LEFT&RIGHT
ん、ちょっと待ってて
ウォヌはひたすら後処理に忙しかった。
もちろん、スングァンのことを忘れた訳じゃない。
とりあえずセキュリティ面だけで言えば、最強と言える場所に送り込んだから、その点だけは安心だった。確実初対面だけれども、絶対と言えるほど、あそこは居心地がいいだろう。
何せエスクプスもジョンハンも、無理することもなく、ごくごく自然に本当の弟のように接してくれるはずだから。
「ん、ちょっと待ってて」
電話に向かって、何度も同じ言葉を口にする。
ジュンからも「送り届けた」って連絡が入ってくるし、その間にもウジから途中経過の連絡が入る。ホシからも珍しく「悪ぃ。やりすぎた」って連絡が。
そんな色んな連絡の合間に、ちゃんとした大人の人間だって送り込んでいた。
それはスングァンが襲われたと思われし場所。目撃者が複数いて騒がれてるっていうなら、諦めて公に対処しなきゃいけないけれど、ラッキーなことに誰も気付いてはいなかった。
もちろん猛ダッシュするスングァンと、それを追いかける男は見ただろうが、学生が遊んでるとでも思ってくれたのかもしれない。
ナイフの刺し傷で穴の開いたリュックも回収済だった。ただリュックの中には、スングァンのスマホがなくて、そのせいで何度か、ウォヌはミンギュに連絡を取った。
「スングァニが、スマホはリュックの中だって言ってたって話だったけど、勘違いじゃないよね?」
ウォヌの言葉をそのままミンギュが伝えれば、「あ、リュックじゃないや。右手に持ってたんだった。確か......」とスングァンがその時の状況を思い出した。でも逃げるのに必死で、それがいつまで自分の右手にあったかなんて、覚えてないという。
でもまぁ。突然襲われるなんて滅多とないことだから、記憶があやふやなのはしょうがないかもしれない。
でも現場近くをいくら探しても、スマホは見つからなかった。
ミンギュのバイクにニケツして逃げてしまったスングァンを諦めた男が、現場に戻らなかったとも限らない。スマホなんて、個人情報の塊で、指紋認証だったとしても突破するのは難しくない世の中だというのに............。
「十中八九、スングァニの家もバレてるだろうし、なんなら、遅かったかも」
ウォヌの声は、電話を繋いだままだったウジにも、ミンギュにもジュンにも聞こえてた。
電話の向こう側からウジが舌打ちする音が聞こえてきて、ちょっとだけ笑う。
平気な顔して物凄く負けず嫌いなのは、幼馴染だからよく判ってる。
そこにまた、連絡が入る。出てみれば相手はジョシュアだった。それまではほとんどの回線を残したままだったというのに、珍しくもウォヌが全ての回線をオフにした。
「で? 解決した?」
「まだ。家バレは必須で、そっちにも人をやる予定だけど、後手後手になってそう。ヒョン、悪いけど、やっぱり接触は避けられないかも」
「いいよ。ヘンガレでも、リアルでも」
特に話を詰めたりもしない。それでも全てを理解してくれる人だから。
いつもエスクプスとジョンハンと一緒に楽しそうに笑ってる人なのに。
驚くほどにウォヌの胸の内を読む人でもある。だからって先廻りなんてしない。マウントを取ってこようともしない。でも困った時にふと視線をあげれば、必ず目があうような人。それから、優しく笑って、大丈夫って言ってくれるような人。
ウォヌがまた、ミンギュに電話する。
「スングァニのこと、今日はそっちで面倒みてもらって。それからスングァニに、お世話になってる親戚の家に連絡入れるように伝えて。無断外泊はさせられないから」
そう伝えれば、「クプスヒョンもハニヒョンもとっくの昔に、そのつもりみたいだけど」って笑ってた。
やっぱりあの二人は、いつだって優しいんだろう。
The END
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