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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

君と歩いたこの世界の 5 MYMY 2

注意......

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君と歩いたこの世界の 5 MYMY 2

船の1番上で、仰向けに寝っ転がって、空を見上げるのが好きだった。
遠くを見ても空ばかりで、どっちに向かってるかも判らない。何も知らなかったのに、いつのまにか風の匂いが判るようになって、雲の切れ目が見分けられるようになって、空の中のどこかには、重たい空気があることも知った。

最初は、船の上にあがるために胴にしっかりとロープを巻きつけていたのに。気づけば、そんなものは必要なくなっていた。
早く家に帰りたいから覚えたあれやこれやだったはずなのに、空の上が思った以上に嫌いじゃなかったんだろう。
厳しくて真面目な父親と、優しくて時々とぼけてる母親と、3人家族だったから、ウジがいなくなった後、両親がどんな暮らし方をしたのかはずっと気になっていた。

遊びに夢中になって家に帰って来ないなんてこともないし、手伝いだって嫌がらずにして、一度決めたことを自ら違わすことはしない。子どもらしくゴネてあれが欲しいこれが欲しいと言ったこともない。
だから母親はよく「早く反抗期、来ないかしら」って言っていたっけ。

あの日だってちゃんとウジは、「船を見てくる」って母親に伝えた。
母親は特別心配することもなく、「今日の夕飯は豆かトマトかチキンのスープにするから」と、物凄くあやふやな情報を伝えてきただけだった。
ちょっとだけ「なんだよそれ」って笑いながらも「なんでもいい」って答えながら家を出たのを覚えてる。

走り出せばすぐに隣りにホシが並んだ。
競い合うようにして走ったから、小さい村なんてすぐに通り抜けて、山道に入ってからはお互い助けあって駆け上がった。走るうちにテンションがあがりすぎて、なんでかヒーヒー笑いながら山を駆けた。

なのに今は、ウジは泣いていた。その手はホシに握られていて、大人しく引かれて歩いてる。
ジュンとディエイトと別れてきたからかもしれない。

「なぁジフナ。お前なんでそんなに泣いてんの? ジュニに3日で戻るって言ってなかった?」
「言った。でも、正確には『3日は待ってて』だから、戻るとは言ってない」

それでも一度は戻るつもりでいた。
家族がいて、もう二度と空には戻らないにしても、それでも絶対もう一度、ジュンとディエイトを見送るためにも戻るつもりでいた。

でも長い空での暮らしを経て、わかってもいた。
別れなんて突然で、一瞬先に何があるかなんて誰にも判らなくて。
いつだってこれが最後。そう思ってなきゃいけないってことを。

それに泣いたのは、ジュンとディエイトとの別れを悲しんだというよりは、空の旅の終わりに涙した気がする。
ただのアクシデント的なはじまりだったのに、気づけばそこは心地よくて、とってもとっても大切な場所になっていて、誰がいなくてもダメだったって思えるから不思議で。
ヒョンたちがいて良かったってことはたくさんあって、チングがいて良かったってことも当然あって、弟たちはそれ以上に大切な存在になって。

あぁもうこんなの、家族じゃん......って思ったら泣けてきただけで。
そう説明すれば、ホシが笑ってた。

「だからこそ俺ら、自由でいいんじゃねぇの?」

家族なら、いつかは離れてくかもしれないけど、どんなに離れてても幸せを願ってる。そんなものらしい。
ウジは一人っ子だったから、そこらへんのことが今いち判ってないのかもしれない。

まだはっきりと覚えてるその家は、かなりの時を経てそこにあった。
長く家を残そうと考えたのは、ウジがそれだけ大切にされていたからだろう。
いつか戻ってくるかもしれない息子のために、父親と母親は、どれほどのものをそこにつぎ込んだんだろう。
でも誰も暮らす人のいなくなった家は朽ちていくだけだから、ただ残すことだけを考えたんだろう。
まんま記憶にある家なのに、そこは村役場的な場所になっていたから。

どこかで、空に消えた子どもたちが、遠い未来に戻ってくるっていう話でも聞いたのかもしれない。
事実空の上は時の流れが違ったんだから......。

そこに家があり続けるってことは、父親と母親は、ここで生き続けたんだろう。
年の離れた弟か妹がもしもいたとしたら、家には誰かが住んでいただろうから、ウジがいなくなった後、2人はずっと2人で居続けたはず。

家を残すことの条件だったのか、入り口横にはちゃんと、この家の歴史が刻まれていた。
そこでウジは、気づけば膝をついていた。

必死に考えただろう父親と母親のウジを思う気持ちが、溢れてて、まざまざと感じられて。気づけば号泣してた。

だってそこには、この家を差し出す条件として、息子が戻ってきた時にはっていう一文があったから。
息子が戻ってきた暁には、家を息子に............とか書いてくれてるのかとちょっと期待したっていうのに、両親のために墓を建てろと伝えてくれと書いてあった。
もっと感動的な何かを期待してたけど、でもやっぱりそれでも、感動したかもしれない。
家って言う大きなバトンで、受け取ったものだったから。

いつとも知れないから、何かを残すことは諦めたんだろう。それでも忘れてくれるなと、思いを込めたのかもしれない。

ホシにその話をすれば、「やっぱお前んとこは凄いよな」と謎に関心してたけど、ウジは逆に、ホシの両親の方が凄いと思う。
何せホシの家の跡地にはなんでかホシの石像が立っていたから............。

それでもってその前で2人で爆笑したから。
ギャハハハハハって笑って、ヒーヒー言って涙だって零して。
思わず「俺漏らしそう」とかホシが言うからそれすら面白くて、腰すら砕けたほど。

「お前の両親の墓、もうここでいいんじゃね?」
「いや、ここにしたら、化けて出るわ」

そんなことを言いながら、懐かしい場所を巡って、それから2人で山道をのんびり歩いた。
どこにお墓を作るのか。それを考えながら。
旅の途中にたどり着いた、毎日虹が出る場所はどうかとか。奇跡みたいな色をした鳥が暮らす島はどうかとか。それともいつか自分が余生を送る場所でもいいけど。
そんなことを、つらつらと考えながら歩く。
何か、モノがある訳でもないから。
ただそれは気持ちであって、行為であって、きっと両親からの贈り物でもあっただろうから。

ちょっと泣いて、たくさん笑って、帰り道は行きしとは逆に、ホシの手をウジが引いて帰った。

これと言って何もなかったから、きっと一番に帰ってきたと思っていたのに、そこにはもうウォヌとミンギュがいて、「俺ら一番じゃなかったじゃん」とかホシがぶーたれていた。
当然のようにディエイトが「お土産は?」って聞いてくるから、手に入れたボタンを渡してやった。
食料なら誰かが持って帰ってくるだろうから。日用品で、普段は意識しないもの。きっとそんなものの方が喜ばれると思って手に入れたものだったけど、ディエイトはそれをかなり気に入ったようで、嬉しそうだった。

後はのんびりと、船の中で過ごして全員が揃うのを待つだけだった。
エスクプスとジョンハンが戻って来ても、ジョシュアとドギョムが戻って来ても、マンネラインの3人は戻って来なくて、ウジはあんまり心配してなかったけどヒョンたちは心配だったようで、「明日戻って来なかったら汽笛を鳴らそう」って話になって。

その日もウジは、船の上で空を眺めてた。
汽笛は遠くまで聞こえるように作ったから、それをジュンが鳴らした時に、どこまで届くかと考えていた。山も麓までは確実に届くだろう。
村までも届くだろう。高い建物がないから、きっと村も超えるぐらい響くはず。

汽笛が鳴ればマンネラインの3人は絶対に急いで帰ってくる。そう誰もが確信してたのに、戻ってきたのはディノだけで、エスクプスにジョンハンにホシにミンギュが山を駆け下りて行った。

残ったジョシュアがディノからできる限りの詳細を聞いていた。その間にもウォヌは戻ったマンネを抱きしめて、ドギョムは「俺も行こうか? 俺も行った方が良くない?」って落ち着かない。

でもウジは船の上に居続けて、「ジュナ」ってジュンの名を呼べば、たったそれだけで理解したジュンが珍しく船の外にいたディエイトを呼び戻す。

万が一の時には、船を出す必要があるかもしれないから。

多分それは一番最後の選択なはずで、それでもそうなるならそれは一番最悪な状況でもあるはずで。
自分たちに出番なんてないはず。そう思いながらも、それでもいざって時の準備を整えたウジだった。

 

The END
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