LEFT&RIGHT
ん、殺した
ヘンガレの世界が、沸きに沸いていた。
もちろんドギョムがヘンガレの全世界に向けて放った言葉が原因だった。
ホシはいつだって楽しそうでにぎにぎしくて目立っていたけれど、ウジはどちらかというと裏方っぽくて、表立って何かするなんてことは滅多となかった。
それなのに、それなのに............。
あちこちでドギョムの発言について語られていた。ログにしたら一瞬で何万もの言葉が流れて行ったかもしれない。
え、ほんとに？ ウソじゃないの？ あ、そうだったんだ で、どっちがどっち？ ウジとホシ？ あの二人が？ で、どっちがどっち？ え、見た目判断？ ヘンガレとリアルは違うでしょ？ ホシとウジ？
疑問もあれば、肯定もあった。もちろん否定的な意見もあれば、何故か応援するものもあった。普段はヘンガレの世界でひっそりと楽しんでいるような人たちまでもが一瞬でその流れに飲み込まれたのか、ホシとウジという名前とともに、色んな情報が流れに流れ、僅か数分でそれは真実かのように語られはじめたかもしれない。
「ねぇヒョン。どっちがどっちって何が？」
賑わっているログの大半が、それになってきたからだろう。ディノが普通にその場にいたドギョムに聞いてくる。しかし自分のやらかしたことでキャパオーバーになりかけていたドギョムには、それに答えるほどの余裕もないようで............。
もはや祭りみたいな状態になってきて、被害者対応なんてしてたジョシュアの仕事も一瞬でなくなった。何せさっきまでは被害内容を口にしてそれ相応のものを貰わないと納得できない......と言っていた人たちが、何故か口々に「ありがとう」とか言って去って行ったから。
「ディノや」
ジョシュアがディノの名を呼ぶ。ディノの実年齢を知ってるからだろう。それ以上はって感じでジョシュアが首を振れば、ディノが不思議な顔をしながらも頷いた。もしもそれをディノが突き詰めようとしていたら、ディノだってその後の騒動に巻き込まれていたかもしれない..................ってことが起きた。
それはまさに、青天の霹靂。
一瞬ヘンガレの世界が光った......と、後からそう言う人が多かったらしいが、それが原因かどうかは知らないが、一瞬でヘンガレ全世界から音が消えて、ログが消えて、ホシとウジという単語すら全て消えて、なかったことになった。
『システムエラーが発生しました』
そして流れた、白々しい感じのメッセージ。
「やー、ドギョマッ」
ホシが叫ぶ声も聞こえたけれど、一瞬すぎて、何がどうなったかは判らなかった。多分ディノもドギョムも、見えなかっただろう。
元から『あぁ、こりゃヤバイかも』と身構えてたジョシュアだけは、それを見たけど。
ヘンガレの世界を歪ませて突然現れたウジと、一瞬で逃げたホシを。
多分追いつかれるだろう。もしかしたら、今日がヘンガレでホシを見る、最後の日になるかもしれない............なんて、ジョシュアが思ったほど。
でもホシだってそう感じたんだろう。逃げた先はユンジョンハンのいる場所。
つまりは今現在、そこにはthe8とジュンがいて、恐らく問題の元凶の人もいて、それからそこら辺に隠れて様子を見ているだろうウォヌもいる場所。
別にそれを知ってて来た訳じゃない。ただただ、ユンジョンハンが常に守られていることを知っていて、ユンジョンハンにまとわりついている限りはウジだって本気で攻撃できないと本能で逃げてきただけ。
「先に出るぞ」
咄嗟に判断したのはジュンで、the8がまだ戦いはこれからだみたいな空気をまとっているにも関わらず、ジュンがthe8を連れてヘンガレから消えた。
それからホシが「ハニヒョンッ」と叫んで抱き着こうとした瞬間に、ユンジョンハンがこの世界から消えた。NPCとまで言われたその人が。
「ホシヤ。すまんッ」
そう叫んだのはウォヌで、どうやらユンジョンハンをこの世界から追い出したのはウォヌの仕事だったようで、謝ったその瞬間にはウォヌまでもが消えていた。
その場に残されたのは、「うそ～ん」って言ってるホシと、状況が理解できてないのかただ見ている問題の元凶の人と、死神みたいな感じで何故か地面からヌヌヌヌと現れたウジだけだった。
多分時間にしたら三秒ぐらい。
自業自得とはいえ、いろいろ問題の元凶の人は、一度目はホシに木っ端みじんにされ、二度目はウジに無に返される勢いで消滅の憂き目にあっていた。
そしてホシがどうなったかは、誰も知らなかった。
「ど、どうなったの？」
しばらくしてからようやくそう聞いたディノには、ウジがたった一言、「ん、殺した」と言っただけだったから。
The END
1926moji
