LEFT&RIGHT
お、おぉ
見知らぬ男の人が目の前に二人。見た目はユンジョンハンだけど、中身はミンギュという状況で、ジョンハンのようにびっくりするほどキレイに、楽しそうに、笑えているかが気になったミンギュだった。
「絶対ホシの方とだけ会話して」なんて無理難題をジョシュアに言われてかなり焦ったけれど、実は問題なかった。
だっておじさん二人だと思ったけど、一人は本当におじさんだったけど、もう一人はまだそれほどおじさんじゃなかったから。
いや、おじさんかおじさんじゃないかでわかった訳じゃないけど、少し若めに見えるその人に、なんとなく見覚えがあったから。
そしてすぐに思い出した。それは確かに、今日、スングァンの後ろを走って追いかけてきた男だったから。
突然ヘンガレに来いと言われてミンギュは知らなかったけど、the8の言葉がここに来て効いているんだろう。
「ユンジョンハンの友達になれるのは、見た目を弄ってない人だけなんだよ」
キラキラした見た目の人間は、ウジによって一瞬で無に返されたけど、きっと必死でヘンガレに戻って来たんだろう。今度は、まんま自分で。the8の言葉が嘘かホントかは判らないけれど、試さないなんてことはできないぐらい、必死だったのかもしれない。
だからミンギュは、ほんとうにおじさんの方に、話しかければいいだけだった。
中身はほんとにホシなのか......と思いながらも、「はじめまして............な感じがしないね」ってできるだけユンジョンハンぽく話しかける。
「じゃぁ、会ったことがあるんじゃない?」
おじさんなホシが、適当なことを言いつつも、ユンジョンハンの顔に手を伸ばしてくる。触れるか触れないかってところでその手が止まって、「白すぎないか」って笑ってた。
もう一人の男が慌てたように、「は、はじめまして」って挨拶するのに、ユンジョンハンなミンギュはおじさんなホシしか見ていない。なんかどこかで見たことがあるわ......って本気で思い始めて、『あ、ウォヌヒョンの家の運転手のおじさんだ』って気づいて、思わず笑ってしまった。
特にもう一人の男には何も言ってないのに、二人の世界ができあがりつつあるとでも思われたのかもしれない。自分よりもおじさんなホシとの会話に、イラついたのかも。
でもきっとそこでまたthe8の言葉を思い出しただろう。
「天使のまわりには、それこそ、心のキレイな人しかいられないっていう話だよ。嘘かホントかは、知らないけどね」
ヘンガレの世界なのに、男が何故かブルブルと震えてた。
キラキラした見た目な自分にも相当つぎ込んだだろうが、今度はヘンガレの世界で水陸両用車を慌てて調達してジョシュアに連絡まで取って、ユンジョンハンがログインするタイミングをわざわざ調べてやってきたというのに、不意にあらわれた男に先を越されては、たまったもんじゃないだろう。多分リアルな世界のお金に換算しても、結構な額をつぎ込んでるはずだから......。
『IP完璧に抑えた。ミンギュ、もういいぞ』
ウジからの通信に、ユンジョンハンなミンギュがあっさりと「次会った時に、また」とヘンガレの世界から去って行く。気づけばそこには、いつものようにNPCのように佇むユンジョンハンがいるだけだった。
『ホシはできるだけ、死なない程度にやられながら逃げ続けろ』
見た目はおじさんのホシにもそんなことをウジが言う。今度はできるだけ男のことを、このヘンガレに居続けさせたいんだろう。
ブルブル震えてた男が、当然のようにホシに向かって何やら撃ってくる。
もはや何も言っても来ないのは、どっかがブチ切れているからかも。
おじさんなホシは驚くふりをして、よろけながら走りはじめて、時々は隠れて、わぁわぁって感じで器用に逃げていく。
『ジュナ』
ウジが手に入れた情報がウォヌによって精査され、リアルな世界のジュンのもとにも送られてきた。
『tihe8には知らせるなよ。アイツなら、ほんとにその場で消しかねないからな』っていうメッセージ付きで。
「お、おぉ」
ただのメッセージ相手に、何故か惚けた感じで返事をかえしたジュンだったけど、『ジュニならうまくやる』ってのが、ウォヌとウジの共通認識で。
その夜、ジュンは普通のサラリーマンみたいな恰好で出かけて行った。
世の中の人が皆マスクをする世界になってて、ラッキーって笑いながら。
スーツ姿でマスクをしてたって、全然目立ちまくってたけど......。
The END
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