キムミンギュは、優しい嘘をつく。
朝早くから、人数が多いから順番に起きて準備をはじめなきゃいけない時も、何時に帰ってきたかは関係なく、いつだって「ウジヒョンはさっき帰ってきたばかりだから」と、できるだけその順番を後に持っていこうとしてくれる。
ウジがセットしたアラームをこっそりと消して、「いま何時?」と目覚めかけたウジ本人にも、「ヒョン、まだ早すぎるから、もっと寝てて」と言ってくれる。
忙しすぎるウジを最大限休ませてやろうという、優しい嘘。
ただ問題はその優しい嘘のせいで、時々ウジがえらい目にあうってことだろうか。
楽屋で寝てる時にも、「大丈夫、俺が時間がきたら起こすから」と言っていたミンギュがすっかりそれを忘れていて、気づけばウジのメイクの順番がきてて、スタッフたちの探す声に「やべッ」って叫ぶ姿は結構見られる。そして「ヒョンごめんッ」とミンギュが寝たままのウジを担いで廊下を走っていくのだ。
「だからお前はなんで俺のアラームを勝手に消すんだよ」
「や、優しさ?」
「小さな親切大きなお世話って言葉知ってるか?」
「いや、ヒョン。俺のは大きいよ」
「ぁあ? そういう問題じゃないだろ?」
「それに親切ともちょっと違って、これは愛なんだよ。愛」
「ぁあ?」
大抵いつもそんなやりとりをしているけれど、どんなに怒っていても結果ウジの方が流される。
怒ってるウジの手に、ミンギュは「はいヒョン」とウジのスマホを手渡してくるし、「はいヒョン」とコーラも差し出してくるし、「はいヒョン」と簡単に口にいられるお菓子だったりオニギリだったりも差し出してくれるから。時折は弁当をひろげて一口ずつ食べさせてもくれて、そんな時はウジが食べたいものをチラリと見るだけでそれを次に口に入れてくれるというタイミングもバッチリで......。
宿舎の部屋も同じで、日ごろからミンギュに世話されることに慣れているからか、それとも元々怒りが持続しない性格だからか。
時折宿舎で目覚めた時にはトイレに座ってたりして、「ヒョン、トイレして」とか言われると、「ふざんけんなキムミンギュッ」と朝から叫ぶはめになるけれど、それでもミンギュが「はいヒョン」とウジの口に歯磨き粉のついたハブラシを突っ込んでくるし、「着る服準備してくるから、出るまで十五分ないから。朝食は車の中でとれるもの準備してるから」とウジの怒りも気にせずミンギュが去っていく。
結局はやっぱり、優しさがあるから許してしまうのかもしれない。
ミンギュの嘘は、優しさでできている嘘だった。
ムンジュンフィは、謎に嘘をつく。
ディノが起きてくると、リビングにいたジュンが「トイレはさっきからハニヒョンが使ってる。時間まだまだかかりそうだから、急ぐなら下に行っといで」とか、無表情で言う。
別にトイレに行こうと思っていた訳でもないのに、そう言われると行きたくなるから不思議だ。そして何も疑問に思わず、ディノは「じゃ、ちょっと下行ってくる~」と、二階下にあるもう一つの部屋に向かうのだ。
しかし下の階に行ってみれば、トイレに籠ってると言われてたジョンハンがいたりして、一人首を傾げながらトイレに入るはめになる。
それがジュンの嘘だったのか。何かの勘違いだったのか、トイレに籠ってる人間の名前を間違えたのか......。全ては謎なまま。でもそれを確認するほどのことでもないから、事実はどうしたって謎なまま。
しかし時折は謎すぎて被害も出る。
皆でご飯を食べに行くというのに、スングァンは家で留守番をしてるという。たぶんダイエットのためだろう。皆は判ってて「じゃ行ってくる」と言うのに、ジュンだけがスングァンをジィーーーーっと見てきて、「大丈夫?」とか真剣な顔で聞いてくるのだ。
「ヒョン、留守番ぐらい一人でもできるよ」
「いや、一人じゃないけど、大丈夫?」
そう言いながら、ジュンは謎に部屋の隅の斜め上ぐらいを見つめて、「スングァンと、仲良くしてくれるかな?」とか呟くのだ。
「ヤー、ハジマッ」
怖がりのスングァンが、「冗談だよ。絶対冗談だよ。冗談だよね?」とソワソワしてるところに、「............うん。冗談......ってことにしとくよ」とか言いながらジュンがやっぱり部屋の隅の斜め上ぐらいにむかって会釈をするもんだから、「俺も行くッ。みんな待ってッ」とスングァンが慌てて出かける準備をしはじめるはめに......。
ただ皆で行きたいって言えばいいだけなのに、謎に嘘をつくジュンだった。
けれどただただ謎すぎて大きな被害が出る訳でもないので、皆に流されることの多い嘘だった。
ホンジスは、適当に嘘をつく。
実はジュンと同じような嘘をつく。
ドギョムが部屋から出てきた時に、「トイレはエスクプスが腹が痛いって籠ってるから」とか、さらりと言う。
ドギョムもまた別にトイレが行きたかった訳でもないけれど、そう言われると行きたくなるから不思議だ。だから「じゃぁちょっと上行ってくる」と二階上にあるもう一つの部屋に向かうと、そこにエスクプスがいたりするのだ。
ジョンハンがそこにいるからだろう。
「シュアヒョンに、トイレにクプスヒョンが籠ってるからって言われて、俺こっち来たのに」
首を傾げながらそう言えば、皆が「お前のことを上に行かそうと思ったからじゃないの?」と言う。
不思議なことにジョシュアの嘘は、大抵が優しさ故と思われるのだ。これを人は、日頃の行いというのかもしれない。
なので誰も嘘だと思わない現象が起きるため、嘘をついた理由も当然誰も知らないまま。
ジョンハンが「それマズイよ」と言えば、「えぇい、ヒョン。自分が食べたいからって嘘言わないでよ」と言われるのに、ジョシュアが「それマズイよ」と言えば、「え、そうなんだ」と普通に皆が信じるだけ。しかもたとえそれが美味しかったとしても「シュアヒョンの口にはあわなかったのかな?」と思われるだけなのだから凄い。
「俺、今日も誕生日だよ」
時々、どう考えても明らかに嘘と判る嘘をつくのに、皆が笑ってくれるから不思議だ。しかもそんな嘘に、皆が優しく「おめでとう」と言ってくれたり、ジュースとかを奢ってくれたり、マンネたちは「センイルチュ~カ~」とバースデーソングまで歌ってくれる。
実はかなり適当な嘘を、何きっかけかも判らないようなタイミングでついているというのに、被害者が出ないという現象が起きる、ジョシュアの嘘だった。
ソミョンホは、強気な嘘をつく。
ディエイトは大人しそうに見えて気がきつい。優しそうに見えて、自分を曲げることをしない。繊細そうに見えて、自分が欲しいものなら、どんなことをしたって手に入れてもいいんじゃないかと思ってる。
だから結構強気な嘘をつく。
「ヒョン、ご飯行こう。こないだ約束したし」
兄たちにそう言えば、大抵ご飯に付き合ってくれるし、当然奢ってくれる。
時々「約束なんてしたっけ?」と問いかけられるけど、「約束は絶対したよ。でも、1歩譲って約束してなかったとしても、約束してなくちゃご飯にも行ってくれないってことなの?」と聞けば、大抵はやっぱり一緒にご飯に行ってくれる。
どうやらディエイトは譲って1歩らしい......。
同じ年のドギョムとミンギュにはもう少し強気。
「約束してた買い物、今から行こう」
そして強引。
「約束なんて俺たちしてたっけ?」
「いやしてないと思う」
ドギョムとミンギュが首を傾げてると、「約束はしたよ。二人ともボーっとしてるから覚えてないだけだよ。絶対したよ。それに約束してなかったからってなんだよ。買い物は行くよ。ほら」とさっさと出かけようとする。
まぁ、確かに約束はしてなくても買い物は行くかも......と、人の良いドギョムはすぐに納得。
あぁ、ボーっとしてて聞き逃したかも......と、日ごろの自分を思い出してミンギュは勝手に反省。
そしてディエイトの希望通り、3人で買い物に行くのだ。
弟たちにも、やっぱり強気。
「今日は弟組でご飯に行く日だよ~」
ドギョム以下ディノまで、全員が不思議顔。今日がそんな日だったことを、はじめて知ったから。
「ごめんヒョン。そんな約束というか、予定というか、俺たちいつ決めたっけ?」
スングァンが慌てて聞けば、「約束なんてしてないけど、嫌なの?」と普通に答える。いやもはや嘘でもない。ただの無理難題。
でもそう聞かれれば、嫌でもない。ただただ唐突で皆がそれぞれ驚いただけ。
結局ディエイトの希望は大抵が叶う。しかも何故かドギョムとミンギュが弟組のご飯会のお金を払っていたりして........。
ディエイトは、謎に強気な嘘をつく。
イチャンは、マンネな嘘をつく。
ディノには兄が12人もいる。それは心強いけど、悩み事がある時に相談する時には気を遣う。
「ヒョン、どうしたらいいかな?」
とりあえず、ジョンハンに相談に行く。1番に行かないと、後でバレた時にスネるから。
本気で相談には乗ってくれるけど、見た目と違って男っぽいジョンハンは、大抵がディノの悩みを理解できない。きっと悩まない性格だからだろう。
「ヒョン、どうしたらいいかな?」
とりあえず、エスクプスにも相談に行く。やっぱりリーダーだから、悩み事は話した方がいいと思うから。
真剣な顔で聞いてくれるし、真剣な回答をくれる。だけど結構模範解答な感じで、頭では判るけど心が納得できない感じ。
「ヒョン、どうしたらいいかな?」
なんとなく、ジョンハンとエスクプスときてジョシュアに話しかけないのはマズイかもしれないと思って、ジョシュアにも相談に行く。
「好きにしたらいいんじゃない?」
見た目繊細なジョシュアも案外大雑把な、回答にもならない言葉をくれる。
ここまで来たらもうなんか、ついでだから? どうせだから? とりあえず上から順番に攻めて行こうって気分になってくる。
ジュンに聞けば、整った顔で頷いてくれる。そしてそのまま去っていく。多分パスってことだろう。
ホシに聞けば、「ヒョンがなんとかしてやるよ」とは言ってくれるけど、回答は出ない。優しさは十分くれるから良しとしようって感じ。
ウォヌに聞けば、「ゲーム貸してやるよ」と慰められる。しかし相談ごとは解決しないけど......。
ウジに聞こうとすれば、「甘えんな」と食い気味で言われる。まぁ確かに......と思わなくもない。
ここらへんですでに、なんだか悩んでるのもバカらしくなってくるけれど、ここまで来たら全員制覇だ......って気がしてくるから不思議だ。
ドギョムに聞けば、「俺もちゃんと考えてみる」と真剣に言ってくれる。だけどその回答が、数日後なら早い方で、大抵がディノ本人すら忘れた頃にやってくる。
ミンギュに聞けば、「腹いっぱい食べろ」と料理を作ってくれる。悩みの解決にはあまり役には立たないが、腹は膨れる。
ディエイトに聞けば、一刀両断。「悩みは一旦忘れて、解決できる時期になったら思いだしなよ」と、なんとなく凄い精神力が必要な感じの回答。しかしそもそもそれができたら悩むこともないような気がしないでもない。
人数が多い......とはよく言われるけれど、一番そう思ってるのはもしかしたら自分かもしれないと、ディノは思う。そしてこの頃にはもう疲れ始めていて......。
「悩みあったんだけど、相談するのが面倒になってきた」
バーノンとスングァンの前ではさらに適当になっていた。
「え? それって相談するのが面倒っていう悩み?」
ちょっと天然なバーノンがそう言えば、「悩みは解決したってことだよ」と鋭いスングァンが言う。
ディノはマンネな嘘をつく。だけど兄たちが12人もいるから、誰かは受け止めてくれるし、誰かは聞き流してくれるし、誰かはツッコんでくれるし、誰かは怒ってくれるし、誰かは慰めてくれるし、誰かは笑ってくれる。そして誰かが、一緒にいてくれる。
「今日は雨降るって言ってたよ。嘘だけど」
イソクミンは、バレる嘘をつく。というか、自分でバラす嘘をつく。性格だろう。
「ヒョン、嘘なの?」
ディノが聞けば、素直に頷く。
「ヒョン、何がしたいの?」
ディノに問い詰められて、「嘘ついてみようと思って」と素直に言う。
「で、だからヒョン、なに? 嘘だけどって言わないでよじゃぁ」
「でもそれだと、嘘だから」
「え? だから嘘つきたいんだよね?」
「そうだけど、嘘だから」
「え? ヒョン、でも嘘つきたいんだよね?」
優しさの塊のドギョムと、素直なディノのやりとりを横で聞きながら、皆が笑ってる。
ディノだけがまだ学生だった頃の話。
天気予報は一日中快晴のはずだったのに、ドギョムがそんな嘘をついたからか、昼から急にどしゃぶりになった日。
雨降るって嘘をついたばっかりに雨が降ってしまって、ドギョムが傘を持ってディノを慌てて迎えに行った日。
「ヒョン凄いよ、嘘だけどってのも嘘だったんだね」
ディノはそう言って新たな嘘のつき方だと謎に尊敬していたけれど、そんなはずもなく、自分には嘘は無理だと反省していたドギョムだった。
ドギョムの嘘は、嘘じゃなかった嘘だった。
ユンジョンハンは、ちょっと大人な嘘をつく。
騙されるのは、もっぱらチェスンチョルだけだけど。
『あの時、ほんとにキスするのかと思った』
『あ、ごめん送信間違い』
そんなメッセージを送ってくるから。
現在6階と8階に別れて暮らしているというのに、一分もたたずにエスクプスが二階分を駆けあがってくる。
「ユンジョンハンッ。今の誰に送ろうとしたんだよッ。いやそれ以前に、誰だよお前にセクハラまがいのことをしてるのはッ」
「おぉ、早い~~~」
ジョンハンが喜びながら抱き着いてきてくれるから、「なんだよ嘘かよ〜」と安心するエスクプスだが、しっかりと「スマホ見せて」と本当に誰にもそんなメッセージを送ってないかはチェックしていたりする......。
「もぉ、『来て』ってメッセージだけで、俺は来るって判ってるだろ」
「だってそれじゃぁ、猛ダッシュでは来ないじゃん」
「まぁそうだけど」
「じゃぁいいじゃん」
「まぁいいけど」
そんなやりとりを、リビングでやられたらたまらない。
なのでジョンハンの嘘は迷惑と言えば迷惑な嘘だったけれど、実質被害者がおもに一人だけなので、問題ないと言えば問題ない。何せ嘘をつかれたエスクプスも最終的にはちょっと喜んでいるように見えるし、実際に喜んでもいるんだろうから。
ジョンハンの嘘は、ただの愛情確認のための、エスクプスに向けられる嘘だった。
ブスングァンの嘘は、嘘にならない嘘。
「俺、今度ソロデビューする」
「俺、今度映画に出る」
「俺、今度実家帰る」
「俺、今度ラブラブデートする」
「俺、」
山ほど嘘をつくというのに、横で聞いてるバーノンが『そうなんだ』って顔で頷くだけだから。
驚く顔を見せる時も、凄いなって顔を見せる時も、ただただ優しい顔を見せる時もあるけれど、大抵はニコニコ笑いながら頷くだけだから。
「ヤー、俺の今の、全部嘘だからッ」
そう言っても、バーノンは怒るでもなく驚くでもなく悲しむでもなく、『そうなんだ』って顔で笑ってる。
「なんか言えよ」
「うん。いつか、お前は映画に出るし、ソロデビューもすると思う。実家には俺も一緒に行きたい。ラブラブデートは俺としたらいいじゃん」
「............」
スングァンの嘘を丸のみしてくるバーノンのせいで、スングァンの嘘はその効力を失ってしまう。
「な?」
「......うん」
スングァンの嘘は、バーノンのせいで嘘にならない嘘だった。
チェハンソルは、嘘ごとブスングァンを愛してる。
生意気そうな顔で声で「嘘だよッ」って言われたってムカつくこともイラっとすることもかく、ただただ愛おしいんだから、しょうがない。
ずっと昔、幼かった頃は「なんで嘘つくんだよッ」って言い争ったこともあったはずなのに、いつからこんなに、嘘ごと愛おしくなったのか。
同じようにバーノンが「嘘だけど?」って言うと、物凄く傷ついた表情を一瞬みせて、それから怒って見せるから、愛おしいやら可哀想やら可愛いやら。だからすぐに「嘘って言ったのは嘘だけど」と言ってしまう。すると驚くほど嬉しそうな表情を一瞬みせて、それからやっぱり「なんだよ、もぉ〜」と怒るから、やっぱり愛おしい。
嘘は誰かを騙したり、傷つけたりするかもしれないけれど、嘘すら愛おしいなら、嘘だって悪くない。
だって話す言葉の全てが嘘だと言われても、もう傷ついたりはしない気がする。
バーノンは、嘘ごとスングァンを愛してるから......。
クォンスニョンは、嘘をつかない。
「俺は嘘は言わない」と、日ごろからホシ自身も言っているから。
そして口にした言葉を、現実に変えていこうと、常に努力してる人だから。
「ジフナ。俺たち、いつか、1位取って泣くぞ」
まだ練習場だけで歌ったり踊ったりすることが日常だった時に口にした言葉も、結局数年かかったけど現実になった。
だからやっぱりホシは嘘をつかない。ホシは口にした言葉を、本気で現実にしようとしてるから。
いつかを信じていて、そこに向かって努力を怠らない人だから。
ホシだけは、嘘をつかない......。
イジフンは、嘘しかつかない。
「でも俺たちは、お前の嘘で夢を見てる」
エスクプスはそう言うけれど、プロデューサーな自分も、曲を作る自分も、歌詞を書く自分も、全部全部虚像だと思うから。頑張ってはいるけれど、世間から言われてるほどのことは全然できてないと思ってるから......。
「いつか、追いつけばいいよ」
ホシはそう言うけれど、ほんとの自分と、つくられた自分の距離は遠すぎるほど遠い。
「俺もそうだよ。天使な俺は虚像だよ」
ジョンハンはそう言うけれど、ジョンハンの天使は、ジョンハン自らがつくりあげた虚像だから......。
「嘘でもいいよ。そもそもアイドルなんて虚像だから」
ジョシュアはそう言うけれど、アイドルって虚像以上の嘘を、ついている自分がいるから。
ウジが嘘しかつかないと思っていることを、他のメンバーたちは知らない。
同じ年のジュンやウォヌや、同室のミンギュは気づいているかもしれないけれど、弟たちは知らない。
ウジは嘘しかつかない。でもセブチの半分以上は、その嘘でできているから......。
ウジは嘘を、つき続ける。
チェスンチョルは、嘘をすべて受け止める。
エスクプスは嘘を否定しない。嘘かもしれない話しも、確実に嘘だと思われる言葉も、嘘だったらいいなと思う出来事も、すべてそのまま受け止める。
大きな夢を見て華やかな世界にいるはずなのに、宿舎と移動車とスタジオとカメラの前と。思った以上に自分たちが暮らす世界は狭いから。
嘘ぐらいつかなきゃやってられないはずだから。
小さな嘘も、大きな嘘も、くだらない嘘も、ついてはいけない嘘も。
そのすべてを受け止める。
「ヒョン。俺、嘘つきすぎじゃないかな?」
不安そうな目をして、そうジフニが言ったあの日から、エスクプスは、嘘をすべて受け止めると決めたから......。
エスクプスは、嘘をすべて受け止める。
チョン・ウォヌは、嘘をつくのか。
練習場にいたウォヌに、「出前取るけど、一緒に食べる?」とホシが聞いたら、「あ、悪い。俺この後、待ち合わせ、ウジとデートだから」と衝撃発言を残してウォヌが去って行った。
「えぇ、いいなぁ」
スングァンは羨ましがって、バーノンに「一緒にお茶しに行こ」と誘っていた。
「嘘だろ............」
ミンギュは結構なショックを受けていた。どっちによりショックだったのかは謎ながらも、ヨロヨロになりながら個人の仕事に向かっていった。
「へぇ~」
年上三人は別に驚きもせず、普通な顔。そして「俺たちも外で食べるわ」と出て行ってしまった。
ウジは別仕事でもともといなかった。だから外で待ち合わせなんだろう。
結局残されたのは、パフォチメンバー4人とドギョム。
衝撃を受けすぎて言葉を失っていたホシがかなり使い物にならない状態だったので、珍しくもジュンが「出前何がいい?」とその場を仕切っていた。
「デ、デ、デートだなんて、俺聞いてないけど?」と、ホシが言う。しかも出前が来て皆が食べ始めていたから、その言葉を口にするまでどれだけかかってるんだっていう感じ。
「いや、まぁ、ウォヌヒョンとウジヒョンのデートなんだから、ホシヒョンには関係ないし」
ディエイトが悪気なく、さらに傷を広げようとしていた。そしてホシが泣きそうになっていた。
「ヤバイ。俺、なんで後つけなかったんだろ」と、ホシが言う。しかも全員が食べ終わった頃。ディエイトの言葉からようやく立ち直ったんだろう。
この後パフォチメンバーで練習する予定なのに、到底役には立ちそうにないパフォチリーダーのホシだった。
「どこに行ったんだろう」「何してるんだろう」「デートって何するの?」「いつ帰ってくるの?」「てか、なんで俺、やっぱり後つけなかったんだろう」などなど。堂々巡り。
「ヒョン。練習にならないじゃん」
マンネなディノが「もぉ~~~~~」と言いながら、「電話したらいいじゃん」とこれまた当たり前なことを言って、ホシを驚かせていた。
「ほんとだ。電話だ!」
ホシがウジに電話するのかと思ったら、電話を架けさせられたのはディノだった。もはや自分で電話をする気力もないらしい。仕方ないのでディノが電話した。スピーカーフォンにして。
「ヒョン、今どこ? ウォヌヒョンと一緒って聞いたけど」
『おぉ、今、吊り橋前で待ってるとこ』
「吊り橋前????」
聞きなれない単語に、どこまで行ってるのかと全員が「うぉ?」って顔。
「俺聞いてないけど?!」
黙って聞いていたホシが何故か叫ぶ。それにも全員が「うぉッ」って顔。
『あ? 何が?』
「今日ウォヌと一緒だなんて、俺聞いてない」
『言っただろ? それに誘ったし。断ったのはお前じゃん』
ウジの言葉に、さらに全員が「うぉぉお?」って顔。
「さ、誘われてないよ。誘われてたら俺が断る訳ないじゃん」
ホシが泣きそうな顔で叫ぶ。
『ぁあ? 俺がお前を誘わない訳ないじゃん』
ウジも言い返す。
スピーカーフォンなのに、なんだか聞いていていいのか......と、ディノが自分の手の中にある電話を切ってしまった方がいいんじゃないかと慌てはじめた頃......、普段は不思議な行動しかしないジュンが、今日は落ち着いていて、一番まともな行動をとった。
「ちょっと待って。ウジ、今、どこで待ち合わせ中って? もう1回言って。詳しく」
『え? 待ち合わせ? だから吊り橋の前だって、山小屋の前のスキルチェックできるとこの横の』
「..................」
電話のこっち側では、微妙な沈黙。
どう考えても、ウジとウォヌが待ち合わせしてるのはオンラインゲームの中の世界だったから。
「あ、そういえばこないだ、一緒に新しいゲームしようって俺誘われたわ。ウォヌがコイン一杯あるから、防具とか買ってくれるって言ってた」
ホシが何やら思い出したらしい。
「とりあえずヒョン、ゲーム頑張って~」
ディノが電話を切った。特にホシも止めず、エヘヘと笑ってた。
「え? ウォヌヒョンなんであんな嘘ついたんだろ?」
ディノは言うけれど、「ウォヌは嘘なんてついたつもりないだろ」とジュンが言う。
「確かに、ウォヌは普通に俺たちと生きてるけど、ゲームの世界でも生きてるから」
さっきまでの動揺っぷりは嘘のように、ホシが落ち着いて言う。いや、そんなカッコつけて言われてもって感じ。まぁでも言いたいことは判る。
ウォヌに昨日何してた?と聞けば、普通に「練習」「スタジオ」「釣り」「世界制覇」とか、聞きなれた単語と聞きなれない単語が混ざって返ってくるから。
「とりあえず、無駄にした時間分、練習頑張ろうぜ」
ホシが言う。当然全員が、『どの口が言うんだそれを......』という視線。
ウォヌは嘘をつかない。けれどウォヌの世界の半分以上は、嘘のような世界でできている。
The END
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