注意......
「No War!」は続き物です。そして長いです。
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No War! Seventeen's Story 1
一番最初にその事実を知ったのは、エスクプスとジョンハンだった。
軍に所属していたからだろう。
「北で、大勢が死んだらしい」
食堂の中で誰かがそう口にしたのを聞いた時、食べてたものの味が一瞬で消えた気がしたエスクプスだった。
目の前では、スプーンを口に入れかけたまま固まっているジョンハンがいて。
スプーンが下ろされるのを、目の前で見てた。
その口が閉じて、引き結ばれた唇が、小さく震えはじめるのを、目の前で見てた。
気づけば目の前で、ジョンハンが声も出さずに泣いていた。
堪えていたつもりもなく耐えていたものが、溢れてしまった瞬間だったのか。
それともやっと泣けたのか。
ポロポロだったのが、すぐにボタボタになって。
手近にあった手ぬぐいでその顔を拭ってやれば、顔を押し付けて嗚咽を零しだしたジョンハンは、その場にいた全員の視線をいつの間にか集めていた。
いつもは黙って、ただただ動いているだけのジョンハンだったからだろう。
「チャニだけは、失えない。あいつは俺たちの未来なのに、あいつだけは、笑っててくれないと困るのに」
泣きながらそう言ったジョンハンの言葉は、近くに座っていた人間にだって届いただろう。
誰も失っていない人間を探す方が難しい世の中だったから、北に大切な人間がいるんだろうと、すぐに気づいたかもしれない。
いつだって誰とも話そうともしなかったジョンハンだったけど、それでも仲間だとは認めてくれてたんだろう。
誰かが「北の情報、もっとちゃんと知ってる奴は?」と声をあげてくれた。
その言葉に、少しずつだけど情報が集まってきた話では、何が原因でどこが仕掛けたかも判らぬままはじまったそれは、一夜にして敵も味方も大分失って、偵察含めて最前線に出てた隊はほとんどがダメだったらしいって話だった。
「ジョンハナ。帰ろう」
そう言えば、ジョンハンが頷く。
ウジとホシが釜山に旅立ってようやく、二人が食料を気にしていなくなったことに気づいた。
自分たちが最初に気づくべきだったのにと、二人で落ち込んで。
ディノの家族が無事で良かったと喜んだ。
スングァンは見つからなかったけど、バーノンはアメリカに旅立っていった。
ドギョムも家族が無事で、ミンギュはやっぱりいつだって頼もしくて。
二人して話し合って、兵役を希望した。寝るところと食べることに困らなくて、仕事があって、時々訪ねてくるミンギュに、手に入りにくいものを渡せてやれたから、辛くはなかった。
それでも待つ人がいる人間は二年も経たずにいなくなる。残るのは誰も待つ人のいない人間か、二人のように何か事情がある人ばかり。
不定期に訪ねてくれるミンギュのおかげで、みんなの状況が知れた。ディノが北に行った話を聞いたのもミンギュからで、もう戦う必要も、戦う相手だっていないはずなのに。その時もジョンハンは震えていた。二人できっと大丈夫。何も起きない。チャニは大丈夫って言い合って、またミンギュが訪ねてきてくれて、ディノが無事に戻ったっていう知らせを持ってきてくれることを、心から待っていたのに。
きっと大丈夫とは、言えなかった。
人は簡単に逝ってしまうと、嫌ってほどに知っているから。
「ジョンハナ。俺たち、帰ろう」
そう言えば、声もなくジョンハンが頷く。
それから一週間もせずに、二人は除隊した。
長くいたからこそ、引き留められたりはしなかった。
特に誰とも親しくはしてこなかったのに、餞別だと、燃料やら食料やらを渡されて、部隊長からは北に向かった知り合いの名を教えてもらった。
いざとなったら、探しにいかないといけないから。
ディノだけは失えないから。
瓦礫は明らかに減ったのに、倒壊しかけたビルは放置されている。
そんな街並みにも驚かなくなった。
懐かしい道なはずなのに、すべてが壊れてしまった時のまま。
会社の跡地へと向かう。そこには今も、ウォヌがいるはずだから......。
The END
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