それはミンギュが骨董品屋で見つけたモノだった。
1回押すと、5分前に戻れて。2回押すと、50分前に戻れて、3回押すと、5時間前に戻れて。
試したことはないけれど、下手すりゃ50年前にだって戻っちゃうかもしれない。
取扱い説明書はなかったから、それが何回まで試せるのか......は判らない。
使った挙句、人生の時間が減っていく......ってこともあるかもしれないし、よくよく考えてみたら5分前に戻りたい人生なんて送ってもいない。
後3分で爆発する時限装置と一緒にいる人生......でもないし。
だからミンギュはそれを試しに2回使っただけだった。
「なぁヒョン、5分前と、50分前と、5時間前と。戻れるとしたらどれがいい？」
ある日、宿舎で酒を飲みながらエスクプスにそう聞いてみた。
そうしたら結構酔っていたからか、「ん～、どれに戻っても俺、ハニとやってそう」と物凄いどうでもいい回答がきたため、聞いて失敗した......と酔っていても思ったほど。
でもそうかもしれない。
ある日ミンギュはウォヌとケンカをして、しばらく口をきかなかったけど、それだって2日も持たなかったし、「ごめん」ってお互い言い合った後に抱き合った時にはより幸せになったので、ケンカしたことだって後悔してないし。
たぶん、ケンカして別れて、その後ウォヌが事故にあって死んでしまった......とかの、ドラマみたいな話になれば、きっと必死に何度でも戻ろうと思ったかもしれないけれど、なかなかそんなことはない。
唯一役立ったことと言えば、バーノンが指輪を失くしたと聞いて、それより前に戻ってそれを回避したぐらいだろう。
「なぁヒョン、5分前と、50分前と、5時間前と。戻れるとしたらどれがいい？」
作業室で今日もパソコンに向かってるウジにも聞いてみた。「ほら、もう少し頑張れば良かったっていう曲だって、やり直せるかもしれないよ？」とも言ってみたけれど、男らしいウジはキッパリと、「後悔も失敗も未熟さも含めて、全部気にいってるからいい」と言ってミンギュは惚れ惚れしたかも。
あぁきっと、宝くじの番号を覚えてから過去に戻るっていう方法もある。
そうしたら堂々と、『キムミンギュは成功して、23億持っている。昔はネタだったというのに、今では本当に持っている。』とかだって言えるのに。
でもきっとそんなことをしたら、もっと大切な何かを失ってしまう気がして、しないけど。
「なにお前、過去に戻れんの？」
ウジへの質問を聞いていたのか、ホシが真剣な顔して話しかけてくる。
「なに？ ホシヒョン、戻りたい過去があるの？」
「ある」
物凄いキッパリと言うから、大切な人でも失ったのかと思ったら、「ウジが俺のこと、好きだって言った日に戻りたい」と、ホシにしたら切実なのか、真剣な顔をして言うからちょっと笑ってしまった。
そばではウジヒョンがパソコンに向かってるけどヘッドホンはしてないから丸聞こえだというのに、気にもしてない。
「幻聴だったんじゃない？ ホシヒョンが聞き間違いしたか」
「失礼な。ちゃんとウジが俺に向かって、『俺、お前のことちゃんと好きだぞ』って言ったんだよ」
本当に過去に戻れると知ったら簡単に戻ってしまいそうなほど真剣な顔をホシはしてたけど、「お前バカだな。過去に戻って、過去の俺の気持ちもう1回聞いてどうすんだよ。そんなのは頭の中で勝手に鬼リピっとけばいいだろ」とウジがこっちも向かずに言うもんだから、ミンギュとしては思わず言葉を失ってしまった。
なかなかに、2人のそんな話は珍しいから。
「いやでも俺さ、1年に1回ぐらいは言ってくれるのかと思ったけど全然なくて、それじゃぁ2年に1回かと思ったけどなくて、あぁ4年に1回ねって思ったけど、とうとう4年もすぎたからな」
思わず「いや、オリンピックじゃないんだから」と言いかけたけど、我慢した。
それから物凄く、ホシが不憫になったミンギュだったけど、いやでもウジから生まれる曲を聞いていたら、言葉で表現するよりもよっぽど深い愛を貰えてる気がしないでもない。
「まぁいいけど、スパイダーも貰ったから」
そうも言ってたから、判ってるんだろう。
結局それは使うことなく放置され、ある日宿舎でラーメンを作ってたのに、忘れてて、鍋を焦がしてしまった時のこと。ひとまず5分戻るかとそれを押したのに、残念ながら何も起きなかった。
まさかの消費期間があったのか、それとも電池切れなのかは判らないけど......。
ちょっとだけ残念。でも作り直そうとした時にちょうどウォヌが起きてきて、「あ、俺も食べたい」と言ったから、それはそれで、そういうタイミングだったのかもしれないと、思ったけど............。
「やっぱりお前の作るラーメンが一番うまいな」って、そんな言葉も貰えたし............。
The END
1982moji
