あの日............。もし、一緒に行かなかったら、今が違ったかもしれない。
好きだとか、愛してるとか。一緒にいたいとか、離れたくないとか。
お互いが特別な存在だと認識するどころか、多分特別な存在でもなんでもなかったのに、負けず嫌いが発揮されただけのキスが、きっとその後の未来を変えた。
はじめてのクプスの誕生日は、少し醒めた気持ちで過ぎ去った気がする。
その後の自分の誕生日も、作り笑いで返したありがとうだったはず。
少しだけお互いに歩み寄りはじめた頃。練習室でいつも通り踊ってたのに、クプスが先に帰ろうとしてたのはウジの誕生日。
追いかけたのはたまたまで、ついて行ったのは興味本位で、それがウジの誕生日プレゼントを買い求めるためだと知って、ちょっとだけムッとしたのは嫉妬とかじゃ全然なくて、多少なりとも親しくなりはじめて、チングだと認めはじめたからだけのこと。
「俺には何もくれなかったじゃん」
そう言えばクプスも「お前だって俺に何もくれてないじゃん」と言い返してきた。
買ったのはただのキャップだったはず。それほど高いものでもなかったけど、相手のことを真剣に思って探した分だけ気持ちがこめられてて、単純に羨ましかったのを覚えてる。
クプスも気まづかったからか、「ほら、ジフニとは付き合いも長いし」とかなんとか、二人の関係性を説明されてるうちに、イライラが募ってた。大したことはないけど、付き合いだけは長いから。色んな事を、ジフニとは乗り越えてきたから。辛いこととか、困ったこととか、嬉しかったこととか、ほんと全然大したことじゃないけど、思い出がたくさんあって、あいつはほんとに、俺にとっては弟みたいだし......。
宿舎への帰り道、聞かされた話の数々は、後から考えたら全部ほんとに大したことのないエピソードだったけど、クプスの後ろを歩きながらずっとムッとして、口数も少なくなっていて、なのにクプスはそれに気づかずに話し続けて。
きっと今なら気づいてくれるだろう。ジョンハンが不機嫌なことにも、その不機嫌の原因にも。
「だからなんだよ。その関係性って」
そんなの。そんなの一瞬で越えられる............。
宿舎のマンションの階段をあがりながら、振り向いたクプスの胸倉をつかんで引き寄せたのは、ただただ悔しかったから。負けず嫌いだったから。
自分から引き寄せて、近づいてきたクプスの唇に、唇を重ねたのは、意味なんてないキス。
でもあの日、あの時、もしも一緒に行かなかったら。
クプスよりも、自分の方が驚いていたかもしれない。
でもちょっとだけクプスよりも、冷静だったかもしれない。
「あ、俺でも、ジフニともキスしたことあるけど」
甘い空気にもならなかった。クプスがバカみたいなことを言うもんだから。でも負けず嫌いだったから、もう一度クプスを引き寄せた。
「舌は入れなかっただろ」
そう言いながら、二度目のキスはちょっとだけ長かった............。
選ばなかった未来の先には、全然違う未来が待っていたかもしれないと、時々思う。
でも、はじめてのキスがウジの誕生日じゃなくて、ジョシュアの誕生日になっただけぐらいの、違いかもしれないとも思う。
The END
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