注意......
「No War!」は続き物です。そして長いです。
どこかからたどり着いた方はひとまず、contentsページからどうぞ。
No War! The story in the ship.To USA From KOR.
船の中。不安そうな顔をした人たちは、アメリカまで行くというその船旅の過酷さや時間の長さや不意にやってくる嵐や、静かすぎる海の不気味な揺れを、まだ知らない。
甲板に出たいという妹について外に出れば、潮風が強かった。
「ボノナ。お前、シュアのとこに行け」
そう言ったハニヒョンの言葉に素直に従ったのは、妹が生きていたから。そしてアメリカには従兄がいて、国にはもうスングァンの気配すらなくて。
一緒にいても笑うこともないバーノンのことを、妹はどう見ていたのかは判らない。
はじめての船での旅に、不安しかなかったかもしれない。
ハニヒョンが妹のために手にいれてくれたのはどれも身体の線がでない服やパンツばかりで、何もないとは思うけどと言いつつも、小型のナイフまで持たせてくれた。それから妹に「ボノニと離れるなよ」と真剣な顔して伝えてもいて。
役に立つかは判らないけどと言いつつ、お金も持たせてくれた。こっちの方が役にたつかもと、貴金属も持たせてくれた。貴重な食料だって。ライターだって。薬だって。
「一緒に行ってやれなくてごめんな」
なんでか、そう謝ってもくれた。
きっとこれが最後......。そう判ってもいたのに、別れの言葉なんて最後まで口にしなかった。
でも「いつか」なんて言葉も口にしなかった。
知ってる。自分が何もかも失ったかのような顔をして傷ついている間にも、本当に何もかも失っていたのはハニヒョンだったってことは。それなのにいつだって弟たちのことを、その家族までにも気遣って、変わらず優しくて。きっと自分と同じように笑えないはずなのに、ハニヒョンは笑って、「元気でなッ!」ってずっと手を振ってくれた。
「あぁ、良かった。あっちにはシュアがいて」
そう言って、ちょっとだけ泣きそうにもなってた。
きっとハニヒョンは、あの後泣いたと思う。
船が見えなくなったら、泣いたと思う。
それでもありがとうとも、ごめんなさいとも、愛してるとも。何も言えなかった。
言葉はちゃんと聞こえてるのに、なんだか水の中にでもいるかのように、音が響いてこないから。
たった一人、いなくなっただけなのに。
ハニヒョンは家族全員を失ったって、俺たちのために笑ってくれるのに。
自分はたった一人、見つけられなかっただけなのに。
船の中。
嵐が来るたびに、船が大きく揺れるたびに妹が横で「神様」に祈ってた。
それでも心は動かなかった。
どうしようもなくて逃げていく先に、スングァンがいないことだけは確実だったから。
一緒にいない未来なんて、考えたこともないのに。
自分の未来には、当然のようにいるはずの存在だったのに。
The END
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