「ちょっと、休もう」
エスクプスにそう言ったのは、ジョンハンだった。
メンバーの中でそれを知ってるのは、ジョシュアと、ホシとウジだけ。
どれぐらい時間がかかるのかも判らないなか、それを口にするのは怖かった。正直、戻って来られるのかすら、判らなかったから。
でも失う訳にはいかないから、それだけは絶対だから。
もしも、どうしてもの時は............、エスクプスと二人、このまま、どこか遠く。
そんな覚悟だって決めたはずなのに、十二人で舞台に立ちながら、この場所を失えるのか、仲間たちと離れられるのか、歌うことも、踊ることも諦められるのか、何度自分に問いかけただろう。
誰も知らない、自分の心の中だけのこと。それこそクプスにもそんなことは言わなかった。だから本当に知ってるのは自分だけで、そんな覚悟、なかったことにしたって問題ないはず。
でもそのたびに、クプスを失えるのか、それこそ、このまま離れられるのか。何度も考えた。
だってホテルに戻るたびに、時差なんて気にせずに電話をかけるのはいつだって自分の方だったから。
電話が繋がらないことが怖くて、繋がったことが嬉しくて、「疲れてるだろ? 寝ろって」ってクプスの声を聞くたびに、泣きそうになってる自分がいたのに。
ただ帰ってくることを願いながら待つだけで良かったのに、自分の心がクプスを、そして自分をも裏切ってる気がして息苦しかった。
クプスとの電話の後で、いつだってバカみたいに泣いてた。
誰も何も言ってないのに、何一つ決まってもいないのに、勝手にクプスと自分と仲間たちの間で苦しんで、息苦しくて立ち上がれなくなった時、とうとうシュアに話してしまった。
覚悟を決めたはずなのに。絶対に離れられないって思ってるのに。でも今の場所も捨てられないんだと............。
クラクラするし、起きているのも辛いし、泣けてくるし。でもクプスには電話したいし、自分までこんな状態じゃ、弟たちが心配するだろうってことも気になるし、クプスがいない今、これ以上誰かが休む訳にはいかないのに。
「まだ何も起きてないよ。大丈夫。俺たちはいつだって、最善を尽くしてきたんだから」
シュアの声が落ち着いてて優しくて、倒れるようにしてベッドに沈みながら、涙が止まらなかった。
その日、ベッドに腰かけたシュアが、ずっとそばにいてくれた。
時々、「辛かったね」と言われたら頷いて。「でも、クプスが戻って来るって信じてるだろ」と言われて頷いて。
「お前が、誰のことも裏切らないって信じてる」
そうも言われてまた泣いて。
「十三人で笑ってる未来しか見えない」
優しく見えて強気な発言をするシュアの言葉に時々笑って。
休んでたクプスよりも、もしかしたら自分の方がフラフラになった数カ月だったかもしれない。
自分の方がよりクプスを思ってるって気づいた、数カ月だったかも。
弟たちが頼もしいことにも気づいて、世界中のカラットの優しさに気づいて、たくさんのスタッフに支えられてることに気づいて、より十三人でいることの幸せに気づいて、歌が好きなことに、踊ることが楽しいことに気づいて。
ずっとずっと、一緒にいたいと気づいた数カ月。
海外での仕事中は当然会えなかったけれど、国に戻っての仕事ではクプスが参加することも増えていき、年が明けた時には、活動再開時期の話し合いももたれるようになって。
春には......。そんなアバウトな話だったのが、急に現実になって、気づけば復活すると、クプス自身が口にする日が来て......。
「おかえりなさい」と、スタッフたちも泣き笑う。弟たちが、喜びながら泣き笑う。世界中のカラットたちも、泣いて泣いて泣いて、泣き笑う。
自分も泣くかと思ったのに、笑って「おかえり」と言えたジョンハンだった。たぶんこの数カ月、泣きすぎたからかも。
「おかえりクプス」
笑って言えた............。笑って言えた。
The END
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