妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

Trigger

 
きっかけはディノだった。
バカみたいな話。いや、ほんとにただの、バカな話。でもこれはきっと、愛の話。

それを最初に言い出したのは、ディノだった。
ほんとのほんとのほんとの最初は、自分と誰か、どっちの方が好きか......みたいな話だった。いつだってジョンハンが聞いてくるようなことを、ディノが自分から聞きまくって、ディノの名前を呼んでくれるのを喜びながらも楽しんでいただけのこと。
でもそんなディノをからかって、ウジが絶対にディノを選ばずに悔しがらせていた。
ほんとにほんとに悔しかったからか、ディノが「じゃぁじゃぁじゃぁ、一人しか助からない状況だったら、誰を選ぶ?」と聞いたのが最初。
そんな状況ならウジだって、絶対マンネな自分を選んでくれるだろうと思ったからだろう。

「..........お前でないのだけは確かだ」

ちょっとだけ考えたけど、ウジはそんな答え方をして、ディノが喜ぶ答えはやっぱりくれなかった。

「ひどいよヒョンッ。もういいよッ」

ムスっとした顔で、ディノが部屋を出て行った。
残されたのはウジとウォヌとジュンの三人。

「判る」

最初にそう口にしたのはウォヌだった。
さっきまではディノに質問されたら毎回「ディノ」と答えてあげていたジュンも、「俺もディノは選ばないと思う」と口にしたから、三人の意見はふざけてる訳でもなく、一緒だったのかもしれない。
ディノだけは選ばない。じゃあ誰を………。

「キムミンギュ。あいつは何でも、一人でできるから」

ウジが選んだのはミンギュだったけれど、すぐにウォヌに否定された。

「確かにミンギュなら何でもできるけど、アイツのやらかしてるのを、どれだけ俺らがフォローしてると思ってるんだよ。こないだステージ袖でマイク横に置いて気合いいれて、ステージに意気揚々とマイク置いて出て行った時には驚き通り越して尊敬したし」

確かに。ジュンはその時、自分がお手本のような二度見をしたのを覚えてる。
カッコつけて颯爽とステージに出て行けたのは、ミンギュの前に出て行ったメンバーとミンギュだけで、ウジなんて爆笑しすぎてドギョムに支えられながらステージに出てしまったほどだ。

「俺はやっぱりハオかな。負けず嫌いだから」

ジュンが選んだのはディエイトで、安定のチャイナライン。

「判る。ミョンホはどこでもどんな状況でも、前を向く気がするし、絶対に諦めたりしなさそうだし」

ウォヌが納得しつつ言えば、何故かジュンが嬉しそうに頷き、やっぱり安定のチャイナライン。

「で、ウォヌは?」

聞かれたウォヌが、苦笑しながら「ごめん。俺はやっぱり誰も選べないわ」と言った。いつだって冷静で、時には素っ気なく見られることが多いウォヌだったけど、本当は物凄く情に厚く、優しすぎるからだろう。

「クォンスニョンとユンジョンハン、どっち行ったと思う?」ウォヌが言う。
「ホシ」ウジが言う。
「ハニヒョン」ジュンが言う。

どちらもディノを愛しすぎているってぐらいに、大切にしてる。

「でも今回ばかりは、二人とも怒りそう」

笑ってウォヌが言う。
でもなんだかんだ言ったって、ディノを愛しすぎてて大切にしてるのはみんな一緒で。だからウジが、「でもアイツは失敗からちゃんと学ぶだろ」と言えばジュンも、「反省も、し過ぎるぐらいにするし、ごめんなさいがちゃんと言えるしね」と言う。

「ウリマンネだからな」

ウォヌまでもがそんなことを言い出して、やっぱりディノは愛されている。

 

  

そして予想はジュンが正解だった。
悔しい顔しながらディノが向かったのはユンジョンハンの所。
ホシの顔ももちろん浮かんだんだけれど、ホシは最後にはウジに負ける気がして、ここはジョンハンだと思ったんだろう。

予想してなかったのは、そこに95ラインが揃ってたこと。

でも勢いに任せて突撃したから、何も考えずに「聞いてよヒョンッ! ウジヒョンが酷すぎるんだよ!」と話し始めた。一人しか助からない状況だったら、誰を選ぶかっていう話を。
ディノの予想では、ジョンハンは絶対「ディノ」って言ってくれるはずだった。ジョシュアは自分を選ぶかもしれないし、エスクプスはジョンハンを選ぶかもしれないけれど、ジョンハンだけは絶対「ディノ」って即答してくれるに決まってるって思ってた。

それなのに………。

ジョンハンが困った顔でディノを見てる。ジョシュアは苦笑しながら。そしてエスクプスは明らかに怒ってた。
一瞬意味が判らなかったけど、でも自分が失敗したことは判ったディノだった。

頑張った結果の失敗なら当然のように誉めてしかくれないヒョンたちだけれど、失言だったり行動だったり、マズイ失敗をすると、ジョンハンは決まって困った顔をする。
怒らなきゃいけないけれど、誰かが怒るだろうからその時は庇ってやらなきゃと思うらしい。いつだって怒るのはエスクプスで、諭すのはジョシュアで、最後に「バカだなぁ」って言いながらも横にいてくれるのはジョンハンだった。

「俺、なんか失敗したの?」

ディノもまた困った顔で、わからないよと言う。

「ディノや……。コンマ秒ぐらいの、考える時間もない咄嗟の判断なら、俺はお前を選んじゃうかもしれない」

怒ってたはずのエスクプスがそう言ってくれた。でもなんだか、ニュアンスがディノの思うものとは違った。当然、マンネのお前じゃんって感じじゃなかったから。そしてエスクプスが、もう怒ってなくて、なんなら悲しげだったから。
多分ディノが本気で判ってなかったから、怒りはなくなったんだろう。

「でも絶対その後、後悔すると思う。でもやっぱり咄嗟なら、俺に限らず97ライン辺りまではお前を一番に助けると思う。でもみんな、絶対後悔する。お前は自慢のウリマンネだけど、俺はお前だけを残してはいけない」

エスクプスが物凄く真剣にそう言うから、「ヒョン、例えばの話なのに」と笑って言ったけど、エスクプスはじめ、ジョシュアもジョンハンも、やっぱり笑ってはくれなかった。

「ディノや。冗談でも、もしもの話だとしても、人の死の、命の話をしてはいけないよ」

ジョシュアが優しく、だけど物凄く言い聞かすように言う。

「ディノにとってはもしもの話でも、どこかの誰かにとってはもしもの話じゃないかもしれない。この仕事をしてるからじゃなくて、普通に暮らしてたとしても、軽はずみにしてはいけないんだよ」

ディノが判らないことがあると、ジョシュアはいつだって丁寧に判りやすく、ディノが理解するまで言葉を尽くしてくれる。

「でも……」

言ってることは判るけど、外では絶対もう言わないけど、それでもやっぱり、そんなに真剣な顔をすることなのか、ディノには判らなかった。

「二人なら、もしも助けられるのが二人なら、絶対お前を選ぶよ」

エスクプスが真剣な顔でそう言ってくれた。

「でも、一人なら、俺はやっぱりダメだ」

そうも言われた。

「もしもどこかでそんな質問を受けたら、俺には難しくて判りませんって答えるんだよ。誰も選べませんとか。移動中とかの外でなら、すみませんって会釈でやり過ごすだけでいいけど」

ジョシュアがそんな対処方法まで教えてくれる。それに頷きつつも、ディノはジョンハンを見てた。ジョンハンは何か別のことを言ってくれるんじゃないかと思って。

「俺たち、十人も弟がいるんだよ。それぞれ全員が、それなりに可愛いとか、大切とか思ってるんだよ。デキすぎる96ラインだって、バカでかいキムミンギュがいる97ラインだって。98ラインのスングァンだってバーノンだって、俺たちからしたらもうお前と変わんないよ。でもどうしたってお前がやっぱり特別で、いつだって一番大事なのは、99ラインがお前一人だけだからなのかも」

ジョンハンがたくさん話してくれた。でも愛されてるのは日頃から判ってる。でもディノが思ってる以上に、その愛はでっかかったんだろう。

「ディノや。もしもお前が一人になったら、十三人分の両親の悲しみを受け止めるのは、大変だと思う。十二人分のヒョンの不在を、やり過ごすのも辛いと思う。十三人で乗り越えてきたことを、一人で頑張らなきゃいけなくて、たくさんの楽しかった思い出が、きっとお前を苦しめる。それにお前一人を残してったら、お前が笑ってくれるようになるまで俺ら、誰一人として天国に行けずに彷徨いそう」

最後は少しだけふざけて笑ってくれたけど、ジョンハンは真剣だった。エスクプスもジョシュアも頷いてるから、思いは同じなのかもしれない。

「ジフニだってきっと一緒だ。だからお前だけは選ばないって言ったんだろ」

「そうだよ。ウジがそう言ったなら、ディノが一番だって言ったも同然だよ」

エスクプスとジョシュアの言葉に、素直には喜べなかった。でも選ばないことが愛だと言うのなら、もしもそれが本当なら……。

「じゃ、じゃあ。俺、喜んでいいんだよね?」

三人がそれぞれ頷けば、ディノが「絶対外では言わないし、これで最後にするから、ホシヒョンにも聞いてみていい?」と不安そうに聞いてきた。
まだ信じられないからかもしれない。
ジョンハンが苦笑しながらも「聞いてこいよ」と言えば、素早いディノはホシの所に向かっていった。

「止めてやれば良かったのに。ホシはもっと、怒ると思うけど」

ジョシュアがそう言えば、エスクプスが「絶対あいつは怒るな」と笑ってた。

「でも、怒られればいい」

ジョンハンが言う。思った以上に真剣な顔で声で。

世の中には悲しいことや、辛いことや、時々酷く残酷なことがある。大きな事故や、災害や、事件まで含めるとそれこそ毎日どころか毎時間毎分の話かもしれない。
大きな事故のニュースを見ると、自分たちでなくて、自分たちの家族でなくて、近しいスタッフや、沢山の関係者たちでなくて良かったと思うことがある。その度に申し訳なくも思いつつ、自分たちの健康や幸せに感謝する。
ニュースにはならなくても、スタジオ内や撮影中の、事故まではいかないハプニングはそれこそたくさんある。

事故なく、健康に、最後まで。そう毎度口にするけれど、それでも誰かが怪我をしたり、どこかを痛めることはよくあることで。

ステージ上でカッコよく交差しながらもぶつかることだってあれば、何かに引っかかることだってある。でもどうしたって身体が勝手に動くから、一瞬の痛みが押し流されて、血を流してたとしても自分では止まれないだろう。

代わってやりたいと、いつも思う。辛いことも苦しいこともその痛みも全て、弟たちの誰かに何かが起こるぐらいなら、自分の身に振りかかってくれた方がマシだから。

弟たち全員が、カッコいい男に、ステキな大人に、驚くほどに誰かを惹きつける人間に成長して欲しいとは思ってるけど、そのための経験の中には辛いことや悲しいことや痛みや挫折はなくていい。

心の底からそう思ってて、その中でもディノはどうしたって特別だと言うのに。

 

 

ディノが予想した通り、練習室にホシはいた。
鏡越しにディノがやって来たのが見えてたんだろう。ホシが振り返って、今日はじめてあった訳でもないのに凄く嬉しそうに笑いかけてくる。

「ホシヒョンあのね。こんなこと言ったり聞いたりしちゃいけないのはもう判ってるんだけどね」

学習したディノはちゃんと前置きをした。でもそんな前置き、なんの意味も為さなかった。
一人しか助からない状況だったら、誰を選ぶかっていう話を全て言い終える前に、「は?」って明らかに怒ってる声がホシの口から発せられたから。

慌ててディノが「だってウジヒョンが」と説明をしようとしたのに、それも全部は話せなかった。

「アイツがお前を選んだのかッ!」

驚いて何も言えなくなるぐらい、ホシが激昂したから。しかも一瞬で。
さらに驚きすぎてディノがあわあわしてる間にホシの中では『ウジがディノを選んだ』という事実が認定されたようで、「ジフナッ!」って怒鳴りながらホシがどこかへ行ってしまった。

いや、そりゃ向かう先はウジのところ一択だろうが、ディノはあんなに怒ったホシをはじめてみたかもしれなくて、ビックリしすぎて置いて行かれた。
それから、泣きそうにもなった。
選ばれないことが、選ばないことこそが、本当に愛なんだと、一番なんだと実感したから。

ビックリして、それからじわじわ嬉しくなって、でも誰も自分を選ばないんだと泣きそうになって、実際涙が滲んできて……。

そうしてる間に過ぎてしまった数分。本当ならホシの後を追って誤解をとかなきゃいけなかったのに、それを思い出したって、本格的に泣けてきてグズグズになってたディノは、とぼとぼしか歩けなかったかもしれない。
最初の部屋に戻ってきた時、そこにはもうホシもウジもいなかった。

「どうしよう。俺、ごめんなさい」

ジュンもウォヌも、泣きながら戻ってきたディノを見て笑ってた。

「ホシが怒鳴り込んできて、ウジのこと連れてったけど、あの二人はほっといても大丈夫だろ。それより、ハニヒョンとこには行かなかったのか?」

泣いてるディノを手招きしながらウォヌが言う。
二人の間にスペースを作って、ここに座れとトントン叩いてるジュンもまた、「行っただろ?」と聞いてくる。

「行った。クプスヒョンも、シュアヒョンもいて、選べないって。そんなこと、言っちゃいけないって。でも最後にするから、ホシヒョンにだけ聞いてみたくて、聞きに行ったら、ホシヒョンが、ホシヒョンが」

途切れ途切れの説明なのに、二人ともそれでわかったんだろう。

「二人とも、やっぱり、選ばない?」

泣きながら聞けば、「選べるかよ」とウォヌが言い、「絶対お前だけは守ってやりたい。でも、俺も無理」とジュンが言う。
何も言えなくてやっぱりグズグズ泣いていた。悲しい訳でも辛い訳でもないのに。いつもなら泣くな泣くなと慌てるヒョンたちなのに、ウォヌもジュンも優しく笑ってるだけだった。

「ホシヒョンがウジヒョンに怒鳴ってるよ!」

そう言って部屋に入ってきたのはドギョムだったけど、泣いてるディノを見つけて慌ててた。
でもウォヌから事情を聞いて、少しだけ納得してる間に、次はディエイトがやって来た。

「ホシヒョンがウジヒョンに土下座してたけど、何かあったの?」

そう言いながらやって来たから、誤解はとけたのかもしれない。
やっぱりディエイトも泣いてるディノを見つけて、「誰がお前を泣かせたの?」と聞いてきてくれる。
でもジュンから事情を聞いて納得してる間に、次はミンギュがやって来た。

「ホシヒョンの奢りで、出前取るって」

どうやらホシは、ウジに許して貰うために必死なのか、全員に奢ることにしたらしい。
ミンギュは泣いてるディノを見つけて、「お前が何かしたんだろ。ホシヒョンも泣きそうになってたけど」と笑ってたけど、特に事情も聞かず、「出前の希望は十分後に確認するから、決めといて〜」とあっさり去って行った。きっと全員に同じことを伝えに行くんだろう。

事情を知ってるはずなのに、ジョンハンはエゲツなく高いものを頼んでた。
皆から責められてたけど、「その方がウジの怒りも早くとけるだろうっていう優しさだろ」と、そんなことを言って楽しそうにケラケラ笑ってた。

出前を食べる頃には全員が事情を知っていて、反省してきっと何も頼まないか、頼んでもちょっとしか頼まないだろうと、ディノの分まで頼んだジュンとウォヌとドギョムとミンギュとディエイトのせいで、本当は十七人いるんじゃないかってぐらいの出前の量になっていた。
ディノはだから、食べながらまたちょっとだけ泣いた。

「ごめんなさい。出前のお金は、俺が払うよ」

ホシにはもう一度ちゃんと謝りながらそう言ったけど、「俺が勝手に誤解しただけだから」と笑っていわれてしまった。

次の日、ホシはテレビ局で、マネヒョンやスタッフたちにまでコーヒーを奢ってた。
次の次の日、ホシはスタジオで、ピザの出前をとっていた。
次の次の次の日、ホシは仕事帰りに全員に焼き肉を奢ってくれた。
次の次の次の次の日………。

ウジはいつも通りで、不機嫌でもないし、怒ってる風にも見えなくて、ホシとだっていつも通りなのに、結局ホシは一週間きっちり、奢りに奢りまくっていた。

ディノもちょっとだけ凹み続けていたけれど、ジョンハンが気づけば隣りに来てくれて、「あの二人のやりとりはもうお前は関係ないだろ。気にすんな」と言ってくれた。
そしていつだってエゲツないほど高いものを頼んで、イヒヒヒと笑ってた。それを見て、「やっぱりハニヒョンが一番優しい」と言えば、ほぼほぼ全員から反論があったけど……。

 

 

バカみたいな話。
いや、ほんとにただの、バカな話。
でもこれはやっぱり、愛の話。

 

The END

 

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