妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

天使が空に HOSHI side story

注意......

多分。続きモノです。
はじめて「天使が空に」を読まれる方は、contentsよりお進みくださいませ~ 

sevmin.hateblo.jp

天使が空に HOSHI side story

ホシは、ドギョムの身体を抑えるのに必死だった。
でも視線は倒れてるウジばかりを見てた。
平和なはずの、それ以外はないはずの場所で、血を流して倒れてるジョンハンがいて、ミンギュのおかげで壁に衝突することはなかったものの、倒れこんで動きもしないウジがいて、ジュンとウォヌはまだ戦っている。
ドギョムを抑えてるホシの前では、誰かに力で何かをするなんてことはこれまで考えもしなかったはずのバーノンが、椅子を持ち上げていざとなったらそれで戦う準備をしてた。
ディエイトがディノを庇うようにして立っていたけれど、それはまだ続いてる戦いのすぐ近くで............。
ホシはパニックになりそうだった。
パフォチとボカチで別れることが確定して、それぞれリーダーとしてエスクプスを支えていこうと話し合った時、確かにあの時、いざとなってももうお互いの側にはいられない時だってあるかもしれないと言ったけど、まさかこんな出来事が起こるとは想定外過ぎたから。

 

 

自分だって戦える。それを思い出したのは、全部が終わった後だった。
ドギョムはケガをしちゃいけない。それを思い出したのだって、エスクプスがドギョムの名前を叫んだからで。
誰よりもカッコよく踊れたって、どんな曲だろうとカッコいい踊りを考えて見せると意気込んだって、いざって時に動けなきゃ意味がない。
興奮してるディノを呼んでドギョムと一緒に抱き込んだけれど、まだ不安は拭えなかった。本当ならその場にいる全員を集めて全員で抱き合って固まっていたかった。
一番内側にマンネラインを入れて、その次に97ラインを置いて、96と95で外側を囲ってしまいたかった。

救急車が来て、ジョンハンが運ばれていった。エスクプスとジョシュアが当然のようについて行った。見ればジョシュアの服はもう血だらけで、それだけでもゾッとしたのに、次に担架に乗せられたのはウジで、その時はもうウジはピクリとも動かなかった。
救急隊の人にミンギュが、どんな状態で倒れたかとか、自分の身体を入れたから壁には激突しなかったとか状況を説明してたけど、その間もウジはピクリともしなかった。

「どうしよう。ジフニが動かない。どうしよう......」

堪らなくて呟いた。でもドギョムを掴む腕は離せなかった。
95ラインのヒョンたちがいない今、しっかりしなきゃいけないのは96ラインの自分たちで、ウォヌもジュンも必死に戦って、その後もその場をしっかり見てくれていた。

踊りなら誰にも負けないし、頑張ることなら誰よりも先頭に立てるのに、他のことだとホシは案外、全体を理解することすら遅いのかもしれない。
大事な人間1人も守れないなんて。
凹んではいたけれど、それでもまだ身体から力が抜けなかったのは、どこが終わりか判らなかったから。
だってウォヌもジュンもまだ緊張してて、ディエイトは毛を逆立ててる猫のようで。抱きしめてるドギョムの鼓動は死ぬんじゃないかってぐらいに早くて。
興奮したように何かを話し続けてるディノはきっとまだ怖さを実感してないんだろう。
振り返ればスングァンの側にはジュンがいて、スングァンの手を握りしめてるバーノンがいた。

病院に向かうための車を出すという。
その車には、ホシとドギョムとディエイトとディノが乗った。
誰がそれを決めたのか、どうしてその面子だったのか。そんなこと、何も考えもしなかった。

病院の中に入っても、どこをどう歩いたのかも覚えてない。病院なんて真っ白なイメージでしかなかったのに、案外ブルーだとかピンクだとか、淡い色が使われていて、それはまるでセブチの色のようで、ドギョムのことは離さなかったけど、ホシの意識は散漫だった。
病室は4人部屋で、最初にそこに入ったのはホシとドギョムとディエイトとディノで、たった4人では広すぎた。案内してくれた人はいつの間にかいなかった。
ここで待ってろと言ったのか、誰か連れてくると言ったのか。
覚えてることなんて、確かに誰かに案内されてきたはずなのに、残されてみればそこには4人しかいなかったってことだけだった。

たった4人しかいなくて、その場では自分が一番ヒョンだったのに、ディノが血が出てると言うまで、ミョンホがケガしてるなんて気づきもしなかった。
部屋の真ん中で固まってたホシとドギョムとディノとは違って、ミョンホはなんでか病室の入り口の側に居続けていた。その理由も、ドアが外からノックされる瞬間まで、気づきもしなかった。

一瞬だった。
開こうとしたそのスライドドアを止めたのも、ディノを庇うよう動くのも、持ってたペットボトルを構えて戦う準備を整えたのも。全部が全部、一瞬だった。
でもその一瞬で、そこには物凄い緊張感というか、殺気のようなものまであったかもしれない。絶対に誰も、このドアは通さないっていう気迫のようなもの。
でも本当はそれは、自分がやらなきゃいけなかったはずのこと。

ホシは一瞬息をすることを忘れそうだった。
ひっついたままだったドギョムの身体が震えたのが判った。同じものを見たからだろう。きっとドギョムだって、驚いて、それからショックを受けて、自分が何かをしなきゃいけなかったんじゃないかと考えたはず。

「あれ? 開かない?」

ドアの外から聞こえてきたのは、いつもと変わらない感じのジョシュアの声だった。

その声にどれだけホッとしたか。ドアを押さえていたディエイトの力が抜けてみれば、そこには殺気なんてまるでなかったかのようだった。
ジョシュアだけを部屋へと招き入れて、そのドアはまた閉じられて、やっぱりドアの近くからディエイトは動こうとしなかったというのに、ちゃんとそれも見てて、ディエイトが血を流してたことも覚えていて、ジョシュアの話が終わったら、今度はディエイトを抱き込まなきゃって思ってたのに......。

「ただ......、ウジが目覚めない」

色んなはなしを聞いたはずなのに、そのジョシュアの言葉に全てがホシの中から吹っ飛んで、動けなくなったほど。
聞き間違いかと思ったのに、ディノが必死に「ヒョンッ! 冗談はやめてよ。冗談だよね。冗談なんだよね」と言うのに、ジョシュアは「今は、待つしかない」と言うだけだった。

待つって、何を............。それを考えて、あぁウジが目覚めるのを待つってことかって思いつくまでにも時間がかかったほど。
もしもそこでウォヌからの電話がかかってこなかったら、そのまま時は止まっていたかもしれないと思うほど。

『今から行く。ジフニは?』
「ウォヌや。ジフニが............、目覚めないって............」
『............わかった』

たったそれだけで終わった電話は、ウジが目覚めないことを再認識しただけで終わった。
自分が次に何をしたらいいのか。何をすればウジが目覚めるのか。そればかりを考えてる間に、ウォヌたちも病室にやって来た。

これでホシは、弟たちをシュアヒョンに、もしくはチングたちに預けてウジのもとに駆けつけられるって思ってた。目覚めるのを待つにしても、もっと近くで、すぐ側で、なんならその手を握りしめた状態で待てると思ってた。
バカみたいな話だけど、自分が行けば目覚めるかもしれない......って、本気でそうも思っていた。

でもその場を離れられなかったのは、ウォヌやジュンと一緒に警察の人たちが来たから。
それからスングァニが逃げてと叫んだから。
あっという間に警察の人たちは病室の中から追い出されてしまった。
驚いたのはドギョムもディノもホシも一緒で、やっぱり固まっていたかもしれない。
スングァンは落ち着いてきて、バーノンと一緒にいながらも時折笑うことがあって、その度にホッとするのに何かをきっかけにして叫びはじめる。
見知らぬ誰かが病室に入ってくることがダメなんだとすぐに気づいたけど、それは事務所の人たちでもダメで、途方に暮れた。
そんなスングァンを前にして気丈に頑張っていたのはバーノンで、ディノは逆に凹んでた。ドギョムはまだ整理がつかないって正直に教えてくれて、そんな弟たちのそばに、ホシは居続けた。

ジョシュアが気を使ってお前が動いてくれてもいいと言ってくれたけど、警察の人を追い出した姿にも、任意なら断ると事情聴取すら強気で断るジョシュアの姿を見てしまえば、自分が動くよりもジョシュアが動いた方が適任だったから。
戻ってくるたびに、ジョシュアは状況を聞かせてくれた。
そのたびにジョシュアの手が、ホシの後頭部を優しく撫でてくれた。
それは慰めで、励ましで、お前は頑張ってるよって言われてるようで、耐えられないかもしれない、自分だって叫びだしてしまいたくなる感情を抑えてくれた。

ジュンやウォヌやジョシュアが、何度もスングァンのことを抱きしめた。
ホシは一度も、スングァンの側にも行かなかった。
ディノはスングァンが叫ぶたびに情けない顔をして、バーノンは辛そうで、ドギョムは毎回自分の心臓を抑えてた。
なのにディエイトはその叫び声すら聞こえていない風情で、それもまた辛かった。

いつもなら「エデュラー」って、みんなの意識を一つにまとめるのも、前を向こうっていうのも、走り出すのも得意なのに、1人じゃなにもできないと気づくだけ。
ウジがいないと、ヒョンたちが揃ってないと、13人で笑ってないと、そう気づくだけ。
少しだけホッとできたのは、ジョシュアが病室に戻ってきて、もうすぐジョンハンが戻ってくると教えてくれた時だった。

テレビドラマで見るような感じで、運ばれてきたジョンハンが、ベッドに移されるのかと思ってたのに、頭に包帯を巻いて麻酔が効いた状態でまだ寝ていたジョンハンはベッドごと運ばれてきた。病室にあったベッドを外に出すのはジュンとホシが手伝った。変わりにベッドごとジョンハンが戻ってくる。
それが普通なのか、それとも病室の中に誰も入れないからの処置なのかは判らない。
でも気づけば眠ったままだけどジョンハンがいて、一緒にエスクプスが戻ってきていて、ちょっとだけホッとしたのかジョシュアも座っていて、95ラインの3人が揃っていた。

物凄い早さで病室を出て行ってはくれたけど、少なからず病室に入ってきた人たちはいて、死んだように眠るジョンハンの姿もあってか、スングァンはパニックになったのかもしれない。
悲痛なほどに叫んで、ジョンハンと一緒に戻って来たエスクプスが抱きしめても恐怖は消えなかったのか、過呼吸を起こして最終的には倒れるようにして意識を失っていた。

人は増えたけど、それでもまだ病室には11人しかいなくて、13人に慣れてしまえば2人足りないだけなのに喪失感は凄くて、それが普通なのか、それともいないのがウジだからかは、やっぱり判らなかった。

ジョンハンが目覚めて、ドギョムが号泣してた。ディノも泣いてた。
ジュンもウォヌもその場にはいたのに、何も言わなかった。ホシも何も言えなかった。戻ってきてくれて嬉しいって気持ちと、いてくれるだけで救われる気持ちと、どうしたらいいのって縋り付きたい気持ちと。
いつだって95ラインのヒョンたちがいるから自分たちが自由にできてるんだって、気づくのは、こんな時。

まだ半分以上麻酔が効いててふらふらなはずなのに、ジョンハンはウジの不在にもすぐに気づいた。スングァンやディエイトの様子がおかしいことも。ウォヌやジュンが凹んでることも。ドギョムが情けない気持ちでいることも。
病室の中に自分たち以外が入って来ないっていう状態にも。

もうお前は行っていい。早くウジの側に行け。きっとそう言われると思ってたのに、「お前はここにいろ。お前の方が倒れそうな顔してる」って言ったジョンハンは、それを物凄く小声で言ったから、思わず聞き返そうになったほど。
一瞬、皆には聞こえないように小声で言ったんだと思った。
だけど自分の耳が、音を遮断したかのようになって耳鳴りがして、思わず耳を自分で塞いだほど。その耳を塞いだ自分の両手が、驚くほどに震えてた。気づけば足もガクガクで、「なんだよこれ」って言って笑いそうになったほど。

「ケンチャナ」

そう言いながらエスクプスがホシを抱きしめて、ギュってしてくれた。
一番何もしてないのに、何を抱きしめられたのか理由が判らなかった。
あぁでもリーダーとして、ホシがウジと誓ったあれやこれやを、エスクプスも知っていたのかもしれない。
何があってもエスクプスを2人で支えていこうと決めたあの日のことも。

「俺が一番、ちゃんとしなきゃいけなかったのに」
「ヒョン、ヒョン違う。クプスヒョンは好きにしてくれていいんだって。ハニヒョンとシュアヒョンと一緒に、いつも笑っててくれるだけでいいんだって」

95ラインのヒョンたちが幸せそうに笑ってるのが、きっと理想だ。
いつだったか、そうウジと話したことがある。
全然頑張ってりしない95ラインが、そうしてることでセブチ全体が楽しく過ごせてる気がするから。
それでなくてもセブチを支えるためにエスクプスは全精力を傾ける人なのに、ホシのことを抱きしめて真剣に謝るエスクプスに向かって必死にホシは言ったけど、でも抱きしめられてしまった身体からは勝手に力が抜けていく。

でもそれだけでやっぱり十分で、それだけで救われた。嘘じゃなく、大げさじゃなく、本気でエスクプスに抱きしめられただけで、ホシは救われた。

それからウジが戻ってくるまで、ホシの側にはドギョムがいたり、ディノがいたり。自分が弟たちを守ってるつもりだったけど、時々はエスクプスもやってきて「ケンチャナ」って言葉を残していくから、守ってるつもりでいて守られて気遣われていたのは自分の方だったんだろう。
きっとずっと不安そうな顔をしてたと、後になって判るから。

ウジが目覚めたって聞いた時は、普段はそんなことはしないのに、神様に感謝の言葉を口にしたほど。もうすぐ戻ってくると聞いた時には、その姿を見たら泣くかもしれないと思ったほど。

「みんな、ウリジフニが戻ったよ」

ウジは車イスに乗って帰ってきた。
ミンギュに押されて、ドアが開いた瞬間にスングァンが思った以上にビクついたから、部屋の中にいた人間は全員同じようにビクついたかもしれない。
どうせすぐにミンギュやウジにだってバレるのに、なんだかそれは、少しだけ嫌だった。自分がちゃんと守れなかったことがバレてしまうようで。

車イスに乗ってるけど、大したことはないっていう説明はミンギュがしてた。
ベッドに移動する時も、ウジは身軽に動いてたし、手にはイチゴウユを持っていて見た目には普通だった。
本当なら駆け寄りたかったけど、それを耐えて、しばらくは見てた気がする。
みんなからの視線を受け止めて、ウジもそれに頷いただけで何も言わなかったし。

小さな物音には、もう全員が敏感になっていた。
だってそれをきっかけにして、スングァンの不安が増していくから。
病院は基本静かだから、小さな物音がよく聞こえるのかもしれない。廊下を足早に歩く音や、カチャカチャと何かの台車を押す音や。

そして案外その時は早く訪れて、スングァンが叫んだ。側にディノはいるのに、「チャニがいない」と必死に叫んでて、ミンギュとウジは驚いていたけれど、もう病室の中で2人以外に驚く人間はいなかった。

「ジフナ。ミアネ」

スングァンが叫んだから、ウジに近づくことができたとも言えるかもしれない。
ウジが横になったベッドのそばまで行って謝れば、ウジは何も言わなかったけど手を叩いてくれた。
それは判ってるって意味だったのか、謝るなよって意味だったのか、ただただお疲れって意味だったのか。その全部だったかもしれない。責めてるようではなくて、怒ってる風でもなくて。

「うん。でも、ミアネ」

だからもう一度、謝った。
ウジは目を閉じたままで頷いた。それからしばらくしたら、ウジは寝てしまった。
なんでもないってことだったけど、やっぱりなんでもないってことはないんだろう。
誰よりも男前で強気なウジだけれど、身体的にはやっぱり一番小っちゃくて、どう考えたって真正面からぶつかっていくなんて有りえないのに。

しばらくは黙ってウジのことを見下ろしていたけど、我慢できなくなって横に潜り込んだ。そうしたらもう習慣なのか、意識もないのにちゃんとベッドを半分開けてくれる。
みんなで狭い場所に押し込まれて暮らしてたから、その癖が抜けないのかもしれない。
病室は静まり返ってたけど、ホシには眠りはなかなか訪れそうにはなかった。
だって興奮してきたから。
横にウジが戻ってきて、目覚めないって心配されるほど良く寝てたはずなのに、今もまた当然のように眠ってるその姿が嬉しくて。息をするたびに胸がかすかに上下する。それをただじっと見てるだけなのに、泣きそうなほど嬉しくて。

ウジがいたら、きっとなんだってできる。そう思えたことはこれまでだって何度だってあって、セブチがセブチとして活動していくにはウジは絶対必要で。
それなのにウジは時折不思議な顔で、「絶対必要なのはお前だろ」って言ってくれるけど。
あぁでも今度こそ、やっぱりウジが必要だと判ったのは、誰もができなかったことをウジはやって見せたから。

スングァンが叫ぶ。横でスングァンの手を握りしめてるバーノンが見当たらないのか、バーノンの名前を悲痛なほどに叫んでた。
きっと全員が一瞬で目覚めて息を飲んだはず。叫んでるスングァンに呼びかけてるバーノンの辛そうな顔は、自分たちの表情でもあったはず。
なのにウジは「五月蠅いッ黙れッ。今何時だと思ってんだ」って驚くほどにいつも通りに怒ってみせたから。

「だってヒョン、ボノニがいないんだよ」

スングァンが途方に暮れたように言う。
でもウジが「あぁもう、番号ッ!」って言って、エスクプスから順番に数を数えていけばそこには当然13人いて。
その後、ひどく安心したスングァンは、朝まで叫ぶことなく眠ってた。

やっぱり俺のジフナは......。そんなことを思いながら、眠るウジの身体をベタベタ触ってたら時々叩かれたけど、いつもみたいに「いい加減にしろよ」とは言われなかった。
それでも夜中と朝のちょうど真ん中辺りでは、ディノを起こして場所を変わってやったけど。

寝袋で寝てたディノは、起こせば素直に起きてきた。
ベッドと交代って言えば、素直に起きてきてベッドにも手を出したのに、振り返って「ヒョン、俺、トイレ行きたい」と言ってきた。
確かトイレは廊下の真ん中ぐらいにあったはず。そう思いながらも「行ってきな」って言ったのに、ディノは「一緒に行こうよ」って情けない声を出す。
見知らぬ病院だったし、それ以前に見知らぬ人に襲われたばかりなのが尾を引いてたのかもしれない。
静かで薄暗いはずなのに、思いのほか明るい廊下を歩いて2人でトイレに行った。
もう大丈夫だからな。そんな思いを込めて背中を叩いてやったっていうのに、「ホシヒョン、トイレしてる時に叩かないでよ」と嫌がられたけど。

そっと出て行ってそっと戻って来たはずなのに、戻って来てみればハニヒョンが起きていた。
でもディノは気づかずにウジの横で寝始めて、ホシはジョンハンに手を振ってから、寝袋に潜り込む。
それから一瞬で寝た。
テレビ局の楽屋でも、スタジオの横でも、コンサート数分前の楽屋でも、それこそ誰がいてもどんなに大きな音が流れてても平気で寝られるのはもう朝飯前だったから、病室の寝袋なんて好条件な方だったからだろう。
スヤスヤ寝たかもしれない。
でも1時間もせずにディノに起こされて、「ヒョン変わる」と言う。

「なんだよ。俺は全然ここで大丈夫だよ」

そう言うのに、「でも、ウジヒョンの隣りに言ってあげてよ」と言うから......。
よく出来たマンネと変わって、またウジの横に戻ったけれど、朝方今度はウォヌを起こして変わるって言ったホシだった。
でもウォヌは当然のような顔で、やっぱりディノを起こしに行って、ディノのことをスングァンの隣りに押し上げて寝袋に入ってた。

朝だけど、叫びたくなったホシだった。
あぁもうなんだよみんな、愛してるぞって、バカみたいに叫んで幸せだって教えたかった。
病院だから我慢したけど。
そんなホシの気持ちに気づいたのは、ずっと寝てなかったのか、それともたまたま起きたのか、ユンジョンハンと目があったから。
そうしたら笑って、ユンジョンハンがピースしてきたから、ホシは泣きそうになったほど。
結局ホシは、ミンギュのことをウジの横に押しやって、扉の横の椅子に移動した。
無意識にウジが端っこに寄ってデカいミンギュの身体が寝やすいようにしてやっていて、やっぱり嬉しくなったホシだった。

何度か寝て、何度か起きて、何度か場所を変わって。そうしたらもう朝も大分過ぎていて、ホシは最後に寝てた寝袋から這い出して、バキバキになった背中を伸ばした。
見ればベッドにはもうウジがいなくて、どこに行ったのとジュンに聞けば、「検査?」とトボけた感じで答えられた。

ウジを迎えに行こうと病室を出たのに、どこにいるかなんて当然判らず。でもなんとなく、ウジはどこにいようとも売店には寄ってから帰ろうとする気がして、イチゴウユを買ってそれを持って待っていたら、慣れた感じで車イスを操るウジがやって来た。
持ってたイチゴウユを差し出せば、「おう」って受け取るだけ。

車イスを後ろか押せば、ウジはそれを操るのを辞めて、ホシに任せてくれた。
行く場所なんて決めずに、人が少ない方向に進んでいく。病院の中は案外終わりがない場所が多くて、あちこちがあちこちと繋がっている。

「怖かったか?」

聞かなくたって判ってる。怖くないはずがない。でも全然平気って顔をしてるウジの口から、聞きたかった。だから聞いた。ウジはちょっとだけ考えたようだったけど、正直に答えてくれたはず。

「怖かった。怖かったけど、同じことがあれば、また動くと思う」

本当なら、何言ってんだよ、お前が行く必要があるのかよ......って言わなきゃいけなかったかもしれない。だけどいつだってウジは動くだろう。誰よりも男前で、誰よりも強くて、誰よりも弟たちだけじゃなくて、ヒョンもチングも、セブチそのものを愛してるから。

「俺も。俺の方が近かったら、多分そうする」

だからホシもそう言った。
2度はない。そう信じてる。何かがあるとしたらまた別の何かだろう。でもきっと、その時も動く。怖くないからじゃない。大切なものを失う方が、もっともっと怖いから。

「でも、怖かったよ」

きっとそれは、ホシだけに教えてくれたウジの真実。
だから「俺も怖かった」ってホシも口にした。

「本当は、お前のそばにいたかったよ」

小声で、そうも伝えた。そうしたらウジも小声で「知ってる」って言う。
やっぱり泣きそうになった。
本当はウジのことを抱きしめて、ずっと側にいたいとか言いたかったほど。
でもきっと、そういうのは違う。いつだって前を向いて、何かに向かって歩いて行く時には、横に並んでいたかったから。守られたり守ったり、そんな関係よりもずっとずっと強く結びついていたいから。

「おしッ。なんか俺、やる気出てきた。踊りたいけど、病室で踊ったらやっぱり怒られるかな?」

泣きそうなのを誤魔化すためでもないけどそう言えば、ウジは「そりゃ当然、病室で踊るのはダメだろう」と呆れたように言う。それがもういつも通りのウジで、やっぱり嬉しくなる。

「じゃぁ屋上とか、裏庭とか、地下駐車場とか、どこか踊れそうなとこ探すわ」

そう言ってステップ踏みながら歩けば、後ろの方から「いや、俺のこと病室まで連れて帰れよ」っていうウジのツッコみが聞こえてきたけど、その時にはもう面白くなってたから、放置して行く。

 

 

退院が決まった日。雨だった。
ウジとスングァン以外が集められて説明を聞いた。
納得できないと言ったのはディノで、ホシは特に何も言わなかった。
ウジが納得してるなら、ホシには特に言うことはない。でもちゃんと納得できないって言えたマンネの姿が嬉しかったりもしたけど。
何も持たずに病院に来たはずなのに、荷物は驚くほどに増えていた。
ミンギュが自慢げに笑ってたし、ウジはそんなミンギュに「良くやった」とか言ってたから、何かがあったんだろう。

「帰ったら練習室に行こう」

当然のようにそう言えば、誰かが「うへ~」って言ったけど、きっと全員で行くんだろう。それから踊ってまた汗をかく。
きっとウジは当然のように作業室にも行くはずだから、ホシだってついて行く。
あんなに怯えて叫んでたスングァンだって、バーノンが優しいって言いながら笑ってることの方が多くなったし、ユンジョンハンが「いや俺は頭が痛いから当分練習は無理だよ」とサボろうとしてるのが、いつも通りの感じだった。

 

The END
10125moji

start:20220617
finish:20220805