妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

No War!

No War! Dino's Story

見上げた空が雲一つなくて、誰かが色を塗ったかのように、鮮やかな青空だった日。

その時自分たちはアメリカにいた。珍しくも十二人だった時。
「同じ太陽の下だから。同じ太陽を、スングァニも今、きっと見てる」
ミンギュが自信満々にそう言って「時差があるじゃん」と皆からツッコまれていた。そして全員で笑ってた。

翌日には帰国するっていう日。戦争がはじまった。

最初に攻撃をしかけたのはどこだったのか、今でも正確なところは判らないらしい。どの国もどこかの国の名前を口にしたし、国を持たないテロ集団の仕業という噂もあった。

だけど国防という名の下に反撃に出たのはどの国も一緒で、戦争がはじまるなんて思っても見なかったのはどの国も一般人だけだったのか、どの国もある程度、他国を攻撃する準備ができていたんだろう。

世界から人工的な光が消えた。
ミサイルが飛んできて、次々と主要都市の主要施設を破壊していったから。そして世界中から危険視されていた北の国が、一瞬でこの世界から消えた。
青空だったのが嘘のように、世界中で雨が降りだした。

 

 

実際の攻撃は、三日も続かなかったらしい。でも全部、後から聞いた話ばかりで実際のところは判らない。つながらなくなった携帯。映らなくなったテレビ。情報の入ってこない世界。そして異国の地で、国が、世界が、どうなったかも判らないまま。スングァンの無事も判らないままに過ごした二週間ほどの時間。

泊まっていたホテルの食糧が尽きかけて、街中では暴動が起きる中、ジュンとウォヌがチャイナタウンから持ち帰ってきた食糧をわけあって生き抜いた数日。

気づけば戦争は終わってた。
良い意味でも悪い意味でも、攻撃力が強すぎたんだろう。すべてを破壊尽くす前に、終わった戦争。
だけど何もかもが変わってしまった。
だってもう、アイドルなんて必要ない世界になっていたから。

ジョシュアはアメリカに残った。今は大学で講師の仕事をしていると、風の噂に聞いた。生きているならそれだけでいい。
ジュンとディエイトは、アメリカから直接中国に帰った。全国民に帰還命令が出たとか出ないとか。その後の消息は判らない。
アメリカに残る道も残されていた。飛行機が飛ぶような世界ではなくなっていたから、帰国するのも船だったから。でも誰も、残るなんて選択はしなかった。だって家族が、仲間が、国にはいたから。

バーノンはスングァンを探し続けたけれど、見つけられなかった。そして無事だった妹を連れて、アメリカに渡っていった。もしも妹がいなかったら、きっと今も探し続けていただろう。
だってミンギュは今も、探しているから。
あの日、どこもかしこも花火のようにミサイルが飛び交う中、多くの人が逃げ回ったという。多くの人がケガをして、多くの人が亡くなって。でも生きてる人もいて。
事務所があった跡地は瓦礫があるだけだった。宿舎のマンションは、無事だったけれど窓ガラスは全て割れていた。連絡手段がない世の中になっていたから、生きてるかもしれないという希望が捨てきれなくて、病院や、避難場所になっている学校や、遠く離れた街まで、訪ね歩く日々だという。生きてたら絶対に、歩いてでも泳いででも済州に帰ってくるはずのスングァンなのに……。

エスクプスとユンジョンハンは、徴兵されていった。
救いなのは戦うためではなく、救助するための徴兵だったことだろうか。
色んな街の瓦礫を片付けながら、生き残った人たちの情報を書き記していく仕事をしているらしい。
徴兵されていく前日に、二人とも抱きしめてくれた。それが最後だった。

ホシとウジは今も一緒にいるらしい。釜山で孤児になった子供たちを預かる施設で働いている。「今もホシウジコンビは最強だぜ」ってホシが言っていたと、訪ねていったミンギュが聞いてきた。

DKは今でも歌ってる。優しい歌を、伸びやかなその声で歌ってる。色んな土地を廻りながら。もしかしたら懐かしい歌を、今でも自分たちの歌を、歌ってるかもしれない。

ウォヌは元気に、働いてないという。ゲームなんかも全部ゴミと化した世の中で、何故か囲碁やオセロや将棋やチェスといった、昔ながらの、そしてどこでも遊べるゲームにはまったらしく、そんなことをしながら暮らしているという。多分だけど、ミンギュがせっせと世話をしてそうな気がする。

ディノのところには、二度ミンギュが訪ねてきてくれた。だから知ることのできたあれやこれや。

 

 

ディノは今、北の地にいる。あの戦争で一瞬で消えてしまった国。そこは自分たちの国だからと、今後は守るべき国だと派遣されてきたけれど、ここが故郷だと、自国だと思ったことは一度もない。

掘れば死体が出てくるような土地。

殺しあうような戦いはないけれど、北の地は誰もが狙っているのか、時々他国の人間が入ってくる。だから時々威嚇音が聞こえるなか、追って、追われて、追い払って。

太陽が沈めば真っ暗で、どれだけ近くに人がいても火を炊かなければ判らない。だからディノは時々今も、漆黒の世界で一人踊る。
十二人も兄がいたのに、今は一人。どれほど時が流れたって、身体が覚えてるから不思議と踊れてしまうのが、嬉しかったり、哀しかったり。
でも生きてるだけマシだ。何もかも失ってしまったけれど、それでもやっぱり、生きてるだけマシだ。あの僅か数日で、この世界からいなくなってしまった人がどれだけいたか。もしもこの先、笑うことも泣くこともなく、心が動かなかったとしても、それでもきっと、マシだった。いつか、いつか、いつか。そう夢見ることができるだけ……。

 

 

近くで破裂音がして、考えるよりも早く身体が近くの側溝に滑り込んだ。
ここで死ぬのは嫌だな。思ったのはそれだけ。怖くもなかった。
足音がしたと思ったら、見下ろしてくる影が見えた。肩に担いだ武器の形まで判って、それが自分の国のものとは違っていて味方じゃないことは明白だった。それでも不思議と怖くなかった。
最悪殺されるか、捕まるか、無事だったとしても殴られてケガぐらいはするだろう。腕の一本ぐらいは、諦めなきゃいけないかもしれない。
自分の腕にも武器はあったけれど、それを使おうとは思わなかった。
ただもう一度、優しい兄たちに会いたいと思っただけ。誰でもいいから、名前を呼んで、抱きしめて欲しいと思っただけ。

少し遠くから、数人が近づいてくる足音がした。
それと同時に、ディノのすぐ真横に銃弾が撃ち込まれた。見下ろしてくる影が、「制圧した。武器は俺が回収する。先に行け」と仲間たちに指示を出す声が、耳鳴りの向こう側で聞こえていた。

ディノの身体は震えていた。
怖くて。死にたくなくて。生きていたくて。助かりたくて。いや、違う。聞こえてきたその声が、懐かしかったから。聞きたかった声の、一つだったから。

「ディノや。ケンチャナ?」

暗がりなのに、なんで自分のことが判るのか。見下ろしていたはずの影がすぐ真横に来ていた。それでもディノにはまだその顔も見えないのに、不思議だった。でもムンジュンフィはいつだって不思議な人だったから、そんなことも可能なのかもしれない。
「ヒョン............」
言えたのはそれだけ。気づけば涙が、止まらなくなっていた。
「ケガはないな。荷物は最小限、水と食料と、小銃だけで南に下れ。二十二キロ。走れるか? それだけ走れば防衛線にたどり着ける。後は体調不良のふりして三日凌げ。その間にカタがつく。ハオと会いにいく。いつか、絶対」
相変わらずの早口で、近づいてきたその顔は相変わらず驚くほどに整っていて。抱きしめてくれた。
何も言えなかった。誰のことも、伝えられなかった。ただ頷いただけ。

 

いつか。いつか。いつか。
そう思える幸せをかみしめて、ディノは走った。
遠くで聞こえる破裂音も気にせずに、そうしろとジュニヒョンが言ったから。
泣きながら、ディノは走った。

 

 

荒地にいつか、花が咲くだろう。
瓦礫の山は少しずつ、平地になっていくだろう。
優しい歌声が、恋の歌が、聞こえる世の中が。いつか戻ってくるだろう。
「久しぶり」
そう言って誰かがやって来てくれる日が、いつか来るだろう。
「ただいま」
「おかえり」
そう言って、それが幸せだなんて気づかずに暮らしていた毎日が、いつか、いつか、いつか、戻ってくるだろう。

 

The END

 

No War! Joshua's Story

ジョシュアの心の中にいるユンジョンハンは、いつだって楽しそうに、幸せそうに笑ってた。天使だと言われていたし、自分でも言っていたし、見た目は天使のように儚く見えることもあったけど、決して儚くもなく、弱くもなく。ただただ強かった。その心は何にも負けなかった。それにいつだって諦めなかった。驚くほどにメンバー全員に向けて愛情が溢れていて......。
だから今もきっと、エスクプスのことを、支えながら生きているはず。
なのに夢に見るユンジョンハンは、いつも笑ってはくれない。最後に別れたあの時の、なんの表情も見せない目で、ジョシュアのことをただ見てるだけ。

「何かあったら、頼ってきてほしい」

そう全員に言った。全員を強く強く、抱きしめた。誰にもサヨナラとは言わなかった。
あの時のニューヨークには母も来ていて、助かった。その母親を置いて韓国に戻るという選択はジョシュアにはできなかった。

別れの日から一年ほどして、妹を連れて頼って来てくれたのはバーノンで、疲れ切った顔で「スングァンを見つけられなかった」と一言だけ。抱きしめることしかできなかった。

ミンギュからの手紙が届いたのがさらにその一年後ぐらいだったけれど、返事が向こうに届いたかは判らない。
親切な人たちの手を渡っていくだけの手紙だから。

たくさんの人がジョシュアのことを助けてくれた。いやもうきっと、助け合わないと生きていけないと、世界中の誰もが思っていたからかもしれない。

情報が途絶えた世界だったから、本当っぽい嘘のような話は五万とあったし、嘘のような本当の話も五万とあったし、だけど誰もそれを確認はできないという状況の中、信じるのは目の前にある事実と、自分の心の中にある自分が信じたいと思うことだけだった。

たくさん弟がいたのに、今のジョシュアにはバーノンだけ。
妹には相変わらず優しいバーノンだったけれど、笑顔は失くしてしまった。
きっと見つけられなかったスングァンが、バーノンの笑顔を連れていってしまったのかもしれない。
だって自分だって、ずっと一緒にいると思ってたエスクプスとジョンハンがいない事実に、心が悲鳴をあげているから。

最初は現実が理解できなくて、気づかなかった。生活が落ち着くまでは生きることに必死で、気づかなかった。この不自由な暮らしが日常となるまで、気づかなかった。
でもある日、やっと心と身体が変わってしまった世界を日常と認識したからか、夢を見た。
いつかの、エスクプスとユンジョンハンと過ごしたなんてことはない懐かしい緑の練習室の風景。
笑ってはくれないジョンハンと、泣きそうな顔をしたエスクプス。友達で、家族で、仲間で、傍にいるのが当然だったはずなのに。
「頼りないリーダーだから」
そうエスクプスはよく落ち込んだ姿を見せてくれた。95ラインが揃った時だけに見せる顔。
誰かが落ち込めば、残り二人が励まして。誰かが失敗したら、どちらか一人が怒って、どちらか一人がフォローして。時には三人でバカみたいにデキすぎる96ラインの悪口を言って。時には親バカになってマンネラインの三人の自慢大会をしたりして。でもいつだって三人で、弟たちを見守りながら頑張っていた。

夢を見て。起きたら涙を流してる。そんなことも日常になったある日。母親が逝ってしまった。
別れたあの日から、四年もの月日が過ぎていた。

海を渡ることを考えなかった日はない。泣きながら目覚めるようになってからも、せめて一度、笑ってるユンジョンハンの姿を見に行こうと、その姿を見たら安心して帰ってこれるからと、何度も思ったから。
でもジョシュアには、バーノンを置いてはいけなかった。
妹がいるから生きてるだけの、ギリギリのところにバーノンがいたから。
きっとエスクプスもジョンハンも、たとえ一生会えなかったとしても、ジョシュアが弟の傍に居続けることの方を喜んでくれるはずだから。褒めてくれるはずだから。誰よりも弟たちを愛してた二人だから。

でもジョシュアは今日も、泣きながら朝を迎えるのだけれど............。

 

The END

 

No War! Hoshi & Woozi 's Story

ご飯を三杯なんて余裕で食べてたウジなのに、今ではほとんど食べなくなった。
相変わらず小柄。
最初のころはホシも「もっと食べろって」って心配してたけど、「踊らなくなったから、カロリーそんなに必要ないんだって」と冷静に答えられると、そうかもとも思わなくもない。

韓国に戻って、瓦礫となった会社の前で全員が途方に暮れていた中、一番最初に現実を見たのはウジだったかもしれない。
「俺らここで寝るの?」
そう言ったから。

半年はソウルで暮らしてた。なんとなく、そうすれば世の中が元のように動き出すと信じてたから。でも変わってしまった世界はどうにもならないんだってことに気づいただけだった。

ウジの指が好きだった。気づけば知らぬ間に動いてるその指は、ウジの頭の中で生まれてくる音や歌が外の世界に出てくる一番最初の場所な気がしてたから。だけどウジの指が動くことはなくなった。それよりも現実的に生き残ることを考えはじめたんだろう。

半年そこで待ったのは、生きていれば、半年もあれば、家族が訪ねてくると冷静に考えた期間だったのかもしれない。

「釜山に行く」

ウジが動いたのは、半年後。
スングァンを探すことを諦めたバーノンを、見送ったその日のことだった。

ウジは「どうする?」なんて聞いてこなかったけど、離れるなんて選択肢はホシの中にはなくて、当然のように一緒に立ち上がった。

「俺の家に先寄って。全然方向違うけど」

そう言えばウジは「おぅ」って言っただけ。

「俺らが必要になったら呼んで」

ウジはあっさりとそれだけ言うと、ふらりと歩き出した。感動的な別れなんてなかった。別れだなんて思ってなかったからかもしれない。

二人して半年かけて旅をした。途中、何もなくなった自分の家があった辺りを前に、号泣したけれど、ウジは黙って横にいただけだった。
多分ウジが食べなくなったのは、その頃から。途中でうっかり子供連れになってしまったから。釜山に向かう二人に託された子供のために、ウジは自分の食糧を分けてあげていたから。

結局釜山にたどり着いても、ウジの両親は見つからなかった。ホシの時と同じように、家があった辺りには何もなくなっていたから。ウジは泣かなかった。長い旅の間に少しずつ覚悟を決めていたのかもしれない。たくさんの建物が壊れ、時々は焼け野原になった場所を見て、親を亡くして、子を亡くして泣く人たちを見たから。

預かった子供を送り届ける先すらなくて、結局はその子供たちを託す施設で手伝っていたら、そのままそこで働くことになっていた。

結局ウジは、どんな仕事だって器用にこなすことができるようで、子供たちの日常的な世話も、建物の修理も、勉強を教えたりだってしてたから。料理だけはギリギリ食べられるものができるけれど美味しいとまではいかないようで「キムミンギュめ」と何故かミンギュに文句を言いながらしてたけど。

ホシは何度か一人で、ソウルまで行った。いつ行っても会社の跡地にはウォヌがいて、エスクプスとジョンハンが徴兵されたことを知った。
ドギョムは病院で働いているという。ディノは家族のもとに帰ったらしい。ミンギュはあちこち訪ね歩いては、今もスングァンを探しているという。

釜山には、何度かミンギュが訪ねてきてくれて、そのたびにみんなの近況を知った。
アメリカに残ったジョシュアから二年前の手紙が来たことも、ディノが徴兵されて北に行ったことも。ドギョムが病院で働きながら、今も時折歌っていることも。ただあの日アメリカで別れた後のジュンとディエイトのことはわからなかった。でもミンギュが笑って、「そのうち俺が中国まで行ってみるよ」と言うもんだから............。

「相変わらずデカくてムカつく」
ウジはミンギュを見るたびに悪態をつく。

「ヒョン、前より小さくなったんじゃない?」
ミンギュはウジを見るたびに、笑って言い返す。

だけどきっと心の中では小柄というには細すぎるウジのことを心配してくれているんだろう。いつだって食べ物だったり、暮らしに必要なものを、あれこれ置いてってくれるミンギュだったから。

子供たちはホシのことを「ヒョン」と呼ぶのに、何故かウジのことは「先生」と呼んでいた。
あのままだったらきっとウジは今頃、「大先生」と呼ばれるぐらいの地位にいただろう。二人で眠る時にそう言えば、「かもな」とあっさり答えるだけ。

ウジは泣きもしない。でも時々笑ってはくれる。ウジの指は動かない。でもいつか、いつか、いつか。その指が動いた時には............。
「なぁ」
「んぁ?」
「もしもまた何か曲を作るなら、俺が踊れる間にしてくれな」
「.........寝ろよ」
もしも二度と踊らなくても、二度と歌わなくても、二度とステージに立てなくても。ウジがいればそれだけでもいいんだけれど。
それでもまた、軽やかにウジの指が音を奏でる姿が見たいとも、思ってしまう。
明日か明後日か、一週間後か一か月後か、一年後か二年後か。いつか、いつか、いつか...............。

 

The END

 

No War! S.coups & Jeonghan 's Story

スングァンが、探しても探しても探しても、見つからなかった。
それに一番打ちのめされたのは、バーノンかもしれない。
日に日に、身体よりも心が壊れていってるのが、見ていて判ったから。

「ボノナ。お前、シュアのとこに行け」

そう言い出したのはジョンハンだった。
妹が助かったことが幸いだった。その存在だけが、バーノンをこの世に繋ぎとめているだけに見えたから。
説得はそれほど必要なかっただろう。妹のために生きなければならないけれど、スングァンがいないこの国にいるのは辛すぎる。でも涙を流して毎日を暮らす訳にはいかない。だって誰もが家族を失っているっていうのに。

ジョンハンは家族を失った。それでも「俺はちゃんと、みんな天国にいるって判ってるだけマシだ」と言う。

ホシとウジは、家族の消息が判らないまま。ウォヌは相変わらず会社の跡地に居続けている。多分いつか、誰かが訪ねてきてくれると信じているんだろう。ミンギュは旅しながら、スングァンを探し続けてる。でも多分、自分の家族も諦めきれないんだろう。ドギョムとディノは、家族全員が無事だった。もしもディノが一人になってしまっていたら、エスクプスとジョンハンは二人一緒に徴兵されたりはしなかっただろう。

ジュンとディエイトのことは判らない。家族が無事かどころか、二人が今どうしているか、生きていてくれるのかすら判らないのに。

エスクプスとジョンハンは、瓦礫を片付けながら、生きている人の情報を精査しながら、あちこちの街を渡り歩いてる。真っ白だった肌がしっかりと焼けたエスクプスと違って、ジョンハンは今も真っ白のまま。誰にもその肌を見せたりしないからだろう。髪は昔のように長くなっていたけれど、その姿だってエスクプスにしか見せないから、今のジョンハンを知る人間はほとんどいない。

いつだってカッチリと着こまれた軍服に、埃避けのためのマスクに、帽子に、あらゆるものにジョンハンは自分をしまい込んでしまったから。
ただ無表情な目だけが印象的で、幽鬼のようだと怖がる仲間たちは多かった。

誰よりもキレイに笑うジョンハンだったのに、いやきっと今だって笑えば、誰よりもキレイなはずのジョンハンなのに............。

守ってるようでいて、きっと守らていたんだと、気づいたのはいつだったか。
笑わなくなったジョンハンの横にいながら、エスクプスはいつだって思っていた。

遠い遠い異国に暮らすジョシュアとバーノンが幸せでいますようにって。ジュンとディエイトが元気で、せめて今も二人が一緒にいますようにって。あっさりと旅立っていったホシとウジが今も地に足つけて生きてますようにって。会社の跡地から離れられないウォヌが、いつか旅立てますようにって。どんな時だって頼もしいミンギュが、どこにいても傷つきませんようにって。今も歌を歌っているというドギョムが、誰かの希望になりますようにって。徴兵されて北の地に行ってしまったディノが、どうかどうか、無事で戻ってきますようにって。そしてスングァンの心が、済州に戻って、安らかでありますようにって。

弟たちのことを、家族のことを、いつだって心配してる。いつだって思ってる。彼らのためになら、きっとなんだって差し出せる。
でもそう思い続けることで、自分が自分の心を守ってるってことに気づいたから。

だってジョンハンもそうだから。誰もが力尽きて瓦礫の撤去が進まなかった時も、ジョンハンだけは動き続ける。その目は何も写してないように見えて、弟たちを思ってる。

「ディノの未来だ。これは、ディノの未来」

いつだって苦しい時にジョンハンが呟く言葉がそれだったから。いつかディノの暮らす未来に繋がるはずだから。ただその気持ちだけがジョンハンを動かしているんだろう。

いつか、弟たちを抱きしめられた時に、「いつもいつも、俺を、俺たちを助けてくれてありがとう」って言いたい。

いつか、いつか、いつか............。

 

The END 

 

No War! Jun & THE8 's Story

ジュンとディエイトは、軍で働いていた。
戦争が起こった後、世界中の全国民に帰還命令が出た。
帰らないっていう選択肢はなかった。「行くのか?」と聞いてきたエスクプスに、当然のように頷いた。

「家族がいるから。どんな状態だったとしても、俺たちの国だから」

アメリカに残るジョシュアとも、その場が最後だった。
ジョシュアが別れの言葉を口にしなかったから、当然のようにジュンとディエイトも別れの言葉なんて口にしなかった。

久しぶりに踏んだ自国は、変わり果てていた。
家族はどこにもいなかった。二人とも。一緒に居続けることを選ぶなら、志願するのが一番だった。その中でも誰も志願したがらない場所を選べば、確実にジュンとディエイトは一緒にいられた。

悪目立ちはしないでおこうと二人で誓いあいはしたけれど、何でも器用にこなすジュンがその見た目とあいまって、目立たないはずがない。ディエイトはいつだって溜息をついて呆れて見せたけれど、ジュンにしてみれば、ディエイトだって一緒だろう。

見た目の繊細さとはうらはらに、ディエイトのその豪胆な性格は最終的には一人勝ちする。だから目立たないはずがない。

医者もいないような戦場で、いつだって最終的に負傷兵を励まして怒鳴りちらして治療して、どんな場所からも仲間たちを連れかえってくるその姿は誰にとっても救いの存在だったし、どんな戦場だってその整った顔そのままに、平気な顔で駆けていくジュンの姿は誰にとっても畏怖する存在だった。

そんなジュンの横には常にディエイトがいて、ディエイトの横にはジュンがいるんだから、目立たないはずがない。

国土の広い自国の、数ある隣国との境に、二人は何度行っただろう。
最終的には北の国の地が、二人の最後の場所だった。
今更、国を広げてどうするのか。そんな疑問を誰もが持っていたけれど、それでも命令には背けない。

漆黒の闇の中、斥候として動いている人間がいるとジュンのところに報告があがってきたのはたまたまなら、一人で確認に出たのもたまたまで。
運命って言葉も、奇跡って言葉もキライだ。そんなものに、自分たちの未来を預けたくはないから。
でもはじめて、運命を、奇跡を信じたかもしれない夜だった。

漆黒の闇の中、一瞬の月明かりに懐かしい影を見たから。数秒もなかったのに、そこで踊る姿がディノだと一瞬で判ったから。
自国を守るために働いてはいるけれど、守るべきは家族で。ジュンにとってはディノは今も当然のように家族で、弟で。

皆がよく「ウリマンネ」と言って喜んでいた気持ちが、当時だって判ってたつもりだったけど、今こそその気持ちを実感したことはなかったかもしれない。
自慢のマンネだった。優しい、頑張り屋のマンネだった。はじめて会った時、ホシの後ろに隠れながら「ヒョン、俺、中国語って全然話せないけど、どうしたらいいの?」って言ってたのを覚えてる。それなのにすぐに中国語の挨拶を覚えてくれた。

斥候がいるのなら、数キロ以内には部隊がいるだろう。数十キロ以内にはきっと防衛線がある。
ジュンが戻ってしたことは、ディノが戻るべき防衛線の正しい場所の確認と、ディエイトを見つけることだった。

「エイサ」

小さく呟けば、ディエイトがいつも通りの態度を崩さずに、場所を移動した。今や誰も呼ばないその名を口にしたことで、何かがあるってことに気づいたからだろう。

「チャニがいた」

伝えたのは一言だけ。ディエイトは頷いて返しただけ。

世界が戦争で失ったものの大きさを知ったはずなのに、なんでまだ戦おうとしてるのか、意味が判らない。
敵としてそこにディノがいるのに、なんで人を殺すことのできる武器がこの手にあるのか、意味が判らない。
威嚇射撃で斥候を追い払うことは簡単だろう。だけどそれなら、まだディノはこの地に居続ける。戦いは終わらない。

「殲滅する」

ジュンが呟けば、ディエイトがちょっとだけ泣きそうな顔をしたけれど、それでも頷いた。

自国の仲間たちよりも、敵国の兵士たちよりも、ディノを取っただけ。守るべきは、弟だけだったから。ディノが逃げ戻っても、罰せられるようなことがないように。そして二度とこの地にディノが戻って来ることがないように。

「ごめん」
「一緒にいることを選んだのは俺だから」

ディエイトが長く話したのはそれが最後で、二人が一緒にいたのもそれが最後で。

その日。漆黒の闇の中、敵国の斥候が殺され、その後ろに待機していた部隊が殲滅された。戦闘は激しく、自軍にも死傷者が多数出て、北の地に消えたものは多かった。

バカみたいな領土争いで人が多く亡くなり過ぎたからか、北の国は不可侵と決まった戦いでもあって、その地への立ち入りは禁止された。

後に建てられた石碑には、殉死者として、文俊辉と徐明浩の名も刻まれた。

 

The END

 

No War! Wonwoo & Mingyu 's Story

 人生に良いことと悪いことは半分ずつあるという。
じゃあ今は、幸せすぎた報いなんだろうか……。

ウォヌは会社の跡地から離れない。

最初の半年は、ただただ座り込んでいた。
その後、手で動かせる瓦礫を少しずつ片付けていった。でも瓦礫をどこにやったらいいかなんて判らないから、結局は同じ敷地内で移動してるだけ。そしてその後は諦めた。

いつだって何でもできるミンギュが、気づけばウォヌのためにテントを張ってくれた。一年も経つ頃には小屋まで建ててくれた。

「ボノニが、ジスヒョンのところに行くよ」

ミンギュが確かそう教えてくれたはずなのに、バーノンの不在をちゃんと認識できたのも、一年ぐらい経ってからだった。

ゲームの世界の中では、どんなことだってありえたのに、夢幻の世界では、颯爽と駆けていたのに。
ウォヌは自分でもおかしくて笑いそうになるぐらい、そこから動けなかった。
でもそんなウォヌに、ミンギュはどこまでも優しかった。

「ヒョンがここにいてくれるから、誰かとすれ違う怖さを考えなくてすむもん。俺があちこち行けるのも、ヒョンがここにいてくれるからだよ」

そうミンギュが言ってくれるから……。

 

 

訪ねてくる人たちは、何年経ってもいた。
誰かを探してる人。懐かしさに訪れる人。なかにはミンギュが旅の途中で親切にした人たちもやって来た。お礼の言葉を届けにだったり、時には借りを返しにだったり。

明かりの無くなった世界だったから、火の番がウォヌの唯一の仕事だった。

もう、誰を待ってここにいるのか、それすらも判らなくなっていた。
時にはこの場所を寄こせと言ってくる輩もいた。でも結局は、ウォヌはここに居続けている。

「一人なら、好きなだけここにいなよ。どこかに待ってる人がいるなら、ここで休んでいきなよ」

どんな相手にも、ミンギュがそう言って火のそばをすすめてしまうから。
気づけば見知らぬ人がウォヌに伝言を残して行くようになった。

懐かしい顔も訪ねてくる。
ウジと一緒に釜山に行ってしまったホシは、ウォヌの様子を見るためだけに、来てくれた。

「生きてるか〜〜」

そう言って現れた一度目の時は、ウォヌの隣りに座り込んで、長かった二人の釜山までの話をしてくれた。
ホシも、ウジも、家があった場所には何もなかった話を。
しばらくホシはウォヌの隣りで泣いてたけれど、帰る頃には笑ってた。 

「生きてるな〜〜」

そう言って現れたのが二度目。
その時もホシはウォヌの隣りに座り込んで、痩せてしまって一層小柄になってしまったけれど、小さい子ども相手にも決して甘くないウジの日常を話してくれた。
確かあれは、ディノが徴兵されてった後のこと。
すぐ横にいたホシに手を差し出せば、しっかり握り返してくれた。
もう何年も経ったはずなのに、もうさすがに前を向いてここからも歩き出さなきゃ行けないはずなのに……。

「なんで俺ら、こんなバラバラなの?」

口からこぼれ出たのは、今さらな言葉。でもウォヌの中でいつまでも凝り固まっていた言葉。

95ラインの三人は、いつだって優しかった。三人で楽しそうだった。誰かが何かをやりたいと言えば、いつだって反対なんてしないで、お前たちがやりたいことをやればいいんだよと、背中を押してくれる兄たちだった。

96ラインの四人は、てんでバラバラに見えて、驚くほどに団結力があった。いつだって熱いホシがいて、テンション高いジュンがいて、バカみたいに才能の塊なウジがいて、いつだって四人で笑ってた。

97ラインの三人は、いつだって絡みあってもみくちゃになりながら笑ってる感じの三人で、じゃれあいながらケンカしながら、仲直りしながら、励ましあいながら。一番子どもな三人だった。

98ラインの二人は、二人でいることが自然だった二人。ちょっとのんびりさんなバーノンに、いつだって楽しそうなスングァンが、一緒になってよく笑ってた。

でも今はもう、どのラインもバラバラで……。
ディノまでいなくなってしまった。

「ヒョン、俺行くね。ちゃんと帰ってくるからね」

そう挨拶に来たのが最後で、ディノらしい笑顔だったことしか覚えてない。
兄弟で生き残った家には必ず徴兵の連絡が来るって噂があって、今度は北に送られるって話があって、そこではまだ戦いがあるかもしれないとも言われていたのに、弟も生き残ったディノは当然のように志願して、行ってしまった。

大切な大切な、ウリマンネなのに。ディノだけは絶対幸せでいなきゃいけない弟なのに。

そう言ってホシの前で泣けば、「俺たちを見て育ったんだから、ディノは大丈夫だろ。小狡いハニヒョンをマネて、ちゃんとやってるよ」と笑ってくれた。
でも、ユンジョンハンがなんだかんだと言いつつも、気づけば色んなことを譲ってくれてたのを知ってる。誰よりも、優しかったことも。そしてディノが誰に似たのか、優しく真面目に育ったことも知っているから……。

「ウジがさ。キュウリばっか育ててんの。嫌いな子どもたちも多いのに。いつかドギョムや、ディノや、スングァンに食べさせてやるって」

今度来るときは、ウォヌにもキュウリを持ってくると言ったホシは、あれからまだ来ない。

誰もウォヌに、もうそろそろいいだろなんて言わない。
時々ミンギュが旅に出て、土産話を持って帰ってきてはウォヌのそばにいながらも、相変わらず器用にあれこれしてる。
誰かが見つかったとか、まだ見つからないとか。そんな話題は一切出ない。
ただ一度だけミンギュが、「落ち着いたらさ、俺らもどっかで畑でも作って暮らそうか」って言ったことがあったけど、それがいつのことになるかは、ウォヌ自身も判らない。

そこから動けないのは、ウォヌの弱さだろう。
でもそこに居続けたのは、ウォヌの強さでもあるだろう。

 

 

その日は、陽炎が見えるんじゃないかってぐらい暑い日だった。
まっすぐ前を向いて座ってたはずなのに、声をかけられるまで、その存在に気づかなかった。そして声をかけられてはじめて、目の前に並んだ二人分の足が目に入った。

「よぉ、兄弟」

驚くほど整った顔はそのままに、苦労した月日の分だけ精悍さが増した男前なジュンが、よく見知った楽しそうな笑い方をしてそこにいた。見れば松葉杖代わりなのか、右脚を庇いながら、木の棒を支えに立っていた。

「アンニョン」

ジュンの横には当然のようにディエイトがいて、これまた記憶の中にある、ふわりとした笑い方をしたディエイトが手を振っていた。

待って、待って、待っていて。もう何を待ってるかも判らなくなるぐらい待ち続けて。
幻を見た。
もう一度、ひと目でいいから会いたいと願い続けていたから、とうとう幻を見た。

「え? まさかのふる無視?」

目の前でジュンが勝手に喋ってるけど、騙されちゃいけない。きっと待ちすぎておかしくなってしまったんだ。

「ウォヌヒョン、ただいま」

でもディエイトがそう言って、ウォヌを抱きしめてくれたから。
幻が、抱きしめてまでくれるとは思えなかった。
「おかえり」と、ちゃんと言えたかは判らない。涙も鼻水も、止まらなくなったから。

「ブサイクすぎ」

そう言ってジュンが笑っていたけれど、涙は止まりそうもない。
ミンギュもやって来て、驚きと喜びと、泣き笑いの繰り返し。
でもスングァンが見つからなかったことと、バーノンがアメリカに渡って行ったことは、ウォヌの口からは言えなかった。
哀しい涙じゃないはずなのに、嬉しくて泣いてるはずなのに。それでも涙は止められなくて、「ヒョン、目玉がトロけちゃうよ」っていうディエイトの変な言い方にもまた泣いて。
結局、ミンギュが語るこれまでの話を、ただただ泣きながら聞いてるだけのウォヌだった。

「大丈夫! きっとスングァニもどこかで生きてるよ。俺たちだってこうして今ここにいるんだから」

いつだって前向きな発言をしてくれてたジュンが当時のまま、そこにいた。
やっぱりウォヌは涙が止まらなくて、寝てしまえば二人が消えてしまいそうで、「ジュナ」と何度も呼びかけた。
そのたびにジュンが「ただいま」って言ってくれるから、ウォヌの涙はやっぱり止まりそうにない。

会えてはじめて、ほんとに会いたかったんだと、切望してたんだと気づいたかもしれない。必要なんだと、いないと困るんだと。
失ってしまった家族と、取り戻せる家族と。

「今度ホシが来たらさ、帰って来てって、言おうかな」

泣きながら言えば、「待ってる必要なんてないよ」とジュンが言う。
あぁそうだ。待つ必要なんてない。会いたい人には会いに行けばいい。一緒にいられれば、場所なんてどこでもいい。二度と会えないと勝手に思ってるジョシュアやバーノンにだって、会いに行けばいい。

抱きしめて欲しければ、エスクプスやジョンハンを訪ねればいい。

いつだって、いつまでだって、彼らは兄で弟で、家族なんだから……。

 

The END

 

No War! Seungwan & Vernon 's Story

 ニューヨークに行くための準備をしてる時、「手伝ってあげる」とスングァンが部屋に入ってきたのを、「必要ないよ」と素っ気なく断った。だってほぼほぼ準備はできていたから。

出かける日、見送るというスングァンに「まだ寝とけって」と言ったのはホシで、それでも玄関までついてきたスングァンに軽く「行ってくる」と言ったのが、直接言葉を交わした最後だった。
後悔は後からするから後悔なんだろうけど、それにしたって......。それにしたって......。ニューヨークで二度、スングァンと電話した。一度は声だけ。二度目は顔を見ながら。

「やっぱり俺も行けば良かった」

悔しそうだった。寂しそうだった。普段十三人もいたら、一人は寂しいだろう。

「お土産買って帰るよ」

そう言ったら、嬉しそうに笑ってた。
それがスングァンの最後に見た笑顔だった。
でもそんなことって......。そんなことって......。

 

 

事務所があった場所は瓦礫の山だった。宿舎のマンションは辛うじて無事だった。でもどちらにもスングァンはいなかった。ウォヌは事務所があった場所から動かなかった。

「どこかにいるなら、絶対にここで会えるから」

そう言って、ただひたすら待つ体制。
72時間の壁って言葉は知っていたけれど、その頃バーノンはまだアメリカにいて。
ただ祈ってた。教会にちゃんと通ってた訳でもないのに、ただただ「神様」って祈ってた。そうすれば自分の知り合いは家族も含めて全員無事なはずって信じられたから。

「ボノナ。お前、シュアのとこに行け」

でも気づけば、帰ってきてから半年が経とうとしていた時、ジョンハンに言われた言葉。妹だけが助かって、それはとっても嬉しかったし神様に感謝もしたけれど、スングァンは見つからなかった。

病院にいた副社長が見つかってはじめて、その時、スングァンが副社長と一緒に車の中にいたと判った。気づけば車ごと吹っ飛ばされて……と、話すのも辛そうだったのに、語ってくれた。

事故だと最初は思ったけど、閉じ込められた車の中、少ししかない視界の中でも次々と周りの建物が崩れていくのが判って、テロだと思ったと言う。

車から放り出されたのか、それとも抜け出せたのか判らないけれど、車の外にスングァンはいた。副社長からは足首しか見えなかったけど、スングァンの「ムォヤ? ムォヤ?」って声は聞いたと言う。

「スングァナッ!逃げろッ!」

「オットケ……。車のドアが、開かないよ……」

あちこちから、あらゆるものが壊れていく音や悲鳴が鳴り響いていたのに、スングァンの途方に暮れたような呟きが、何故か聞こえたと言う。

「走れ! 行け! スングァナッ! スングァナッ!」

スングァンが逃げてった記憶はないという。そこで、意識を失ったから。
逃げろと言ったことを後悔してると、副社長が謝ってくれた。
逃げる場所などどこにもなかったのに、一人であてもなく逃げ惑うのは怖かっただろうに。それならせめて一緒にいてやれば良かったのに。一緒に、逝ってやれば良かったのに。

誰のせいでもない。それはほんとに誰のせいでもない。判ってるのに、判ってるのに……。
もしも責めるべき相手がいるのなら、それはきっと、何もしてこなかった自分だ。幸せな日常が、何もしなくても、いつまでもこのまま続いていくんだと勝手に思い込んでいて、平和な世界を維持する努力なんてしたこともなかった自分だ。争いごとは嫌いだと、いつだって思ってた。でも何かしたのかと言われたら、何もしてこなかった、何も言えない自分が残るだけ。

スングァンが最後にいた場所の周りは瓦礫ばかりで、ただただ、立ち尽くしてただけ。
逃げる場所なんて、見当たらなかった。どうしていいかも判らなくて、バーノンはその場で立ち尽くしては絶望して、誰かが迎えに来てくれれば帰って、次の日また同じ場所で立ち尽くして。
この場所のどこに、スングァンがいた証を探せばいいのかも判らなかった。
毎日立ち尽くすだけのバーノンに、ジョンハンが見兼ねて言ったのが、「ボノナ。お前、シュアのとこに行け」だった。

なんであの時、スングァンのことを諦めたのかは判らない。

アメリカに渡る船の上で、二度と神様なんて信じないと思ったのは覚えてる。それ以来、祈ったことも願ったことも、感謝すらしてこなかった。
アメリカには従兄弟がいたから、最初に身を寄せたのはそこだった。でも上手くいかなくて、結局、ジョシュアのもとに行ったのは別れた日から一年後のことだった。

驚いた顔をしてた。でもそれよりも喜んでくれた。抱きしめてくれた。でも言えたのは「スングァンを見つけられなかった」だけ。
やっぱり驚いた顔をして、それから黙ってもっともっと強く、抱きしめてくれた。

それからはただ、生きていた。

ジョシュアと話す時も妹と話す時も英語で、広い空の下で疲れるまで働いて、夜は夢も見ずに眠って、まるでキラキラしてた昔が、全部全部夢だったような気持ちで。
でも、時折「ハンソラッ」って呼ぶ声が聞こえる気がして、何度振り向いただろう。「もうちょっと俺のこと、探せよなッ」って、いつかスングァンが来てくれるんじゃないかって思い続けた数年だったかもしれない。

ジョシュアの母親が亡くなってしばらくして、妹が嫁いで行った。

「もう好きにしていいからね。やりたいことを、したいことをしてね」

妹がくれた言葉に、したいことを考えた。
考えて、考えて、考えて。ジョシュアに打ち明けたのは数日経ってからだった。

「ヒョン、俺、スングァニに会いたい。どうしても会いたい。だからもう一度、探してみる。済州にも行ってみる。それでも、それでもやっぱり見つからなかったら、俺があいつのところに行くよ。だって一人は寂しすぎるから」

ジョシュアはバカなことを言い出したバーノンのことを叱ったりしなかった。否定もしなかった。ただ泣いてくれて、抱きしめてくれて、「一緒に帰ろう。俺たちの家族のもとに、帰ろう」と言ってくれただけ。

準備に半月はかかったかもしれない。もう戻ってくるつもりもなかったから。
ジョシュアは色んなものをバーノンの妹に残してくれた。

それから旅をした。船に乗った。神様にはやっぱり何も願わなかった。

 

The END

 

No War! DK's Story

 

 かきかけ~~~

すみません <(_ _)>

 

No War! Seventeen's Story

 

 かきかけ~~~

すみません <(_ _)>