妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

天使が空に DK side story

注意......

多分。続きモノです。
はじめて「天使が空に」を読まれる方は、contentsよりお進みくださいませ~ 

sevmin.hateblo.jp

天使が空に DK side story

ドギョムは最近外に出るたびに、空を見上げる癖がついた。
『今日も一日、みんなが幸せにいられますように』
本当は世界中の人がと言いたいけれど、今の自分では、大切に思う人たちのことぐらいが精一杯だと判ってるから。

誰かが幸せでいてくれるだけで自分が幸せになれる。そんな気持ちを、判ってるようで判ってなかった。
仲間としてメンバーとして弟として、大切に思ってくれてるのは当然判ってたし、それは愛だって判ってたつもりだったけど、自分が知ってるつもりになってた愛はなんて薄っぺらいものだったのかと、思い知った。

あの日、あの時、あの病室で......。

 

  

ドギョムはその日、ホシと一緒に歌って踊って、いつも通りに楽しんでいた。
楽しすぎると、ウルっとくる。
テキトーな歌なのに揃ってて、それは付き合いの長さももちろんあるけれど、いつだって本気で付き合ってくれるホシが、楽しそうに笑いながらもドギョムから視線を外さないからでもあるだろう。

幸せすぎると、ウルっとくる。
だからその日も、なんだか泣きそうな日だった。
いつもならスングァンも参戦してくるのに、部屋の突き当たりにあった机の上のお菓子を漁るのに忙しそうだった。

そこはテレビ局系列の撮影スタジオで、控え室というより、忘れ去られた会議室みたいな雰囲気の部屋だった。

多分人数が多いから、押し込まれた部屋だった気がする。椅子はパイプ椅子だし、茶色い机は微妙な大きさで中途半端に三つしかなかったし、鏡も入り口横に大きなものしかなかったから。

でもそんなこと、誰も気にしてなかった。

確かウジとミンギュはゲームをしてた。
後で一回やらせて......って言おうと思ってたから、それだけはよく覚えてる。だけど他のことはおぼろげで、いつからその一連の出来事が始まってたのかも、実は判ってなかった。

ただジョンハンの「イ・チャンッ」ってディノを呼ぶ声が聞こえて、見ればジョンハンがツカツカと歩き始めていて、その先には見たこともない男の人がいて。

なんだろって思ってたら、なんでかジョンハンが殴り倒されていた。バカみたいに口を開けて驚いてただけかもしれない。エスクプスとジョシュアのジョンハンを呼ぶ声も聞こえなかった。その次にウジが押しのけられて壁にぶち当たりそうになったのも、ミンギュが身を呈してそれを助けたことも、一瞬すぎて頭がついていってなかった。

でもジュンによって鏡が割られて、止まってた時間が動き出した。

目に入ったのは変な男でも、闘うジュンでもなく、まだその男の近くにいたディエイトとディノの二人。明らかにディエイトがディノのことを庇うように立っていたから......。守らなきゃいけない存在を思い出して。やっと身体が動き出した。目の前をウォヌが行く。だから続いて進んだのに、ドギョムの足を止めたのはエスクプスの叫び声だった。

「イ・ソクミンッ! ダメだッ、下がれ!」

自分の名前を耳にした瞬間、物凄く衝撃を受けた。そして咄嗟にその声に振り向いた瞬間、さらにもっと衝撃を受けた。

それはきっと、あわせたってコンマ秒ぐらいの瞬間。

ただの自分の名前なだけなのに、そこに込められた悲痛な叫び声はどうしてだかドギョムの胸を突き刺した。そして振り向いて必死な目をしたエスクプスと目があった瞬間、エスクプスがあまりにも辛そうに見えて、驚いた。

その次の瞬間には倒れてたジョンハンがドギョムに向かって手を伸ばすような動きを見せて、そのせいで頭の傷を抑えていたジョシュアの手が外れ、血が驚くほどに飛び散ったことにもっと驚いたから、ドギョムの胸を突き刺した何かは一瞬で霧散したけど。

前を行くウォヌが、振り返りつつも前に進みつつもドギョムの肩を後ろに押すという器用なことをした間にも、ホシが慌ててドギョムを後ろから抱きしめた。

「ドギョマ、ドギョマ!」

振り払おうとしたら抱き着く力が強くなっただけ。
ホシの声も必死で、でもその意味もやっぱり気づく前に、別のことに目を奪われて霧散した。目の前に、パイプ椅子を胸ぐらいに掲げたバーノンが立ちはだかったから。ドギョムとホシを背にして、守るかのように。

誰かを殴ったりなんて、絶対にできない優しい弟なのに。争いごとがキライで、皆が笑ってる平和が好きで、ちょっとみんなよりテンポがズレてて。いつだってスングァンと笑ってて、気づけばディノの横にいてくれるバーノンなのに。

真後ろにいたからか、パイプ椅子を持つバーノンの腕が震えてるのが判った。怖かったからか、武者震いなのか、まさかパイプ椅子の重みとかではあるまいし......。

それでもドギョムはホシの腕を振り払って、バーノンのことを押しのけて、前に進む気でいたのに、それができなかった.........。後ろから腕を回していたホシの腕もまた振るえていたから。小さい声で、「どうしよう。ジフニが動かない。どうしよう......」って呟きが聞こえてきたから。

見ればミンギュと一緒に倒れ込んだウジが、気を失ってるのかピクリとも動いていなかった。本当ならドギョムのことを抑えてる場合なんかじゃなくて、ウジのもとに駆け付けたいだろうに、それでもホシはドギョムの身体からその手を離したりしなかった。それは、ジュンとウォヌがその男を倒した後もずっと。

「まだ何があるか判らないから。俺と一緒にいよ」

救急車が来て、ウジが運ばれていった時にはずっとその姿を目で追っていたというのにそう言って、ホシは絶対、ドギョムのことを離さなかった。

とりあえず脅威は去ったというのに、全然落ち着いてなかったのかもしれない。その時にはもう様子がおかしかったスングァンのことにも、気づけていなかったから。

事務所の人間が病院に向かう車に乗って、ドギョムたちは移動した。だけどその車に乗ることになった経緯も何も、よく判ってなかった。警察の人間が来る前に移動させられたことにも気づいていなかったぐらいで......。
助手席には何も話さないディエイトが。後部座席にはホシとドギョムとディノが。
向かう先がどこの病院なのかも判ってなかった。さっきまでは興奮して、話し続けてたディノが今になって怖くなってきたのか、無口になっていた。

テンション高く頑張った後で、いつだってディノはやりすぎたんじゃないか、大人しくしとけば良かったんじゃないか、もっと別の言い方、やり方があったんじゃないか......と反省することが多い。いつだって「俺、うるさかったかな?」って心配顔で聞いてくる。
誰も「お前うるさすぎ」なんて言ったことは一度もないというのに。
きっと興奮して話してた自分を、今は後悔してるのかもしれない。病院に向かってるってことを意識して余計に。

『心配しすぎだよ。お前はいつだって良くやってるよ。何も問題なかったよ。お前は俺の、俺たちの、自慢のマンネなんだよ』

そう言ってやらなきゃいけなかったはずなのに、そんな言葉すら出てこなかった。自分の心臓の音がうるさ過ぎて。何をそんなにドキドキしてるのか、冷静に考えたら怖くなりそうで、それ以上考えられないから余計に落ち着かなくて。

病院に着いた時、案内されたのは何階かのフロアの、廊下を歩いて角を曲がった端っこの四人部屋の病室で、そこには誰もいなかった。

先に運ばれていったジョンハンや、ウジやミンギュがどうなったのか、付き添っていったエスクプスやジョシュアが今どうしているのか、なんの情報もなくて。窓際のベッドの向こう側に置かれた、優しいブルーの長椅子が清潔そうで病院ぽくて落ち着かなくて、四人には広すぎる病室もその空気も全部、気持ちが持て余してた。

病室の真ん中に立ち尽くしてた時間を動かしたのは、ディノの驚いた声だった。

「ヒョンッ! 血が、血が出てるよ!」

病室の中、一人だけ入り口近くに立っていたディエイトに向かっての声。
見れば確かに左腕のどこかを切りでもしたのか、細いけどしっかりと筋肉のついた腕に血の筋が幾つもついていた。

なんでそれまで誰も気づかなかったのか。でもドギョムは駆け寄ることも、何故かできなかった。

無言のままのディエイトが、ちょっとだけいつもと違って見えて怖かったからかもしれない。その理由にも気づいていなかったけど、流れ落ちる血を見てもディエイトは驚きもせず、動くことすらせず、何も言わず。

その時病室のドアが、横に静かにスライドして開きはじめた。

ディノはその時すでにディエイトの側にいて、ホシはまだドギョムの身体のどこかに触れたままで一緒に病室の中央にいて。だからそれをちゃんと見てたのはホシとドギョムだけ。

ディエイトが一瞬で、ディノを庇うように開くドアに向かって立ちふさがったから。右手に持ってたペットボトルをその背に隠しながら、左手でスライドドアの持ち手を掴み、開きかけたそれを止めた。
ディノは近くにいすぎて多分その動きの全ては判らなかっただろう。
見ていて、ディエイトの周りだけが違う空気になったのが判った。それを人は殺気と言うのかもしれない。

病室の外に誰がいるかを確認する前にそのドアが開くのを止めたのは、何かからディノを、ドギョムをホシを、守るためだろう。
ジュンのように誰かと直接闘ったりはしてないけれど、ディエイトは一人闘っていた。何と闘ってるかは判らない。でも闘う理由は確実に今ここにいる三人を守るため。

ドギョムは息苦しくなった。涙が溢れそうになった。身体はもう勝手に震えてた。でもその理由はやっぱり判らなかった。

「あれ? 開かない?」

そうドアの外から、ジョシュアの声が聞こえてきたから。
ディエイトが背中に隠したペットボトルを持つ手を下ろして、静かにドアを押さえてた左手であっさりとドアを開けたから。

「あ、開いた」

声はいつも通り優しかったのに、そう言って入ってきたジョシュアの服が赤黒くて、そっちに意識が奪われたから。

でもなんで、ディエイトが血を流してることまで忘れてしまったんだろう。ディエイトはもう、明らかにいつもとは違っていたのに。そのことも忘れてしまうほど、ジョンハンの血に染まったジョシュアの姿は衝撃的だったのかもしれない。

病室に入ってきたのはジョシュア一人。

ジョシュアがホシやドギョムの方へと歩いてくれば、ディノも真面目な顔してついて来たのに、ただ一人ディエイトだけは入り口近くの場所から動いたりはしなかった。それにも気づけなかったのは、やっぱりただただ、怖かったからかも。ジョシュアの口から、何が語られるのかが判らなくて......。

「ミンギュは大丈夫。打ち身程度で骨には異常がないって。ただ念のためレントゲンを撮るらしい。ハニは処置室に入ったけど、手術室まで入らなくても大丈夫かもしれない。クプスがついてる」

少しだけホッとする感じの話だったのに、ジョシュアは笑ってはくれなかった。ディノが「良かった」と言いかけたのに最後まで言えなかったのは、ジョシュアが「ただ」と口にしたからだろう。

「ただ......、ウジが目覚めない」

情けないことに、その言葉の意味を理解できなかった。
病院に来る怖さもあったけど、でも病院にさえ来てしまえば、何もかも大丈夫になると勝手に信じてたのに。

「ヒョンッ! 冗談はやめてよ。冗談だよね。冗談なんだよね」

ディノが必死にジョシュアに食い下がったけど、ジョシュアはいつものようには笑ってくれなかった。

「今は、待つしかない」

何を待つのか、待てばどうにかなるのか、何も判らなかった。
それはドギョムにくっついたままのホシも一緒だったのか。それとも、その話を理解することを、頭が拒否してしまったのか。
誰も何も言えなくて、いつまで待てばいいかも判らない中、落ち着けるはずのない病室に、急に明るい着信音が鳴り響いた。それはウォヌからの、病院に向かってるっていう、ホシ宛ての電話。ホシが咄嗟にスピーカーで出たのは、たまたまなのか、一人では何も受け止めたくないと思ったのか、それともその場にいた全員への優しさなのか。電話は、一分もかからなかったけど。

『今から行く。ジフニは?』
「ウォヌや。ジフニが............、目覚めないって............」
『............わかった』

驚くでもなく、悲しむでもなく、ただウォヌがいつも通りの声で受け止めてくれた。それに少しだけホッとしたけれど、それはそこにいた誰もが同じ気持ちだったかもしれない。

「とりあえず待とう」

ジョシュアの言葉に、ウジの目覚めを待つのか、ウォヌ達を待つのか、一瞬わからなくて、でもどちらもかとも思い直した。

きっとウォヌとジュンが来たら、何かが変わる。96ラインは不思議とそう思わせてくれる何かがあった。

そして十分も経たずに、ジュンとウォヌ、それからスングァンとバーノンがやって来た。これでここにいないエスクプスとジョンハンとウジとミンギュ以外のメンバーが揃ったと、安心した。だからやっぱり、バーノンと一緒に部屋の中央まで入って来たスングァンの様子がいつもと違うことにも気づけなかった。

「スングァナ? ケンチャナ?」

そうジョシュアの声が聞こえてきたから、ジョシュアは気づいたんだろう。
でもすぐに、自分も含めて全員が、スングァンがいつもと違うことには気づけた。
ジュンとウォヌが病室の入り口付近にまだいて、誰かと話してた。それは現場からジュンたちに付いてくるようにして一緒にやってきた警察の人たちで、メンバー全員に状況を聞きたいという話だった。

病室の扉が全開まで開かれて、警察の人が二人入って来た。多分そのままなら、その後に続いてまだ入ってきただろう。二人しか入って来られなかったのは、その時スングァンが叫んだから。

「ヒョンッ! 危ないッ! 逃げてッ!」

物凄い必死な声で、スングァンが叫んだ。
一瞬全員がギョッとした。何かから逃げる必要があるのか、また誰かが来たのかと。でもそこには警察の人が二人、ジュンに続くようにして病室に入ってきただけだった。

「スングァナ。あの人たちは、警察の人だよ」

そうスングァンの勘違いを笑いながらディノが声をかけたのに。すぐにいつも通りのスングァンが、エヘヘって感じで笑ってくれると誰もが当たり前のように思っていたのに。

「危ないッ! ダメだッ! 逃げて! 逃げて! 近づいてくる! あーーーッ!」

そこには一歩も動かずに、でも必死に叫ぶスングァンがいた。

「出て! 出てください! 早く!」

そう言って一番早く動いたのはジョシュアで、病室に入ってきていた警察の人に向かってジョシュアにしては珍しくきつめの言い方で態度で。その言葉にウォヌも動く。病室に入っていた警察の人たちを、有無を言わずに追い出してその扉を閉めたから。
逆にジュンはスングァンに駆けよって、叫ぶスングァンを抱き締めた。

「スングァナ! 大丈夫! もう大丈夫だから」
「逃げて! 早く! ハニヒョンッ! 行かないでッ!」

スングァンの目にはあの時の出来事がまだ映ったままなのか、ここにはいないジョンハンに逃げろと叫んでた。
病室の扉は閉められていて、そこはもうメンバーしかいないのに、スングァンには何が見えていたのか............。

「ほら、大丈夫。俺たち以外、ここにはいない」

ジュンの声に少しだけ落ち着いたスングァンが、「全然足りない」と呟いていた。
明らかに様子のおかしかったスングァンに、驚くことしかできなかった。ジョシュアのように素早く動くこともウォヌのように警察の人を追い出すことも、ジュンのようにスングァンのもとに駆け寄ることもできなかった。

ディノが「スングァナ............」と、なんとも言えない感じで呟いていて、気持ちがよく判った。

結局その後、全員でこの病室を出る日まで、病室の中にはメンバーと、いつものマネヒョンしか入れなかった。事務所の社長や副社長やよく知るヌナたちですら、スングァンが嫌がったから。当然警察の人も入れなかった。看護師さんやお医者さんは、スングァンが寝てる隙を見つけて入ってきて、コソコソと出て行っていたので逆に申し訳ないほどだった。

落ち着いたスングァンはいつも通りに見えたのに、突然何かに驚いたり、怖がったり、叫んだりしていたから。

でもそんなスングァンのおかげで、ウジが目覚めない不安を抱えて耐える時間なんてほぼほぼなかったし、ジョンハンとエスクプスが戻って来るまでの時間も、あっという間だった。

まだ一日が終わってもないのに、色んなことがありすぎて。気づけばずっと一緒にいたホシがそばにいなかった。さすがにもう何も起こらないだろうと思っていたのに、ドギョムにとってはまだ大きな衝撃が残ってた。

頭に包帯を巻いて、麻酔が効いていて眠った状態のジョンハンが運ばれてきて、エスクプスが一緒に戻ってきて。あぁこれで後は心配なのはウジだけだ......と思っていて。ジョンハンが目覚めたら、ウジのことを伝えるか伝えないかとか、皆で話していて。心配をかけたくないから黙っておこうと言えば、言わなかったら後々面倒だろと誰かがいって。

スングァンはちょっと落ち着いてきてベッドで寝てて、その横にはそんなスングァンを心配してずっと手を握ってるバーノンがいて。少しずついつもの空気を取り戻してる気がして、安心してたのに............。

「あ、ハニヒョンが起きそう」

そう言ったのはディノだった。戻って来たジョンハンの横に、何もできないと知りつつも離れられなくてずっといたディノだったから、瞼がちょっとだけ動いたのすら見逃さなかったんだろう。
わらわらと、スングァンとバーノン以外がジョンハンの眠るベッドを囲むように立っていた。
ドギョムがいたのは、エスクプスとは逆の、ディノの横。ベッドの位置でいえば、ジョンハンの腰ぐらいの位置だったはず。
きっとちょっとずつ、うぅぅぅんって感じで瞼が開かれて、「どうなった?」って感じのことを言って、気怠そうな、辛そうな感じになると予想してたのに......。

ユンジョンハンは驚くほどにパチリと目を見開いた。

多分最初に目があったのはエスクプスだと思う。ジョンハンをのぞき込むようにしていたから。でもすぐに、その視線はエスクプスから逸らされて、見渡したように見えた。そこにいたメンバーを。そして何故か、ドギョムはジョンハンと、視線がガッチリあっていた。見つめ合う感じ。

驚いていたら、手が伸ばされた。ほぼ腹筋だけで起き上がる感じで伸ばされたその手で、胸ぐらを掴まれていた。

「ドギョマッ! お前ケガは?!」

ジョンハンが最初に口にした言葉がそれだった。
今日一番の衝撃。「ないよ」とも言えなくて、ただ首を振るだけで精一杯だった。

「大丈夫。コイツはケガ一つしてないから。動いたら傷に響くだろ」
「今は麻酔が効いてるから大丈夫だろ」

なんでもないようにエスクプスと会話しながら、「良かった」とジョンハンが笑って、ドギョムの胸ぐらを掴んでいたその手を緩めた。それからその手で、ドギョムの頭をクシャクシャってしてくれた。

「なんで.........」

なんで自分の名前が一番に呼ばれるのか。なんでそんなに、自分のことを気にかけてくれるのか。なんで、なんで、なんで。
でも思い出せば、今日何度も、衝撃があったのを思い出した。
気づけば我慢ができなくて、泣けてきた。
愛されてるとは思ってた。大切にされてるとも。仲間だし、メンバーだし、もう家族みたいなもんだし、弟だし、自分にとっても全員特別な存在だから、それは当然だと思ってて、判ってるつもりだった。
でも自分が思っている以上に、その愛情は深くて、深くて、深くて。

「お前なに泣いてんだよ」

ジョンハンが笑う。でも泣くよ。泣くに決まってるよ。何もできなかったのに、何もしなかったのに、こんなに大切にされてる意味も判んないのに。もしも貰った分の愛情をお返ししなきゃいけないんだとしたら、もう今日一日だけで一生下僕でいなくちゃいけないじゃんって感じ。

「なんで......。なんで......。なんで......」

泣けてきて泣けてきて泣けてきて、結果号泣してしまって結局「なんで」しか言えなくて、それを見てジョンハンが爆笑してたけど、それでも泣けてきた。

「ドギョマ。何があっても、お前だけは逃げろよ」

そんなことを言ってくるもんだから、泣かないはずがない。
結局ディノも、「知らない人にうかうか近づいてってどうするんだよお前は」とジョンハンから怒られていたから、ドギョムだけを大切にしてる訳じゃないってことは判ってる。

 

 

全員で病院から帰る日。雨だった。
スングァンとウジ以外が集められて、今回の出来事のあれやこれやを聞いた。納得できないとディノが言ったけど、ドギョムは何も言わなかった。

ただこれから、どうしたら全員を幸せにできるのか、そればかりを考えていたから。
何かがあったら一番に逃げなきゃいけないけれど、それを約束しちゃったけど、そんな出来事以外でなら、自分にだって何かができるはずだから。

全員で宿舎に戻った日から、ドギョムは空を見上げるたびに、願ってる。
スングァンが天使のジョンハンが飛んで行ったというもんだから、空を見上げる癖がついてしまった。

今日も一日、みんなが幸せにいられますように......。

 

The END
8656moji

start:20190616
finish:20200202