LEFT&RIGHT
Heng:garae、wooziが作った世界には
なんだかリアルな世界も、ヘンガレの世界も、バタバタしてるというのに。
「暑い」
と言って、ベランダに出した子ども用プールに足を浸して涼んでいるのは、ウジによってヘンガレ出禁になった男、ホシだった。
本当はクーラーのきいた部屋の中で、子ども用プールで涼みたかったけれど、部屋の中でそれを準備してたら当然のように怒られて追い出された。家まで出禁になったら堪らないので、ベランダで我慢して涼んでるところ。
まぁヘンガレの世界を出禁になっても、それほど困らない。何せつい先日胴上げしてもらって、宇宙まで飛んでった自分なので、戻って来るのに数日はかかる。まぁ強制的に戻してもいいんだけど、自然に任せればタダだけど、強制的だとお金がかかるってだけ。まぁ出禁でもあるし......と、なので放置してるとこ。
ウジは相変わらずパソコンに向かってたけど、仕事してるのか、遊んでるのかは判らない。滅多なことでは、何も教えてくれないし......。
なのでホシの日常は平和でちょっとだけ退屈で、暑いだけで、何も知らなかった。
普段ならそのまま、全てが終わった頃に全部知るパターンだろうに、たまたま、本当にたまたま、ホシはその日、ウォヌに電話をかけた。
「なぁ、子ども用のプール小さすぎんだけど、お前んちのプール、貸してくんない?」
という、トボけた理由で。
ウォヌの家は金持ちで、子どもの頃から一緒に育ったから、よく家のプールを使わせてもらってた。家にプールがあるのが特別なことだなんて、思ってもみなかった子どもの頃の話だけど。
「いつの話だよ。プールがあった家は、とっくの昔に親父が手放したよ」
「え? そうだったっけ?」
「それより、今度は何でウジとケンカしてんの?」
「あ? ヘンガレ出禁のこと? 聞いたの?」
「ウジが呼び戻さないと戻れないってとこだけな」
残念ながら、ウォヌのプールのある家はもうなかったらしい。
ホシ的には酷いはなし、じゃぁもうウォヌには用はないとばかりに「じゃぁな」と言いかけたというのに、ウォヌから「だからお前、何やったの?」と問い詰められたものだから。
「ぁあ~、こないだ、寝込み襲ったら逆ギレされた」
と普通に答えたら電話の向こう側ではウォヌが少しだけ沈黙してたけど、「いやそれ、逆ギレっておかしくない?」と冷静にそんなことを言うもんだから、「そうかも」と思わず笑ってしまった。
「だいたい、なんでそれで、家が出禁になってないのに、ヘンガレが出禁なんだよ」
ウォヌがまともなことを言う。ホシだってそれは思ったから。でも。
「それだけウジには、ヘンガレが大事なんだろ」
「それだけウジには、ヘンガレが大事なんだな」
思わずホシとウォヌは言葉が被って、やっぱりまた笑って、それからどちらともなく「じゃぁな~」と電話を終わらせた。
ウジにとっては、ヘンガレはとっても大切な場所で、それは昔、ウォヌと三人で作った秘密基地と同じぐらいなのかもしれない。
プログラマーでもないくせに、このゲームがまだβ版でもない頃から参加して、この世界の構築に携わってきたからだろう。
ただただ、本当に生きてるみたいに遊べる世界を、雨が降ったり、曇ってたり、遠くから太陽の光が少しずつ消えていくような、そんな世界を。
走ったり、歩いたり、踊ったり、それのどこが特別なのか、きっと誰も判らないだろうけど、それでもウジはその世界を作ることに一時期のめり込んでいたから。
もしかしたら身体はリアルな世界にあっても、ウジの魂はヘンガレの世界にあるのかもしれない。だから出禁になったのは、あっちだったのかも。
ベランダで涼むことも限界で、ホシは片付けもせずに部屋に戻った。タオル一枚も用意してなかったから、ホシが歩く場所には水が滴って。
本人は気づいてなかったけど、家すらも出禁になるのは、遠くないかもしれなかったりして............。
The END
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