グァニとノニ。この世界でその名前を知らない人間はいないのに、その姿を見た人間はいない。
「凄腕らしいな」誰かが言う。
個人なのかペアなのか、はたまたチーム名なのか。
知るのはいつだって、最後の夜。
「グァニとノニだよ〜」
本当はいつだってスングァンは、自分が「グァニと」って言ったら、後に続けてバーノンが「ノニだよ〜」って言ってくれたらいいのにと思ってる。
だけどそれを任せると、大抵忘れるし、時々覚えててもタイミングが悪くて変に間延びしたりかぶってきたりで、いただけない。
だからそれ以来、全部自分が言うことにした。
まぁその方が可愛く言えるから気に入っている。
「え? 可愛さっている?」
名乗ることに可愛さは必要なのかと、ジュニヒョンは言うけれど、そりゃいるよと必死になって答えておいた。
「だってお前らが名乗ったってことは、ソイツらはその日が最後なんだろう? なのに、可愛さアピールっている?」
横からミンギュヒョンも言ってくるけど、可愛さは絶対にいる。
仕事に対するテンションというか、モチベーションだって違うじゃんと必死に言えば、まぁそういうもんかと納得してくれたけど。
グァニとノニ。は、凄腕だと有名だった。
でも有名なのは名前だけで、2人を知る人は仲間以外ではほとんどいない。まぁそりゃそうだろう。名乗った相手のほとんどはあの世に行ってしまうんだから。
殺伐とした世の中だなぁ......と、バーノンは言う。
本当だよね。さっさと終わらせて、パンケーキでも食べて帰ろう......と、スングァンは言う。
呆然としてるのは、名乗られたその名前とのギャップの凄さにビビることすら忘れてる、今から消されてしまう人たちだろう。
ふんふふん♪と、何故かバーノンは鼻歌混じりに準備する。
「ボノナ、仕事中はヘッドホン外せって」
スングァンが注意するけど、大抵は聞いてない。
ちょっと殺伐とした仕事場とはそぐわないけれど、2人はいつだっていたって真面目だった。
たぶんそんな2人に油断するからこそ、コトを仕損じることがほぼないんだろう。
でも時々は失敗する。
「ボノナ、ボノナッ!」
スングァンがあんまりにも必死に呼ぶもんだから、「あ? どうした?」とバーノンがヘッドホンを外して視線をあげれば、「お前何してんの?」って言ってるスングァンがいた。
「何って、準備してきたやつを広げてるけど?」
「いや、何か間違ってるだろ? ここ、結構都会のど真ん中じゃん」
言われてバーノンは確かにって顔をした。
でも今自分が準備してるのは結構な量の爆薬で、「お? だって指示書は爆発じゃなかった? ほら、周りも盛大に吹き飛ばしていいって書いてあるけど?」と言いつつもスングァンに自分のスマホを見せてくる。
思わずスングァンはそれを真剣に覗き込んで読み込んだけど、「ヤー、これ次の山奥に逃げ込んでる元マフィアの親玉の処理依頼じゃん」と口にした。
「ぅお?」
バーノンも見直して、自分が間違った指示書を見てた事実に気づいて「オットケ」とか言ってたけど、正しい指示書には「自殺か事故死希望」とあった。
それならこんなに元気よく名乗って近づいたりしなかったのに......。そう思えば、スングァンだって大概、お気楽な感じで仕事に来てるんだろう。
「まぁいっか。ガス爆発ってことにする?」
スングァンがさらにお気楽な感じで言う。多少周りを巻き込むが、実際問題ガズ爆発ならしょうがないと諦めてくれるだろう。
「そうする?」
この2人の凄いところは、諌める人間がいなにことかもしれない。
だから続いているとも言う。
「そんなのダメに決まってるだろ。どんだけ周りを巻き込むと思ってんだよ」
突如割り込んできたのは、颯爽とあらわれたジュンだった。
「どうしたのジュニヒョン、なんで来たの?」
「どうしたもこうしたも、依頼内容にしてはボノニが大量の爆薬を持ち出したってシュアヒョンが言ってたから、様子を見に来たんだよ」
さすが......。
案外グァニとノニ。の凄腕の噂は、面倒見の良いヒョンたちのお陰かもしれない。
でもグァニとノニ。と幾ら名乗っても誰も知らないままなのと同じように、2人以外が2人の仕事を完璧にこなしたとしても、その事実は誰も知らない。
「ジュニヒョンありがとう。次のジュニヒョンの仕事は、俺らも手伝うよ」
ちゃんとお礼だって言えるとばかりに、2人が「な?」「な?」と言い合うのを前に、ジュンが笑顔で「うん。もしかしたら頼むかも。でもその時は事前に声かけるから、勝手に手伝うのは無しな」とか言っていた。たぶん手伝わせる気はないんだろうが、スングァンもバーノンもにっこにこで頷いている。絶対気づいてないだろう。
反省はしない。別にそう決めてる訳でもないけれど、反省したからって全てが上手くいくわけでもなし......と、2人して細かいことは気にしない。
ある意味似たもの同士な、ある意味大雑把な、ある意味大胆不敵な。でもそんなものよりも、「グァニとノニだよ」っていう一言に命をかけている。
「なんか、グリとグラみたいだな」
ジョシュアにそう言われて、スングァンは何を勘違いしたのか、「ボノナ、大変。俺らいつの間にか強敵がいるみたい」とか言っていた。
「お? ちんちゃ?」
バーノンが、詳しく聞かずにスングァンの言葉を丸々信じてた。
いやでも「グリとグラ」とか聞いてても、判らなかっただろうが。2人して「でも俺らの方が1文字多いし」と、たったそれだけで勝ってるとか言い合っていた。
ある意味お気楽な、ある意味大バカな、ある意味唯一無二な。そんな2人だった。
The END
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