キムミンギュは結婚式場で働いている。
男前だし身長は高いし、手先は器用だし立ち回りも上手い。だから重宝されていたけれど、時々、本当に時々だけど物凄いうっかりを発動する。
だから結局、結婚式当日だけはと裏方に回されている。
いわゆる音響スタッフだったり、準備と後片付けだったり、歌って欲しいとか踊ってほしいとか、結婚式のスタッフには何をお願いしてもいいと思ってる人のために、日夜頑張っている。
ディエイトは結婚式場で働いている。
言葉が苦手だったから、人の視線や動きを見て働くのが得意になった。だから困ってる人を見つけるのも上手いし助けるのも上手い。
だから物凄い重宝されていたっていうのに、ミンギュと友達だからかうっかりに巻き込まれることも多い。だから結局結婚式当日は、完全に裏方とまではいかないが、半分ぐらいは裏方で働いている。
イソクミンは結婚式場で働いている。
働きぶりは誠実の一言に尽きて、見学や相談に訪れる、主にご両親とかに人気が高い。
これから結婚する娘の婿に来て欲しいと言われることも数度。あまりの評判の良さに常の査定は常にトップなのに、予定通りに進むことの少ない結婚式当日には、裏方にいる。
厳かな雰囲気に負けて緊張するからだろう。臨機応変さが多少苦手だってこともあるかもしれない。
「だいたいさ」
そう言い始めたのはディエイトで、大抵文句を口にする時にはその言葉から入る。
「ワインを注いでる俺に、なんでお前ぶつかってくるの?」
まぁ怒るのもしょうがない。結婚式場では基本キレイな服を来た人ばかりなのに、ワインを注いで回ってるディエイトを狙ったかのように、ミンギュがぶつかって来たんだから。
「いやそれ、俺のせいじゃないって。ドギョミが急に写真撮り始めたからじゃん」
ミンギュだってわざとじゃないと言い返す。
まぁ今回は確かに、結婚式は新郎新婦が主役だというのに、もはや関係ないとばかりに突然集合写真を撮ろうとしはじめた親戚のおじさんおばさんに頼まれて、ドギョムがカメラやスマホを渡されてワタワタしていたから......。
「そんなの、後でお時間取りますのでお待ち下さいって言えばいいだろ」
ミンギュの言葉はその通りだけど、聞いて納得するのはいつだって何かが終わった後のこと。
まぁ巻き込まれたからと言ったって、ミンギュだって自分が不意に滑った認識はある。ディエイトにぶつかったのは確かで。
ディエイトだってまさか誰かがぶつかってくるとは思わないから、テーブルの上にワインをぶちまけて呆然としたけれど、それでクビになることもなかったし、補償問題に発展することもなかった。
なにせ自分たちの親戚が無理を言った結果だと判っているからか、おおらかな人たちだったからだろう。
でもやっぱり、結局、3人は結婚式場からつまみ出されるようにして、「なんでこう本番当日は役に立たないんだ」的なことを言われたけれど......。
ミンギュは紙吹雪を裏から巻く役になった。
ディエイトはスモークを焚く役になった。
ドギョムはウェディング・ベルを鳴らす役になった。
完璧に裏方だったし、3人で「お前がお前がお前が」と文句を言い合いながらだったけど、それでもまぁ楽しそうに働いてはいた。
それにいざとなったら、どうしたって助け合う3人ではいた。
まぁドギョムは結構助けられる方ばかりだったけど。
今もほら、なんでか音が鳴らないベルがあって、良い所で音が出ずに思わずズッコケてるミンギュがいて、ディエイトはスモークを自動に変更してドギョムのもとへと走っていった。結局持ち運ぶ時とかに音が鳴らないようにするストッパー的なものがついたままだったようで、ディエイトがそれを外せばベルの音色は完璧だった。
ドギョムは「ありがとう」と喜んで、ディエイトもうんうんと頷きながら喜んで、それを遠くから見てたミンギュも良かったと喜んで。
なんとなくそこで終われば全体的に良かったっていうのに、なんでかミンギュはディエイトが置いてったスモークの機械を手にしてた。自分の手には紙吹雪もあるってのに。スモークとともに紙吹雪が舞う。だけど舞うというよりは、ちょっと水分に負けてベチョって落ちて行く。そしてそれが綺麗なテーブルの上とか、あろうことかご親族の髪の上とか、料理の上とかにまで............。
「あ、ヤベッ............」
ディエイトが慌てて戻って来たけど結構後の祭り。
結局3人で掃除したり謝ったり怒られたり............。
裏方ですらなくなるのは、そう遠いことではないかもしれない3人だった。
The END
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