妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

揺れる

 

スングァンはその日個人のスケジュールで、スタジオに来てた。
広い倉庫の中を区切って、出演者たちの待機場所を作ってた。もちろんもっと大御所の人たちにはちゃんとした個室が用意されていて、スングァンだってマネージャーを通して部屋を用意しましょうかとの確認があった。
当然スングァンは断った。場所なんてどこだっていい。もはや確実に新人ではなくて、1人でも活躍の場があって、実績は着実に積みあがってきていて、現場のスタッフさんたちからの覚えもめでたくて、なによりスングァンはいつだって新人のつもりで油断なく出せる力は出し切る覚悟で番組に臨んでる。
チャンスの神様を、再契約だってしたアイドルだってのに、今でも真剣に逃すまいと思っているのだ。

隣りのスタジオでは、たまたまだけどヒポチが雑誌の撮影で来ている。
後で行こう。そう思ったらさらに仕事への意欲が沸いた。
同じメンバーにだって負けたくないから。何より自慢して貰えるような弟でいたいから。
そして何よりヒポチには、唯一のチングのバーノンがいるから。

ヤル気満々で衣装に着替えて髪だってセットして、手にはアイスコーヒーを持って共演者の人たちとも談笑しつつ、撮影がはじまるのを待っていたのに、残念ながら撮影ははじまらなかった。

それは地面が揺れたから。
一瞬立ち眩みかと思った。でも自分が原因じゃなくて周りが揺れてるんだと気づいた時にはもうあちこちで誰かが「地震だッ」って叫んでた。
撮影現場のカメラや照明も驚くほどに揺れていて、普段は黙って働くタイプの監督さんとかが大声で「下がってッ」と叫んでいたけれど、スングァンはよろめきはしてもそれ以上には一歩たりとも動けなかった。

気づいた瞬間から怖かったけど、逃げることもできないし、怖くてしゃがみ込むこともできないし、撮影直前だったからマネヒョンは近くにいないし、泣きそうになりながらもスングァンは持ってたアイスコーヒーを両手で握りしめていた。

でも、怖かったのも一瞬だったけど。
それは揺れが収まってきたからじゃなくて、物凄い勢いで走って来たエスクプスが、「スングァナッ! スングァナどこだッ!」って、スタジオの入り口で叫んでくれたから。
「クプスヒョンッ!」
スングァンが叫べば、そのままの勢いで駆けてきてくれて、抱きしめてくれて、ケガがないことも確認してくれて、スタジオの外に連れ出してくれたから。
もうその頃には揺れも大分収まってきたけれど、韓国には珍しく大きな地震ですぐにテレビでも速報が流れてた。
「なんで、ヒョン俺がここにいるの知ってるの?」
エスクプスに抱きしめられたまま問えば、「当然だろ? 後でみんなで寄ろうって言ってたんだよ」と、スングァンと同じ気持ちだったことを知る。
大きな地震だったから余震が来るかもしれないと言われてて、撮影は中止になった。
「ビックリしたビックリした」と、本当に目を真ん丸にしたバーノンがやって来た頃にはスングァンは落ち着いていて、なのにまだエスクプスに抱きしめられたままでちょっとだけ恥ずかしかったほど。
でも、それ以上に嬉しかったけど。
エスクプスはいつだって、スングァンのことを当然のように助けてくれるから。
いつだって判ってる。大切にしてくれて、守ってくれて、当然のように愛してくれる。だけど今回のように本当に駆けつけてくれると、その大きすぎる愛に心が震える。
「クプスヒョン、俺とディノが反対のスタジオで仕事してたら、どっちに走るの?」
そんなバカな質問だってしてみるけれど、さすがスンヘンソル。
悩んだ素振りも見せずに「お前に決まってるじゃん」と言うから。その後にしれっと、「だってお前の方が鈍臭そうじゃん。ディノは反射神経あるもん」とも言われたけど、それでも自分を選んでもらえて嬉しいでしかない。

怖かったけど、凄いエスクプスがカッコ良かったと、その日一日、メンバー全員にもスタッフにも、「何回目だよその話」って言われても、何度も何度も口にしたスングァンだった。

The END
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