JEONGHAN X WONWOO (SEVENTEEN) '어젯밤 (Guitar by 박주원)' Official MV
JEONGHAN X WONWOO
— 세븐틴(SEVENTEEN) (@pledis_17) 2024年6月4日
1ST SINGLE ALBUM ‘THIS MAN’
𝐒𝐩𝐨𝐭𝐭𝐞𝐝: 𝐓𝐇𝐈𝐒 𝐌𝐀𝐍
➣ BLUE BLOOD#WONWOO #원우
2024.06.17 6PM (KST) / 5AM (ET)#JxW #정한X원우#THISMAN pic.twitter.com/OKdAKHCaG0
BLUE BLOOD
この世界に2人だけ。
青い血を持つ2人だけ。
でも1人は眠りを操り、1人は目覚めを操る。
眠りを操る者は記憶すら操れる。目覚めを操る者は全てを消し去ることができる。
こんなに鮮やかな青い星だったから、青い血を持つ仲間がいると思ったのにな......。ウォヌや。俺がいなくなったら、お前、1人になっちゃうのにな。
気にしなくていいよ。ジョンハナ。目覚める時には全部忘れてるから。愛してるよ、ハニヒョン......。
言葉なんて発してなかったから、それは念話だったのかもしれない。誰もいないかのような静けさなのは、ジョンハンが指を鳴らしたからだろう。世界はそれでいっとき、眠りについたから。
悲劇か喜劇しか選択肢がないのなら、ジョンハンは当然のように悲劇に手を伸ばす。ウォヌのことを大切な弟だと思ってるから。
でもそれはウォヌだって同じだった。
もう世界には、青い血を持つのは自分たちだけなんだから......。
ジョンハンのように記憶は操れないけれど、ウォヌは全てを消してしまえる。今まではそんなこと考えたこともなかった。でも......、それでジョンハンが幸せになるのなら。
青い血を持つことも、大切な弟のことも、遠い世界の自分たちが暮らした世界のことも、全部ぜんぶ忘れて生きるのも悪くない。
凄く柔らかく笑うのに、時々イヒヒヒとも笑う。モデルかのようにも歩けるのに、時々トテトテと歩く。恥ずかしがり屋のくせに、どんなに人混みでも遠くから「ウォヌや〜」と叫んだりする。
それを全部失ってしまうのは、耐えられないかもしれないけれど............。
2人だけが当然のように暮らせる夢の中の世界で、ウォヌはジョンハンのことを目覚めさせた。
パタリと倒れるジョンハンはどこで目覚めるんだろう。長い長い夢を見たと思うだろうか。良い夢を見たと思うだろうか。
「ジョンハナ〜、ジョンハナ〜」
ベッドから出てこない男がジョンハンのことを呼び続ける。トイレの中にいるっていうのに。
「ヤー、今トイレ中ッ」
だからジョンハンも、トイレのドアを開けて叫び返した。
「判った〜」と言ったのに、「あとどれぐらい〜」とも聞いてくる。
イラッとしつつも「10分ッ」と叫び返しておいた。
エスクプスはジョンハンとの距離が物理的にあくと嫌がる。それならトイレにだってついてこいよと思うけど、ベッドの中でぐずぐずするのが好きらしい。
いやそれよりも俺のことを好きでいろよとも思うけど、ジョンハンは基本、めんどくさがりなので何も言わない。
「ジョンハナ〜、うんこ〜?」
だけどそう叫ばれて、さすがにイラッとする。
いやそうじゃなければトイレにそんなに長くいることもないだろうから、聞かなくてもいいだろうに。
それでなくても2人きりで暮らしてる訳でもないのに。
「あのさ、ヒョンたち、家の中だけど、カトクでやりとりしてくれない?」
ミンギュに文句を言われた。
朝からエプロンをして、エッグベネディクトやらパンケーキを作ってる。それは当然後でエスクプスとジョンハンの腹にも入るから、エスクプスもジョンハンもそれぞれミンギュに「ごめん」と謝った。
『映画でも行く?』
『どうせ寝るじゃんお前』
『じゃぁ買い物?』
『こないだ使いすぎてミンギュに怒られたじゃん』
『うーん、じゃぁ......』
『散歩がてら、漢江でも行こう』
本当ならたまの休みだからダラダラしてても誰にも文句は言われないだろうが、2人でどこかに行ける貴重な時間でもある。
ジョンハンが提案したのはただの散歩だったけど、それだって何ら悪くない。2人でのんびり過ごせるから。暑くもなければ時々は手だって繋げるだろうし......。
それから本当に10分後、トイレから出たジョンハンに「あ、知ってる? 隣りまた引っ越したらしいよ」と言ったのはミンギュだった。
ジョンハンが動き出すのにあわせて起きてきたエスクプスが「また?」と言う。
広めの4LDだからファミリータイプで、基本は家族で越してくることが多い。
だけどみんな、半年も経たずに出ていってしまう。夫婦なら離婚するし、カップルなら別れるし。
でも今度は金持ちなのか1人暮らしで、別れる相手がいないんだから長く住んでくれるだろうと思っていたのに、また出ていったらしい。
「なに? 会社でも傾いたのか?」
「いや、飼ってた猫がいなくなっちゃったんだって。もう老猫だから自分からいなくなったんだろうって言ってけど」
ミンギュは当然のようにそう教えてくれるけど、「いや、相変わらずお前、なんでそんなこと知ってんの?」とエスクプスにツッコまれていた。
「だって気になったから、聞きに行ったんだもん」
ミンギュは平然とそう答えるけれど、ギリギリアウトな気がしないでもない。
エスクプスもそう思ってたようで、「お前それ、ギリギリアウトだからな」と言っていた。
でもミンギュは平然と「そんなことないよ。ちゃんと何か手伝いますよって言いながら言ったし、挨拶だってちゃんとしたし、引っ越しちゃうなんて淋しいけど、どうしたんですか?って聞いたら教えてくれただけだし、それが本当の真実かはわかんないし」と色々言いながらも器用に手を動かしていた。
そして気づけばエスクプスとジョンハンの前には、プチトマトと紫タマネギが鮮やかなサラダと、エッグベネディクトと甘くないパンケーキが並び、「甘いのがよければ蜂蜜あるよ」と小洒落た入れ物が差し出されてた。
アイスコーヒーとアイスカフェオレがそれぞれの前に置かれ、「はい、どうぞ」と簡単に言うけどできたものは全然簡単そうじゃなかった。
「いやさ、俺の予想では絶対、全部はミンギュが原因だったんだよ」
作ってもらったものを食べてるくせに、エスクプスがそんなことを言う。いやまぁジョンハンもパンケーキを食べつつも手を挙げるから、同意見ってことだったかもしれない。
「なんでよ。俺、別に何もしてないじゃん」
「いや、お前のそのコミュニケーションおばけな力と、この家事力と、その身長にその顔にその笑顔に、その話力。そんなのが隣りにいたら、どんなに愛し合ってる恋人同士だろうと夫婦だろうと、かなりの脅威じゃん」
たまたま遭遇した隣りの家の完璧な見た目の男が笑顔で、「あ、俺もゴミ出すんで、一緒に持って行きましょうか?」なんて、ただの親切で言ってくれるとは思わないだろう。
「いやだってあの時は外が結構雨だったから言っただけで」
ミンギュはそう言ったけど、見知らぬ人間にも笑顔で話しかけることのできるミンギュは、自分の笑顔の謎なパワーを全然理解してないんだろう。
「お前、そのうち訴えられるぞ」
エスクプスがそう言えば、ジョンハンが「ま、裁判官とかにも笑顔を振りまきそうだけどな」と言って笑ってた。
「でもなんでだろ。俺らの隣りって、そんな感じだった? 前から」
「たまたまだろ」とエスクプスは気にしてなかった。
「そんなもんだろ」とジョンハンも笑ってた。
ミンギュだけが首を傾げていたけれど、話題はすぐに移って、誰が片づけをするかって話になって、当然作ったミンギュは省かれるはずなのになんでか3人でジャンケンをして、見事にミンギュが負けていた。
エスクプスとジョンハンは約束通り散歩に出た。でも思った以上に日差しが強くて、思わず近くのマートに入り一周したり、本屋に入り背表紙を見て過ごしたり、近くのカフェで落ち着いたりした結果、家から全然離れずに過ごしてた。
ミンギュはというと2人がいなくなった瞬間にはベッドカバーを変えてマットレスを干し、掃除機をかけて洗濯機をまわし、それからエアコンの掃除までした。
2人がいたら「ちょっとどいて」とか「あっち行ってて」とか、言いまくることになるから。手伝いもしないくせに「お前、掃除いつまですんの?」とかエスクプスは聞いてくるし、ジョンハンは「俺もできることがあったら手伝うけど」とか言いつつも何もしない。
シャツにアイロンまでして2人の部屋のクローゼットをあけたら、ミンギュが知らない服や荷物がまた増えていた。
相変わらず、衝動買いをするのはエスクプスだろう。きっとキレイにわけたらクローゼットの中身の8割はエスクプスのものな気がする。
「別に俺はいいよ。クプスの服を一緒に着るから」
案外物欲のないジョンハンはそう言うけれど、着たい服がそこにないと勝手にミンギュの部屋からだって服を取っていくんだから、それはそれでたちが悪いかもしれない。
『なぁ、俺らもう帰っていい?』
ミンギュが家の掃除をあらかた終える頃、エスクプスからそうカトクが来てた。
戻ってきた2人に「漢江どうだった?」と当然ミンギュは聞いたけど、「俺ら近場でのんびりした」と、ジョンハンが笑ってた。
「いつもじゃん。結局どこにも行かないじゃん」
ミンギュが呆れてる。
突然行動的になって遠くに出かけることも稀にはあるけれど、大抵は近場で満足するらしい。
行動的で色んなところ攻めるミンギュとは正反対な2人だった。
でもミンギュと一緒に食べるようにと、タルトを買って帰ってきてくれたけど。
「なぁ、そんなことよりさ。俺ら帰ってくる時、隣りに人が入ってったけど、もう隣り次の人決まったの?」
まぁ人気のエリアではあるけどな......と言いながら、エスクプスは問いかけたくせに返事も聞かずに部屋に入っていく。
「え? どんな感じの人だった? 不動産屋さんとかじゃなくて?」
そうミンギュが聞いたけど、「ドアが閉じる瞬間ぐらいを見ただけだもん俺ら」と、役立たずなことをジョンハンが言っていた。
「それにどうやって不動産屋さんかどうか判るんだよ」とも。
「雰囲気じゃん、そんなの。あぁもう役立たずだなぁ」
そう言ってミンギュが2人が買ってきたタルトと、冷蔵庫に入ってたビールを袋に詰めだした。
「なんだよ。それ、俺らが買ってきたヤツじゃん」
「別に並んで買ったとかでもなければ、売切ゴメンな希少商品でもないでしょ? 引っ越し祝いには手頃だよ」
「は? 引っ越し中でもないのに、お前挨拶に行くの? わざわざ?」
「行く。気になるから行く」
驚くジョンハンに、何でか2度も行くと言い切ってミンギュは本当に出ていった。
「なに? あいつどこ行ったの?」
部屋着に着替えてきたエスクプスがそう問いかけるから、ジョンハンが「隣りに引っ越し祝い持って挨拶に行った」と教えてやれば呆れて笑ってた。
「ミンギュってそういうとこあるよな。自分の興味のあることには頑張るというか、執着するというか」
買ってきたタルトは甘すぎなくて気にってて、時々買ってくるやつだった。だから別段今食べられないからといって困ることはないのに、「俺もう、タルトの口になってたのに」とジョンハンが言う。
「俺は別に、タルトの代わりにお前でもいいけど。どっちも甘いから」
2人きりだからと甘い発言をしたエスクプスだったけど、「俺にはお前、別に甘くないもん」と言い返えされて「なんでだよッ」とムクれていた。
まぁそんなことでケンカになったり険悪になったりすることもないけれど、空気がすぐに変わったのはミンギュがあっさりと戻ってきたからだろう。
「チャイム鳴らしても、誰も出てこなかったよ」
って言いながら。
「隣りのウザいヤツが来たって居留守されたんだろ」エスクプスが酷いことを言う。
「まぁ普通、エントランスからのチャイムじゃなくて、部屋の入口で鳴らされたチャイムには警戒するだろ」ジョンハンは比較的普通なことを言う。
「そうかなぁ? 俺は気にしないけど」
ミンギュはそう言って首を傾げていたけれど、2人から「「お前だけだろッ」」と言われてた。
それでも日頃はミンギュだって働いてるから、隣人を気にしてばかりはいられない。
時折仕事帰りに空を見上げたりした時に、自分の家の隣りに電気がついてないどころか、カーテンすらつけられてないことを確認するぐらいだった。
でも、次の休みの前日、というか前夜、というか明日まであと20分ぐらいって時間に、ミンギュはお隣りさんと遭遇した。
そんなに遅くまで飲むつもりはなかったのに、なかなか切り上げられなかった日。でもしっかりとエスクプスとジョンハンへのお土産を手に、足取りだってしっかり帰ってきたから、それは絶対に酔って幻を見たとかじゃないはず。
それなのにエスクプスもジョンハンも、「とうとう隣りは幽霊が出るようになったんじゃないか」と言って笑ってた。
「あ、引っ越して来られたんですか?」
ちょうどドアがめいいっぱい開かれて、隣りの人の身体がドアに隠れたタイミングだった。だから話しかけるタイミングとしてはあまり良くなかったかもしれないが、ミンギュは多少酔っていて隣人に会えたことが嬉しかったから。
「はじめまして。こんな時間だけど、挨拶してもいいですか?」
でも常識だってあるからちゃんと聞いた。迷惑ですって言われたら諦めるつもりだってあったから。
でも隣りの人はひょいとドアから顔を出して、「大丈夫ですよ」と言ってくれたから、ミンギュのテンションはさらにあがった。
黒縁メガネのよく似合う、黒髪の男だった。
引っ越しの挨拶なんて、隣りに住んでますって伝えて、何か判らないことがあったらなんでも聞いて下さいって言って、会釈をして終わり......ぐらいなはずなのに、「キムミンギュです。うちは3人ぐらしで、五月蝿いって言われたことはないから大丈夫だと思うけど、何かあったらいつでも声かけてください」って名乗りつつも近づいて、顔だけだった隣人の全身を見に、わざわざ自分の家を通り過ぎて隣りの家の前まで行った。
それから相手が名乗る隙も与えず、「ペット飼ってます? 年老いて、すぐに死にそうな」となかなかに失礼なことを聞いた。
「1人暮らしですか? 恋人っています? あ、家族もいますか?」
不躾なことも聞いた。
いやもう目の前でドアを閉められたって文句なんて言えないようなことを聞いてるのに、メガネをかけた隣りの人は口もとだけで笑って「質問多いですね。どれから答えたらいいのかな」って言った。
その声が心地よくて、ミンギュはまだ聞いてもいなかったのに、「じゃぁ名前と生年月日から」とか、『生年月日まで?』と思われそうなことを口にしていた。
「それで、お前は不躾に名前と生年月日を聞いたくせに、そのどっちも忘れたんだ」
エスクプスが言うのに、ミンギュが情けない顔で頷いた。
「俺たちへの土産を引っ越し祝いだって手渡したのに、情報は何もゲットできなかったんだな」
ジョンハンの言葉にも、ミンギュはやっぱり情けない顔で頷いた。
出会ったことも話したことも覚えてるし、酔ってたとはいえ真夜中に聞くようなことでも、初対面の相手に聞くようなことでもないことを山と聞いて、確かに回答を得た記憶があるのに、なんにも覚えてなくて頭を抱えたミンギュだった。
だからこそエスクプスもジョンハンも、幽霊だったんだろうと言ってたけれど、黒縁メガネをかけた黒髪の印象だけは強かった。声も心地良かったはず。ハッキリとは覚えてないけれど。
「いや、お前本気?」エスクプスが驚いていた。
「なんか、お前のその謎に前向きなところ、凄いよな」ジョンハンは笑って褒めてくれた。
それはミンギュが、「俺、もう一度お隣りさんに挨拶行ってくる。名前と生年月日聞いたのに忘れてすみませんって言って、ちゃんと聞いてくる」と言ったからだろう。
さすがに隣人が女の人だったなら止めたかもしれないが、男だと聞いていたから気にしなかったのか、エスクプスだってジョンハンだって、程よく常識外れなだけだったのか。
まぁ後者だろう。
だってエスクプスが「こないだの土産の代わりを何かゲットしてきて」とか言ってたし、「ついでに血液型と家族構成とかも聞いてみろよ」とジョンハンは面白がっていたし......。
多めに作ったおかずをタッパーに入れて隣りの家のチャイムを鳴らす。
わざわざ買ったものでもないし、不在なら持って帰って冷蔵庫にしまうだけだから何ら問題はない。結構何度も通うつもりでいたのに、隣人はいて、思った以上に簡単に会えてしまった。
「あの、良かったらこれ」
「引っ越し祝いならこないだ貰ったけど」
「今回のはお詫びの品だから」
そう言って、ミンギュは素直に謝った。名前も生年月日も聞いたのに忘れたんだって。あの日は全然酔ってなんていなかったのに。
「あぁ、じゃぁちょっと待ってて」
そう言って玄関のドアをそのままに、ウォヌが部屋の中へと戻っていく。自分たちの家と間取りは同じはずだから、物珍しいこともないはずなのに、生活感の全くない家の中をマジマジと見てしまった。
「これ、貰い物だけど。甘過ぎるものは苦手だから」
そう言ってプリンケーキを貰ってしまった。
要求なんて全然してないけれど、エスクプスの言葉が現実になる。
それならジョンハンの言葉だって、そうなるかもしれない。
「もう一度、名前と生年月日と、ついでに血液型と家族構成と、あと趣味とかも聞いてもいい?」
勝手にジョンハンの言葉にプラスしてそう言えば、表情があまりないように見えた人が「あはははは」って楽しそうに笑った。
名前を聞いた。耳障りが酷く良かった。
生年月日も聞いた。1つ上のヒョンだった。そして誕生日はもうすぐだった。
血液型も聞いた。血液型占いなんてしたことはないけれど、家に戻ったら相性ぐらいは見ておこうと思ったのに......。
「で、色々聞いたのに、お前は名前と誕生日以外は忘れたんだな」
と言って呆れるエスクプスの隣りでは、「俺、ここのプリンケーキ大好き」って喜んでるジョンハンがいた。
たくさん話したからかもしれない。
「なんかたくさん話したんだよ。ほんと、なんかたくさん話したの。でも話しすぎたからか、テンション高くなりすぎたからか、色々忘れたんだよ」
ミンギュが言い訳にもならないことを言うのに、「お前、それが酷くなるようなら病院行けよ一度」と言いながらもエスクプスは笑ってた。
でも名前を聞けただけ良いよとミンギュは浮かれて、それを忘れないようにとスマホにメモった。
誕生日とともに。
「もうすぐ誕生日だから、何かプレゼント持って行きついでに、また忘れちゃったエヘヘって言おうかな」
別にエスクプスやジョンハンに向けてそう言った訳でもなく、それは完全に独り言だったというのに、エスクプスには「お前は隣りの家限定のストーカーかよ」と言われ、ジョンハンには「隣りが引っ越す原因、やっぱりミンギュじゃない?」と言われた。
「そんなことないよ。普通のご近所付き合いだよ」
そう言えばまだ2人は何かを言い続けていたけれど、ちょっとだけルンルンな気分で自分の部屋に引っ込んだミンギュには聞こちゃいなかった。
別にストーカーではなかったけれど、急にタイミングがあいはじめて、ミンギュは3日1回は隣人に会うようになった。
当然挨拶を交わす。そして時々は家の近場にある美味しい店の情報などを伝えて、そうなったら「今度一緒に」って誘うまでは社交辞令なはずとミンギュは思ってた。
「で、お前は隣人と特別な付き合いでもはじめるつもりなのか?」
「何言ってんだよヒョン。ただの近所付き合いだろ?」
「ただの近所付き合いで、なんで漢江近くのワインバーに行くことにしたんだよ。しかもお前、さっきから何してんの? 俺のクローゼット漁んなって」
「いいじゃんヒョン最近また、新しいジャケット買ったんでしょ?」
ミンギュがエスクプスの部屋のクローゼットから服を取り出しては勝手にベッドに並べていくのを、本気で怒ってる訳でもないエスクプスが見てた。だから服だって絶対貸してはくれそうだったけど、ミンギュは保険をかける。
「そんなことより、ハニヒョンどうしたの? 一緒にいないなんて珍しい」
そんなことよりと話題をぶった切ったけれど、ジョンハン話題だったからエスクプスはちゃんとそっちに乗ってくれた。
「なんか、俺に内緒の買い物するから、ついてくるなって」
「内緒の買い物? なに買うの?」
「いや、俺が知るかよ。俺に内緒なのに」
「誕生日プレゼントには早すぎない?」
8月はまだ1ヶ月以上先だった。いやでもそれぐらい前から準備する人だっているかもしれない。
「去年は何貰ったんだったっけ?」
だからそう聞いたのに、エスクプスは真剣な顔して考えて「なんだったっけ......」って言う。
「俺のことバカにできないじゃん。誕生日プレゼントで貰ったものを忘れるなんてヒョンサイテー」
エスクプスは必死に思い出そうとしてるのか、その後は幾らミンギュがクローゼットを漁ろうと、その結果ベッドの上が洋服だれけになってミンギュがそのまま出ていっても、全然気づいていなかった。
そのワインバーを勧めてくれたのはミンギュのチングで、とっておきの場所だと言った。味も雰囲気も良い。まぁその分値段も高いが、十分満足できるとも。落としたい人がいれば、最後のひと押しにはうってつけだとも。
別にただの隣人だから、そういう相手ではない。だけどそんな素敵なワインバーなら行ってみたいし、たまたま、そうただたまたま、行くことになっただけ。
まぁそう言いながらもミンギュは、ジョンハンの買ったばかりの、まだ開封もしてない香水を勝手に開けたけど。
「知らないぞ。アイツ、それは特別な日に開けるって言ってたのに」
エスクプスにはそう言われたけれど、「黙っててよ。どうせしばらくしたら、あれ、俺コレいつ開けたんだろうとか言い出すから」と言っておいた。ジョンハンはそういうことがよくあるから。
しっかりしてるようで抜けてるというか。なんというか。
「まぁ俺からは言わないけど、聞かれたら答えるからな」
エスクプスはそう言ったけど、ミンギュにしてみればそれだけで十分だった。
「絶対大丈夫。俺、これは結構自信あるから」
勝ったみたいな顔でミンギュは言い切っていたけれど、残念ながら瞬殺でバレた。
なにせジョンハンがこっそり買ってきたのが、その香水の匂い違いの奴だったから。エスクプスが好きそうなやつで......。
「これ、お前が好きそうなやつ。元から持ってるのは俺用なんだけど、俺がお前のをつけて、お前が俺のをつけたら、お互いいつも一緒にいるみたいになると思う」
そんなことを嬉しそうに言いながら買ってきた香水を見せて、それから「俺のを取ってくる」と部屋に向かったジョンハンが、「ぁああああッ」って叫んでた。
「ヤーッ! なんで俺の香水勝手に開けるんだよッ」
って言いながらジョンハンが戻って来たけれど、当然エスクプスは「俺じゃない」と両手をあげて否定した。
「じゃぁ誰だよッ」
ジョンハンはそう怒鳴ってたけど、3人で暮らしててエスクプスでないなら、残るは1人だってすぐに気づいたんだろう。
「ヤーッ! キムミンギュッ!」
ジョンハンがそう言いながらミンギュの部屋に乗り込んでいく。でも当然誰もいないけど。
「あいつどこ行ったんだよッ」
「ほら、隣りの男とワインバー行くって言ってたじゃん」
教えてやれば、「ぁあッ?」と、怒りが収まらない感じのジョンハンがいた。
「俺らも行く?」
派手な見た目に反して外に飲みに行くのが苦手なジョンハンにそう言えば、珍しくも「行く」と言った。
エスクプスにしてみればラッキーな、ミンギュにとってはアンラッキーな出来事は、ジョンハンにとってはどうだったのか......。
漢江にあるワインバーは小洒落た店で、かつ人気の店でもあったらしく、高めの値段設定だというのに人出だって結構あった。
流行りのクラブなら入口に黒服が立ってるのも判るが、ワインバーのクセに立っていた。クラブなら見た目で人を選ぶというが、ここは何で人を厳選するのか。
だけどそんなこと気にも止めないジョンハンは、誰かが並んでるとか、人が立っているとか、そういうのを気にせずズカズカと店に入って行こうとする。
周りにいた全員が「え」って顔になるのに対して、あっさりと「客じゃない」って言い切って突破する。そのあまりの堂々さ加減に、誰もが「あぁ、関係者なのか」みたいな顔になるのに、エスクプスが冷や汗ものだなって思いながらも笑って誤魔化して一緒に通り過ぎた。
ミンギュは基本デカいから、どこにいたってすぐに判る。だからジョンハンだってすぐに見つけたんだろう。
まだミンギュまでは遠いってのに、店に入った瞬間には「ヤー、キムミンギュッ」って結構な声を出して、店中の注目を集めていた。
だというのに、さらに注目を集めたのは、ジョンハンのその見た目もあっただろうが、大方はジョンハンの発言だっただろう。
「なんでお前、俺の男の盗るんだよ」
って言ったから。いや正確には俺の男の香水を勝手に盗るんだと言いたかったのかもしれないが、勢いに任せて一部端折ったんだろう。
それがわざとなのか、たまたまだったのか、そういうのがジョンハンは判りにくいけど、それで店中の注目を集めまくってても、本人は全然気にしてなかったし、怒っててもジョンハンは楽しそうでもあった。
「ヒョ、ヒョン何言ってんだよ。なんでいきなり来たんだよ。クプスヒョンも止めてよ」
ミンギュが慌ててる。
その横には、全然驚いてない男がいて、さっきからヤーヤー言いながら怒ってるジョンハンのことをじっと見ていた。
どう考えても自分が盗られた男だと勘違いされているというのに、気にもせずにそこにいる男は、ミンギュの横でも、ジョンハンの横でも不思議としっくりくる。
エスクプスはそれがミンギュのお気に入りの隣人なのだと気づいて、思わずまじまじと見てしまった。
「ミンギュの奢りだろ? 高いワイン頼もうぜ」
ジョンハンがイヒヒヒみたいな笑い方をして、そんなことを言う。ミンギュは諦めて、「いいよ。頼みなよ。その代わり一杯飲んだら帰ってよ」と言い出した。
「すみませ〜ん。高くて美味くて飲みやすいワイン2人分。持ち帰り用のカップってあります?」
見た目はキラキラと、誰よりもこのワインバーに馴染みそうなのに、まるでそこらのコーヒーショップみたいな注文の仕方をしたジョンハンがいた。
そうしたら、隣人の男が笑い出した。
笑っても口もとしか変わりそうにない感じの男が、楽しそうに、腹を抱える勢いで笑ってる。
まぁジョンハンはちょっと変わってるけど......。
ミンギュがそれに驚いて、でもやっぱり嬉しそうだった。ただの隣人のくせに。
エスクプスが油断したのか、それともジョンハンの行動が素早すぎたのかは謎だが、用意されたのは普通のワイングラスに結構たっぷり目に入ったワインだった。
「散歩しながら飲もうぜ。グラスは後で返すことにした」
持たされた店の紙袋にはバケットが入ってて、それはサービスだと言う。
こんなの、歩く広告塔みたいなもんじゃんと思いつつ、ワインすらミンギュの奢りではなくなったようなので、それもまた仕方ないのかもしれない。なによりジョンハンはご機嫌だった。さっきまであんなにプリプリ怒ってたっていうのに......。
「人混みで酒飲んで、何が楽しんだ?」
店の入口の人混みを抜けて、漢江近くを歩く。グラスを返す必要があるから半分飲むぐらいの間、歩こうって決めて、2人して夜風を楽しむ。
「結局香水の件は良かったのかよ」
「あぁ、まぁ別にいいだろ? お前のが開封されてたって」
自分のじゃないからいいんだろうと言えば、当たり前じゃんと返された。それから笑って2人で散歩とワインを楽しんだ。
歩きやすい場所だし道だって舗装されてる。だから時々誰かとすれ違う。よっぽどのお年寄りと赤ちゃん以外は、大抵がジョンハンを見て振り返る。
でもダメだよ。こいつは俺のだから。過去も未来もずっとずっと、俺のだから。
エスクプスがそんなことを思いながらジョンハンと散歩を楽しんでる頃、「ごめん。ジョンハニヒョンはこういうの楽しんじゃう方だし、クプスヒョンはそういうの、絶対止めないから」と真剣な顔で謝ってるのはミンギュだった。
ウォヌが笑ってた。その表情も声も自分が引き出したものじゃないことにちょっとだけイラッとして、でもはじめて見られたその姿に嬉しさも感じて。バカみたいなことを言われた結果、店のあちこちから伺うような視線は今も止まらなくて。でも、そんな視線よりもウォヌの様子の方が断然気にかかっていて......。
「変な誤解、しないでよね。俺が勝手に取ったのはハニヒョンの香水で、勝手に開封したのは悪かったけど、あんなこと、大きな声で言うなんて、まったく」
ミンギュがまだジョンハンの言葉を気にしてたのに、ウォヌは「あの人の香水、どんなの?」ってミンギュの首元に顔を寄せてくる。
周りからは確実に息を飲む音が聞こえてきてるってのに、ウォヌはそんなこと気にもしてないようだった。
ちょっとだけドキドキした。でもその身体が顔が離れて行くほうが残念で、「なんか、ピンとした、ちょっと芯が通った感じだね」と言われて自分が褒められたかのように嬉しかった。
「試すなら、ちょっと分けるよ」
自分のものでもないのにミンギュはそんなことを言い、ウォヌに笑われた。
「今度は俺が、ユンジョンハンに怒鳴り込まれて叫ばれるんじゃん」って。
あれ、フルネームを言ったっけ......って一瞬思いはしたものの、「お前についてる匂いだから、なのかも」なんて言われてまた顔を寄せられてしまったから......。
2人してそれから、ジョンハンに怒鳴り込まれたくないから香水は店に試しにいこうと話したりした気がするけれど、楽しすぎたからか、時間はあっという間に過ぎていく。
店にワイングラスを返しにきたエスクプスとジョンハンがいたはずなのにミンギュは全然覚えていなかった。そして目覚めたら朝だった。
なんでか、隣りの家のリビングで目覚めて、酒を飲んで記憶を失ったことなんて一度もないのに記憶も不確かで、どうやって帰ってきたのか、その後何かがあったのか何もなかったのか、それすらも覚えていなかった。
ちょっとだけ、何かってなんだよ......って、セルフでツッコんでおいたけど。
記憶は全然なかったけれど、幸せな空気というか、雰囲気というか、酔いに任せて手ぐらいは握ったんじゃないかと......。
そこではたと、ミンギュは気づいた。
あぁ俺、ウォヌの手を握りたいんだって......。
ただの隣人相手にしては度が過ぎていると言われたけれど、手が握りたいんだと気づいてしまえばもう、ただの隣人ではなくて、ずっと側にいたい隣人になっていた。
自分の気持ちに気づいてもう少し戸惑うかと思ったのに、ミンギュは浮かれていた。
向かう方向性がわかってて、自分が諦めなければなんとかなるとも思ってて、それなら明るい未来しか見えないとも信じてて。
「なんでそんなにご機嫌なの?」
知らぬ間に鼻歌をうたいながらサンドイッチ作りをしてたらしいミンギュは、アンニュイな感じで起きてきたジョンハンに呆れられた。
「なに? 二日酔い? 濃いコーヒー入れてやろうか」
でもミンギュのご機嫌は継続されたまま、ジョンハンのために椅子だってひいてやったほど。
「サンドイッチ作りが好きだから」
だからご機嫌なんだと教えてやれば、ジョンハンは興味を失ったかのように「ふーん」と言っただけだった。
普通の包丁じゃなくて、パンを薄く切るためのそれは、どういう仕組み化は知らないが刃先がなみなみというかギザギザというか。でもそれで切るとパンはキレイに切れた。
「そんなの、この家にあったっけ?」
「昔からあるよ。サンドイッチ作る時はこれいつも使ってるじゃん。見た目と違って良く切れるから、気を付けて」
肉切り包丁とはその見た目からして違っても、やっぱり何かを切るものだから......。ミンギュはそうジョンハンに注意しながらも、人がいない場所にそれをそっと置いたはずなのに。
冷蔵庫から真っ赤なトマトを取り出してる間に、後ろからは「ぁ痛ッ」って声がする。
結構勢いよく振り向けば、なんでか刃物の先を指でつついて指先を切ったジョンハンがいた。
「これ、凄い切れるじゃん」
ジョンハンがなんでか怒ってる。
「そりゃそうだよ。ちゃんと刃物だし、切れが落ちないように手入れだってしてるし。子どもじゃあるまいし、なんで指を、しかも真正面から押し付けてるんだよ」
呆れながら笑いながら、でもそれほど大事でもなかったから安心して言ったっていうのに......。
「............あ」
そうジョンハンが言った。自分の指を見つめながら。
「なに? 血が止まらないの? 二日酔いの影響じゃない?」
そう言いつつもその指を捕まえた。
そんなの、ギュッと握ってやって口に含んで血を舐め取ってやれば、すぐに止まる......って感じで。
「......ぁ、............ぁあ?」
でもミンギュもそう言ってしまった。
ジョンハンの指先にはプクリと血が出ていて、でもその血が青かったから......。
「ハニヒョン、昨日なに飲んだの?」
酒で血が青くなるなんて聞いたことはないけれど、思わずそう聞いていたミンギュだった。
「ワイン。それからソジュもまぁ飲んだけど」
飲み過ぎだと言われたらそうかもしれないが、でも、血って青くなるだろうか。
「とりあえずヒョン、指はギュッと握ればすぐに血は止まるから、絆創膏はっとく?」
「いや、邪魔だからいい。もう痛くないし」
普通に会話をしてしまったけど、試しにもっとザックリ切ってみるなんてこともできない。ドクドクと青い血が流れ出てきても困るし。
「気をつけて。何かあって救急車とかで運ばれても、ヒョンにあう輸血用の血なんて無さそうだから」
青い血なんて見たというのに、ミンギュは現実的な注意を口にした。
ジョンハンは自分の血が青かったことにそれほど驚かなかったのは、そんなミンギュがいたからかもしれない。
「これ、クプスに言う必要あるよな?」
「次にケガした時でいいんじゃない? 言っても信じないだろうし、見せてみろって言われても見せられないし。それに次にケガした時には真っ赤な血かもしれないじゃん」
結構な青だった。でも青の種類だっていっぱいあるだろうが、嫌いじゃない色だった。自分の血じゃなければ......。
ジョンハンは戸惑っていた。
そりゃそうだろう。自分の血が青いんだから。
それを見たはずのミンギュがあまりにも冷静だったから助かった気がする。ケガだって大したことなかったし、ミンギュはいつも通りにサンドイッチを作り続けてるし、切れ端をジョンハンの口に放り込んでくれる。美味い。
いやでも血は青かった。
ミンギュだって同じサンドイッチを味見とか言ってガバリと口に入れてるんだから、もしかしたらミンギュの血だって青いのかもしれない。
「なぁ、お前の血も、もしかして青いんじゃない?」
そうだ。血が赤いなんて、誰が決めたんだ。テレビとか映画とかでドバって出てる血は派手に赤いけど、あれはインパクト重視で赤なんじゃないか......とすら思う。
「ちょっと指先切って見せて」
だから結構真剣にジョンハンはそう言ったのに、「は? 嫌だよ。うっかり切ったなら諦めるけど、自分から傷つける勇気は俺にはない」
「ちょっとだけだろ。どんだけヘタレなんだよ」
勝手な文句を言ってるのはジョンハンの方なのに、ミンギュは「ヘタレでいいもん。俺は痛いのも怖いのもドキドキするのも苦手なんだもん」と逃げていく。
ミンギュはデカいし、ジョンハンだって細身ではあるが小柄ってほど小柄ではない。そんな2人が走り回ってるんだから、そりゃエスクプスだって起きるだろう。しかも追いかけるジョンハンは刃物を持った状態で......。
「なになになになに? 待て待て待て待て」
自分が寝てる間に何をそこまで揉めることがあったのかとちょっとビビったけれど、ミンギュは「ヒョン助けてッ」ってしがみついてくるし、ジョンハンは「ミンギュのことちょっと抑えてて」と共犯になれと言ってくる。
とりあえず「危ないだろ」ってジョンハンの持つ刃物に向かって手を出したのと、ジョンハンがそれを前に差し出したタイミングがドンピシャだった。
「「「あッ」」」
そう言ったのは3人一緒だっただろう。
「痛ッ」って言って手を抑えたのは当然エスクプスだった。
「どうだ?」って言ってその手を握ったのはジョンハンだった。
「見えない。せっかくだからヒョン、手を開いて」って言ってエスクプスの手を開かせようとしてたのはミンギュだった。
「普通に赤いじゃん」と言ったのはミンギュで。
「普通に赤いな」と言ったのはジョンハンで。
2人して一瞬で興味を失ったかのようにエスクプスの手を離す。
「ヤー、心配しろよお前らッ」だからそう言ったのはエスクプスだった。
ドタバタしすぎて階下から苦情がくるんじゃないかって言い出したミンギュがいて、とりあえず3人で静かに移動する。それから危ないからと刃物はミンギュが取り上げた。
「ギュってしたら血は止まると思うけど、絆創膏貼っとく?」
2人の前にサンドイッチを並べながら、器用にカフェオレも作りながら、話しながら、それから片付けながら。それから何故か、いつもより多めに作ったサンドイッチを別の更に一人前取り分けながら、ミンギュが言う。
「まぁ大丈夫だろ。それより問題は......」
ジョンハンが自分のことでもないのに勝手に答える。でもそれより問題はと言ったから、そりゃ続きは血が青いことだと思ったっていうのに、続けた言葉は「それ、誰の分?」だった。
「え? あ? コレ? いやそっち?」
ミンギュが驚く横でエスクプスが「決まってるじゃん」と言いつつ隣りの部屋を指さしていた。
「なに? 結局ワインバーとか行った結果、進展してんの?」
ジョンハンがミンギュと隣人との間を楽しそうに聞くのに、「サンドイッチ取られるからって揉めてた訳じゃないんだろ?」と刃物まで持って追いかけてたことをそれとなく聞いて来たのはエスクプスだった。
「あぁ、俺の血が青かったから、ミンギュもかと思って。それよりさ、何がそこまで気に入ってんの? 派手さとかはないじゃん」
ジョンハンがさらりと言って、話題を戻す。
「いや確かに派手さはないけど、なんか、目が行くっていうか、目が離せなくなるっていうか」
ミンギュがちょっとだけ隣りの家を見ながら言う。
「目が離せなくなる相手はたまにいるよなって、今さらっと凄いこと言わなかったか?」
エスクプスはミンギュの恋バナに乗りかけながらもギリギリ踏みとどまった。
「あ? なに? ジョンハナ、お前、血が青いの? なんで?」
真正面から聞かれても、ジョンハンだってそれをさっき知ったばかりなんだから答えられるはずもない。
「俺が知るかよ」
だから当然、答えは素っ気ないものだった。
「ところでさ、相手はどうなの? 一緒にワインバーまで行ったんだから、お前と友達になりたいとか、一緒にいて楽しそうだとか、そういう感じなの?」
ジョンハンは血が青いことよりもよっぽどミンギュのことが気になったのが続けて問う。
案外血が青くたって、どうしようもないというか、どうとでもなれというか、まぁいざとなるまではどうでもいいというか。
エスクプスも切って見せてみろなんて言わなかった。とりあえず血は青いのかとモゴモゴと言って納得しただけで、「まぁ似合ってたよな。立ち姿は2人」と、ミンギュと隣人の話に乗っかりだした。
「うん.........。でもまだ、お隣りさんって感じ。友達未満というか」
ワインバーでだって、ウォヌはジョンハンばかりを見てた。いやもうその発言というか行動に驚いたてのもあるかもしれないけれど、ミンギュは後からちゃかして、「カッコイイ系よりキレイ系がタイプなの?」と聞いてみた。
「あの人はなんだか、カッコイイとかキレイとか以前に、目立つよね。目立つことが好きそうにも見えないのに。でも、幸せそうに笑ってたね」
笑ってでもなく、茶化すでもなく、なんだかそれを聞いたこっちが胸が痛くなるような言い方だった。
昨夜だっていっぱい話したはずなのに、ミンギュはワインバーの後の記憶が曖昧だった。
そんなに飲んだつもりはないのに、雰囲気に酔ったのかもしれない。人は多かったけどウォヌのことしか見えてなかった。
「ねぇ、これって恋なの?」
思わずミンギュがそう言った。
「俺が知るかよ」
作ってもらったサンドイッチにかぶりついてるってのに、エスクプスは冷たい。
「抱きしめてみれば? 押し倒してみるとか」
作ってもらったサンドイッチを手に、親切なんだか酷いんだか微妙なことを言ったのはジョンハンだった。
でもそれは、ミンギュの背を確かに押してしまったかもしれない。
約束がある訳でもない。だから次がいつかも判らない。
何の仕事をしてるのかってのも、詳しくは聞いてない。いやもしかしたら聞いたかもしれないけれど、しっかりとは覚えていなかった。だからミンギュはそれから毎日、帰って来た時には隣りの家のチャイムを鳴らす。
ミンギュはそんな毎日を過ごす中、血が青かったことなんて嘘だったかのように変わらずに過ごしてるエスクプスとジョンハンがいた。いつも通りだから結構なベタベタで、騒がしくて賑やかで、楽しそうだった。
「あ、なぁ、ちょっと......」
そんな中、ウォヌに偶然会ったのはエスクプスが先だった。
毎日のようにミンギュが隣りの家を訪ね、会えずにいたことを知っていただけに、隣人になんて会釈するぐらいで十分とか考えていたエスクプスだったのに......。
ミンギュが会えないことに凹んでる......。早くそう言えば良かったのに、「ミンギュが世話なってるようで」って無難な挨拶をしてしまった。
今日この後ずっといるなら、後でミンギュを行かせるけど......。伝えることなんてそれぐらいだったのに、「血が青くても、気にしないんですね」って言われて一瞬何を言われてるのかが判らなかった。
いや、ジョンハンのことを言ってるんだってことは判った。でも、なんでそれを知っているのかが判らなかった。だってミンギュはあの日以来、隣人には会えていなかったはずなのに。
「なんでそれ......」
「聞いたんですよ」
誰に......。ミンギュは会えていないのに......。
ただの普通の隣人のはずなのに、ちょっとだけビビる。見た目は強く男らしく見えるエスクプスだったけど、密かにビビりなことは一緒に暮らすジョンハンやミンギュは当然知っている。
でもエスクプスがビビってるなんて気づいてないのか、「血が青くても、いいんですか?」って、今度は尋ねられた。
血が青くても、困ったことはない。血が青かったから好きになった訳でもないし、血が青かったから嫌いになる訳でもない。それを知る前も知った後も、変わらずユンジョンハンは楽しそうに笑ってて、それだけでエスクプスは満足してたから。
一瞬そう応えようとして、でも口から出てきたのは「あんたそれ、誰から聞いたの?」って言葉だった。
そう言われた相手は表情を変えることもなく、でも気づいたんだろう。ミンギュから聞いたはずがないって、エスクプスが思ってることに。
「あー、風の噂?」
自分で言ってバカらしいとなったのか、そう言ってから隣りの男はちょっとだけ笑った。
「なに、あんた、うちの家を盗聴でもしてんの?」
一度味方になれば懐はどこまでも深いのに、敵とみなした相手には厳しい視線を送る。
でもそんなエスクプスの態度に、なんでか隣りの男は嬉しそうに笑った。
「良かった。これで安心して行ける」
「は?」
「引っ越すから」
それなら大丈夫とは、当然エスクプスは思わなかった。
でもエスクプスが「だからなんで」と言いかけたのに、それを遮るようにして「消えるから。明日には」と言われた。
それはミンギュにはもう近寄らないから大丈夫っていう意味なのか、それともジョンハンの青い血の秘密を知る人間はいなくなるっていう意味なのか、エスクプスには判らなかった。
なんで知っているのか。それを答えずに男は部屋の中に消えてしまった。
家の前で1人立ち尽くしたエスクプスだって、しょうがないから家に入る。でもこんな日に限って家には誰もいない。
ミンギュに「すぐに電話して」ってカトクしても既読にもならない。ジョンハンにも「今どこ?」ってカトクしながらもトイレを覗いてもやっぱりいない。
気になることは誰かに話すに限るのに、その相手すら見つけられないエスクプスだった。
「空き家ですよ。お隣りはまだ」
ミンギュが戻ってきたのは遅くて、そしてエスクプスが隣りの男は引っ越すんだってさって伝えられたのはさらに遅くて、夜中なのも気にせずに当然隣りの家のドアは叩いた。でも誰も出なくて、結局次の日、ミンギュは慌てて不動産屋に連絡を取ったというのに、隣はずっと空き家だと言われた。
「こういうのはタイミングだろ。出会いとか別れとか、そういうの全部」
隣りはずっと空き家だと知ったのに、エスクプスはミンギュを諭すようにそう言った。
「なんでお前、隣りにいるはずのない人間がいたことには驚かない訳?」
ジョンハンがそんなエスクプスの言葉に気づかないはずがない。
「ヒョン、何か知ってるの?」
ミンギュだって聡い方だし、やたらと走り回ったって捕まえられないってことは判っていたんだろう。
「昨日会った時に、ハニの血が青いことを知ってたんだよ。なんでか。誰もそれを話してないはずなのに」
いつだって楽しいを優先して笑ってる3人なのに、無駄に頭の回転だけは早い。
だからミンギュはその謎から答えを導き出した。
「なんで知ってるのか。誰も言ってないんだから、元から知ってたんだよ。それしかないよね」
隣人はただのミンギュの想い人であって、ジョンハンには何ら関係のない相手だったのに、そう言われてしまえば自分の立ち位置が変わってくる。ジョンハンだって聡い方だって言うのに。
「じゃぁ俺は知らないけど、俺の関係者ってことだ。名前は? なんだったっけ?」
名前さえ知らないのに自分の関係者だってことは認めてしまったジョンハンは、ウォヌの名をミンギュから聞いて改めて知る。
自分の中に知らない記憶があるのと、他人の中に自分の知らない自分がいるのと、どちらが怖いのか。
でももっとも怖いのは、自分の中にあるはずの記憶を見失うことかもしれない。
色んな不安が一瞬でエスクプスの心の中をよぎった。でもそれはほんとうに一瞬で、ジョンハンの大胆な、それでいて男らしい行動に驚かされて霧散した。
「やー、ウォヌやッ」
家の中だっていうのに、ジョンハンがそう呼びかけたから。
普通なら何やってんだよって笑うはずなのに。
でもドアがあいた。普通に家の中、普段は使ってない部屋のドアがあいて、そこからウォヌが出てくる。
「名前、呼んでくれるとは思わなかった」
って、言いながら。
「は?」
そう言って普通に驚いてるのはエスクプスだけだった。ミンギュは喜んでいて、「勝手にいなくならないでよ」とか言っていた。
勝手にいなくなるどころか、勝手に家に入り込んでいて勝手に出てくる男に向かって。
ジョンハンは呼んだくせに本当に出てきたウォヌに向かって、「便利だな」と、驚くよりも関心してたけど......。
本当ならもっと「なんでだよ」とか「どういうことだよ」とか騒ぎたかったけど、誰もが落ち着いてるというか、気にしてないというか。エスクプスは半分以上諦めて、ウォヌのことを眺めてしまった。そうしたら気づいた。ミンギュがいくらウォヌに向かって必死に何かを話しかけていたって、ウォヌの視線は不意にジョンハンに向いてしまうってことに。
血が青いことを知ってたのは何故なのか。エスクプスがそう問いかけようとしたけれど、それよりも早くウォヌ自身が言った。
「血が青くても、気にしない人たちがいて良かった」
本当ならそこで、誰かがなんで知ってるんだ的なことを言えば良いのに、「まぁ俺が気にしてないし」とジョンハンは笑ってるし、「そんなことより」とか言ってミンギュは本当はどこに住んでるのと、どうにかウォヌのことを聞き出そうと頑張っていたけれど。
「いや、呼んだら出てくるなら、所在地はもううちじゃん」
思わずエスクプスだってそう言ってしまった。
気づけば勝手に野良猫が家に住み着いていたかのような雰囲気で......。
その話題だって本当なら全員でざわついたっておかしくないのに、「まぁ一部屋余ってるしな」とジョンハンは言うし、「俺の部屋一番広いから、別に一緒でも俺は大丈夫だけど」なんてミンギュは言いだす始末。
その空気感にウォヌが呆れたように笑う。
「見つけたのかな。それとも、類友ってことなのかな」
きっとウォヌの言葉の本当の意味なんて、誰も理解してない。
「でも、良かった......」
そう言ってウォヌはジョンハンに向かって手を伸ばした。きっとそのままならその手はジョンハンの頬あたりに触れていたかもしれない。
この謎の多い状況に戸惑いはしてもそこまでツッコまなかったっていうのに、エスクプスは一瞬でジョンハンの腰を掴んで引いた。ジョンハンに触れられるのは嫌だったから。
ジョンハンは驚くこともなく、引き寄せられてエスクプスに抱き込まれても楽しそうに笑ってるだけだった。
ウォヌの手はジョンハンに届かなかったっていうのに、それが、ウォヌにとってはどれだけ幸せに思えたことか......。
彼の人を守る人がいる。そして嬉しそうに笑ってる。そこに幸せがあって、血が青いことなんて大したことじゃないと思ってくれるなら、このまま、きっと幸せに生きていくだろう。
「良かった」
だからウォヌはまたそう言った。
別れはあの時済ませたはずで、でも心配になってその暮らしぶりを確認して、近くで様子を見たかっただけ。
ジョンハンの様子を見に来たんだよって、そう何度ミンギュに言っただろう。でも寝てしまえば、そのほとんどをミンギュは忘れ去る。
でも飽きずにミンギュはウォヌに、色んなことをはなし、色んなことを聞いてきたけど。
どのはなしも普通に聞いてるウォヌが、ジョンハンの話題にだけは嬉しそうに笑う。だからミンギュは毎回、「なんでジョンハニヒョンのはなしにだけ嬉しそうにするの?」とちゃんと気づく。
「だって、はなしを聞いてて、一番面白い」
毎回ミンギュは腑に落ちないって顔をしながらも、そうかも......って自分を納得させて、「あのヒョンはちょっと変わってるんだよ」と笑ってた。
それに何度ウォヌは「知ってる」って言いかけたことか。
辛くても悲しくても笑う人で。
誰かに愛されて誰かを愛することが似合う人で。
優しさは計り知れなくて。
いつだって何よりも深い。
もしも一緒にいたのがジョンハンでなければ、ウォヌはこの星にだってたどり着けなかっただろう。
そう思えば、自分が生きている今は、オマケみたいなものだった。なかったはずの自分。だから惜しいこともない。
本当にこれが、最後だ。もう大丈夫。きっと、幸せになれる。
ウォヌがそう思ったことに気づいたのは、何も覚えてないのに感だけは鋭いジョンハンだった。
「待った」
そう言って、色んなものを消して立ち去ろうとしたウォヌのことを止めた。まぁその言葉に、エスクプスもミンギュも一緒になって止まったけど。
「俺なんだな」
ジョンハンが言った。なにもかも判ってるみたいな顔で。でも全然判ってないってのに、なんでか核心をつく。
「何も判ってないけど、俺なんだな」
不気味そうでも、不思議そうでもない。
それからしたり顔でもなく、ジョンハンはでも笑って、それから「いやでも、うん、俺、自分が時々世界の中心かもって思うことはある」とか言い出した。
真剣な顔して聞いてたのにその言葉に吹き出したのはミンギュで、「お前そういうとこあるよな」とか言ったのはエスクプスで。
「だってしょうがないだろ。ほんとなんだから」
嘘じゃないとジョンハンは言いながらも、ウォヌにも言った。
「こいつみたいに一緒に暮らそうなんて俺は言えないけど、時々は遊びに来いよ。お前、俺が呼んだらいつでも来れんの?」
凄いさらりと言ったけど、必要な箇所は押さえてたかもしれない。
ミンギュにとっても、ウォヌにとっても、落とし所としては良い場所だった。
深く突き詰める訳でもなく、でも突き放す訳でもなく。
「俺、忘れたくないよ」
聡いミンギュがそうも言ったから、「お前、意地悪してやるなよ」とジョンハンが笑う。
記憶がなくなってしまうことを、そんな風に言えてしまうのもジョンハンぐらいだろう。
「別に、意地悪じゃ」
思わずウォヌだってそう言ってしまったほどだったから。
「じゃぁなんだよって、あぁ、それも俺か......」
何も判ってないのに色々理解してしまったジョンハンが、「きっと消された記憶の中に、俺の殺人者としての顔があるとかなんだよ」と、予想外なことを平気で言う。
それなのにミンギュは「そんなの別に俺関係ないよ。俺、家族や親戚縁者でそういう被害にあった人いないから」とか言い出して、自分の記憶は消さなくていいという。
エスクプスだって、「俺はお前がたとえ悪魔だったとしても、別にいい」とか言い出すし......。
そういう意味ではミンギュもエスクプスも一緒になって予想外だった。
「でも」
そう、でも。人は自分とは違う存在を弾き出す。何かあった時には自分との、自分たちとの違いは排除する理由になる。肌の色だって、言語の違いだって。
未だにこの星は小さな世界だというのに、争いが絶えない。もはや生き抜くためには手を取り合わなきゃいけないフェーズに来てるのに、それすらも気づいてない。
「でも......」
ウォヌはもう一度でもと言った。ジョンハンのことを見ながら。
「時々遊びに来いよ」
ジョンハンはまたそう言った。それから今度は、「記憶はそのままでいいよ。一回、なぁなぁで行ってみよう」とも。
「アバウトだなぁ」とエスクプスが笑ってる。
「もっと攻めないと」とミンギュは文句を言っていた。
でもジョンハンに「ここで終わりよりはいいだろ」と言われて黙ってた。
本当はバイバイだったのに。
お前のことだって嫌いじゃないよと伝えて、でもその記憶すら消してしまって、バイバイだったのに。
ウォヌの方がジョンハンと離れたくなかった。許されるなら時々、年に一度ぐらいでもいいから、今も幸せなんだと確認できて、その声を聞けたら幸せだった。本当なら通りすがりにわざとぶつかりそうになって謝って、「あぁ大丈夫です」ぐらいの言葉が聞けたら良い方だろうとすら思っていたのに......。
この世界に2人だけ。
青い血を持つ2人だけ。
1人は眠りを操り、1人は目覚めを操る。
眠りを操る者は記憶すら操れる。目覚めを操る者は全てを消し去ることができる。
でも、それすらも忘れてジョンハンは生きている。
エスクプスの中には長く一緒に生きてきたジョンハンがいるのに、ミンギュの中にはそんな2人を長く見てきた記憶があるのに。
「もういいよ」とジョンハンは言ったけど、どうしたってウォヌはジョンハンの幸せを守りたかった......。
「じゃぁ、これからは、そういうの、やめとくよ」
区切り区切り言っただけなのに、「嘘くさい」とジョンハンが笑う。
「俺はいいよ、お前がいるだけで」とエスクプスはジョンハンを抱きしめる。
「俺は困るよ。俺は色々、全部、ほんとに困るよ」とミンギュはウォヌにもジョンハンにも泣きついている。
「ほら、意地悪してやるなよ」とまたジョンハンが言うから、ウォヌだって「意地悪じゃないって」と笑ってしまった......。
だってこれまでは、いつだって2人。色んなことを話しながら生きてきたから......。
バイバイじゃないよと約束させられて別れた日。
それでも、滅多なことではもう会うこともないと思ってたいたのに、ジョンハンの幸せだけを願いながら歩き出したっていうのに、別れてからたったの数時間後。
「ウォヌや~、飯できたぞ~」って呼ぶジョンハンの声がした......。
いや、そこらのドアから出てはいけるけど、そんなに簡単に呼ばれても......と思いつつも行ってみたら、食卓には当然のようにウォヌのお皿に、箸に、コップに、なんでかミンギュとお揃いのスリッパにパジャマに...............。
「いや早いから、呼ぶの早すぎるから」
そうツッコみつつも、思わず笑ってしまったウォヌだった。
でも、そうだった......とも思い出す。
ジョンハンは当たり前のように自分がやりたいことをやるし、強引だし、人の迷惑なんて顧みないし............。でもいつだってウォヌの側にいてくれたことを。
この世界に2人だけ。
青い血を持つ2人だけ。
今はもうウォヌしか覚えていないことは多いけど、それでも、頻繁に呼ばれるようになったウォヌだった。
もう少ししたら毎食呼ばれるような勢いだけど、さすがにそれはないだろうと信じてるウォヌだった............。
The END
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