LEFT&RIGHT
この世界を守る者、それはイチャン
それはタイミングが悪かったとしか言いようがなかった。
まずウジがパソコンの前から離れてた。何故ってホシが、部屋の中を水に濡れたままの足で歩いてたことに気づいてしまい、「なにやってんだよ! あちこちビシャビシャじゃん!」と文句をいいつつタオルを投げつけて、部屋の中を拭くホシのことを、ちゃんと拭くまで許さないとばかりに見張っていたから。
そしてウォヌもたまたま、無事にミンギュとスングァンを拾ったっていうジュンからの電話に出ていて、パソコンの画面を見ていなかったから。
「このまま、そっち連れて行こうか?」
そんなジュンの言葉にちょっとだけ悩んで、「いや、クプスヒョンところで」と言ったら、ジュンからは「......いいの?」と返されて、また少しだけ悩んでしまったから。
でも「あそこが一番安全だから」と言えば、「そうかも」とジュンも納得してくれた。
そんな話をしてる間、パソコンから意識がそれていた。
ドギョムはジョシュアと話すのに必死で、それこそほかのことにまで意識を向けてる余裕はなくて。
ホシは今まさに部屋の中をタオルで拭きながら謝っていて、ウジの部屋の床に這いつくばっていたし......。
当然ジュンはウォヌと話していたし、ジュンのことを見て驚いていたスングァンは言葉を失っていたし、ミンギュはせっせとジュンの車に自分のバイクを積み込んでいたし。
the8はまだジュンのベッドで爆睡中。
エスクプスとジョンハンは多分一緒にいて、この時間ならパソコンなんて触ってないだろうっていう時間帯。
一人バーノンの行方だけは誰も知らなかったけれど、バーノンはいつだってそんな感じ。
そして実はジョシュアだけは冷静でちゃんと現状を理解していたけれど、見なかったふりをしてたりして......。
いつだって何かがある時は、勢いが大事だから......とか思っていたりするから。
そしてまさに今、リアルな世界でブスングァンと同じ高校生なディノが、ヘンガレな世界にログインしてきたところだった。
そして十三人にしか見えないログを、ざっと追いかけたんだろう。
そこには、ドギョムが謎な取引場所に飛び込んだってことまでしか書かれていなかったから。
「ドギョミヒョンッ!」
と叫んでディノが電光石火、世界を飛び越えて、一瞬でドギョムの動いた軌跡を突き止めて、まだ謎な男がいる店へと飛び込んだところだった。
飛び込まれた方はたまったもんじゃないが、ディノは若いからか、それとも性格か、正義感の塊で、ちょっとおっちょこちょいな、でも優しすぎるドギョムのことが大好きで。
しかもログの中では、リアルな世界でスングァンが襲われたってことも書かれていて。
目の前にいる男はディノの中ではあっさりと敵=ワルモノと認識されてしまった。
「駆逐してやる。この世界から」
ディノが一瞬で戦闘態勢に入る。
でも街中で店の中だから、使える武器は限られる。
お気に入りの革のブーツはジュンからのもらい物。そこに仕込んだ細見のナイフは、ディエイトからのもらい物。
それを一瞬で取り出して、間合いを詰めて男に襲いかかる。
ディノは色んなことを、ヘンガレで学んだ。
遊び方も、勉強も、踊ることも、楽しむことも。そんな中には当然のように闘い方もあって、何気に強いヒョンたちに揉まれたために、その実力は結構なものだった。
お前ひとりで、この世界を守れるかもな......なんてことを、向かうところ敵無しのジュンに認められたほどだから............。
The END
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