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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

No War! DK's Story

注意......

「No War!」は続き物です。そして長いです。
どこかからたどり着いた方はひとまず、contentsページからどうぞ。

sevmin.hateblo.jp

No War! DK's Story

ニューヨークから戻ってきて一番にしたのは食糧集めだった。

宿舎のマンションは無事だったし、全員で一緒に暮らしてた前の宿舎の暗証番号も変わってなくて入れて、大分助かった。
ドギョムが食糧集めに奔走できたのは、帰ってきた時点ですでに家族の無事が判ってたからだろう。

エスクプスとジョンハンが避難所や病院を回って、ウォヌやミンギュは家族のもとへ向かって。バーノンはスングァンを探して。
ウジとホシとドギョムの三人が、食糧調達に奔走してた。

だから多分ウジヒョンは、バーノンを見送った足でそのまま、釜山に向かうと旅立ったんだと思う。二人分の食糧が必要なくなれば、それだけでも大分助かるはずだから。

ミンギュが慌てて、のちのち食糧と交換できて、旅に負担の少ないものを持って追いかけて行ったけど、ウジヒョンは受け取ったりしなかったらしいし、ホシヒョンは相変わらず、「ホシウジコンビは無敵だからな」と笑ってたとか。

「キムミンギュ。後を頼むな」

ウジヒョンがミンギュに残した言葉。

「まったな〜〜」

ホシヒョンはいつも通り元気に、何度も振り向きながら、手を振ってくれたという。

一番最初に離れてったのは、同じく家族が無事だったディノで、一緒にいたいと言うのを説得されて、家族のもとに帰された。でも自分からという意味では、ウジヒョンが一番だったはず。
いつだって冷静で、先が見通せる人だからだろう。

次にいなくなったのはクプスヒョンとハニヒョン。
徴兵されたと素っ気なく言っていたけれど、二人だって先を見越してそこを離れることに決めたんだろう。軍に入れば食べ物に困ることはない。

「ウォヌを頼むな」

クプスヒョンがミンギュに残した言葉。
ハニヒョンがミンギュになんて言ったかは覚えてない。だってハニヒョンが抱きしめてくれて「俺はお前が一番心配だよ」とか言ってくるもんだから、涙が止まらなくなって。

「泣いてもいいけど、ちゃんと笑えよ。お前の笑顔はまわりを元気にするんだから。それから時々でもいいけど、歌えよ。お前の歌は俺のことを幸せにするんだから」

普段から愛情深い人だったけど、別れの時だからか、まるで言葉責めのような愛情の波状攻撃で。
泣かないはずがない。
見送りに来てたディノもしっかり泣かされていた。

泣かなかったのは、ウォヌヒョンだけ。

ほんとは笑ったりバカなことを言ったり、時々怒ってみたり、ウォヌヒョンの表情はたくさん変わるのに。素っ気なく見えて、誰かが何かを言いたそうだとか、困ってそうだとか、ちゃんと見ててくれる人なのに。
エスクプスもジョンハンも、ウォヌのことを長く長く、そして強く強く、抱きしめてった。

それ以来二人には会えてないけれど、ミンギュは何度か訪ねたらしい。そのたびに手に入りにくい食べ物とかを持たされて帰ってくる。だからきっと、あの二人は変わらない。

アメリカで別れて以来会えてないジョシュアだって、きっと変わってない。カトクなんていつも既読スルーで、素っ気なく見えて、でもいつだって本当に辛い時や困った時には、なんでか気づいて横に来てくれる人だったから。今もきっと、バーノンのことを守ってくれているはず。

ジュンとディエイトの消息も判らない。でもあの二人は大丈夫。二人でいれば、無敵な気がするから。

心配なのは、北の地に行ってしまったディノだろうか。それとも今も笑えてない気がする、バーノンだろうか。

いつだって一緒に頑張ってきたスングァンは見つからなかったけれど、歌えば絶対そばに来てくれてる気がする。

突き抜ける声が好きだった。でもそれ以上に、存在そのものが癒しで、励ましで、目標で、ライバルでもあったはずなのに、不思議と脅かされることなんて一度もなかった。
でもくだらないことで、たくさん喧嘩もしたけれど、その何倍も何十倍も、一緒に笑ってた。

スングァンに「ヒョン」って言われるのが好きだった。

楽しそうに、心配そうに、爆笑しながら、怒った顔でも時々。どんなスングァンでも、どんな場面でも、前後にどんな言葉があったとしても。
スングァンの言葉にはいつだって愛があった。
だからかもしれない。

時々、スングァンの声で、「ヒョン」って聞こえる気がする。歌えばそこに、スングァンが寄り添ってくれてる気がする。
だから時々、今も一人で歌う。懐かしい歌を、最後にはいつも泣きながらだけど、一人で歌う。

「スングァナ。俺は元気だから、心配いらないよ。今はちょっとだけ、泣いてるだけだから」

そこにいてくれてるはずの、スングァンに話しかけながら。

病院で歌いはじめたのは、小さい子たちに子守唄を歌ってあげたのが最初。お年寄りたちも、懐かしい歌が聴きたいというから、仕事が終わった後や休みの日に、うるさくない程度に歌ってあげた。

きっと静かに歌うドギョムの姿を見たら、兄弟たちはみんな笑うだろう。

でも自分たちの歌は、誰の前でも歌えなかった。
だって完璧じゃないから。一人では、どうしたって無理だから。
ハニヒョンのキレイな声も、シュアヒョンの優しい声も、ウジヒョンのあの格別な声も、高く高く強く強く、伸びやかなスングァンの声も。みんなの声が揃わなければ、どうしたって無理だから。
メインボーカルだったのに、支えてもらってばかりの、助けてもらってばかりの自分だったから。

思い出せば涙が零れる。でも泣き暮らしてる訳じゃない。多分一番笑って暮らしてるはず。

ハニヒョンが、「泣いてもいいけど、ちゃんと笑えよ。お前の笑顔はまわりを元気にするんだから。それから時々でもいいけど、歌えよ。お前の歌は俺のことを幸せにするんだから」って言葉を残していってくれたから。

人手の足りない病院で働いて、人手が足りるようになれば別の病院にうつる。特に資格がある訳じゃないから、どこの病院でもそのままいてくれて良いと言って貰えるけれど、迷惑な存在になる前にはと移動することにしていた。

きっとそんなことを言えば、ディエイトあたりは「誰がお前のことを迷惑って言ってるんだよ」って、怒ってくるだろう。
でもこればかりは性格だからしょうがない。

人手がなくて困ってて、ネコの手でも借りたいってぐらいの場所で、微力ながら働かせてもらえるぐらいが、自分にはちょうどいい。
謙虚すぎるのに、誰よりも真剣に、そして丁寧に働くドギョムのことを、厭う人なんていなかった。だからどこの病院でも紹介状を書いてくれた。

昔なら車か電車でそれほどかからない距離を、1日中歩いて移動する。時折、乗り合い馬車も見かけるけれど、それだって今のドギョムには贅沢だった。

きっとみんなは驚くだろう。一番浪費家だったドギョムが、稼いだお金のほとんどを貯金してると知ったら。
お金の価値が変わってしまったから、場所によってはモノでのやり取りも残っていて、お金を貯めても意味なんてないかもしれないし、価値なんてあっという間になくなってしまうだけかもしれない。

でもドギョムはずっと一人だったから。いつかまた、みんなで暮らしたあの頃のように、暮らしたいと思っていたから。それに誰かが困っていたらいつだって助けられるようにしておきたかったから。

どこに場所を移しても、ミンギュが訪ねてきてくれる。
今でこそ笑って訪ねてきてくれるミンギュも、最初の頃はドギョムの横で泣くことも多かった。きっとそれは、自分にだけ見せてくれる姿だったんだろう。
給料変わりに貰える食料や缶詰を渡せば、「助かる」と言ってくれたのが、どれほど嬉しかったことか。「ありがとう」でもなく、「ごめん」でもなく。いつも助けてもらってばかりだった気がするから。
今もミンギュと一緒にいるウォヌはまだ、同じ場所に居続けている。
でもそれを責めたりはできない。バカにもできない。
だってそれは自分も同じだから。誰にも聞かせられない歌をうたって、いつだってそこにいてくれると信じてるスングァンに話しかけて。
そうしないと、生きていけない自分がいるから。

「そこのお兄さん、ちょっと、そこの凄くカッコイイお兄さん」

いつだって、思い出せば泣いてしまう。多分一生泣くと思う。
涙を拭って、そんな自分のことをちょっと笑いながら、歩きはじめて五分もしなかった頃、突然そう話しかけられた。

「美味しいきゅうりはいかがですか? きゅうり嫌いも食べられる、美味しい美味しいきゅうりなんだけど」

竹で編んだ籠に、いびつな形をしたきゅうりが四本。

「最後の四本だよ。ここで見過ごしたら、一生出会えないよ。お兄さんが買ってくれなかったら、俺の夕飯になっちゃうんだよ」
「え? でも、きゅうり嫌いも食べられるきゅうりって」
「ぇえい、お兄さん! 今なら、おまけに、この形の悪い小さいきゅうりもつけちゃうよ」

きゅうりのオマケがきゅうりという。しかもどう考えても、きゅうり嫌いは食べられないきゅうりだと思う。
絶対自分の夕飯になるのだけは避けたいんだろうっていうのが、その表情から判る。
だって目の前で、ちょっと嫌そうな顔で、でもそれを精一杯我慢して、お愛想してますってのが丸わかりの、絶対にきゅうりは食べられない、よく見知った弟がいたから。

色白だったのに、真っ黒に日焼けしてた。
「今日収穫したばっかりの出来立てホヤホヤなんだよ」という言葉通りなんだろう。綺麗な手だったのに、土で汚れてて、どうやってできたのかはわからない傷跡もあった。
見れば足もあちこちに、傷跡があって。
生き残るために働いてできた傷なのか、あの日に負った傷なのかはわからない。
でも、いつだって自分の身体のメンテナンスをしっかりしてて、ビタミンをみんなに配ってたスングァンだったのに。
いつだってダイエットを頑張っていたけれど、今はもうそんな必要もないぐらい。細すぎるほどのその手首は、きっと生きることだけでも大変だった証拠だろう。

『お前、何してんの?』

そう問いかけたかったけど問いかけなかったのは、目の前にいるスングァンが、自分のことを全く知らないスングァンだったから。

「買う。けど、どこに住んでるの?」

そう問えば、きゅうりが売れると嬉しそうな顔をしたのに、一瞬で不審者を見る顔にもなった。

「ほら、またきゅうりが欲しくなった時に、どうすればいいのかと思って」

そう言えば、「あっち」と遠くの山の方を指す。絶対ウソって感じの答え方に、笑いそうになる。

「お金で払えばいい? 缶詰もあるけど?」

持ってるものを見せてやれば、物凄い目がキラキラして嬉しそうな顔になった。でも哀しそうな顔にもすぐになって「うちには缶切りがないから」という。

「でもほら、これなら、缶切りいらないタイプだけど」

そう言って、指をひっかけて開けられるタイプの缶詰を並べてやれば、また嬉しそうな顔で、どれがいいかと悩みだす。
どこからまわってくるのかわからない缶詰だったけど、あの日以前に作られたものが、まだこの世界には残ってるんだろう。外国製だからか書いてあることは判らない。何が入っているのか、どんな味なのか、それはもう薄汚れたパッケージの画像で判断するしかない。
時々はそんなパッケージもついてないものがあって、開けてみれば中身が車用なのかワックスだったってこともあるけど。
それでもそんなワックスは、火を長く長く灯すことができるから、それだって今はとても大切なものだった。
二つ、最後まで悩んでた。どちらもお肉なんだろうなって感じの絵柄の缶詰。

「二つともいいよ」

そう言えば、まともに生きてきたんだろう。きゅうり四本とオマケでは、缶詰二つは釣り合わないって顔をしてる。それから、美味しい言葉には裏があるとでも持ったのか、疑わしいって表情を隠しもしない。

「いつもは、きゅうり以外も売ってる?」

そう聞けば、「コグマとか、コグマとか、コグマとか」と、きゅうり以外は芋がメインらしかった。

「じゃぁ次はコグマも貰うから」

缶詰を二つ差し出せば、「次なんてないかもしれないのに」と言いつつも、二つとも受け取った。
遠くから、「ヒョンジュナ~。帰るよ~」と声が聞こえてきたからかもしれない。
目の前にいたスングァンが、別の名前で呼ばれてた。

「お兄さん、ありがと」

スングァンがそう言って、駆けていく。
「ハルモニ~。きゅうり売れたよ! 缶詰と交換してくれたよ~! 夕飯はきゅうりじゃなくて、缶詰だよ~」
そんな嬉しそうな声も聞こえてきて、見知った後ろ姿をずっと目で追っていた。

 


その顔を、声を聞いた瞬間に、号泣しなかった自分が不思議だった。
でも今も、涙は出てこなかった。

目の前で起きたことが奇跡なのか、それともおかしくなってしまった自分が見た白昼夢なのかはわからない。でもドギョムの手には、自分も嫌いなきゅうりがあったから。

追いかけたかったけど、追いかけなかった。
追いかけてその姿を失ってしまう恐怖があったからかもしれない。
ただ行き先があるにも関わらず、その場から動けないまま、どれだけそこに立ち尽くしていただろう。
それは知らないおばさんから「アンタ大丈夫かい?」って問われるまでで、芋やきゅうりを売りに来る、ハルモニとヒョンジュンという青年の話を聞けば、スングァンが教えてくれた山とは全然違う山を指さして、あの山の向こうから月に何度か、野菜を売りにくるという。
年に一度ぐらいは山で仕留めた肉を持ってくることもあって、そんな時は色んな食べ物と交換してもらえるけれど、大抵は少しの野菜を少しの食糧と交換して帰っていくだけの、貧しい暮らしをしているという。

地図もないこの新しい世界で、同じような山に見える景色の中の、その特別な一つを必死に覚えて。

ドギョムは行き先を変えて歩き出した。
途中乗り合い馬車にすら乗った。普段は絶対にそんなものには乗らないのに。
それを下りてからは、走ったりもした。

ミンギュはいないかもしれない。でも絶対そこには、ウォヌヒョンがいるはずだから。

見つけた。生きていた。
それを伝えたくて、多分その時には、号泣するかもしれないと思いつつも、まだ泣けずにいたドギョムだった。
大事そうに大事そうに、きゅうりを胸に抱いて、懐かしい道を走ったドギョムだった。

 

The END
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