もしかしたらと思っても、気にしないようにしてステージ用のパフォーマンスの精度を全員で高めてた。
疲れと汗と身体のふしぶしの痛みと、準備しても準備しても時間がないなか、それでも夢だったステージに立つその時の感動のために、頑張っていた。
カラットたちのために......とはよく口にするけれど、実際には自分のためでもある。
自分の声で腕で足で、空間を支配した時の気持ち良さは全てに勝るから。
誰のせいでもないけれど、全員が呼ばれて、淡々と説明を聞いた。数日前から日本で「非常事態宣言」が出る出ないと言っていたから、半分以上は覚悟してたけど、大きな大きな夢が目の前にあって、もう確実に手にできると思っていただけに、正直ショックだった。
いつもなら一番に、「負けないぞ」「諦めないぞ」って言ってるはずなのに。言わなきゃいけないのに。「こんなことなんでもない」「待ってろよドームッ」「俺らの本気をなめんなよッ」「カラットの根性もなめんなよ」って、言わなきゃいけないのに。
言葉が出なかったホシの手を、横からギュッと握りしめたのはウジだった。
見下ろせば、ウジが微笑んでいた。
「俺ら、一位取るのが、夢だったよな」
全員がウジを見る。
はじめて一位を取った時、ホシもウジも、クプスも、号泣してた。
あれから何度一位を取っただろう。
「俺ら、一位が取れるようになったからって、満足なんてしなかったよな」
当然、手を抜くようなことはなかった。誰にも遠慮せず、誰よりも上を目指して、そこに居続ける努力も怠りはしなかった。
いつまで全力で踊り続けられるのか。そんなこと考えもせず、ただただその時その時全力で、今しか踊れない踊りを踊ってやろうと思ってた。
「だから、きっと、いつか、俺らがドームに立った時、俺らと一緒にカラットたちも、号泣するよな」
ずっと一緒にいて欲しいけど、ずっと一緒にはいられないかもしれない。
それでも何故か、信じてる。
自分たちがいるからカラットたちがいるのか。カラットたちがいるから自分たちがいるのか。
もうよく判らないけど、それでも絶対的に、信じてる。
いつだって自分たちの声に歌に踊りに喜んでくれて叫んでくれて笑ってくれて泣いてくれて。だけどそんな人たちにこそ、自分たちが支えられていると知ってるから。
夢が一歩、遠のいた日。
でもそれはまた、大切なことに、気づけた日。
「待ってろよドームッ」
ホシがいつものように吠えたら、隣りでウジが笑ってた。
The END
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