「太陽って、どっちから昇ると珍しいって言うんだっけ?」と謎なことを言い出したのはスングァンだった。
宿舎の中にウジがいた。それだけでも結構珍しいというのに、食卓のテーブルでホシが何かを食べてる横で、そんなホシにもたれるようにして座っていて、「ジフナ」とホシが真横のウジに自分が食べてたものを差し出せば、「ん」って言いながらそれを口にしたりしてたから。
「ウジヒョン、何のゲームに負けたの?」
そうスングァンが本気で聞いたほど。
「いや、結構俺ら、日常的にこうだけど?」
ってホシが言うのを、「絶対ないよ」とスングァンが速攻否定して、「ど否定かよ」ってホシが文句を言っていたけど、半年に一度、いや一年に一度あるかないかかもしれない。
それこそウジがホシに多少甘くなるのは、ホシの誕生日ぐらいかもしれないと、スングァンは本気で思ってたから。
「ウジヒョンもしかして、体調不良なの?」
自分で口にした言葉が大正解だと勝手に判断したスングァンが、「大変ッ! ハニヒョン大変ッ!」と宿舎の中をバタバタと駆けていく。
そして当然のようにジョンハンを連れてきた。
「お? ウジが体調不良って?」
「ちょっと電池切れだけど、元気だって」
「そんなことないよ。全然元気じゃないよ。ホシヒョンのなすがままなんだよ? ウジヒョンが」
自分のことを話されているというのに、やっぱりウジはホシにもたれたままで、ホシが手を伸ばしてウジの頭をなでなでしたって、怒りもしない。普段ならそんなことをされたら無言でグーパンチぐらいするっていうのに。
「熱はないんだろ?」
「だからないって。元気だって。今はほら、俺のことを充電中なんだって」
「ホシヒョン充電したって何にもならないよ。絶対熱があるんだよ」
地味にスングァンが酷いことを言っていたけれど、ジョンハンがウジの額に手を当てて熱を確認してた。
これまでなら熱が出たってそれでも動いて働いて蹴散らしていたけれど、世界が謎な肺炎に席巻されて以降、熱があれば全てがストップするような時代になったから。
「熱はないな」
「だから言ったじゃん。ジフニはちょっと、クールダウン中なんだって。さっき俺と一緒に、一曲仕上げちゃったから」
たったの三十分ほどで、勢いにのって一曲仕上げたという。
それが良すぎたのか、ウジの中ではその音楽が今鳴り響いてて、止めようとしても勝手にアレンジがはじまっていて、オーバーヒート中だという。
「な、ジフナ」
ホシが同意を求めれば、ウジは「ん」って頷くだけ。
「ほら、な、な、な、な」
ジョンハンとスングァンに向かって、どうだって感じのホシが、「ジフニは今俺だけに全部委ねてるんだよ」って自慢げに言ったけど、ジョンハンが「ウジは俺のこと大好きだよな?」って言えば、ウジは「ん」って頷く。
すかさずスングァンが、「ウジヒョン、今度、たっかいお肉奢って」って言えば、やっぱりウジは「ん」って頷く。
「ヤー、お、俺たちの邪魔するなよッ」
焦ったホシが怒りだす。
特に体調不良じゃないと知ったから、ジョンハンもスングァンも続けて揶揄う気満々だったというのに、ウジが不意に「あぁ、そうかも。俺今、スニョイから充電中なのかも」とか言い出して、大分時差があったけど、さっきのホシの言葉を肯定してた。
「雪とか降ったりしてな」って言いながら、ジョンハンが去って行く。
「ハニヒョン、で、太陽ってさ。どっちから昇ると珍しいんだっけ?」って言いながら、スングァンもついて行く。
もう5月も終わりかけだというのに、確かに少し肌寒い日だった。
その日は夜から雨が降り出して、夜中には大荒れになって、どっかで川が決壊したとかっていうニュースが流れてて、ちょっとだけホシがビビってた。
次の日はいつも通りのウジで、そうしたら昨日の雨が嘘のような天気だったから余計に......。
The END
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