注意......
「No War!」は続き物です。そして長いです。
どこかからたどり着いた方はひとまず、contentsページからどうぞ。
No War! The story in the ship.To KOR From USA.
「あ、俺、船に乗るのはじめてだわ」
船に乗るのに、妹は見送りには来なかった。
ジョシュアとバーノンだけの旅は、思った以上に荷物も簡素だった。
よく考えればこんな旅はしたことがないという初心者なジョシュアと、船旅三回目の、それでも前の旅からは大分時が経っているバーノンの二人旅は、どうしたって「ちょっとそこまで」感が強かった。
誰かとの別れがある訳でもなく、海の向こうに希望がある訳でもなかったからかもしれない。
慣れてしまえば、今の暮らしだって悪くない。
そう口にする人も少なからずいた。
バーノンだって誰も失っていなかったら、そう思えたかもしれない。
隣りにいて、いつも楽しそうに笑ってくれる人が一緒だったら、どこでだって生きていけただろう。
歌う場所も踊る場所も、当然スポットライトなんてなくても、それでもいつでもどこでも楽しそうに歌って踊ってくれる人が一緒だったら、どんなに大変な世界だって明日に希望を持てただろう。
不気味な船の揺れにも、心が騒ぐこともない。
もう何も、怖いものなんてないからかも。
「俺は泣くと思う」
バーノンの前では、困ったようにそう言って笑うジョシュアがいて、きっと立ってもいられないかも......とも言う。
自分はどうだろうか。優しいヒョンたちを前にして、泣くだろうか。ディノを見たら、泣くかもしれない。でももう、心はそれでも動かないかもしれない。
もう一度、あの時と同じように絶望を味わって、その後にスングァニのもとに逝きたいんだと言えば、きっとヒョンたちは泣くだろう。怒るかもしれない。でももう、それでもこの心は動かされないだろう。
だってもうきっと、心は一緒に逝ってしまっている。
思いがけず、笑うこともないのに。
不意に、幸せを感じることもない。
バーノンのことを振り向かせるのはいつだって、どこかでスングァニの声が聞こえたような気がした時だけで、それだって幻で、ホンモノではなくて、そのたびに味わうのはあの立ち尽くしてた日々と同じ気持ちで......。
あんなに楽しそうに笑って。怒って、泣いて。大好きって気持ちを隠しもせずに。
いつだって目の前でキラキラと、本当にキラキラと、輝いていて。
「俺が絶対、見つけてやるから」
海の向こうばかり見てるバーノンに、ジョシュアが言う。
その言葉に、バーノンは口角を少しだけあげた。今やもうそれが、バーノンの笑顔の限界で............。
The END
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