「これでもう、同じだからな」
毎年誕生日になると、バーノンがスングァンに言う言葉がそれだった。
いつだって、たった1カ月ほどの差なのに、スングァンは自分の誕生日になると、「今日からヒョンだからね」と上から目線で言ってきて、地味にバーノンのことをイラっとさせる。
「はいはい」
適当に交わしつつも、小さいイライラが後から後からやってきて、自分でもそんなに意識してるつもりはないのに、自分の誕生日を迎えると同時にスングァンに毎年そう言ってしまうのだから、無意識とはいえずっと意識してるんだろう。
「センイルチュカヘ。ノムノムチョアヘ」
なのにスングァンは、誕生日を祝うことに夢中なのか、全然気にした風でもない。
大好きだと言ってくれるけど、嬉しいんだけど、心の隅っこでは「愛してるじゃないんだ」って気持ちもあったりして。
嬉しいのに地味に不機嫌にもなるという。微妙な状態。
でも皆が祝ってくれる。ドギョミヒョンと誕生日が一緒っていうのもまた嬉しい。ちゃんとケーキは二人分あって、「ほら、早く願い事」といつだって急かされる。見れば横ではドギョミヒョンがもう目を閉じて何かを願ってる。あわててバーノンも目を閉じる。
『いいことばかりがありますように。みんなが幸せで、健康で、笑ってて。あぁとにかく、幸せで』
何が欲しいとか何がやりたいとか。何を願おうかと考えてたはずなのに、いつだっていざとなったらそんなことばかりしか浮かばない。
でも実際のところ、欲しいものは欲しいと言えば、誕生日プレゼントだと言って誰かが買ってくれる。ちょっと高いかなってものだって、「96ラインからな」とか言って、ヒョンたちがお金を出し合ってくれたりするから、大抵は手に入る。
やりたいことだって、色んなアンケートや取材の時に口にすれば、大抵は叶う。
ローソクを吹き消して、おめでとうって言葉をたくさんもらって。きっと今日はいつもより早く一日が過ぎるはず。
「何が欲しい?」
嬉しそうな顔でスングァンが聞いてくるから。
「愛してるが欲しい」
「ん?」
「さっき、ノムノムチョアヘって言ったじゃん」
咄嗟に口にしたのがそれだった。
「サラゲ」
あっさりと口にしてくれる。希望通りの言葉を貰ったというのに、気にしてたのが自分だけみたいでやっぱりちょっとだけイラっとする。
「なんで最初から愛してるじゃないんだよ」
思わず口にして、みんなから拗ねてると笑われる。スングァンも笑って抱き着いてきてくれるけど......。
ただ生まれたって日なだけなのに、求めすぎだと言われたらそれまでだけど。でも「大好き」よりも「愛してる」の方が絶対良いのに。
「なんだよ。いつもは俺が好き好き言ったら嫌がるじゃん。だからちょっと遠慮したんじゃん」
「でも今日は誕生日だもん」
謎な論理で文句を言ったら、スングァンが「なんだそりゃ」って言って笑いだして、つられて自分も笑ってた。確かに「なんだそりゃ」って感じだから。
でも誕生日だから、そういうのも許されると思う。だってドギョミヒョンがあちこちで、「世界で一番カッコイイのは誰?」とか聞きながら、当然のように自分の名前を口にしてもらって喜んでいたから。
ケーキを食べて。歌って。抱きしめて抱きしめられて。ワーワーと過ごした時間。ちょっとだけ寝て、プレゼントを貰って。一緒に過ごした時間。ご飯を全員で食べて、またプレゼントを貰って、笑って過ごした時間。近づいてきては抱きしめられて、皆が皆、愛してるって言葉をくれる。
笑ってばかりだったのに、ドギョミヒョンが泣くもんだから、つられて泣いてしまった。それからまた笑われて。笑って。
「ハンソラ! サラゲッ!」
あとちょっとで誕生日が終わるって時、スングァンが叫んでくれて、ギリギリセーフと笑ってた。
「俺も!」
そう返したら、物凄い驚いた顔をして、でも嬉しそうに笑ってた。
The END
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