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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

君と歩いたこの世界のはじまり MYMY 2

注意......

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君と歩いたこの世界のはじまり MYMY 2

空から船が舞い降りてくるのを、はじめて見た子どもたちは浮かれてた。
その船は町中を避けて高台に舞い降りてきて、降り立った船員たちは今思えば普通のおじさんたちだったけど、子どもたちにしてみればヒーローそのものだった。

一番年上のエスクプスだって、当時はまだ少年から青年になったばかりの頃だった。
だから一番に船の場所まで駆けていったのを覚えてる。
船の中も見せて欲しいと言えば、もったいぶることもなく見せてくれた。
小さいように見えて案外中が広くて、やっぱり全体的にカッコよくて。空を飛ぶはずなのに、海の上をいく船のようで。
でもしっかりと閉まる扉が、空を駆ける船っぽくて。
いつだって一緒にいるホシとウジが、船の一番上の部分にあげてもらって喜んでいた。

その頃町には、色んな街を巡っていた異国の旅芸人の一団もいて、普段は滅多と外に出歩かないというのに、空から舞い降りてきた船が珍しかったのか、ジュンとディエイトまでもがそこにはいて、なんてことはない操縦桿を前に楽しそうにしてたのも覚えてる。

普段からのんびりしてて、祭りにだって遅れてやってくるようなジョシュアとバーノンもそこにはいて、案外船の中が広いと驚いていた。
いつもは家の手伝いで忙しいはずのディノもそこにいた。
ミンギュとスングァンは一番最後にやって来たかもしれない。

「待ってよヒョン」
「トロトロしてんなって」
「こっちの方が近道だって変な道を選んだのは誰だよ」
「悪かったって」

そんな言い合いをしながら物凄い中途半端な場所から出てきて、静かに船を見上げてるだけのウォヌを驚かせていた。

もともと船にいた人たちは、確か5人ぐらいだったはず、町に買い物行くと3人ぐらいはさっさといなくなったはず。
船に乗ってもいいと言ってくれたおじさんが船長だったのか、船の説明を子どもたちにしてくれた。

風を見るんだ......。そんな話を真剣に聞いていたウジがいて。
確かもう一人いたおじさんが、船の操縦桿の扱い方を、その場にいたジュンに教えていたはずで、エンジンの調整の仕方が書いたノートがあるんだと、そんなものまで見せてくれた。

不思議な、思い出を詰めてるという瓶も見せてくれた。
色んな街の景色や音楽や思い出を、煮詰めて瓶に詰めて売って旅をするんだという話は、まるでおとぎ話のようだった。
でも目の前で一つその瓶を開けてくれた時、確かにそこからはじめて聞く言葉を聞いた。音楽と、匂いと、誰かの笑い声が。
ジャムが一番簡単なんだと、作り方も教えてくれた。

なんでそんなに親切なんだと、思いもしなかった。
船の中がカッコよくて面白くて、あちこち見るのに必死で、気づけば船の中には自分たちしかいなくなってるなんて、気づきもしなかった。
ヴァンッ............って音というか振動というかが起きた時に、一瞬足元が揺らいだ。当然誰もそれが、船が動きだした音だなんて気づいてもいなくて、「なんの音?」っていう誰かの声に、答える人間はもうそこにはいなくて。

「え、なんか、動いてない?」

一番最初にそう言ったのはドギョムだった。怖がりな分だけ、気づくのが早かったのかもしれない。
まだ船の上にのぼってたウジとホシが、「ぅあッ?」「浮いてるッ」って驚いてる声が聞こえてきた。

船員の人を探して、全員がそれぞれにキョロキョロとしたのに、視界に大人の姿なんてなくて、扉の近くにいたミンギュが何も考えずに外へと続く扉を開けた。
ちょっとだけ浮いた船が、扉を開けたことによって入って来た風によって横に滑っていく。そんな大した風でもなかったのに。

「バカッ。閉めろッ」

そう言ったのはたぶんジョンハンで、驚いて悲鳴のような声を出したのはディノで、高台にあった船が空に向かって飛びあがった次の瞬間には、流されつつも下降してる感覚に、誰もがぞわってなったはず。

咄嗟に一番近くにいたジュンが操縦桿を掴んだけれど、それをどうしたらどうなるかなんて、その時のジュンに判るはずもなく。
希望はもちろん、さっきまで自分たちがいた高台の上に戻ってこの船をおろすことだっただろう。

でもその後は、船を墜落させないことだけに必死で、まずは船のバランスを取ろうとして全員が全員、勝手にその場を動けないような状態だった。

もしかしたらその時その場で墜落しておけば、誰かはケガはしたかもしれないが、はなしはそれで全部終わっていたかもしれない。
でも下降してた船が不意に軽くなった。船が切り裂いていたはずの空気の層の上に、それはふわりと乗っかった瞬間だったんだろう。
追い風が吹いたりもしたのかもしれない。

ふわっと浮いて、ジュンが握ってた操縦桿の感覚も変わった。
誰かが動いても、それだけじゃ船のバランスが崩れることもなかった。
それはしっかりと上昇気流にでも乗ったからかもしれない。

「落ちてない。飛んでるッ」

船の上から、そんなホシの声も聞こえてきてようやく、外の二人を助けなきゃいけないことを思い出したエスクプスたちだった。

恐る恐る扉を開けて、風は感じるものの影響はないことを確認した。
横風か追い風か。はたまた向かい風か。何がどう影響するかもまったく判らなかったから、船が傾かないように操縦桿を握るジュン以外が真ん中に立って、誰か一人が扉を開けに動けば、誰かは反対側に動いて。

空の上での暮らしに慣れるまでは、どれだけビクビクと、全員で緊張しながら動いたことか。慣れてしまえばそれはただの笑い話でしかなかったけれど、探し出したロープを身体に巻いて、エスクプスがホシとウジを助けるために船の外に出た時、見下ろした場所にはもう自分たちの町どころか辛うじて陸地が見えてる感じだった。そしてその先にはどこまでも海が広がっていた。暮らしてた町から海がある町まで親父たちが移動するのに、三日はかかると聞いていたのに............。

ギャーギャー言いながら、ホシとウジを船内に引き込むまでにかかった時間は、きっとそれほどかかっていなかったはずなのに、何もできずにただ動かずに様子を見ていただけの者も含めて、全員が物凄く疲弊した。
何せ船のバランスを取るために、全員が物凄く慎重になりながら、船の中をソロソロと移動してたし、その間にもジュンは操縦桿を握りしめすぎて手汗がヤバくなっていたし、何度かはガクンと船が揺れて、それで全員が叫んでたし、もはや船内の床に座り込んでうまく動けなくなっていたディノやスングァンは、腰が抜けているんだろう......。

落ちないように飛び続ける方法と、元の場所に戻る方法と、船を無事に地面におろす方法と。とりあえずの課題をあげだしたのは冷静なウジで、でもそれよりも問題は......っていうから何かと思えば、「腹が減ったと思わない? ヒョン」と真剣な顔で言ってくるから、ちょっとだけ笑ってしまった。

「今は安定してるから、ちょっとぐらいは動いても問題ないと思う」

そう言ったのは操縦桿を握るジュンで、皆がかなり尊敬の眼差しを向けたというのに、照れながらも「いや、安定してるのはただの運で、俺が安定させた訳じゃないよ。安定してる理由も判らないから、いつまで安定してるかも判らないよ」と物凄い早口で言い切った。

一番最初に、「おしッ」と気合を入れて動き始めたのはホシだった。その次はディエイトで、いつだって自由なホシと、いつだって落ち着いてるディエイトが、ある意味みなの手本になったかもしれない。

ホシをお手本にした面子は自由気ままに動き出し、ディエイトを手本にした面子は落ち着いてそれぞれが船の中を観察しはじめたから。

キッチンには一通りモノが揃ってて、船の中だというのに流しもあればコンロもあって、普通に水も出て、流しの下には冷蔵庫と冷凍庫があって、その中には驚くほどに食材が入ってて。

「ところで、全員で何人いるの?」

食材を確認してたジョシュアがそんなことを言い出した。食料がどれぐらい持つのか考えた時に、ようやく自分たちのことに意識が向いたんだろう。
全員がやっぱり落ち着いているようで全然落ち着いてなかったっていうことかもしれない。

「全員集合」

そう言ったのはジョンハンで、そこではじめて、全員で自己紹介なんてものをした。
前から知ってる人間と、顔だけは見たことあるけど話したことはないって人間と、会うのもはじめの人間と。
年齢も確認したら、エスクプスが一番年上だった。
でもだからってこの船のことが判るはずもない。どうにかしてくれっていう視線を向けられたって、どうにかなるはずもなく......。

「早く帰らなくちゃ」

そう言ったのはディノで、家の手伝いをしなくちゃというディノの家は貧しいからか、まだ幼いディノだって働き手として数えられているんだろう。

「でももう、俺たちが暮らす町どころか、陸地すら見えない」

冷静だったのはウジで、その横ではホシが「でもさ、ここまであっという間なら、反転したら、またあっという間に戻れんじゃないの?」と適当ながらも皆の心に希望の火を灯す。

「そうだよ。反転、反転したらいいんだよ」

ドギョムが喜んでテンション高く言うけれど、操縦桿を握るジュンにしてみれば、「いや、でも反転って、どうやってするの? それに、反転がちゃんとできたかはどうやって判断するの? 俺ら、まっすぐ飛んできたの?」と不安は尽きない。

「エンジンを止めたら、とりあえずは飛ばなくなるんじゃないかな?」

そう言ったのはディエイトで、その手には、エンジンの調整の仕方が書いてあるノートを持っていた。
そこにはエンジンの動かし方や調整の仕方や止め方。燃料とするものと、その燃料によってどれぐらい飛べるか。それから停まってる時と飛んでる時のメンテナンス方法など、小さい文字で山ほど書いてあった。飛んでる時に燃料が切れてしまった時の対処方法とか、後からちゃんと読めば物凄く役立つノートだったけど、それはあくまでもエンジンだけの話で、操縦の仕方とか反転の仕方とか、元の場所への戻り方とかは書いていなかった。 

船の中で最初に食べたご飯は、今も忘れない。
それはただのパンで、焼いてもいなかったし、何もつけなかったし、断面はざりざりな感じ。でも異様に美味しかったのは、腹が空いてたからかもしれない。
白いパンなんて食べたことがないとビクつきながら食べてた奴もいたけれど、その美味しさにペロリと全部食べ切っていた。

ジョシュアがパンを食べながら「これ、ただのパンじゃないよね? なんか甘いから、ミルクか何か、混ざってる感じする」とか言い出して、食べ物を評するその姿が大人っぽく見えたのか、ジョシュアのことを尊敬の眼差しで見る奴もいて。

そんな中またウジが「ハミガキしたい」とか言い出した。
良くも悪くも、目の前にある自分のやりたいことに忠実なんだろう。
今はそんなことを気にしてる場合じゃないというのに、そう言われれば他のみんなも気になってくるから不思議で、やっぱりそれを探すことになる。結局使いさしのものしか見つからなくて、でも歯磨き粉は見つけて、指でハミガキして我慢した。

そうしたら今後はウジがまた「俺、トイレいきたい」とか言い出して......。
誰かがそう言い出したら、ほかの誰かだっていきたくなるってもんだろう。
全員でなんとなく決まづくなって、それからまた全員でトイレを探すことになって、でも見るからにトイレは見つからなくて、全員で焦るという......。

いやある意味、変に緊張せずに過ごすには、それはいいことだったのかもしれない。
とりあえずホシが「判った。外だ。外でしたらほら、全部飛んでくじゃん?」とか言い出して、「俺やってみる」とも言ったけど、「風向き間違えたら全部自分にかかるじゃん」っていうウジの冷静な言葉に試すことはなかった。

「とりあえず、最悪それでいこう」

そうジョンハンが言えば、ジョシュアが「絶対イヤ」って呟いてたけど。
忘れてた訳ではないけれど、その間もずっとジュンは操縦桿を握ってた。でもさすがに緊張が過ぎたのか「ヤバイ。俺、眠たい」って言い出して、次に操縦桿を握ったのはバーノンだった。

いや全員が嫌がって、「ここはほら、邪念がないやつがいいんだよ」とかジョンハンが言うもんだから、それならと何故か選ばれたのがバーノンで、本人も嫌がってはいたけれど、皆から背中を押されて操縦桿を握ったら、ものの見事に船はガタガタと音を立てて揺れ出した。
バーノンは操縦桿を、普通に握っただけなのに......。
なんでジュンが操縦桿を握ると安定するのかは判らない。

「顏がいいから?」

ジュンが結構真剣な顔してそんなことを言っていたけれど、全員から無視されていた。
とりあえずうつらうつらしていたけれど、それでもまだジュンが握ってた方がマシな状態だったから。

「あ、トイレって、外じゃない?」

不意にそう言ったのはウォヌで、それに対してホシが「ぇえい。それはさっき、全部自分にかかるからダメだって話になったじゃん」とか言っていたけれど、ウォヌの言いたいことはホシ以外は判ったんだろう。

探してもトイレが船内にないのだから、船外にあるのかもしれない......ってことらしい。
果たして船外にトイレはあるのか.........と、身体にロープを巻いて外に出たのはウジで、無事にトイレを見つけて用もすませて戻って来た。

しかしそうなってみると、全員がトイレに行きたくなって、順番に身体にロープを巻いて行くことにした。当然ながらジュンだって行きたいだろうが、今はまだ睡魔と戦うことに必死らしい。

そんなジュンを横目にホシが「あいつはバケツでいいんじゃね?」とか酷いことを言い出していた。

大分経って、船外のトイレだって誰もが問題なく行けるようになった頃にはただただ笑い話だったけど......。
あぁでもそれが、エスクプスたちが、空で生きることになったはじまりの日の話。
一日があれほど長い日はなかったと、のちに全員が同じことを言った日の話。


The END
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