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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

君と歩いたこの世界の 1 MYMY 2

注意......

「MYMY」contentsページです。

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君と歩いたこの世界の 1 MYMY 2

ディノは走っていた。山の中、道なき道を。数日前に勢いに任せて下った時にはそれほど時間はかからなかったはずなのに、今は山の上を目指しているからか、息が切れて、小枝にすら弾かれて、あちこち傷を作って、振り返り振り返り走ってるからか足元すら危うい。

「早く、スングァナッ」

ディノが振り向かずに叫ぶ。
すぐ後ろには、スングァンの手を引きながらも必死に走るバーノンがいて、「ごめんッ、待ってッ」とスングァンの声も聞こえる。

「急がなきゃ、置いて行かれちゃうッ」

船が行ってしまう。今はそれが何より怖かった。

まだ今は山の中腹か、そこまでも至っていないはず。船の場所を正確には覚えていなかったけど、方向は間違ってないはずで、ついさっきまでは諦めていた。きっともう船はとっくの昔に飛び立ってしまっただろうって。それでも諦めきれないからトボトボと歩いて山を登っていたのに、不意に空気を振動させるように汽笛が鳴ったから......。

その音を聞いたら、いつだって身体は勝手に走り出す。
どこにいたってこの音を聞いたら走って船に戻って来いと、ヒョンたちに教えられたから。
いつだって、どこにいたって、何をしてたって。
でもその汽笛は、飛び立つ時の合図でもあったから......。
ディノたちが、船に戻ろうとしてるなんて知らないはずだから、船はもう浮かびはじめたかもしれない。風に乗って一気に加速する時の感覚を覚えてる。

ふわりと浮いたら、あとは早かった。

あぁだから、行ってしまうかもしれない。置いて行かれてしまうかもしれない。
数日前には、そんなこと考えもしないで船を飛び出したのに。
家族に会えると信じて疑ってなくて、流れる時が違うなんて話、信じもしなかったのに。

 

 

ディノの家は裕福ではなかった。
だからいつだって弟の面倒を見ながらも、ディノだってお手伝いって言葉では足りないぐらい、朝から晩まで働いていた。

たった2つしか離れてない弟は、水を汲みに行く時もついてくるだけで何もしない。2年前だって、ディノはもう働いていたはずなのに。
それでもなんで俺だけ......なんて、思ってことはない。時々は水が冷たくて辛かったけど、どこかに逃げ出したいとも、家族を捨ててしまいたいなんてことも、一度も思ったこともない。

だから不意に空に出てしまったことを、家族に説明したかった。
決して逃げた訳でも、捨てた訳でも、嫌だった訳でもなくて、本当にたまたま、あの日はじめて船を見てワーってなってワクワクドキドキして駆け寄って、その勢いのままに船の中も見て回って、気づいたら空の上だっただけなんだ......って、母親に父親に、それから弟に説明したかった。

それなのに、家があった場所には何もなかった。
そこはただの荒れ地で、家があった痕跡すらなくて、隣りっていっても大分離れた家を訪ねて聞いたけど、ディノの家があった場所には、もう十数年も前から何もないと言われて言葉を失った。

両親の名も、弟の名も出して訪ね歩けば、1人だけ数年前に隣りの村で弟に会ったという人がいた。そのおばさんは親切に、「君が探してる人とはきっと別人だと思うけど」って言ってくれたけど、ディノは隣りの村があるという場所まで走った。
時間が確かに違っていたのかもしれない。少しずつその話を認識しつつも、それでも家族に会えれば、きっとそんなこと何も問題ではないはずって思いながら、走って、走って、走って。

会えば弟が、いつものように「ヒョン」って言ってくれると信じてたのに、弟はもういなかった。
そこには弟の息子だっていうおじさんがいて、それじゃぁ人違いだと思ったのに、昔空に消えてった兄の名前を、息子に貰ったんだという弟の孫の名前が自分と同じで、簡単そうで複雑なその話を理解するのに時間がかかったかもしれない。

色んな事を伝えるつもりだったのに、弟には息子が2人もいて、孫は6人もいるらしいっていう理解しがたい事実が目の前にあっただけだった。
そりゃ良かったただいま......って訳には当然ならずに、弟の人生を聞いて、でも全然頭に入ってこなくて、弟がいないんだから当然のように両親はいなくて、「でもいつか兄貴は絶対戻ってくると思う」と弟がいつも言ってたと聞いた。

だからこそ突然、子どもみたいなディノがやって来て「弟を探してる」と言い出したって、不審がらずにバカにもせずに、信じてくれたんだろう。
もう行く当てなんてないのに、ディノはトボトボと歩いた。
母親にも父親にも弟にももう会えないと思えば、哀しさしかなかったけれど、不意に聞こえた気がしたのは「ディノや、どうした?」っていつだって落ち込んでたら声をかけてくれたウォヌヒョンの声だった。

みんな、どうしたんだろう............。

たまらなくなって、トボトボ歩いてたはずのディノは、急ぎ足になって、でも考えれば考えるほど、ヒョンたちがどうしてるのかが気になって、ディノはいつの間にか走ってた。
ようやく戻ってきた自分たちの村の入口で、バーノンとスングァンに出会うまで。

「ヒョンッ」

叫べば、そこにいた2人もディノのことを見つけてくれた。
でも、スングァンが泣いていた。

泣いてる理由なんて聞く必要はなかった。だって自分も家族には会えなかったから。
弟の家族に会えただけでも、もしかしたらラッキーだったのかもしれない。

「どうしよう。船はもう、行っちゃったかも」

そう言えば、「もう行ったに決まってる」ってスングァンが言う。

「最初の、山を下りた日に、村の中で一度だけハニヒョンを見かけたんだけど、それ以外は誰も見かけてなくて」

バーノンがそう言ってはじめてディノは、一緒に山を下りたはずのヒョンたちのことを考えた。
でも一番に船を飛び出して、その後は家族を求めて走り回っていて周りなんてよく見てなくて、もしかしたらすれ違っていたかもしれないヒョンたち全員の顔が浮かぶ。その中には当然ジュンとディエイトもいて、別れの言葉すら交わさなかったことも気づいてしまった。

「ジュニヒョンと、ディエイヒョンに、俺、何も言わなかった」

そう言えば、バーノンとスングァンが抱きしめてくれた。
だって今となってはもう、それは今生の別れだと知っているから。
空の上と地上では、時の流れが違いすぎるって、身をもって知ってしまったから。

「どうしたらいいんだろう。これから」

スングァンがそう言うのに、明確に答えられる人なんていなかった。
だからとりあえず、船があった場所に一度戻ろうってことになって、3人でトボトボと歩き出した。
きっともうそこには船なんてないはず。判っててもそれを再確認しないことには諦められないから。何もないその場所で空を見上げて、行ってしまったってことに納得しないと、次に進めないような気がしたから。

それからはきっと、船を降りたヒョンたちを探そうと思ってた。
だって自分たちだけでは、どうしていいか判らなかったから。
3人でトボトボと歩いた。普通の歩く速度よりもゆっくりとしか足が出なかったから、山を登るのにはもっと時間がかかっていたかもしれない。
ただ、別れを確かめるためだからだろうけど。

スングァンが時々は泣き止むけれど、言い換えればほとんど泣いてたから余計に歩みは遅かったかもしれない。

駆け下りた時には道なんてなくても平気な勢いだったのに、山の上を目指してる時には道なき道は険しすぎて、なかなか前にも進めなかった。
もう少ししたら、誰かが「もう行くのはよそう」って言いだしてたかもしれない。
それぐらい心は挫けていたし、身体も疲弊してたってのに、全員が一瞬で駆けだしたのは、山の中に、汽笛の音が鳴り響いたから............。

その音を聞いたら、いつだって身体は勝手に走り出す。
まだいたんだって喜んで、でもその音は飛び立つ前の最後の汽笛なのかもしれないと不安にもなって、必死になって駆けた。

「スングァナッ!」

必死に走るディノの後ろで、バーノンが叫ぶ声が聞こえた。振り向けば、足を踏み外したスングァンが、数メートル下に身体ごと滑り落ちて行くのが見えた。

「ヒョンッ!」

ディノが叫ぶ。珍しくスングァンのことをヒョンって呼んだからか、滑り落ちながらもスングァンがディノのことを見た気がしたけれど、スングァンの姿は窪みだったのか茂みだったのか、濃い緑の中に消えて見えなくなってしまった。
一体どれぐらい落ちたのか、今も落ち続けているのか、そして無事なのか。何も判らない。

「ディノやッ! お前は先に行けッ!」

なのにバーノンがそう叫ぶ。

「でも」
「俺はスングァニを探すから、お前はヒョンたちに知らせて来い」

船が行ってしまうかもしれない。さらに今はスングァンを助けなきゃいけないっていう焦りもあった。でもバーノンが言うように、ヒョンたちがいれば絶対に助けてくれるのも判ってて。

「絶対ヒョンたちを連れてくるから」

ディノはそう言って、自分が来てた服を近くの枝に目印代わりに投げかけて、山の上を目指す。
枝に弾かれてあちこち傷を作ろうが、どれだけ息が切れようが、今度はその足を緩めることはしなかった。だってスングァンを助けなきゃいけないから。

どれぐらい走ったのか、ディノ自身も判ってなかった。
でも大分駆け上がった。だから少し開けた場所に出た時、そこに船がなくて、思わずその場に膝をついたディノだった。
物凄く真剣に、「間に合わなかったの?」って呟いたディノだったのに、「なに? トイレ? 間に合わなかったのか?」っていう物凄くのほほんとしたことを言われて、ディノは驚いて振り返った。

そこにいたのはジョシュアで、なんでか開けた場所の隅っこに、ビーチパラソルを開こうとしてた。もちろんその下には、プールなんかにある椅子を広げてて。

「シュアヒョンッ!」

ディノが泣きそうになったのは言うまでもなくて、「船は? みんなは? 俺たち、置いてかれちゃったのッ?」ってジョシュアに縋りつく勢いで聞いたのに、「お前らを待ってたんだよ。ボノニとスングァニもどうせ一緒なんだろ?」って当然のように答えられて、我慢してた涙がこぼれ出す。

でも泣いてる場合なんかじゃなくて......。

「ヒョンッ、どうしよう。スングァニが落ちて」

そこまで言えば十分だった。ニコニコしてたジョシュアが真剣な顔をして、「チャナ、そこまで戻れるか」って聞くから、「ちゃんと目印を残してきた」と答えれば、ジョシュアがディノの頭をポンポンと叩いてくれた。

それは『よくやった』って言われてるようで、やっぱり泣きそうになったディノだったけど、やっぱり泣いてる場合なんかじゃなくて......。
それなのに涙がさらに出てきたのは、開けた場所のその奥から、「おぉ、ディノや。遅かったな」って言いながら、エスクプスが出てきたから。

「クプスやッ! スングァニが途中で落ちたらしいッ!」

でもエスクプスがのんびりディノに向かって手を振ってたのはジョシュアのその言葉を聞くまでだったけど。

「どっちだッ?」

すでに走りはじめながらエスクプスが問えば、ディノが出てきたあたりをジョシュアが指さす。

「目印はッ?」

その言葉には慌ててディノが、「上着を木に掛けてきたッ」と叫ぶ。「ロープをもって後からホシを走らすからッ」ってジョシュアの声がエスクプスに聞こえたかは判らない。ディノと同じように、枝なんて気にせず、エスクプスがディノが登ってきた道に飛び込んで行ったから。その勢いではエスクプスもまたどこかで足を踏み外すんじゃないかってぐらいの勢いで。

「俺も行かなきゃ。クプスヒョンだけじゃ、道が判らないかも」
「クプスが叫びながら下りるから、ボノニが気づくだろ。それに山を駆け上がってきたお前じゃ、行っても足手まといになる」

エスクプスの後を追いかけそうになったディノを止めたのは、冷静に判断したジョシュアの言葉だった。

「ホシやッ!」

そう叫ぶジョシュアに続いて開けた場所を抜ければ、たった数日なのに帰りたくて溜まらなかった船が隠されるようにしてそこにあった。
実際に、場所を少し動かして隠しておいたんだとは、後から聞いた。

「なに? シュアヒョンどうかした?」

船の上、デッキブラシを持って、いつものようにのほほんとしたホシがいて、ディノを見つけて「遅かったな」って笑ってた。

「スングァニが落ちた。いまクプスが猛ダッシュで向かったから、お前はロープを持って続け」

そう言えば、ホシがロープを取りに走る。
その間にもジョシュアの声を聞きつけたのか、ウォヌが船の中から出てきて「ケガは?」って聞いてくるし、真っ白なシーツを手にしたジョンハンも出てきて、「ヤーどっちだよッ」って叫んでる。

結局ホシとジョンハンと、ミンギュが後に続いてた。
ウォヌが船からおりてきて、ディノに向かって「お前もあちこちケガしてるじゃん」って話しかけてくる。あちこちにできた傷の様子を見てくれて、ディノはもう堪らなくなりすぎて、盛大に泣き始めてた。

そうしたら船からは、ドギョムやディエイトやウジまで出てきたから、「みんないるじゃん」って言えば、「そりゃいるだろ」ってウジが答えて。
気づけば傷薬を持ったジョシュアが戻って来て、ディノの手当をはじめてくれた。

「置いていかれたかと思ったんだ」

泣きながら何度、そう言っただろう。そのたびに誰かから「バカだな」って言われたり、「置いて行くかよ」って言われたり、「お帰り」って言われたり、「待ってたに決まってるじゃん」って言われたりしたから、ディノは泣き止む暇がなさすぎて。

「ヤー、お前らそろそろやめろよ」

そうジョシュアが怒ってくれてはじめて、自分が揶揄われてたことを知ったディノだった。

 

The END
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