妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

君と歩いたこの世界の 2 MYMY 2

注意......

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君と歩いたこの世界の 2 MYMY 2

足が滑って山の中を滑り落ちた時、スングァンはバーノンの「スングァナッ」って声と、ディノの「ヒョンッ」って声を聞いた。

落ちる時のゾワッていう感覚と、一瞬の浮遊感と、それから自分の身体があちこち擦られていく感覚を味わいながら、痛みは衝撃で緩和されていたのか感じなくて。そんな中、ディノと目があった気がした。

ヒョンなんて、珍しいって思ったのが最後。
バーノンが手を伸ばしながらも身を乗り出したのも見えたけど、『ボノナッ。危ないッ』って叫びたかったけどそんな時間はなくて、すぐに2人の姿は見えなくなった。

次の瞬間にはドンって鈍い音がした。
自分の身体が何かにぶつかった音だとは、最初気づかなかったけど、落ち続けていたのがなんとか止まったことにホッとしたのに、そこは山の一部が張り出した場所なのか、足元には崖ってほどではないにしろ、落ちればきっと骨は確実に折るだろうなってぐらいの場所だった。

スングァンを受け止めたのは、古い枯れ木だった。
元からそんな場所にあったのか、それとも山肌が雨風に浸食されて足元の土を失い枯れ始めたのかは判らない。

早く立ち上がって、それから山を這い上がらなきゃって思ったのに、左足に力が入らなかった。怖くてドキドキしてたから気づかなかったけど、スングァンの左足は、とっくに折れていたのかもしれない。自分の意志では動かせなかったし、自分の足なのに怖くて見られなかったけど、裂けて骨とかが見えてるんじゃないかってぐらい、ドクドク血が流れてる感覚もあったから。

あちこち擦りむいてもいて、どこかで頭も打ったのか、それともショックすぎてか、ワンワンと音がする。耳鳴りなのか、頭の中の音なのかも判らなくて、さらに怖くなる。
からしばらく、バーノンの声が聞こえてることも気づけなかった。

「スングァナッ、無事かッ? スングァナッ!」
「ボ、ボノナ......」

本当は叫び返したかったけど、叫ぶだけでも足元が崩れる気がして、それは思った以上に小声になってしまった。でもどうにかバーノンには聞こえたようで、大分上の方から声がするのに、「今から行く。すぐに助けるから」って声には「ダメだよッ。来ちゃダメだッ」って必死に叫んだスングァンだった。

多分2人分の体重には、耐えられないから。
それに来てくれても、今の自分ではここを上がれるかどうかが判らない。
ディノは船を見つけただろうか。それとも、何もない場所で途方に暮れてるだろうか。

誰かが来てくれるだろうか。
それとももう誰もヒョンたちはいなくて、スングァンはここから動けないまま、しがみつく気力が尽きればそれで終わりかもしれないってことまで考えて、余計にバーノンに来て欲しくはなかった。

ちょっとだけ絶望を味わった。でも誰もいない場所でもっと絶望してるのはディノだろうと思って、余計に悲しくなる。

「ディノやッ! お前は先に行けッ!」

そう叫んだバーノンの声は、落ち続けるスングァンにも聞こえてたから。
それでなくても辛いはずなのに、ディノをもっと悲しませてしまう。

ほんのちょっとしか離れていなかったのに、町のはずれで再会した時、ディノは疲れ果てているように見えた。
自分と同じ名前を持った、弟の孫の話を聞いた。
家族に会えなかった自分よりも、それはある意味でショックかもしれない。

スングァンは、母親に、父親に、姉たちに会えなかった。
少しだけ覚悟してたから、それほど驚かなかった。でもどこに行ったのかを聞いてまわりは当然したし、ようやく家族のことを覚えてる人を見つけてみれば大分お年寄りの人で、息子が空に消えた後、家族はずっと探し続けていたけれど、とうとう諦めて、下のお嬢さんがお嫁に行くときに、家族は一緒に引っ越して行ったって、もう何十年も前の話だけど......って、教えてもらった。

元気なばかりの下のヌナがお嫁に行ったなんてと、ちょっとだけ笑ったスングァンだったけど、それ以上家族を探しようもなくて、トボトボ歩いてるうちに涙が止まらなくなった。

「オットケ......。1人になっちゃったよ......」

そのうち歩く力もなくなって、ほぼ立ち止まって、立っているのも辛くなって、座り込んで。
暗くなって来たのにどこにも行くところがないなんて、本当に1人になったことを実感するばかりで。

遠くから、「スングァナッ」って呼びながらバーノンが走ってきてくれなかったら、その場で消えてなくなってたんじゃないかってぐらい、気持ちが沈んでた。

それまでも大抵泣いてたっていうのに、バーノンの声にまた泣いて、その姿が見えてまた泣いて、抱きしめられて号泣して。

「ボノナ、俺、1人になっちゃったよ~」

本当にワーンって感じで泣いてたら、「俺がいるだろ」ってバーノンが言ってくれたけど、いつもなら飛び上がるほどに喜んで感動する場面だってのに、おしいことにその時のスングァンは、きっとバーノンの口から愛してるとか言われたって、聞こえてなかったかもしれない。

だって1人になってしまったから。
まだ、12人も兄弟がいて、家族がいるってことに気づけてなかったから。
それから、自分が1人になってしまったなら、バーノンだって家族に会えなかったはずなんてことにも、気づいていなかった。

抱きしめられても泣き続けて、バーノンに縋りながらオンマを呼んで、姉たちの名を呼んで、「俺どうしたらいいの? どこに帰ればいいの?」って、何度も何度も口にした。
落ち着くまでも大分かかったというのに、次の日、バーノンと一緒にトボトボと歩いてる間にも、何度も思い出して泣いた。
バーノンの妹がいるという場所まで一緒に歩いて、また泣いて。町に戻ってきた時にちょうど、ディノに再会した。でもやっぱり泣いて。
結局泣き続けてばかりいた数日だった。

「どうしよう。船はもう、行っちゃったかも」

ディノがそう言ったから、「もう行ったに決まってる」って答えたのは自分だったのに、それでも3人で山を登った。
諦めつつ諦めつつ、それでも登ってたのは、本当にちゃんと諦める必要があったからかも。なのに汽笛が鳴ったから。

「この音が聞こえたら、どんな時でも必死に船まで戻って来い」

そう言ったのは、確かハニヒョンだったはず。
ウジヒョンが作ったその汽笛の音は特別で、どこまでも響くし、変わった音色だから聞き間違えたりもしない。
何度その汽笛の音を聞いて、必死に走っただろう。
砂漠の町でも、親切な人たちがたくさんいた町でも、誰も話さない町でも。
だから身体は勝手に動いて、3人で猛ダッシュしたのに。

きっと船は行ってしまった。
足は痛みすら感じないけど、きっとグシャグシャになってる気がする。
空を見上げれば、家だった船が去っていく姿がそこにあるかもしれない
顔なんてあげられなくて、色んな希望がスングァンの目の前から去って行ってしまった気もして。
やっぱり1人になってしまったんだって、震えてたのに。

「スングァナッ! 無事かッ?!」

聞こえてきた声は、エスクプスの声だった。
次に聞こえてきたのはホシの声で「ボノナッ! スングァニが見えてるかッ!」って珍しくも真剣なその声は、一瞬でスングァンの気持ちを浮上させた。

「ヒョンッ! クプスヒョンッ! ホシヒョンッ! ボノナッ!」

落ちてから一番声を張り上げたかもしれない。
でも絶望的な状況なのは、変わりはなかった。簡単には誰もスングァンのいる場所には近づけず、スングァンは1人では上がってこれそうになく、無理すればスングァンのケガがひどくなるか、足元が崩れるかのどちらかだったから......。

 

The END
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