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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

氷の女王様が暮らす町 -MYMY 6-

このおはなしについて......

MYMY6。
どこまでも自由に書けるこのおはなしが、かなり好きです。
ということで、まだ「MYMY」の全てを知らない方は、contentsページへどうぞ。

sevmin.hateblo.jp

 

氷の女王様が暮らす町

ゆっくり風呂に浸かりたいとかならまだ判るが、ゆっくりトイレに入りたいとか言い出したエスクプスによって、船は一度地上に降りようって話になった。
それは数時間前のこと、船の外のトイレにはエスクプスが入ってた。当然トイレは1人用で、空を飛んでたってもう慣れたもんで。
なのにトイレは外から開けられた。
そうこのトイレはカギはかかるけれど中からも外からも開けられるようになっていたから。
「ヤー、入ってるの判ってただろッ」
とりあえず前を隠しながらも怒鳴ったエスクプスだったけど、「ごめんヒョン緊急事態だからッ」と言って、ドギョムが座ってるエスクプスの横から奥へと手を伸ばす。
そこには普段から掃除道具だったり、網とか釣り竿とか、長めのものがしまってあったから。
トイレの中が物入れにもなっているのはこの船に乗った最初からで、船の中のスペースが限られているからこそだろう。
「ごめんごめんごめんごめん」
そう言いながらドギョムが出ていったけれど、出てすぐのところで他の面々に、「トイレは今クプスヒョンがうんこ中だから、気を付けてッ」って叫んでた。
「ヤーッ! ドギョマッ!」
怒ったってどこ吹く風。本当に強い風に流されて、エスクプスの声なんて一瞬で消えてゆくから。
でもドギョムのデカイ声はちゃんと全員に届いたようで、「なに? 腹でも壊してんのか?」とジョンハンがトイレの外から話しかけてきた。
心配してくれるのは嬉しいが、トイレ中に話しかけられて気にならない人間は少ないはずで......。
でもそれなのに。「ヒョン大丈夫? 出ないの?」と声をかけてくれる優しい弟たちが、次から次へとやって来る。
「クプスヒョン、もう諦めて途中で切り上げなよ」
そう言ってきたのはジュンで、心配してわざわざ操縦席から離れてきたのかと思ったら、ただただ「俺トイレ待ちなんだけど」ってだけだった。
「途中で切り上げるってなんだよ。どうやって途中で辞めるんだよ」
そう言いながらゲラゲラ笑ってるウジの声もする。
「え、ヒョン、出てる途中なの?」
スングァンの声もする............。
「なにここ、みんなトイレの順番待ちしてるの? なんか俺もいきたくなるじゃん」
ジョシュアの声まで聞こえてきて、どう考えてもトイレの外に人が集まっている。
いやエスクプスが色んなことを気にしない性格だったとしても、絶対これは無理だろう。
「ヤー、お前らが五月蝿いから出るものも出なかっただろッ。散れ散れッ」
エスクプスがそう言ってトイレから出たら、本当にジュンがバトンタッチしてトイレに消えてった。
「で、ドギョミは? 緊急事態ってなんだよ」
さすがにトイレを開けられて怒っていても、何かがあったのかは気になったらしい。
それにスングァンが普通の顔して「あぁ、さっきホシヒョンが船から落ちかけたから」と答えたけれど、全然普通の顔で言うことじゃなかった。
慌ててエスクプスが走ってく。
ホシは無事だった。落ちかけたと言っても船の外に身体が出たりした訳でもなく、何かがあって必死にしがみついた的なことがあった訳でもなかったから。
でも「あ、クプスヒョン見てよ。あそこ」と言ってホシが指差す先を見れば、船の外側の少し下の方に何かがついていた。
ゴミなのか汚れなのかは判らない。
「いや大したことないかもしれないけど、これ、飛んでる状態じゃ無理かも。さっき掃除ブラシを必死に伸ばしてみたけど届かなかったから」
時々地上に降りた時には、船の側面やら下やらを掃除する。だからそれもあって地上に降りようと決めた。まぁゆっくりトイレに入りたいって理由もあったし、「あ、掃除ブラシを俺、落としちゃったんだよね」と悪びれもなく言うホシもいたし......。

それでも地上に降りると決まったら、それぞれが色んな準備をする。
やっぱりいつだって食料の在庫を確認するミンギュがいたり、新しい洋服が欲しいと言い出すドギョムがいたり、本を買いたいと言うディエイトがいたり。
降り立った場所で何が見れて、何が食べられて、何ができるか。そんなことを楽しそうに話してるのはマンネラインで、96ラインの4人は降りた場所で手に入れられるものを考えはじめる。いつだって船のメンテナンスを考えているからだろう。
船が少しだけ高度を下げる。
ジュンが「次に見つけた陸地におりるよ」と言ってから、実際に地上に降りるまで、体感1日ぐらいかかってた。
船の中で色んなことに備えるジョシュアがいて、お出かけの準備を楽しむディエイトがいて、色んなものを仕入れるはずだからと、ちょっとずつ使ってたものを盛大に消費しようと言い出すミンギュがいて。
結局エスクプスが1人でゆっくりトイレにいきたいから降りるんだなんてことは、すぐに忘れ去られていた。まぁジョンハンだけは笑って、「良いトイレがあるといいよな」とか言っていたけど......。

降り立ったのは、普通の街だった。
栄えていると言えば栄えてる。でも音も光も温かさも外には漏れないような、そんな街だった。
もちろん店もある。そのドアを開ければ店の中にも入れて、売ってるものは買える。
決して排他的な場所でもなかった。
当然のように船を隠して、街には4人だけで訪れた。
エスクプスとウォヌとミンギュとディエイトで。
バラバラになることはないけれど、店の中に入れば見える範囲でそれぞれが動く。ミンギュは生活に必要なものを買うために。ディエイトは逆に売れるものを調べるタメニ。エスクプスは正攻法で街の状況を尋ね、ウォヌは何も言わずに色んなものを見ることで状況を知ろうとする。
いざとなれば戦える。そして逃げられる。走れる。
そしてそんないざがなければ確実に必要なものを買い求めることができるミンギュがいるから、もしもすぐに飛び立たなきゃいけなかったとしても、それなりに役には立つ布陣になっていた。
「なんか、乾き系が多いから、冬が厳しいのかな」
売ってるものを見て、長期保存を考えたものが多いと気づいたのはミンギュだった。
だから「ここは季節柄、冬が長いの?」と店の人にエスクプスが聞けば笑われた。
「あんたらここは、氷の女王様が暮らす町の下町だよ」
結構な街なのに、下町だという。
そもそも氷の女王様が暮らす町って?っとなってたら、「余所者でも大抵は知ってるのに珍しい」と言いつつも、町の話を聞かせてくれた。
女王様は空の上に住んでいるという。だからこの街から続く山は一年中凍っていて、綺麗な水を街に流してくれている。そんな女王様がいたら冬は雪に閉ざされるのかと思いきや、他の場所にどんなに雪が降り積もろうともこの街だけは守られていて、普通に冬は寒いだけらしい。
でもだからこそ氷の女王様に感謝して、冬の間は屋内で過ごすことが多いらしい。
見たことも会ったこともないという。でも不思議と冬の間、久しぶりに外に出ると色んなものが空から舞い落ちてきているという。古びた箒や、壊れたドア。そんなものの中にこの世界にはないような不思議なものもあって、きっとそれは氷の女王様の世界のものなんだろう。
へーとか、ふーんとか、ほーとか。そうなんだとか。とりあえずちゃんと相槌を打ちつつ色んなはなしを聞いていたけれど、ほら、こないだ落ちてきたものはコレだよと見せられたのは、なんだか船の中にあった掃除ブラシによく似てた。
「いやそんなバカな」
思わずそう言ったエスクプスだったけど、気づけばミンギュに押しのけられていた。
まさかの女王様を否定はできないだろうってことかもしれない。
「もしかしなくても、空気の流れってやつじゃないかな」
大人しくはなしを聞いていたディエイトが言った。
「ウジヒョンが前に言ってた。どこの空を飛んでても、空気の流れはいつだって同じ場所から来て、同じ場所に向かってる気がするって」
船から落ちたものも、空を自分で飛び続ける力を失ったものも、ただただ風に流されていくものも、全てとは言わないけれど、ある程度はここに流れてくるのかもしれない。
それが女王様の力かは判らないけれど............。
愛想のよいミンギュがなんだかんだと話した結果、墜ちてきた掃除ブラシを貰えることになっていた。元から自分たちのもののような気はするけれど、4人ともちゃんとお礼を言って店を後にした。
どんなところなのか偵察がてら出てきた4人だったのに、その話を聞いた途端、ミンギュが急いで船に戻ろうと言い出した。そう言う前からウォヌはもうさっさと戻りはじめてて、「なんかバタバタしそうだね」とディエイトまで言う。ひとり状況が理解できなかったのはエスクプスだけで、「あ? なんだよ。どうしたんだよ」と弟たちの後を追う。
船に戻ってみれば、一番に駆け戻ってたウォヌから何かを聞いたのか、ウジとホシとジュンが出かける準備をはじめてた。もちろんウォヌも一緒に出るという。
「いいよ。俺とミョンホがいれば、いざとなれば船は動かせるし」
ミンギュがそう請け負えば、4人は本当にあっという間に船を出て行く。「とりあえず今回は様子見だと思うけど」とウジは言っていたけれど、「あれは絶対、何かは持って帰ってきそうだよ」とディエイトが笑ってた。
「ヤー、なんだよ一体」
判ってなかったのが自分だけでムカついたのか、エスクプスがそう言えば、様子を見てたジョシュアが笑って「絶対何かゲットできるはずだって息巻いてたよ」と教えてくれた。
船から落ちたものが流れ着いてくるなら。船の何か、あわよくば部品みたいなものだって手に入るかもしれないと考えたのかもしれない。
誰もがガラクタと思えるものでも、96ラインの4人には違うのかも。
結局、夕飯までには戻って来るだろうと思ってたのに、4人は全然帰って来なかった。
心配だからと迎えに行きたくても行き先は判らないし、何より96ラインが欠けてる状態で弟たちを残しては行きたくなかった。
「俺が1回、様子見がてら1人で行ってくるよ」
96ライン以外のメンバーで夕飯を食べた後に、ミンギュがそう言ったけれど、「お前1人で行かせられるかよ」とジョンハンがすぐに否定した。
頼りにはなるミンギュではあるけれど、1人でなんてことは絶対にさせたくないんだろう。それはエスクプスも同じだったし、ジョシュアだってそうだろう。
「でも」
「俺がミンギュヒョンと出るよ」
ミンギュがでもと言いかけた時、バーノンが自分が一緒に行くと言った。
そうしたら「ダメだ」が4つも被った。
それは当然95ラインのヒョンたちとミンギュ自身で、最低でも3人の時ぐらいしかマンネラインは混ぜないって、いつからか勝手にそんなルールができたいたからかもしれない。
もちろんマンネラインの3人もそれは知っていた。いつまでも守ってくれなくても大丈夫とは思っていても、俺らの気持ちがそれで落ち着くんだよと言われれば、それ以上は何も言わなかったっていうのに......。
何かあった時に戦う必要がある。はじめての場所ならなおさら。船を失う訳にはいかないし、誰かを残して飛ぶつもりはさらさらない。
「汽笛を鳴らす?」
ディノが言う。何かあった時には鳴らすからといつもヒョンたちに言われてるからだろう。
それも悪くない。でもはじめての場所で、すぐに飛び立てる訳でもない状態では、自分たちの場所を見知らぬ人たちに知らせてしまう結果になるだけかもしれない。
「これさ。きっと物凄く良い物を見つけちゃったパターンだよ。だってしっかりしてる96ラインのヒョンたちがウハウハになって時間を忘れるぐらいなんだから」
ディエイトがそう言えば、ちょっとだけ空気は軽くなったかもしれない。
きっとそれでも何かトラブルがあったかもしれないと思っているのは95ラインの3人ぐらいで、3人はそれぞれ思うところがあって、それを口に出さずに我慢していた。
「じゃぁ荷物を持つこと前提で、迎えに行く方がいいかな」
ジョシュアがそう言いながら、「俺が出るよ。ミンギュとボノニと一緒に」と笑いながら言った。その柔らかい物腰はいつだって空気までもを柔らかくする。
大きめな物入れを探しに行ったマンネラインを他所に、「何かあれば汽笛を鳴らす。一度なら助けに来い。二度なら逃げろ」エスクプスがそうジョシュアに囁く。それに頷きながらも、ジョシュアも負けじと「新しく作った武器は、スングァニやディノにはまだ無理だから」と囁き返した。
きっと何もない。要らぬ心配である確率の方が高い。それでもそれはエスクプスたち95ラインの決まり事のような、お守りみたいな約束事だった。
いつだって最善を尽くしてる。
そんなやり取りをしてることは、きっとミンギュやディエイトは気づいてる。だから船を降りた後、船から見えなくなった時点で「走ろう」とミンギュは言った。それから残された船の中ではいざって時のためのあれこれに手を伸ばしたディエイトがいた。
「ケンチャナ、ケンチャナ」
自分に言い聞かすようにジョンハンが何度もそう口にする。
たった少しの間離れてるだけなのに、不安は尽きない。どうしたって見える範囲にいて欲しいと思ってしまう。自分が心配性なのかと思ってたけど、目の前で「ケンチャナ」って呟くジョンハンの手は少しだけ震えてた。
船の汽笛は鳴らなかった。新しい武器を握りしめていたディエイトが、それを使うこともなかった。時折「ボノニ」って呟くスングァンが、悲しむこともなかった。
ジョシュアとミンギュとバーノン。3人のうちの誰かが、慌てたように走って戻って来ることもなかった。
ただ3人で謎にエントツみたいな何かを抱えて帰ってきたけれど......。
4人は当然無事で、まだ帰れそうになくて、逆に持って帰りたいものは山のようにあるらしい。とりあえず4人が無事と聞いて全員がホッとした。だから次はミンギュとバーノンとエスクプスが出た。
たどり着いた場所には本当に、持ち帰りたいものが山のように積まれてた。
「ヤー、お前ら心配するだろうが」
とりあえずエスクプスがそう言えば、一番後ろで前からの荷物を受け取って持ち帰る用の場所に荷物を積む作業を繰り返してるホシが、「ごめんヒョン。でもここの仕組み上、これしかないんだって」と言ってきた。
色んなものが確かに落ちてくる。だけど落ちてきたものをその場で間引かなければ、消えてしまうものもあるという。
落ちてくる理由も判らないんだから、消える理由も判らないだろう。
1番最初に、欲しいものを見つけて手を出したのはウジだった。咄嗟に掴んだそれを引っ張れば、それはもう二度となくなったりはしなかった。
それからは必死でジュンとウォヌが順番にウジの指示のもと、「あれは絶対ゲットだ!」というものに手を伸ばし、それをウジが後ろにやり、さらにそれをホシが持って帰る用と定めた場所に積み上げるの繰り返しだった。
「だからって」
そう言いかけたけど、「ほらヒョン、なんか小さなエンジンみたいなものも手に入ったし、何か判らないけどコレがあればウジが船が安定するかもって」とホシに言われて色々見せられてしまえば、そこらで切り上げろとは言えなかった。
そこからエスクプスは2回往復した。バーノンがディエイトに代わり、ミンギュがまたジョシュアに代わり、ジョシュアとジョンハンが変わった時には、そのジョンハンに変わってホシが荷物運びに加わった。
ジョンハンが現場に残ったことで、荷物は多少増えたかもしれない。
「ヤー、役立ちそうなものじゃなくて、金になりそうなものとか簡単には買えなさそうなものをゲットしろって」
と、ジョンハンが96ラインに言ったからだとか。
すべてが落ちてその場に転がるならそんな気持ちにはならなかったかもしれないが、消えてなくなるのは惜しいとでも思ったんだろう。
「網だ。なんか網っぽいものが落ちて来る。あれは欲しい、絶対欲しいッ」
そう叫んだのは誰だったか。
たまたま荷物を運ぶためにその場にはエスクプスとミンギュとホシがいて。荷物を拾う部隊ではジュンとウォヌとウジとジョンハンがいて。
その網に最初に手を伸ばしたのはウォヌで、横から手を出したのはウジで、ジュンだって確かに手を伸ばしたのに、引っ張られる力の方が強くて3人ともが持ってかれそうになっていた。
「アンデッ」
普段はのんびりなジョンハンが、物凄い速さで動いてホシをビビらせていた。でもエスクプスもホシもミンギュまでもが手を出して、どうにかこうにか網をゲットできた時には全員肩で息をしてたっていうのに、ジョンハンだけは何故か「勝ったな」とか言って笑ってた。
だから多分網が絶対に欲しいと言ったのはジョンハンだったんだろう。
でもその後、落ちて来る場所に網を張って根刮ぎゲットする、地曳網漁みたいな方法がとられた時には全員で「おぉ〜」となったけど。
最終的には荷車みたいなものもゲットした。そのおかげで荷物を一気に運ぶことができた。そこで諦めたのは、船にこれ以上乗せられないってほどの量になったからだろう。
荷物を押しながら、でも誰かは担ぎながら、時には引きずりながら。最後は結構な荷物を運んで帰った。
船の中は、中も外も荷物だらけになったけど、ガラクタみたいなそれらがどう役に立つのかは全然判らなかったけど、「いやこれ、船飛ぶの?」っていうディノの発言に全員で慄きながらも、「いざとなったら何かを捨てればいいだろ」と大雑把なウジの発言に全員で「おぉ」ともなった。
一応簡単な話し合いはした。ここでもう少し粘って、いるいらないを分けて、なんならもう少し何か頂いていこうかって。それでなくても、この町にまた来れるとも限らない。
だけどホシが「いや、行こう。もう二度と来れなくたって、ここで腰落ち着けたら飛べなくなる」と言った。
それもそうかもしれない。
「そうだな。色々ゲットできたのは、たまたま、ラッキーだったってことにしようよ」
次にそう言ったのはドギョムで、普段は何かを決めたりする時に頷くばかりの2人が言ったことで、このまま行こうと決まった。
ジュンが操縦席に着く。
ディエイトはエンジン室に行く。そこにも結構荷物を詰め込んでるというのに、無理やり自分の身体を押し込んだらしい。
やたらと長い棒のようなものも船の中にはあったから、ドアを閉めるのにも苦労したけど、「しならせよう」というジョシュアの意見にしたがって、ほぼほぼ残りの全員で頑張った。
「いやこれ、飛べたとしてもどうするの?」
凄いまともなことを言ったのはディノで、その場にいなかったディエイト以外がちょっとだけ、ほんとに......と思いかけたというのに、「どうとでもなるなる。なんとでもなるなる」とウジが言う。
そうしたら不思議と「ウジが言うなら大丈夫そうな気がする」とジョンハンすら言い出して、やっぱり全員でそうかも......みたいな気分になった。
まぁマンネなディノは1人、そうかな......って顔をしてたけど。
「飛ぶよ~。加速するよ~」
緊張感のないジュンの声を聞きながら、加速の強さがキツイのか、必死に全員でしならせようとしてる棒の強さがキツイのか、微妙なところだった。
でも耐えた時間は10分もなかったかもしれないし、途中からドギョムやホシが笑いはじめて、「バカ笑うなって。力抜くなって」と叫ぶジョシュアの声にやっぱり全員で爆笑して、「船が壊れるッ」と最後はウジが叫んだほど。
まぁでも、気づけば慣れ親しんだ空の上だった。
船はもう落ち着いていて、ドアを全開したおかげで全員でしならせていたそれだって、多少はみ出しはしたが落ち着いた。
ディエイトがエンジン室から戻ってきた頃には、無理やり押し込んだ荷物を取り出したために逆に船の中はえらいことになっていたけれど、それでも全員楽しそうだった。
「ほらこれ。俺が必死で掴んだやつ」
そう言ってホシが自慢してたのは、バケツだった。
「で、俺がこれ」
そう言ってウォヌが自慢したのは、釣り竿だった。多少短めではあったし、機能的なものは何一つなかったけれど。
「俺はそれ」
そう言って操縦席から振り返ってジュンが指差したのは、持ちてが異様に短い網だった。
つまりは3人で、釣りセットをそれぞれゲットしたってことだろう。
「俺はなんか、どっかで売れそうなのを必死で掴んだけど」
そう言ってジョンハンが自慢したのは確かに金目のものっぽい時計とか、キラキラした飾りものとかだった。
「でもそれ、ディエイヒョンに見られたら売りたくないって言いそう」
スングァンのその言葉にジョンハンは慌ててそれらを隠そうとしてたけど、エンジン室から出てきたディエイトの方がちょっとだけ早かった。
「わぁ。カッコイイじゃんそれ」
当然ディエイトは嬉しそうに喜んで「欲しいものを順番に言っていくの? それともジャンケンとか? くじ引きとか?」と、自分のものにする気満々だった。
異国の本もあった。どこの国のか判らない地図もあった。どこかでは高値で売れるだろうとジョンハンが必死に掴んできたというのに、ディエイトはことごとくそれらを飾ったらいい感じになると喜んでいた。
ウジが自慢してたのは蝶番だった。
「地味だな」とドギョムに言われ、「それは欲しくないかも」とディエイトに言われ、「何に使うんだよそんなの」とミンギュにまで言われ、ちょっとムッとしてたけど、大小様々な蝶番を持ってるところを見ると、本気でそれが欲しかったんだろう。
エスクプスは「凄いな。狙い定めたんだな」とウジのことを褒めてやり、ウジもそれで満足したようだった。
ウォヌはミンギュのためにと掴んだ鉄のフライパンらしきものを見せていたけれど、「いやヒョンそれ武器じゃない?」とミンギュはちょっとだけ疑っていた。
ジュンが取って来たのは、絶対それは呪いの人形じゃないか......みたいな、何でできているのかも判らないような人形で、「いや誰かが喜ぶと思って」と言っていたけれど、結局誰にも引き取られなかった。仕方がないからと呪いの人形は操縦席に飾られた。

バタバタはしたけれど、結局落ち着くところに落ち着いたかもしれない。ジョンハンがゲットしたあれこれは弟たちがほとんどを喜んで持って行ってしまったけれど、飽きれば売ってくれるだろうと言っていたから、いつかは役立つものになるだろう。
ミンギュはいつも通りに料理しつつも、ウォヌがゲットしたフライパンらしきものを使おうと頑張ってはいたけれど、多分早々に諦めていた。そのうち何かを潰す時にでも使うかもと言って、厳重にしまっていた。船から落とそうものなら、結構な被害が見込まれるからだろう。
「いや大丈夫だろ。また氷の女王様のとこに行くだろ?」
ホシあたりは気軽にそんなことを言うけれど、それが事実かは誰も判らなかったから。
凶器となりそうなものは落とせない。ギリでデッキブラシぐらいだろう。
それでも危険な気がするから、なかなか落とせないんだけど......。
ウジが自慢してた蝶番がどこに使われたかも、エスクプスは知らなかったけど、あれだけ自慢してたんだから、どこかできっと役立っているんだろう。
やっぱり空の上が落ち着くかも......みたいな会話をしつつ過ごした数日。
1人のんびりトイレに入りながらも、結局地上でゆっくりトイレなんて、思えばできなかったし、船のトイレ以外にも行かなかったな......なんてことを思い出していた。
地上に降りた理由だって、そもそもトイレだったというのに......。
そうしたらまるでデジャヴ。外からバタバタと走ってくる音がして、油断はしないぞとしっかり内側からドアを抑えたというのに......。
ガバリと開けられたのは、なんでかトイレのドアではなく、横の壁だったはずの場所だった。
「あ、ごめんクプスヒョン」
そう言って謝りつつも人がトイレしてる横に手を突っ込んできたのはディエイトで、「緊急事態だから」と言いながら、トイレの奥に仕舞い込んでたバケツとか網がついた棒とかを一式取り出してった。
「は............?」
驚いて声も出ないエスクプスのことを気にもせず、次に手を突っ込んできたのはミンギュで、その次はドギョムで、さらにはバーノンまでがなにやらバタついている。
「ヤーッ」
とりあえずディノまで来た時にはようやく叫べたエスクプスだった。
「ごめんヒョンッ! でもほんとにそれどころじゃなくて」
「何があったんだよッ」
そう叫べば、「火の鳥だよ。燃えてる鳥が飛んでるんだッ」ってスングァンの叫ぶ声が聞こえてきた。
本当に燃えてるのか、燃えてるように見えるのかは判らない。
でもあんまりにも近くに寄ってきたから危ないとジョシュアが何かを投げたらしい。あっちへ行けって感じで。
そうしたら火の鳥に襲われだして、船の上にいたウジが狙われて、それをジョンハンが身体を張って庇って。ホシは相変わらず手にしてたデッキブラシで応戦して。
後は全員でトイレの中にあったあれやこれやで戦ったと、後からエスクプスは顛末を聞いた。まぁトイレから出られなかったからだけど。
ひとまず全員無事で安心したけれど、問題はそこじゃない。
「なぁ、なんでトイレ、ドアじゃないとこも開くの?」
エスクプスの素朴な疑問にウジが物凄く自慢げに「蝶番手に入れたから」と答えてくれた。
いや、何かが間違っている......。
それなら掃除道具やらをいれる場所をトイレの横にでも作ればいいのに、トイレを横から開けられるようにするってどうなんだ......。
エスクプスがいや待て待てって感じでトイレの話題を続けようとするのに、火の鳥と戦った時に手に入れた火が消えない火だと全員のテンションは高く、エスクプスの話題はすぐに下火になった。

The END