「おぅ、どうした?」
かかってきた電話に優しい声を出したのはエスクプスで、隣りにいるジョンハンが「今からチングたちと山に登るって報告だよ」と電話の内容を先に言ってしまう。
同じ楽屋にいるのに、スングァンからは順番に電話がかかってくるんだから、そうもなるだろう。
でもそんなこと、エスクプスは気にもしない。まるではじめて聞くかのように、「山に? 気をつけろよ」とか言っている。
しばらく済州に行くと聞いた時、引き止めたいのをグッと堪えて「おぅ、行って来い行って来い」と送り出したエスクプスをジョンハンは見ていた。
「ヒョン、ちょっと行ってくるね」
明るく笑って2人で暮らす宿舎を出ていくスングァンに、毎日電話しろよと約束させたのはジョンハンで、スングァンは律儀に毎日、本当に電話をかけてきた。
今日は何もしなかったんだ......。
そんな日もあれば、星が凄いキレイなんだって日もあって。見たもの食べたものの写真がグループのカトクにあがる。
美味しそうな写真がアップされれば、誰かが「お土産お土産」と騒ぐから、スングァンは「わかったわかった」って呆れ顔のスタンプとともに返してた。
「ヤー、スングァナ、なんでお前ジョンハニにだけ電話してくんの? ヒョンには?」
拗ねて言ったのはエスクプスで、そうだそうだとそれに乗ったのはホシとウォヌとミンギュとドギョムで。
結局スングァンはほぼ毎日、エスクプスからディノまで、順番は適当に変わるけど律儀に電話してきては、これからの出来事だったり、今日1日のやったことだったりを教えてくれた。
すっごい泣いた......そんなことも、スングァンは話してくれた。地元のチングたちが、「俺たちは、なんでもないころのブスングァンの時から、お前のことが大好きだったんだからな」って言ってくれたらしい、「そんなに辛い世界なら、いつでも帰ってきたらいい」とも言ってくれたとか。
スングァンの心を支えようとしてくれる、地元のチングたちにはヒョンとして感謝の気持ちしかないけれど、でもセブチにはまだまだスングァンは必要で、スングァンのいないセブチなんて考えられない。
そう思ったのは当然ながら全員一緒だったようで、「お前ちゃんと言ってやったか? 年末の活躍ぶりに腰抜かすぞってな」と言ったのはウジで、年末にはブソクスンでもセブチでも、賞を総嘗めにする予定だから覚悟しとけよと、滅多とそんなことを口にしないウジが言うもんだから、電話の向こう側のスングァンだけじゃなく、電話のこっち側のメンバー全員が、ウジの強気発言にビビったかもしれない。
踊ったとか。歌ったとか。昔の映像を見たとか。最近ダイエットを始めたとか。そんな報告から、少しずついつものスングァンに戻ってきたなと感じたのは、「ヒョン、ちゃんと食べてる?」とか電話口で言うようになってきたから。
それは全員同じだったようで、「判ってるって、スポなんて俺してないって」とホシが言えば、「なんだよ。俺は最近やらかしてないよ」とミンギュが言い、「ほどほどにやってる。無理はしてないって」とウジにまで口喧しい状態になっていた。
だからとうとう、「なぁ、ひとりひとりに電話するんじゃなくて、もうまとめていっぺんで良くね?」とホシが言い出した。
バーノンもディノもそれぞれ小言を言いまくられていたのか、ほぼ全員が頷いた。
「俺は今のままでいいけど」
最後までそう言い続けたのはエスクプスだけだったけど、スングァンがいない間にケガをして相当怒られた後からは、そんなことも言わなくなったけど。
「休むことも大事だってわかった」
戻ってきたスングァンはそう言った。
マネヒョンや会社のスタッフたちには、迷惑をかけてすみませんと頭を下げたけれど、メンバーに対してはありがとうもごめんも言わなかった。
その代わり、しっかりと抱きしめて愛してるって伝えあった。
そしてジョンハンにだけ、「俺、もう少しの間、旅の途中ってことにしとく」と教えてくれた。
旅の間なら、多少の不自由も我慢できるし、多少の緩みも許されて、なにより頑張りすぎなくてもいい。それに毎日楽しくて楽しくて。特別な思い出ばかりが溜まっていくから。
うんうんと、ジョンハンは頷いた。
そうやって、旅してるみたいに人生を生きたっていい。いつだって自由に、いつだって笑って、時々はスングァンらしくプンスカ怒って、でもやっぱり楽しんで生きてくれるなら、いつまでも旅を続ければいい。
ジョンハンはそう思ったけど、スングァンには伝えなかった。
The END
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