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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

君と歩いたこの世界の 6 MYMY 2

注意......

「MYMY」contentsページです。

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君と歩いたこの世界の 6 MYMY 2

ディエイトは空の上の暮らしが嫌いじゃなかった。
狭い船内に長時間いることに、息苦しいと感じる人がいるのも判ってたけど、じっとしているのは得意だったし、何よりもそこは自由だったから。

ジュンがいればいい。ジュンだけがいてくれれば生きていける。
ずっとそう思ってて、これからだってそれは変わらないけど、別れの時を迎えて、思った以上に皆に心を開いてたんだってことを実感した。

ヒョンたちの優しさは身に染みたし、チングたちとの楽しい時間は手放すのがつらかったし、弟たちの可愛さは感情が揺さぶられた。それは悲しくもないのに、涙が出そうになるほど。

「別れが悲しいってことを体感した」

しみじみとそう言えば、ジュンが笑って「でも、幸せでいてくれればいいって、思ってるだろ」なんて言うから、自分の中にも誰かに対する愛情があるんだって気づく。

空の上では、地上で幸せだった人間には辛いこともあったかもしれない。
でも暖かい家があって、待ってる人がいるなら、空の上の暮らしは家に帰りつくまでのもの。どうしたって帰る場所をもたないジュンとディエイトとは違う。

「行こう」

みんなが船を降りていった日。ディエイトはジュンに向かってそう言った。
いつもならエンジン室に籠ってるはずなのに、その日は操縦桿を握るジュンの横に立って、船が飛び立つ瞬間を待っていた。
エンジン室にすぐに入ってしまわなかったのは、空の上からなら、もう一度誰かの姿が見えるんじゃないかと思ったから。
船に向かって、必死に手を振ってくれるみんなの姿を、見たかったから............。

行く当てもない、空の上での生活はちょっとだけ不安で、でもジュンとならどこでだって生きていけるとも信じていて。ジュンの肩の上に手を置いて、「ちょっとだけ、ちょっとだけだけど、寂しいね」って言えばジュンが、「俺はお前がいてくれたら、それだけで大丈夫」って言ってくれた。

あぁ、さぁ行こうかって思ってたのに。次の瞬間には、船がふわっと浮き上がるんだと信じて疑ってなかったのに。
なんでか船は、飛ばずにバックしはじめた............。

「ん?」

ディエイトがたったそれだけで説明を求めれば、ジュンが「うん」ってたった一言で終わらそうとする。
大抵のことは言葉なんてなくても判ってしまうけど、さすがに今回は「どういうこと?」って聞いたディエイトだった。

『3日は待ってて』

そこではじめてディエイトは、ウジがジュンに残した言葉を知った。
戻ってくるつもりかは、判らないと言う。
待っても、何もないかもしれない。
それでもこれからの時を考えれば、3日ぐらい、のんびりしたって問題ないだろってジュンが言うから。

ひと目につかない場所に船を隠して、人が近づけば音が鳴るように仕掛けも作って、それからディエイトはのんびりしようと、普段は滅多にのぼらない船の上にあがって本を広げる。

それはどこかの町で、船を降りたジョシュアがお土産にと買ってきてくれた本だった。
文字は読めた。学なんてなかったけど、必死に覚えたから。それでも知らない文字の方が多かったし、物語を楽しんだことなんてなかった。
だからジョシュアが船の中に持ち込んだ本はディエイトの憧れみたいなものだった。

「読み終わったから、読んでいいよ」

新しい街に入るたびに配られるサーカスのビラで文字を学んだディエイトにしてみたら、ちゃんとした本を手にするのもはじめてだった。

だから最初は本の中の文字に指で触れていくだけで満足で、ページを捲るだけでカッコよくて。
時々描かれている挿絵が綺麗だったり、素敵で。

ほとんどの言葉がわからなくて悔しくて、最初の頃は遠慮して教えて欲しいとはなかなか言えなくて、誰にも何も言われてないのに1人悔しくて悔しくて。
読めない本を枕の下に隠してたりもした。

そうしたらある日、ジョシュアがディノに文字を教えると言い出した。裕福とはかけ離れた小さい頃から働いてばかりで学校にもまともに通えなかったらしい。ディノに時折言葉使いを教えていたジョシュアが、そもそも基本を覚えなきゃダメなんだよって言い出して「スングァニもボノニもおいで、復習がてらに一緒に勉強しよう」ってマンネラインを集めてた。

「あ、じゃぁ俺も一緒に習おっと。基本なんて俺も知らないから」

そう言ってジュンがその輪の中に入っていった。
それから当然のように振り返って「ほら、ハオも」って手招きしてくる。

もしもそんな事がなければ、自分1人だったら、きっと必死に耳をそばだてるだけだったはず。
それでも皆の中で1人、黙ってることの方が多かったけど、習った言葉は忘れなかった。1人エンジン室の中で、何度も何度も、同じことを繰り返し繰り返し。
いつも最後にはジョシュアが「何か質問ある人は?」って聞いてくれたけど、ディエイトはいつだって何も聞けなかった。
だって言葉を発してしまったら、今聞いたばかりの何もかもを忘れてしまいそうだったから。

自分の中に、少しずつ蓄積されていく知識に、ディエイトは溺れそうになった時もあったけど、確実に世界は広がった。それから幸せにもなった。
誰も信じられずに、ジュン以外に助けを求めることなんてできなかったのに、「教えてほしい」とジョシュアに初めて言うことができた時、誰かに助けを乞うことがイコール弱いとか負けているとかではないことを知った。

文字の読み方だけでなく、色んなものの考え方も、簡単に計算する方法も、太陽や星で方角を知る方法も、ジョシュアは自分が知っていることは、余すことなく教えてくれた。

飽きてきたのか面倒になってきたのか、マンネラインの3人は学ぶ内容を分けることにしたようで、スングァンが「俺は計算頑張る」と言い、ディノが「俺は地図を読めるようにする」といい、バーノンはのんびりと「俺は、シュアヒョンのおすすめを何かする」と言い、それ以降はいつだってそこにいるのはジョシュアとディエイトだけで、後はマンネラインの3人だったり、ジュンだったり、ほかの面子だったり。

そして時々はジョシュアと2人きりだった。だからある時、「何か質問は?」って言うジョシュアにディエイトは聞いた。

「なんで、色んなことを教えてくれるの? なんでそんなに優しいの? なんで、俺にも優しいの?」

マンネラインの3人は判る。少なくとも同じ村に住んでただろうから、よく知ってはいなくても、顔見知りだったかもしれないし。だけどジュンとディエイトはよそ者で、顔見知りでもなければ、親切にしたって意味なんてないのに。

そんな思いが透けて見えていたのかもしれない。それなのにジョシュアはいつもみたいに優しく笑って「キヨップタ」って言う。
マンネラインの3人ならそれはあり得ても、自分がカワイイとは到底思えないっていうのに。

「いや、お前だってカワイイよ。全然カワイイよ」

物凄く力強く言われて思わず困惑したほど。でもすぐにジョシュアは真面目な顔になって、「誰かを大切にするのも、親切にするのも、教えるのも、全部自分のためなんだよ。俺が幸せになるためだから」って教えてくれた。

でもやっぱり判らなくて途方にくれていたら、「いいんだよ。こういうのは、そのうち判るようになれば」って言って笑ってた。きっとそんな気持ちは、普通には生きてこなかった自分には判らないだろうと思っていたのに......。

ディノが戻ってきたと思ったら、エスクプスにジョンハンにホシにミンギュが物凄い勢いで山を下っていった。
聞けばスングァンが滑落したという。

「きっと大したことはないよ」

ジョシュアは笑ってそう言ったけど、ウジは「ジュナ」ってジュンの名を呼び、それに頷いたジュンは「ハオ」ってディエイトのことを船の中に呼び戻した。

いざとなったら船を出すってことで、それはきっと最後の選択で、一番最悪な状況で発生するはずで、少なからず危険が付きまとうかもしれない。

でも気づけば覚悟を決めていた。もしも何かしなきゃいけないなら、それは誰よりも自分が適任なはず。だって綱渡りだってナイフ投げだってこなしてきたから。危険な場所には慣れている。

ディエイトはそっと、ボロボロだけど履きなれた靴に履き替えた。たぶんジュンはそれに気づいただろう。でも何も言わなかったから、そんな何かの時をジュンだって考えたはず。

誰かのためになんて、生きてきたつもりはなかったのに。
いつの間にか危険を冒してでも助けたいと思える人が自分にもいたんだと驚いたけど、泣いてるディノだって、俺も何かしなきゃって慌ててるドギョムだって、気づけば大切な存在だった。

何も貰えなくても構わなくて、幸せでいてくれるならそれだけで良くて。
笑っていてくれたらそれだけで嬉しくて。

思わずディエイトはジョシュアのことを見てしまったほど。そこにはディエイトを安心させるためにか、いつもと同じように笑ってるジョシュアがいて。
自分の中に芽生えたその感情に名前をつけるなら、それは「愛」なのかもしれない。
勝手に育った訳じゃない。いつのまにか、育っていた訳でもない。

ディエイトに愛を注いで一緒に育んでくれた人たちがいたからだろう。
あぁほんとに、大切なのは、失えないのはジュンだけだったはずなのに。ディエイトはいつだって、ジュンさえいれば良かったのに。

「船を出すぞッ」

そう言ってホシが駆け戻ってきた時には、ディエイトはもう準備はできていた。
身体だって、心だって、覚悟だって。

 

The END
3902moji