虎が一匹、草原にいた。
「草原?」
早くもいちゃもんがついた。
「え、森?」
聞き返したら「俺が知るかよ。でも草原で虎なんか見たことないけど」と言われた。でもそんなこと言われたら、虎なんて動物園の檻の中でしか見たことはない。
いやしかし、自分を虎だと言っている手前、「動物園の中で」とは言えなかった。
「そ、草原って言っても、そんじょそこらの草原じゃないんだって」
ホシは言うけれど、「そんじょそこらの草原の方も判らねぇわ」とウジはちょっとだけ頭を抱えてた。
虎系の曲は過去にも出したことがあるというのに、「今の俺なら、成長しきった虎が歌える」とか謎なことを言い出したホシに付き合って、どんな虎だよとか、どんな歌詞にするんだよとか、どんなイメージなんだよとか。
しかし何を聞いてもウジにしてみればただの虎でしかなくて、強そうでもなければカッコよい感じでもなく、「風に吹かれて、草原に一匹、立ってる感じ」と言ってハンディタイプの扇風機で自分に風を浴びせていたホシを前に、言葉を失うウジがいた。
まぁじゃぁ草原に一匹虎がいて風に吹かれてるとして。と、話が進まないからそこまで妥協したウジが次を問う。
「虎はさ、何してんの? それか、これから何すんの?」
「え?」
ウジの問いかけにホシが驚いてるから、多分考えてなかったんだろう。
風に吹かれてる虎ってイメージだけで、曲を作れと言われても、ウジだって困るだろう。
だけど当然ながらホシは本気で、「向かい風? 追い風? 横からは変だよな?」と風の向きについて考えていた。
どっちでもいい。風向きも強さも、多分どっちでもいい。
「じゃぁとりあえず仮タイは風に吹かれてにしようか」
ウジは適当に言っただけだけど、ホシのテンションはそれで格段にあがって、うぉぉぉぉぉぉぉって、作業部屋の中で吠えていた。
結局それから2人して、虎は何をしているのかって話し合った。でもホシは、いや立ってるだけだけどって言うだけで、話はあんまり進まなかったけど。
敵を迎えうつ訳でもなく、これからどこかに向かう訳でもなく、ただの日々の暮らしの中で風を浴びているらしい。
結局、曲は半分ぐらいは作られたけど断念した。風に吹かれてる虎は立ってるだけだし、ホシは吠えてるだけだし、そのうちマネヒョンから「遊んでないで、そろそろ仕事しろ」とか言われてしまったから。
もちろんホシは、遊んでないよって必死に言ってたけど、ウジだって言いたかっただろう。遊びならもっと楽しいはずだって......。
The END
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