いてきた。
「どこかで?」
「まだ決まってないんだね。じゃぁどこかで待ち合わせする?」
なるほど、きっと自分は何も覚えてはいないけど、一緒に昼を食べる約束をしたんだろう......。
いやまぁ、お詫びの印に昼ぐらいは奢らねばならないだろうし、それはそれで丁度いいのかもしれない。
結構瞬間的にそこまで考えて、「遅めの昼でも良ければ、13時にロビーで」と言えば、ドギョムは「わかった」と嬉しそうに笑った。
そして結局、ボイラー室にベッドがある理由は判らないままだったけど、地下から地上へと出勤したジョシュアだった。
なんでかドギョムに「いってらっしゃ~い」と明るく見送られて............。

そんな出来事を、丸っと忘れた訳じゃない。
でも仕事をはじめてみれば捌かなきゃいけないあれやこれやがあって、13時なんてあっという間だった。
約束を忘れなかった自分を褒めてやりたいが、実は忘れかけていた。
「俺らと昼行く?」とジョンハンに誘われた時に、思わず「おぉ」と言いかけて、いやなんかあったわ......と考えて思い出したほどだから。
慌てて時計を見て、まだ12時半だったことにホッとした。
それから「いや、俺先約あったわ」と言えば、ジョンハンは何かを察したんだろう。なんでか肩を叩かれた。
励ましなんだか慰めなんだか。意味は良く判らない。
それでもお詫びを兼ねた美味い飯を楽しむだけだと、気持ち「お待たせ」みたいな感じでロビーにおりたのに、そこにドギョムはいなかった。
まぁそういうこともあるだろう。時計をチラリとみて、スマホを取り出してネットニュースを確認した。きっと大した時間も待たず、慌てて駆けてくると思っていたのに、ネットニュースの最新記事を全部読んでもドギョムは現れなかった。思わず芸能ネタまで見てしまいそうになったほど。
約束は守られなかったんだと、さっさと捨て置いて1人で昼に出るか、なにやってんの?って言いながらボイラー室まで迎えに行くか。
これが普段のただの約束だったなら、カトクにメッセージを送り付けてさっさと1人で昼に行っただろうが、これはお詫びの食事で、しかもお詫びするのは自分の方で、そしてドギョムのカトクなんて当然しらなくて、できるなら面倒なことはさっさと終わらせたくて。
だからジョシュアは、大きく息を吐いた。これは決してため息じゃないと自分に言い訳しながら。それからおもむろに、二度と来ないだろうと思ったボイラー室へと向かって歩き出した。
いなかったら諦めよう。さすがにドギョムだってずっとボイラー室にいたりはしないはずで、どこかで何かの仕事を手伝ってるはずで、それで忙しいのかもしれないから。
そう思いながらボイラー室を訪れたら、ドギョムはいた。
「お前、何やってんの?」
思わずジョシュアが優しさを忘れてそう言ってしまうほど、ドギョムはトナーで黒ずんでいた............。
「トナーの交換」
「いやイマドキ、トナーの交換でそんなことにはならないだろ?」
プリンターから、空になったトナーを取り出して、新しいトナーに変えるだけ。ジョシュアは滅多にやらないが、それでもそれぐらいは知っている。
「うんこれ、本当はトナーじゃなくて、トナーの廃棄ボックスの交換だから」
プリンタによってはトナーの粉が溜まる場所があるのは知っているけれど、それだって新しいトナーを交換する時に一緒に交換するだけのはずなのに、何を言っているのか。
そんなジョシュアの視線を感じたのか、「なんでか、トナーに対して廃棄ボックスの容量が少ないらしくてさ。7割ぐらい来たら一回捨てるとちょうどぐらいになるから」と言ったその顔は、なぜか自慢気だった。
ボイラー室にはプリンターが2台。わざわざここまで運んできて、トナーの廃棄ボックスの掃除とともに、プリンタ全体の掃除もするんだと言う。大抵は1日1台で、毎月社内のコピー機の整備が終わるっていうのに、今日は紙詰まりが頻発した不調なプリンターが2台を同時にメンテナンスすることになって、やりはじめたら失敗してワヤワヤになったとドギョムが説明するのを、ちょっと距離を取った場所でジョシュアは聞いていた。
「昼はどうする? 約束の時間はとっくに過ぎてるけど」
「あ、ほんとだ」
ドギョムは慌てたように立ち上がって、巻くっていたシャツに手を伸ばしたけれど、その手は爪の中まで黒ずんでいた。
「いや、いつもはもっと上手くやってるんだけど。今日はちょっと失敗しちゃって」
器用なのか不器用なのか、汚れてない指2本で頑張って袖を直してた。
「別日にしてもいいけど」
そう言えば、ドギョムが一瞬で情けない顔をする。
「出前とってもいいけど」
少しだけ妥協してみても、情けない顔は変わらなかった。
「汚れてる俺と、食べに行くのはダメかな?」
押しが強いのか弱いなのか、情けない顔はしてるけど、昼を一緒にってのは諦めたくないようだった。
ただの昼飯だっていうのに......。
「ただの昼飯なのに」
そう言えば、「でもはじめての、お、俺たちの昼飯なのに」って言われてちょっとジョシュアは躊躇した。
ただの昼飯が、昼飯の初体験になり、なんだかそれは2人での共同作業のはじめてみたいな感じに祭り立てられた感があったから。
「いや、外に行くのでも全然いいけど」
そう言いながらも、ジョシュアはちょっと考えた。
まるっきり雑用を押し付けられてるドギョムのことも気にはなったけれど、今それはちょっと横においといて、昼に一緒に行くだけなのに楽しみにし過ぎな方を気にしないといけないかもしれない。さすがに何も覚えてないのを誤魔化して、何もなかったと信じ込んで、事実何もなかったかのようにやり過ごそうとしていたけれど、何か............あったのかもしれない。これは............。
だって「はじめての、俺たちの、昼飯」とか言うほどだから。
いやワンチャン、ドギョムがちょっと天然説もあるかもしれない。
物凄い真剣な顔でジョシュアが悩む横で、汚れてる自分がダメだと思われてると誤解したドギョムは、「ちょ、ちょっとだけ待ってくれたら、俺、シャワーするから」と焦ってた。それぐらいお昼を楽しみにしてたんだろう。
「いや、別に今のままでも大丈夫。それより、何か食べたいものはあるのか?」
いつもは口調も含めて優しいでしかないジョシュアなのに、考え事が先に立つからか、珍しく言い方は強かった。でも普段のジョシュアを知らないドギョムはそんなことは気にならないのか、「な、なんでもいいよ。俺、好き嫌いないし」とやっぱり嬉しそうだった。
お値段お高めな店を設定していたけれど、きっとそれじゃぁドギョムが萎縮するだろう。だからジョシュアは「美味いピザ食いに行こう」と行ってボイラー室を出た。
夜に行けば美味いビールも飲めるその店は、昼間はテイクアウトや出前ばかりで、店で食べる人間の方が少なかった。穴場と言えば穴場だが、韓国に住んでても一応アメリカ人なジョシュアにとっては、時折無性に食べたくなる味でもあった。
会社を出るまでは、意識してなのかたまたまなのんか、ドギョムはジョシュアの後ろをついて歩いた。
会社を出てからは、ドギョムは嬉しそうな顔で笑いながら、ジョシュアの隣りを歩いた。
「ほら、あそこ」
店が見えた時点で、ジョシュアは指さして教えてやる。ドギョムは店に入る前から「美味しそうだ」と喜んでいた。
でもジョシュアは店にたどり着く前に足を止めて、数歩先に進んだドギョムは驚きながらも笑って、「どうしたのヒョン」と言った。
「はじめての昼飯を食べる前に、1個だけ質問」
足を止めた理由は、そりゃ当然、このまま「記念すべきはじめての昼食」をはじめる訳にもいかないと思ったから。
「なに? トマトソースも、チーズも、キノコ系も大丈夫だけど」
ピザの種類にこだわりはないと言うドギョムに、「はじめての、俺たちの、昼食ってなに?」って真正面から聞いてみた。
「え、そ、そのままだけど。はじめてだろ? あ、昨日の飲み会はノーカンだよ。だって俺たち、その時はまだ付き合ってなかったじゃん」
「........................」
いや俺昨日、何したの? って、ジョシュアがクラクラしたのは言うまでもない。
なにせ知らぬ間に付き合いはじめていたようだから。でもまぁ、裸で同じベッドにいたんだから、そうなる前にそんな話しにだってなったのかもしれない。
いや断れよお前......と、思わないでもない。
もしも自分からだったのだとしたら、ドギョムは見知らぬ相手にはちゃんと断るべきだったし、もしもドギョムからだったのだとしたら、酔ってる相手に告って成功したからって何でも簡単にイケると思うなよお前......と、やっぱり思わないでもない。
「あ、今日って2日目なのかな? でも出会ってからまだ1日経ってないから、1日目なのかな?」
楽しそうにドギョムがそう聞いてくるのに、「じゃぁ1日目ってことで」と適当に答えてピザ屋のドアに手をかけたジョシュアだった......。
少し遅くなったといってもまだ昼間で、戻ったら仕事の続きがあるっていうのに、思わずビールも頼もうかと真剣に悩んだけれど、とりあえず無難なピザとコーラを頼む。
ため息にならないように深く息を吐いたのは、頼んだピザが出てくるまでの僅かな時間だった。
自慢じゃないが、ジョシュアはポジティブシンキングが得意だ。
突然見知らぬ誰かと付き合うことだってあるだろう。でも残念ながら、それが運命の相手だっていう人間の方が少ない。1日目は誰でも迎えられても、100日目はなかなか難しい。それが現実だ。
だから凄い美味しいって喜ぶドギョムに向かって「良かった。ここのピザは俺も好きだから」って優しく笑うことぐらいなんてことなかった。
2人の付き合いが何日目まで行くかは判らないが、忙しく働いていればそのうち愛想を尽かすだろう。お詫びも込めたピザを食べ終えてしまえば、後は忙しさを理由に断ってれば、嫌でも気づくはずだから。
でもそれだってよくあることで、きっと恋愛が続かない原因の多くは、2人の時間が持てないことだろう。この国では特に。
ジョシュアがそんなことを考えてるなんて知らずに、照れながらも2人のはじめての昼食を喜んでるドギョムがいて、100日目は本気のイタリアンに行くことだって約束した。そんな日は来ないっていうのに。
2人が付き合いはじめて2日目。きっとドギョムは今日もコピー機のメンテナンスを頑張っているんだろう。昼に行こうと誘われたら忙しいと断るつもりでいたのに、気づけば昼なんて過ぎていた。
2人が付き合いはじめて3日目。社内ではじめてドギョムを見かけた。大きなパネルを運んでるところで、人事がなんの仕事だよと思ったけれど、声はかけなかった。
2人が付き合いはじめて4日目。ドギョムは呼びにも来なければ、声もかけてこない。
2人が付き合いはじめて5日目。コピー機を運ぶドギョムを見かけた。
2人が付き合いはじめて6日目。そんなに仕事が溜まってた訳でもないけれど、休日出勤をした日。休みの日にもドギョムがボイラー室で過ごしているのかは知らないけれど、ドギョムはやっぱり昼にも誘いには来なかった。
2人が付き合いはじめて7日目。これもしかして、1日目の次は100日目なのか?って、思わず独り言を零したジョシュアがいた。
2人が付き合いはじめて8日目............。ジョシュアはコピー機を運ぼうとしてるドギョムのことを捕まえた。
「いやお前なんなの?」
「え? シュアヒョンどうしたの?」
どうしたのと言われて、思わず『いやなんでお前俺に会いに来ないの?』って言いかけたけれどグッと耐えた。代わりに言ったのは、「コピー機の取り扱い説明書、持ってるのか?」だった。
とりあえずジョシュアがやったのは、取り扱い説明書の確認と、リース会社への確認と、コピー機のメーカーへの確認で、当たり前だけどコピー機の廃棄ボックスのメンテナンスなんて必要なかった。そもそもそんなことをやってる所なんて見たこともないから。
「ヒョン困るよ。俺、これが仕事なのに」
ドギョムは情けない顔でそう言うけれど、「やることがなくなるって意味なら、違うことをしろ」とジョシュアはドギョムに仕事を押し付けた。
取り扱い説明書を確認して、コピーの使用量の確認ができるかと、部署ごとの使用量が確認できるようになるかと。どちらかというと人事というよりも総務的な仕事だけれど、トナーの廃棄ボックスの掃除よりもよっぽどいい。
「できなくてもできても、昼には進捗報告に来いよ」
そう言ってドギョムのことを手放した。
ドギョムは決して仕事ができない訳じゃないと知ったのは、一緒に昼を食べながら進捗報告を聞いたからだろう。
機能として、各部署のIDとかパスワードを入力してからコピーを取る方法があって、それなら各部署の使用量が確実に判ると、ちゃんと調べてきたから。
「ジョンハナ、悪いけど、ウジを借りる」
そうジョンハンに声をかければ笑って「なにお前、あいつのこと育てることにしたの?」と言われたけれど、まぁ、そうかもしれない。
でもさすがに新しい仕組みの導入までは難しいだろうと、ウジの手を借りた。代わりにドギョムのことを好きに使っていいと押し付けておいたけど。
新しい仕組みを導入した後の経費をまとめたのはウジだというが、そこに至るまでにはドギョムも相当頑張ったと、なんでかジョンハンから聞いた。
相変わらず時々社内でドギョムはパネルを運んだり、会議室の整備をしたり、地下駐車場が雨漏りしてるんじゃないかと言われて調べにいったりしてるけど、それでも仕事らしい仕事もしてる。
人事部長とか、それ以外にもどっかから苦情が来るかもしれないと覚悟はしてたのに、不思議とどこからも苦情は来なかった。
それからドギョムは昼になると「シュアヒョン、進捗報告にきたよ」と言ってあらわれるようになった。
2人が付き合いはじめて何日目......かの出来事。
「なぁ、俺たち、昼飯しか食ったことないんだけど」
そう言ったのはジョシュアのほうで、あぁ絶対またジョンハン辺りに知られたら、「なにお前、あいつのこと育てることにしたの?」って笑われそうだと思いながら。
「え? あ、うん。そうだけど。じゃ、じゃぁ行く?」
不意に決まった飲みの約束にドギョムはやっぱり嬉しそうにしていたけれど、飲ませた方が展開が早そうだ......とか、ジョシュアが考えていることはまだ知らなかった。

The END
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