注意......
続きものだけど、別に前を読まなくても読めるかも。
そしてはじめに諸々書くのが面倒になってきたので、contentsを作った。
社内恋愛がはじまる世界線11 チャイナ世界を制す編
「目立ってたんだって?」
ディエイトがそう言えば、ジュンは物凄く嫌な顔をした。
「なに? 今さらでしょ?」
長く付き合っている同僚は、大抵はじめて仕事をした相手に驚かれるほどに顔面が整っている。でも整ってるのは顔だけじゃなくて、背も高いし、足も長いし、手もすらりとしてるし。その顔面の整いすぎるのに負けてないぐらいに、全体も整っている。
一緒に働いてる会社の同僚たちだって、気軽に肩を叩ける人間はごく僅かな状態だった。本人は気取ってたり、強気だったり、傍若無人だったりもしないっていうのに。
ただ常軌を逸した整い具合なだけだ。
「物凄い状況だったって聞いたけど?」
「別に。いつも通りだけど」
会社が開催したパーティは、多くの人間を呼ぶ。取引先や知り合いや、まだ一緒に仕事をしてない会社の人だって来るけれど、大抵ジュンは壁の花として立ってるだけだった。
人寄せパンダとしてはそれだけでも十分だったけど、その整った目で見つめられると相手の方が困ってしまって仕事にならないからだとか。
華やかな花々だって飾ってあるのに、ジュンがいれば霞む。過去にはテレビで活躍するアナウンサーが司会にとやって来たことも会ったらしいが、次はなかったらしい。どんなに有名だろうと、ジュンの存在に圧倒されるからなのか。
「なんか、乱反射してたって聞いたけど。なにそれ」
知り合いからはカトクで美の暴力が過ぎるとか、眩しすぎて乱反射が凄かったとか、1人でも犯罪者一歩手前ぐらいの狂気があるのに......とか。意味不明なものが多かったけど、それだけ皆、テンパっていたのかもしれない。
「別に」
2人きりだとよく喋るのに、周りに人の目があると途端に言葉少なになる。
普段何はなしてるんですか?とはよく聞かれるけれど、大抵は美味い店のはなしとか、お互いの家族のはなしとか、日々のうっかり話とか。いたって普通なことばかりだった。
「美のテロリスト集団だってのもあったけど」
「集団って、2人だけだよ」
「ってことは、ジュニの他にもう1人いたんだ。まぁだからこその乱反射か」
パーティが終わった後からというよりも、その最中から仕事を放りだして全員大騒ぎだった。
大陸の奇跡とまで呼ばれるムンジュニ級がいるって。しかも揃ってるって。
ただただ強いジュンと違って、突然現れたその人は、柔らかくしなやかに見えて全然負けてない強いと、笑顔で客前で挨拶しながらもカトクが飛び交ったほどだった。
へぇ......って思いながらも仕事の都合で参加が遅れてたディエイトは、それほどなら見るのが楽しみだとか思っていたのに、行ってみればいなかった。しかもなんでか、ジュンと一緒に消えたらしい。
恐ろしいまでに美が強い2人は何故か意気投合し、途中で出て行ってしまったんだとか。
「でも珍しいね。はじめての人と意気投合したんだ」
そう言えば、「ほら、俺らが前に行った、絶品だった店覚えてるか?」と言われた。
物凄い話を変えてきたから話題を反らしたいのかと思えば、ジュンが「店がなくなってて俺ら凄いショックを受けた店」と続けたから、本当に絶品だった店の味を思い出してしまった。
仕事が疲れた時にはどうしても自国の料理が食べたくて、色々食べたけどその店が1番だった。でも久しぶりに行ってみれば、ファンシーなお土産屋さんみたいなものに変わってて、2人して呆然としたのを覚えてる。
「うん。空芯菜の味だけでも3種類から選べるって、絶妙なところ」
そう言っただけでも口の中にそれを入れた時のことを思い出す。
自国は広いから、生まれた場所や育った場所が違うだけで料理の味付けが少しずつ違って、自国でも珍しいのに、異国の地で、ディエイトは母親が作ったような料理を口にできることに感動したのを覚えてる。
「移転先が判った」
久しぶりに行ったら店がなくて2人で呆然としたけれど、簡単には諦められなかったほど。移転したのか閉店したのかも判らなくて、周りの店の人にも聞いたし、ネットでも調べたし、こっちで暮らす人たちのコミュニティにだって問い合わせたほどだったのに。
「いや、一旦店は辞めるつもりで閉じてたから、何も情報がなかったらしい。ご主人が病気だったとかで」
けれど病は癒えて、時が過ぎれば少しずつやる気が戻ってきて、やっぱり小さい小ぢんまりとした店を構えたらしい。
「パーティ会場でお互い何も飲まず食わずだったけど、見た目だけの料理に興味はないって言い出して」
ほとんど素材だけなのに、驚くほどに美味い店があるって話になった時、ジュンが思い出したのはその店だった。だから今はもうないその店の話をしたら、「たぶん、同じ店だと思うけど」と言われたんだとか。
「あんまりにも美味いから、今までどこの有名料理屋の厨房にいたんだって聞いたら、小さい店を営んでたけどって店のオモニが教えてくれたから」と言って説明を聞けば聞くほど覚えてる印象とそのままで。
食べなおそう飲みなおそうと意気投合して抜け出してみたら、本当に店はあの店だった。
ジュンからしても相手は驚くほどに整った美人だったらしいが、ウケケケケって妖怪みたいに笑ってたって、ジュンも珍しく笑った。
美人なのに妖怪みたい。
ディエイトは想像しにくいその印象をひとまず忘れずにいようと思ったのは、食べたい店にまた行けることになったから。
「今夜行くだろ?」
当然のようにジュンが言う。
それに当たり前のように頷いて、「仕事は終わらなくても終わらせる」と言えば、やっぱりジュンは笑った。
「その妖怪みたいな美人さんに、ちゃんとお礼した?」
懐かしい空芯菜を前に、ディエイトは言った。
「もちろんお礼は口にしたけど、それじゃぁ足りないかも。だってここも全部奢ってくれたし、帰りはタクシーで奢ってくれたし」
ディエイトはジュンの言葉にちょっとだけ目を見張る。
普段は絶対そこまで踏み込ませるようなジュンじゃないのに......ってところに驚いたから。
「変な縁ができるから、奢られるの苦手とか言ってたのに」
そう言えば、「俺のがヒョンじゃん」で押し切られたと笑ってた。「それにただただ楽しかったんだよ」とも。
誰よりも強過ぎるその見た目に臆して近づかない人も多いけれど、その見た目のために近づいてくる輩も多い。どちらも一定の距離を取られ、そして一定の距離以上に詰められることになって鬱陶しい。だから大抵、日頃一緒に過ごすことのない相手と親しくなる機会もなく、ジュンの側にいるのはディエイトだけだったのに......。
「食べ物の恨みは怖いっていうけど......」
この恩は絶対に返さねばなるまい......。そんな気にさせられるほど、異国の地でこれが食べられることへの有難さ。
ディエイトなんてジュンのように直接紹介された訳でもないのに、どこにいるかも知らないけれど、美人な妖怪に深く頭だって下げそうになった。
見た目で判断されることが多いジュンにとっては、その思いはもっと強かったかもしれない。
中国人だと、勝手に判断されることも多い。
顔しか見ていなかったくせに、顔だけじゃないんだと言われることもあれば、やっぱり顔だけなんだと言われることもある。どれも実力を見てからの言葉ならまだしも、何もしてないうちから決めつけられるのは、できるだけに歯がゆかった。
この見た目がハンデなのか、それとも神様からのプレゼント的な何かなのかは判らない。でもそれなりにその見た目で長く生きてきたから、今更嘆いたりはしない。
「いやなんか、その、すっごい自由だった」
思い出したようにジュンが笑う。
今は2人しかいないから、ジュンはよく話す。
「変わった店とか、まだまだあるから今度一緒に行こうって。あと、なんでかホテルのクーポンくれた」
ほらと見せられる。
どこぞのホテルのレストランとかのクーポンかと思ったら、普通に泊まるタイプのホテルのクーポンだった。しかもランクはそこそこの。
「なんか、高いとこも安いとこも色々試したけど、ここはいいって自慢された。騙されたと思って、一回誰かと行ってみろって」
ホテルなんて、旅行中に泊まる以外は、一時流行ったホカンスで行くぐらいかもしれない。
キレイな景色を見たり、レトロな町並みを見たり。休みの日にはそんなことはするけれど、わざわざ近場のホテルに泊まりに行ったりはしない。
そんなことを思いながらも「誰かと?」って言えば、ジュンが当然のように「ホテルなんだし、誘える相手なんてお前だけじゃん」と笑う。
2人きりだとバカみたいなことばかり言ってるくせに、時々さらりと甘いことを言う。その見た目で。
「え、そのホテルってまさか、フロントで人にあわないタイプのそっち系のホテルってこと?」
でも今更ジュンの見た目に動揺したりしない。ディエイトが驚いたのは、さすがにそっち系のホテルなんて行ったことはないし、行きたいとも思ったことはなかったから。
「違うって。ちゃんとしたホテルだって。レストランもついてるし。各部屋最新式で全部対応はAIで......みたいな、姑息な感じじゃないって言ってた」
なんで最新式でAIだと姑息なのかが理解できなかったけど、ひとまず普通のホテルではあったようだった。
「行くだろ?」
覗き込まれて笑ってしまう。他の人なら美の圧が凄いと眩しさを感じるかもしれないほどの距離。
「まぁいいけど」
そう言えば、ジュンが嬉しそうに笑って「やった」と喜んでいた。
2人で色々な場所には行った。でもお互い1人でも行った。見せたい景色も美味い料理も、見つけるたびに嬉しくなるのは、それを伝える相手がいるからだろう。
「でもご飯は食べちゃったし」
ちゃんとしたホテルに行くっていうのに、料理が味わえない。少し残念な気持ちでそう言えば、「大丈夫。モーニングがまた絶品らしいから」とすかさず言われた。
そこもちゃんと推されたポイントらしい。
朝はしっかり起きて食べる派のディエイトにしてみたら、楽しみでしかない。
「俺も一緒に行くよ」とかジュンは行ってたけど、きっと無理だろう。大抵の場合起こしても、「嫌だ。俺はもっと寝てる」とか言うんだから。
はじめての場所でもジュンは堂々として見える。それはきっと背の高さや姿勢の良さや、やっぱりその見た目があるからかもしれない。
当たり前のように混んでたら並ぶし待つっていうのに、ジュンを待たすのは忍びない気持ちになるのか、いつもそんなに待たされることもない。
普通のホテルのフロントなのに、そして今日がはじめてなのに、いつも以上に丁寧にもてなされた気がする。
それがこのホテルの素晴らしさの一つなのか、ジュンの見た目のおかげなのかは判らない。
部屋のカードタイプのキーを渡されるだけ。そんな気でいたのに、部屋まで希望する場合は案内もしてくれるらしい。
でも男2人で部屋を取っても、当たり前だけど何も言わなかったし、顔色も変えなかった。
いやそれがホテルとしては普通なのかもしれないけれど......。
まぁでも雰囲気は良かった。廊下に敷かれた絨毯も、歩くのに丁度良かった。明るさ加減も、部屋の扉の重さも、窓からの景色も、薄いけど色々隠せてしまえるカーテンも、それから、ベットのスプリングも。
「さっさとやろう」
見た目に反して、ジュンは案外直接的なことを言う。
時には眉を顰めることもあるけれど、変に雰囲気を演出されるよりはよっぽどいい。
「脱ぐ? それとも脱がそうか?」
そうも聞いてくるけれど、脱いだ服がしわくちゃになった状態で部屋のあちこちに散らばってる図なんて、ディエイトは許せそうにない。だから「絶対自分で脱ぐ」と言えば、ジュンは何も気にした風でもなく、「じゃぁ俺も自分で脱ぐ」って言った。
いやいや、自分も脱がせてもらおうと思ってたのか......って考えて、思わず笑ってしまった。
自由というか、何かの枠外というか。
見た目に反して豪快なのか、見た目通りの豪快なのかも微妙だけれど、いろんなものを一辺に脱いで、しかもそれをソファの上に放り投げたりするもんだから、靴はもう一つが見当たらない。
でもまぁ、この部屋の外には出てないだろう。
ジュンとの付き合いも長いから、こんなことにも慣れた。
その見た目にも慣れたように。
確かにホテルは素晴らしかった。絶妙に上になっても下になっても、身体に負担のかからないベットは、どこ製のマットレスを使ってるのかって、思わず服を着ながら確かめたほどだから。
「なんか、いつもより気持ち良かったけど、俺らそんなにご無沙汰だった?」
ジュンはディエイトには何も隠さない。
それを喜んでいいのか悪いのか、時々悩む時もある。
「先週しただろ。時間ないって言ってるのに」
「あぁ、だからだ。ハオが足りなすぎて、満足できてなかったんだ。きっと」
そう言いながらも、着替えてる最中だというのにジュンが抱きしめてくる。
「まだ時間あるけど?」
なんでかこのホテル、一泊だけなのに、部屋を開けなきゃいけないのは次の日の昼までらしい。
モーニングは絶品らしい。だから行きたいと言えば、「一緒に食べよう」と薄暗い照明の下でも輝いてるジュンが笑ってた。
「本当にモーニングが絶品だったら、もう一泊してもいいけど」
うっかりそんなことを言ったら、なんでかジュンがガッツポーズなんてとっていたけど。
果たして、モーニングは絶品だった。
お水ひとつ、お茶ひとつ、器ひとつ、そのどれもが素晴らしくて、見た目も味も当然よくて、朝でこれだけ力を入れてるなら、昼と夜はどうなってしまうんだろう......ってぐらいだった。
「昼と夜も食べて帰ろう。当然もう一泊して」
しれっとジュンが言う。
「明日の朝を食べてから帰ろう」
ジュンがもう一押しとばかりに押してくる。
「仕事は?」
一応抗ってはみるけれど、「有給が溜まってるだろ。それにプロジェクト終わったばっかだし」と当然のように言う。
「お金は?」
問題ないのはわかってても、それも一応口にする。
「俺持ちに決まってるじゃん。それに使う時間がないほど、働いたんだから。俺、頑張っただろ?」
でっかい男が可愛く言ったって可愛くないのに、ジュンは甘えたような声だってだす。
ふざけてる時もあれば、本気の時だって。
そのどれもが、ディエイトにしか見せない顔だった。
「ハオ、愛してる」
もう一押しだとでも思ったのか、そんなことまで言う。
整いすぎた、その顔で。
「愛してるなんかで、流される人なんているかね」
そう言ってやっても、「でも愛してるもん」って言いながら抱きついてくる。でっかいのに。
自分が、いや自分たちが、こんなにホカンスを楽しむだなんて予想外だったと言いつつも、2日も楽しんだ。
ジュンはディエイトとの時間に大満足してたし、夜に出てきたワインにはディエイトだって満足だった。
書きかけ~ <(_ _)>