今日はなんとなく、落ち込んでる。テンションはあがりそうにない。多分ちょっとだけ、疲れてる。
そんな気持ちで目覚めたはずなのに、部屋を出てリビングにたどり着く僅か十数歩の間に、ドギョムの歌声にあわせて身体がリズムを刻んでる。
ジョシュアの朝。
「coffee or milk?」
食欲がなくて、でもとりあえずは水分補給をと思ってただけなのに、何故か台所にいたスングァンがコーヒーか牛乳かと聞いてくるから「カフェラテプリーズ」と返したら「オーイェェ~イ。ミックスね~。オッケオッケ~」とテンション高い返事。
スングァンの中では、コーヒーとミルクを混ぜるっていう話だったんだろうけど、もしかしたらミックスジュースが出てくるのかもしれない。何せスングァンは自分で作るわけではなく、ミンギュに「ミックスワンプリーズ」ってオーダーを通しただけだから。
「え? 朝からミックスジュース飲みたいの?」
そしてそんなことをミンギュが呟いていたから。
まぁでも何が出てきたとしても楽しそうだから、特に訂正もせず。顔でも洗おうと洗面所に移動したら、そこにはジュンとディエイトがいた。
宿舎が二つに分かれたはずなのに、しかも二人とも違う階なはずなのに。
聞いてみれば話は簡単で、ジョンハンがエアコン代がもったいないからと、朝から叩き起こされてワンフロアで全員がすごすことにしたらしい。しかも自分たちの部屋じゃない方で。
普段は朝から晩まで仕事でいないことが多いけど、今日は珍しくもオフだった。と言ってもウジはきっと帰ってないだろうし、ミンギュもスングァンも個別の仕事が入ってて、ドギョムは舞台の練習があって、それぞれ午後から出かけて行くだろう。それに結局はそれぞれ、練習室で身体を動かしたりするだろう。絶対に何もしないのは、もしかしたらゲームのコントローラを離さないウォヌだけかも。
ジュンとディエイトは何故か洗面所の鏡で上半身の動きを合わせてる。二人だけの仕事の準備らしいが、「スタジオ行けば?」と言うと「ミンギュが今からパンケーキ焼いてくれるって」と言う。
残りのメンバーはどこかとクプスとウォヌの部屋を覗けば、新しいゲームにみんなで夢中になって遊んでた。
「出かける?」
部屋を覗き込んだジョシュアを見つけたジョンハンが聞いてくる。
「今日は寝てる」
「了解。じゃ、パンケーキ食べたら俺と出かけよう!」
「…………」
何が了解だったのか、かなり謎。
それはその場にいたディノもそうだったようで、「ハニヒョン、何が了解なのさ」とツッコんでくれた。
「シュアが今日寝てるって言うから、じゃあ用事はないんだな。じゃ、俺と出かけられるじゃん!の、了解じゃん」
ジョンハンが、かなり自分勝手な了解の説明をしてた。そしてディノが「なるほど〜」と納得してた。
いや、納得してどうする……って感じ。
「夕飯はどうする?」
自分のベッドに寝っ転がったままのクプスが、昼どころか朝もまだなのに夕飯の心配をしてた。
「全員で食べたい! 全員で食べたい!」
スングァンがすかさず叫んでた。当然のように反対意見なんて出るはずもなく、「肉な」と小さく要望を口にしたのはゲームに集中してるはずのウォヌだった。まぁ魚介系がダメだからだろう。
「ドキョマッ、ドキョマッ! そろそろ続き歌ってッ」
朝からシャワーを浴びてたのか、腰にタオルを巻いただけのホシが頭をタオルでガシガシしながらやって来た。廊下でドギョムに向かって叫んだのは、今のフレーズを聞き飽きたからだろう。
「俺、ドギョムが倒れても舞台の代役余裕でたてそう」
「俺も」
ホシがかなり真剣な顔で言うのに、ウォヌまで同意した。
ジョシュアも確かに……と思わなくもない。
あまり家に帰ってこないウジと、もう聞きたくないとヘッドホンをしてるクプスと、同じように聞いてるはずなのに何故か全然聞いてないという、器用なのか不器用なのかよく判らないミンギュ以外は確実に、出だしからの数シーンは余裕で歌えるだろう。
まぁ舞台上での動きや立ち回りは無理だろうけど、どこで気持ち強くのせるのかまでは判るかもしれない。
「パンケーキ順番に取りに来て〜」
ミンギュの声に、ディノが一番に走ってく。
「凄いヒョン!」
ディノのそんな声も聞こえてきたから、きっと店で食べるようなモノが出来てるんだろう。
甘い系と、甘くない系と、ミンギュは当然のようにそれぐらいする。
「俺ら、昼はどうする?」
ジョンハンが、すでに出かけることを決定事項として話をすすめてくる。
「食欲ないかも」
「了解。じゃ、昼はパスタな」
「…………」
絶対、了解の使い方を間違ってる気がする。しかも今はツッコんでくれてたディノもいない。しかし皆からの微妙な視線を感じたのか、ジョンハンが自ら「だって食べたいものがないなら、俺の食べたいものでいいじゃん。な!っていう了解」と、了解の意味を説明してくれたけど、やっぱり了解の使い方が違う気がする。
「お前なんで、シャワーなんてしてんの? 着替えは?」
腰タオルな状態で、クプスの横にホシが座ってきたからだろう。
そしてゲームの画面から視線を外さないウォヌ以外の全員が、それもそうだって顔でホシを見てるというのに、本人はどこ吹く風。
「大丈夫! パンツも服も、腐るほどあるから」
自信満々な顔で声で答えたホシだったけど、すかさずクプスが、「いや、あるけど。お前のパンツでも服でもないじゃん」とツッコんでいた。
「着てきたやつは全部洗濯に出しちゃったも〜ん。それに着るもんないなら、このまま部屋戻るからいいも〜ん」
やっぱりホシは何も気にしてない。
さすがにそのままでマンションの廊下や階段を歩かれるのは、セブチの悪評がたちかねない。
「別にいいから、何か着ろって。見えてるだろ」
ゲーム中にもかかわらず、ウォヌが結構喋った。まぁ、見えてたからだろう。全員から非難の声があがっても、やっぱりホシはどこ吹く風。
「ミックスジュース誰? ミンギュヒョンが、バナナがちょっとしかなくて、ほぼほぼニンジンジュースになっちゃったけど〜って」
先に飲み物を運んできたディノの持つトレイの上には、牛乳やコーヒーや普通のジュースに混ざって、確かに一際目立つニンジン色のジュースがあった。
みんなキョトン顔だったかも。ジョシュアだってもしかしたら、そんな顔してやり過ごしても良かったかもしれないけれど、それはそれで美味しそうだし栄養も沢山取れそうだし。
「ミックス俺。ほぼほぼニンジンジュースでも大丈夫」
そう言って受け取れば、スングァン以外から色んな声がかけられた。
「お前凄いな」byクプス
「シュアはそういうとこあるよ」byジョンハン
「ミックスジュース有りなんだ」byホシ
「いや普通は無いし。それにどっちかというと、作るミンギュが凄いんだろ」byウォヌ
「………」byバーノン
何を言われたって、笑ってればいい。それですべては収まったりするから。
一人驚いた顔してたスングァンは、察しがいいから何が起こったか気づいたんだろう。ちょっとだけアワアワしてたけど、笑って頷いて見せれば、やっぱり察しがいいからちょっとだけ困ったような照れたような顔をしていたけれど。
「あ、美味し」
ひと口飲めば、物凄く美味しかった。
そしてミンギュとディノが、せっせと見た目完璧で、多分味だって完璧なパンケーキをせっせと運んでくる。
スングァンのための甘さ控えめパンケーキや、健康第一なディエイトのためのパンケーキときのこオムレツ野菜添えなんてものまであった。もちろん想像通りの激甘パンケーキも。
ちょっとだけ、なんでここで食べるの……と、思わなくもないけれど、誰も疑問に思ってないようなので、黙ってた。
一番にいなくなったのは、ジュンとディエイト。洗面所でもあわせてたぐらいだから、忙しいんだろう。食べ終えた食器をキッチンまで運んで、洗おうとまでしてたけど、優しいミンギュが「おいといていいよ」と声をかけていた。
そして二人にクプスがちゃんと「夜、全員で外食予定だから」と声もかけていた。
「場所も含めて全部未定だけど、どうせウジはずっと働くだろうから、ウジの近くな」
当然のようにそう言うクプスに、反論の声なんてあがらない。全員が当然のように、働きすぎなウジのことを心配してるからだろう。
次にいなくなったのはホシとディノ。休みだからって踊らない日はないからだろう。
仕事の準備があるとスングァンが消えて、ミンギュは片付けと、仕事前に掃除もしていくという。
スングァンとドギョムはミンギュの出勤時に移動車に便乗して、送って貰うと言っていた。二人ともちゃんとした仕事なのだから、別に移動車を出して貰ったって何も問題ないはずなのに、マネヒョンたちにも休んで貰いたいという優しさなのかもしれない。
多分ここに残るのは、地味にさっきからウォヌに負け続けてるバーノンと、そんなバーノン相手に片手でコントローラを操作しても勝ち続けてるウォヌぐらいかもしれない。
「クプスはどうせ、また事務所行って副社長のとこだろ」
「おぅ。とりあえず行く。その後ウジんとこに差し入れに行く。その後買い物行くかも。でもって夕飯までにドギョムとスングァンを回収してくる」
「俺らと一緒に昼食べてから、動くだろ?」
一応は疑問形ではあったけど、問いかけというよりは確定事項な意味合いが強い言い方だった。
何やら、クプスも昼はジョンハンに無理やり連れていかれる運命らしい。
ジョンハンには逆らっても無駄だと思ったのか、「ぉ? おぉ」と微妙な返事ながらも反論しなかったエスクプスだった。
だから? だから……。
「俺、昼は冷麺食べたい」
とりあえず食欲はないけれど、食べるなら冷たいものがいいと言ってみる。
「…………」
「…………」
「…………」
エスクプスとジョンハンとジョシュアの間に、謎に走った緊張感。
「でも、食欲ないし。ほかのものは無理そうだから、冷麺以外なら、今日は気分ものらないし、留守番してるけど」
素直な気持ちを口にしただけだというのに、さっきから黙々とゲームしてたはずのバーノンまでもが思わず、「ヒョン、凄い」とか口にした。
「いやほんと、お前凄いな」byクプス
「シュアはそういうとこあるよ」byジョンハン
「尊敬するかも」byウォヌ
なんだか朝からのミックスジュースといい、我儘キャラと思われそうだけれど、別に我を通そうだなんて思ってない。
「わかった。冷麺でいい」
だけど、あっさり折れたのはジョンハンで、結局そんなに気分はのらないというのに、やっぱり出かけることになってしまった。
着替えて集合と言われたって、エスクプスは自分の部屋にいるし、ジョシュアの部屋は廊下を挟んで目の前だし、ジョンハンだけが着替えに戻らなきゃいけないというのに、「大丈夫。ジョシュアの服でも俺、嫌じゃないから」とか言いながら、何故かジョシュアの部屋に勝手に入って行った。
「…………」
いやいや、何が大丈夫なのか。
「いや、ハニもやっぱ凄いわ」byクプス
「どっちもどっちだね」byバーノン
「さすがクオズ」byウォヌ
なんだかウォヌにまとめられてしまった。ちょっと心外かも……と思ったのはクプスも一緒だったようで、「俺までまとめんなよ」と必死に反論してたけど、まぁしょうがない。クオズと言われれば、クオズだし。チングと言われれば、チングだし。
それにだいたい、ジョンハンが一番ワガママに見えて、自分の意思を曲げないのはジョシュアだし、甘えた感じで自分の意見を通し勝ちなのはエスクプスだし。
今は一番乗り気なジョンハンに引っ張られるようにして出かけても、昼も過ぎれば疲れたとか飽きたとかもう帰りたいとか言い出すのはきっとジョンハンの方だろう。ジョンハンがイライラしながらクプスに迎えに来てとか言い出すのが目に見える。
着替えに部屋に向かおうとしたら、ちょうど出かけるドギョムに遭遇した。謎に元気にハイタッチを求めてくるから、廊下ですれ違い様にハイタッチ。
「行ってくるね~」
「はい。行っといで」
なんだか、今日はなんとなく落ち込んでいて、疲れていたはずなのに、気分はもう悪くない。
部屋に戻ればベッドの上に、色んな服がバッサバサに出されていたけれど、それだってなんだか面白かったから。ジョンハンがまた悪気なく、当然のような顔で声で態度で、「俺、なんでも似合うから逆に困る」とかのたまっていて、やっぱり面白かったから。
ちょっとワクワクしてきたかもしれない。
昼にはもっと笑ってて、午後にはちょっと落ち着いてて、夜にはきっと幸せだろう。
それに買い物もして、洋服の一枚も増えてるかもしれない。
そんな、一日が楽しみになった、ジョシュアの朝。
The END
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