「シュアヒョ~ン。俺、ちょっとあっちの山の向こうまで行ってくる~」
ホシが叫ぶ。でも「は~い」ってジョシュアが返事をする頃には、もうその姿は見えなくなっていた。
ホシは虎で、小さい頃はカワイイばかりだったのに、今は黄色と黒が鮮やかで目を引く本物の虎だった。まぁでもウサギに育てられたから、ちょっと変わってるけど。
ジョシュアはウサギで、真っ白で長い耳が自慢。走ったらなかなか早いけど、面倒だからあまり走らない。クリクリの尻尾は可愛すぎてなめられるからと普段から隠してる。
自分ではウサギの中のウサギだと自負してるっていうのに、仲間うちからは変わり者と言われてた。まぁ、虎を拾って育ててしまったからだろう。
ある時ホシは、流木に必死に捕まりながら川を流されていた。ミャーミャー泣いていたから、遠目にはちょっとデカいけど猫にも見えなくもなかった。でも助けてみれば虎だったけど。
放っとけば良かったのにとは良く言われるけれど、そのままだったら確実に死んでただろう。
まぁでもジョシュアだって、こんな大人になるまで一緒にいるとは思ってもみなかった。ある程度大きくなってジョシュアをウサギと認識したら、そして自分でエサを獲るようになればさっさといなくなるだろうと思っていたのに、ホシは小さい頃のまま、ジョシュアの後をついてくる。
おかげで仲間たちは、ジョシュアの傍には寄ってこなくなった。
時々はエスクプスやジョンハンが訪ねてくれるけど、それもホシがいない時だけだった。
まぁそれも仕方がない。
ホシは「ウサギは食べない」と言うし、お腹が空けば山を一つ以上は超えて食事を探しに行くけれど、どうしたって肉食獣だから本当ならウサギはご馳走だろう。
だからジョシュアは、いつだって健康を心がける。
不味いものだって身体に悪いものだって食べない。
いつかホシが自分のことを食べた時に、お腹を壊すようなことがあってはならないから。
そう言えば、エスクプスもジョンハンも呆れて言葉もでないって感じだったけど、食べられてもいいかもって思うぐらいに、愛情を注いでしまったんだからしょうがない。
きっとホシは泣くだろう。優しい子だから。
あぁでもホシが飢えるぐらいなら、食べられたって構わない。
ミャーミャー言ってたホシが、はじめてガオって哭いたのも覚えているし、鋭くなった爪を木で研ごうとして外れなくなったと泣いていたのも覚えてる。だいたい、あちこちの岩場や山道をジャンプすることも駆けることも教えたのだってジョシュアだったし......。
それでも、いつかウサギは食べられる............。
The END
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