まだ1が終わってない。が、並走して2を書き始めることに。まぁいいじゃろ。
自然の摂理に反してる2
噛まれたらその瞬間に異形のものになるのかと思ったら、噛まれたって別段変わらなかった。
密かに多少は美形になるのかと思ったけど、それも変わらなかった。
そして案外、噛まれたら痛かった。
「痛いんだけど」
そう言えば、「うん。噛んでるから」と言われた。
「いやそうじゃなくて、ほら、牙とかが刺さる感じじゃないの?」
そう言えば、「いや、牙なんてないし」と言われた。
「え、ちょっと待って。普通にガバって噛んでるの? もしかして?」
そう言えば、「うん。そう」と言われた。
「え、それになんの意味があるの?」
「え......、さぁ」
「え?」
最悪コレ、噛むのなんてなんの意味もなかったってパターンもあるだろう。
なにせジュンにはそういう所がある。
長く生きてるからって何でも知ってる訳じゃないってことは、それこそ長い付き合いで嫌というほど判ってる。
ただの頭痛薬を、「薬だ」と言ってお腹が痛くても、気持ちが悪くても、足を怪我しても飲まされていた。何かがおかしいと気づいたのは、大分大きくなってからだった。
教えてもらったトイレの方法も間違っていた。トイレの中の作法なんて大人になっても誰かと答え合わせをするなんてしないから、かなり長い間騙されていた。それをドラマを見て気づいた時には震えたほどだった。
お金の価値だってジュンはおかしくて、ハオが気づくまでは人間たちにいいように使われて騙されてるようなものだったのに、それだってハオのためだと我慢なんてするでもなく過ごしてた。
良い意味でも悪い意味でもジュンはあまり人を疑ったりしない。
異形として生きてきた割には鈍臭いのは、それだけ桁違いに強くて長く生きる存在だからかもしれない。
だからってそれに巻き込まれて、色々恥ずかしい思いをしてきたハオにしてみれば、いい迷惑かもしれない。
プリプリ怒っても、ジュンは可愛いなぁって目をして見返してくるばかりで全然反省しない。
一緒に生きると、それこそ人と違う存在になるとまで決意して、愛し愛されるのだってちゃんと納得して、ジュンは知ってそうにないからと自分で色々と調べもしたというのに。
「でも大丈夫」
ジュンは慌てることもなく言う。
「なにが? どこが? エビデンスは?」
ハオが当然のように詰めたら黙ってたから、ジュンの大丈夫は当てにならない。
「いやでもちゃんと噛んだから、大丈夫だと思う。刺してみようか?」
そう言ってジュンにナイフを向けられて、当然逃げたハオだった。
「高いところから飛んでみるか?」
次はそう言われてしゃがみ込んだハオだった。
「ジュニヒョンがケガしたところは確かに見たことないけど、刺されたらどうなるの?」
ジュンはちょっと考えてから、自分を刺そうとしてハオに止められた。
「もしかしなくても、どうせ刺されたことないんでしょ」
素直に頷くジュンに、当然ハオはため息をつく。それでよく人のことを刺そうとするもんだってことだろう。
墜ちたこともない。負けたこともない。傷ついたのなんて、どれぐらい前かと考えたって思い当たらない。そう言って笑うジュンに「じゃぁもうジュニヒョンは何もしないで、俺が考えて俺が試して、俺がどうにかするから」とハオが言う。
結果から言うと、2人は一緒に長く長く、幸せに暮らした。
「全部俺のおかげだから」
そう言えば、ジュンは嬉しそうに頷く。なんだかそれが「可愛い子に勝ちを譲ってあげましたよ」的な笑い方に見えてムカつくと言えば、やっぱり笑ってたけど......。
でも結局、どれが2人を1つにしたのかは判らない。
キスもしたしセックスもしたし、血も混ぜた酒を酌み交わしたし、謎な魂の儀式もしたし、それこそありとあらゆることを試したから............。
それに案外、最初にジュンががばっと噛んだあれが、本当に必要なものだったのかもしれないし......。
「まぁでも終わり良ければ総て良しって言うだろ」
ジュンが言う。
まぁそうかもと頷いておいた。
一緒に自然の摂理から反した存在にはなったけど、なんか違うとは思ってる。
もしかしたら、いやもしかしなくても、自然の摂理に反してるのはジュンのその惚けた性格だけなんじゃないかと疑っている。
それは即ち、ただの個性だ............。
いや、まだまだ自分は長くは生きてはいないから......。そう自分を宥めたハオだったけど、数十年後にはきっとまたプリプリ怒ってるだろう。たぶん......。
The END
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