LEFT&RIGHT
あ、俺のせいかよ
スングァンの前には、美味しいケーキ。それはフルーツタルトで、タルト生地の上には本物のフルーツが上品だけどしっかりとした量がのっていて、多分物凄い高いんだろう。だってケーキのまわりの、普通なら銀のやつとか、透明のビニールだったりするそれが、なんだかレースみたいな模様が入ったやつだったから。
ケーキがのってる皿だって、上品な上にデカイ。しかもケーキ用だと判るほど、線の細い、見た目も整っているフォークがついていて、一緒に出されたのがこれまた家でなんて普通は飲めないフルーツティだった。入れ物も見た目も、もちろん味だって完璧。
「おかわりもあるぞ」
そう、エスクプスが笑ってる。
甘いケーキは苦手だと、確か二人とも言ってたはずなのに、でも思えば、一度でいいから食べてみたいと、有名パティスリーの話をした記憶がある。雑誌の中の店なんて、済州に住んでた頃には手なんて届くはずもなかった。今は簡単に行けるのに、全然簡単には行けない現実がある。だってそのケーキは簡単には買えないような値段設定で、しかも半年以上先まで予約が入ってるって話も聞いた覚えがあるのに。
玄関入ってすぐのダダっぴろい部屋がリビングだと思っていたら、それは玄関ホールだという。どビックリすぎて、ちょっと笑ってしまったほど。
だってスングァンが今暮らしている親戚の家が、玄関にスッポリ入っちゃうほどで、きっと済州の実家をたしたって、そのダダっぴろい玄関ホールより狭いはずだから。
それにしてもケーキが美味しい............なんて、ちょっとした現実逃避をしてる間にも、車イスに乗ったエスクプスにも慣れてしまったかもしれない。だって車イスに乗ってはいたけれど、エスクプスは普通にエスクプスだった。まぁそりゃそうだろう。ヘンガレの世界で自分ではない誰かを装っているというのなら、リアルな世界で会えば違和感があるかもしれないが、そこにいるのはヘンガレの中とまったく同じ、まんまエスクプスだったから。
楽しそうに笑ってる。時々ジョンハンと言い合っている。
統括リーダーなんて呼ばれてるのに、ちょっとだけ迂闊。それからちょっとだけビビリ。負けるのが嫌いだし、すぐムキになるし、でも大抵が笑ってて、一緒にいれば不思議と面白いことが一杯で、膝から崩れ落ちて笑うこともあるほど。
そう言えば、鼻のほぼ同じ場所に皆が傷を負ったのも最近のことだった。
何故かエスクプスが秘密基地を作ろうと言い出した時のこと。よくよく考えればその敷地の中にはいつもの13人しか入って来ないというのに、うっかり全員がそれにのっかってしまって、楽しんで秘密基地を作ってしまった。入ってすぐの場所に「トラップを作ろう」って言い出したのはハニヒョンだったけど、全員が面白そうだとこれまたのっかってしまった。
「絶対みんな、忘れるなよ」
そう言ったエスクプスが一番にそのトラップに引っかかり、「ウギャッ」って言って顔を押さえてて、見れば鼻に傷を作ってた。
全員で大爆笑したくせに、次に引っかかったのはバーノンで、その次がジュンで、もうないだろうって笑ってたウォヌまでが引っかかり............。
「お前らバカだろ」
ウジがそんな暴言を吐いていて、指さして笑ってたハニヒョンまでうっかり引っかかり、自分が言い出したことなのにキレまくり、結局秘密基地そのものが破壊されてしまった。
それなのにハニヒョンがその鼻の傷を、「クプスとケンカしたから」とか言ったから、話は一瞬でヘンガレの世界に広まった。それも尾ひれどころか背びれまでついたような感じで。その時には毎日のように、見知らぬ人からスングァンも話しかけられたから、話題性は高かったのかもしれない。
「だから、ヒョンのせいだよ」
「あ、俺のせいかよ」
目の前ではミンギュが、自分ちのかのように寛いでいた............。
The END
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