妄想heaven

SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

雲が流れていく -MYMY 4-

このおはなしについて......

MYMY4。まだ書くつもりはなかったっていうのに、セブチが春にカムバするのにダブルタイトルだなんて、まだまだ攻める姿勢を見せて来るもんだから、ついつい。
今回のタイトルも、当然ながらこれが原因だしね。

あぁ、ミニマムなおはなしになると信じたい。
ということで、「MYMY」contentsページです。

sevmin.hateblo.jp

 

雲が流れていく -MYMY 4-

最初に「雲って掴める気がする」って、バカみたいなことを言ったのは誰だったか。
それを聞いて笑いながら「確かに食べられたら旨いかも」とミンギュが言って、網を持ち出したのはウォヌで、甲板の上でなんでかわちゃわちゃしてた時のこと。
普段なら「何やってんだよ」って言うウジだって、ちょっとだけ期待したほどだから、マンネラインの3人が目を輝かせてその場にいたって、しょうがないだろう。

だってピンクの鳥が飛んでたから。
かなり高度が高い場所を飛んでいて、歌ってた。きっとモノマネが上手いってだけの鳥だろうに、その歌は自分たちの言語の歌だった。
空の上で鳥が歌う。自分たちの言葉で。
それなら流れていく雲だって、掴めるかもしれないし、食べられるかもしれない。そんな気になったんだろう。
まだ知らない世界が山とある。そうと知ってるだけに、気になることはどんなにバカなことだって試せばいいと、全員で決めた。

「ふわふわの雲のうえに、ハチミツをかけたら美味しいと思う」

バーノンがそう言えば、すでにスングァン だってディノだって、甘い口になったのか、「口の中で蕩ける系かな」「案外しっかりとしてるかも」とすでに味を通り越して食べた時の感触にまで話が及んでいたほど。
でもまぁ、雲はすり抜けていったけど。
ミンギュの手も、ウォヌの持ち出した網も。

「ダメだ。俺も口が甘いものを求めてる。パンケーキとか食べたい」

そう言い出したのはディエイトで、ドギョムだってミンギュだってそれに乗って、結局弟ラインが全員揃って甘いものとか言い出すから、エスクプスとジョシュアとジョンハンはちょっとだけ考えたけど、それでもすぐに、久しぶりにどこか地上に向かうかって話になって............。
ミンギュは手に入れたい食糧のリストを作りはじめて、ウォヌは備品の在庫をチェックして、ウジとホシはいざって時に武器にもなるようなものも手に入れようと話してた。
真っ白なシャツが欲しいと言ったのはディエイトで、真っ白なシーツでもいいとも言っていた。
なんか自分専用の武器が欲しいとか言い出したのはディノで、さらっと全員が無視するも、その後もディノはずっと武器武器って言い続けてた。
それぞれ、欲しいものをたくさん書き出して、それを一つにまとめていく。さらにそれを優先度の高い順に並べて、それから買う場所に分けていって。

結構しっかりした買い物リストができた時、ディノの欲しがった武器は、リストの最後の方だった。謎にホシが欲しがった海賊船みたいな旗と、肩を並べてたぐらい下だった。

それでも時間とお金に余裕があれば、買ってもらえるだろう。
過去にはウォヌが欲しがったブーメランだって、買ってもらえてたし。それは絶対地上で練習するべきなのに、買った数日後には、船の甲板で投げて、戻ってこなかった......。

「ブーメランって、戻ってくるのにどれぐらいかかるの?」

ウォヌはそう言って、全員が言葉を失っていたっけ。
でもあのブーメランだって買ってもらえたんだから、ディノの武器の方がよっぽど役に立つはず。
だからディノは今回はちょっとルンルンだった。

降り立つ場所は、何度か行ったことのある大陸で、前にきたのは一年ぐらい前のこと。いつだって地上に向かう時は緊張する。不思議と時が経てば人は必ず進化する訳でもないと、もう知っているからだろう。空を飛ぶ船をはじめて見る人もいれば、ただただ怖がる人たちもいる。だから誰も油断なんてしない。

降り立つのはやっぱり人気のない場所で、街からは少し遠い場所。
でも今回は前きた時とほとんど変わってなくて、よそ者も気にしない空気も変わらないらしい。
初日、外に出たのはエスクプスとウォヌとミンギュとバーノンで、最初から結構な荷物を抱えて帰ってきた。
だからこれなら本気で自分専用の武器が手に入るって期待したディノがいた。

それなのに、次の日に買い物に出たのはジョシュアとジョンハンとウジとドギョムとスングァンで、美味しそうな料理は確かに嬉しかったし、みんなでできるゲームとかもワクワクはしたけれど、なんだか全般みんなで楽しもうとするものばかりで、ディノの武器は見当たらなかった。

「俺の武器は? そういうの、売ってる店なかった? 一応、探した?」

スングァンに聞けば、「店が多すぎてそれどころじゃなかった。明日はお前も出るんだから、自分で見てこいよ」ってすげなく言われてしまった。まぁでも自分で買うのが一番かもしれないと思い直す。
明日にはジュンとホシとディエイトとディノの4人で街に行く予定になっていたから。

「飛び出すナイフとかどうかな」

真剣にそう言ったのに、「危ないだろ」って言われて思わず頷きそうになったけど、武器なんだから危なくて当然なのに。

「電気ビリビリってなる、なんか凄いのとかどうかな」

結構良い案だと思ったのに、「全体的に想像しにくいし、使いにくそうだな」と言われてやっぱり思わず頷きそうになったけど、でも自分にしか使いこなせない武器っていうのは憧れる。

「自分の言うことしか聞かない猛獣とかでもいいけど」

楽しくなってそう言い出したら、なんでかウジがウォヌのことをディノの前に差し出してきた。いや確かに良く希望は叶えてくれるヒョンではあるけれど、自分だけのではないし、ましてや猛獣でもないし、攻撃して来てって言っても後ろに控えてるのあg得意そうでもあるし。

なんとなく、その時点でディノだって気づいてた。ヒョンたち全員が、自分の武器を積極的に手に入れようと思ってないってことが.........。
マンネだから甘やかされてることも知ってるし、心配されてることも判ってるけど、いざって時に一番後ろに庇われてるのはもう嫌だった。船の中を爆速で走ってくホシについていけるのは、今では自分だけな気がするし、ヒョンたちの色んな戦い方を見てきたから、自分だって行ける気がする。

街に出て買い物するのにも、1人で自由に行動できる訳じゃない。どんなに平和な場所だって。何があるかは判らないから。
欲しいものを買う順番はなかなか回って来なくても、最初はヒョンたちが買う荷物ばっかり持つはめになっても、ディノは全然嫌な顔なんてしなかった。
だからって諦めた訳でもないから、武器が売ってそうな店の前を通れば視線はどうしたって奪われてばかりだったけど、そんな姿をヒョンたちが見てないはずもなく......。

「ディノや、武器は買ってもいいけど、飛び出したりするのは事故る可能性があるからやめとけ」

出かける前にそう言って来たのはジョンハンで、ディノがケガすることを心配しているようだった。でも飛び出すナイフとか、弓矢とか。そういうのは武器としては見た目も強さも完璧で、きっと使いこなせたらカッコよくもあるはずなのに。

「ヒョン~」

ディノが選ぶ前から制限するなんてって顔でそう言えば、ジョシュアがすかさず「殺傷能力が高いのもダメだから」と言ってくる。「火薬とか使うのもダメだからな」とジョンハンが被せてきて、結局2人して、「鋭いのもダメだから」とか「重たいものも落としたら危ないから」とか。
そんなこと言い出したら何も持てないってぐらい、あれやこれやとダメだしされて、なんでか最後には「ほら、ネズミとかトリとか、なんか船でも飼えそうなの探して来いよ」とペットを勧められていた。
いや確かにペットだって欲しいけど............。

もちろんそんな時間に、エスクプスが「スニョア、ジュナ」ってホシとジュンのことを呼んで、「ディノに本気で武器を選ばせるなよ」とか釘を刺していたのだって判ってた。

でもとうとう、ディノが買い物する番がきて、ペットを売ってる店とかオモチャを売ってる店とか、変わった民芸店みたいなところとか、うっかり勧められて興味惹かれるものは確かにあったけど、「ほら、あの店、刀剣専門店だって」とディエイトが教えてくれたその店は、入口に黒い布がかけられていて、素人さんお断りみたいな雰囲気のある店だった。

「ヤー、ヒョンたちに怒られるだろ」とホシは慌てていたし、「刀剣なんて、絶対ケガするに決まってる」と珍しくジュンだって慌ててた。
でもディエイトは飄々と、「でも武器が欲しいって言ってるんだし、一度はちゃんとした武器を見ておかないと」と言って、入りにくい店の中に気にせず入ってく。

「こういう店は、ホンモノもあるけどニセモノもあるから、見た目で選んだらダメだよ」

壁に飾ってた、キラキラがついた見た目カッコイイ剣の前で「わぁ」ってなってたディノが、放っておけば騙されると思ったんだろう。ディエイトが聞けばもっともなことを言う。なるほどってディノは頷いていたけれど、手を伸ばしたキラキラの件は「それはただの飾りだから」と言われるまで、ホンモノだと疑ってもいなかった。

店の店主はそのやりとりを見ただけで、ディノが剣を扱えない人間だと判ったんだろう。しかも後ろから入って来たホシとジュンが「軽くて当たっても痛くなくて、キレたりしない奴にしろよ」とか、「剣なんて買ったらヒョンたちに何を言われるか」とか言ってるのを聞いて、買う気はなさそうだとも察したようで、「特別な剣がありますよ」と声をかけてきた。

どこの国にもあるような伝説の、特別な人じゃないと鞘から抜けないというその剣は、確かにしっかりとした作りで古めかしくて、人を選びそうなもの。
ホシが手を出して抜けず、ジュンが力任せに頑張って抜けず、ディノが試してもやっぱり抜けなかった。

「これアレだな。鞘から抜けないとかいいながら、実は剣の中身がなくて、鞘と合体してるってやつだな」

ホシがそう言って、「なんだそうなの?」ってディノだって言ったのに、最後に手を伸ばしたディエイトが、「いや、ちゃんと剣はついてるみたい」と言って、するりとその剣を抜いてみせて、店主も本気で驚いていた。

「いや、結構危なそうだな。却下だな」
「それにハオにしか使えないなら、ディノが買ってもしょうがないしな」

なんでか全然驚かずにホシとジュンが言う。
店主なて泡吹いて倒れそうなのに、「剣は見た目派手だけど扱いが難しいって」とホシが言い、「基本重たいから、まぁ嫌気はさすだろうな」とジュンが言い、最後にディエイトが「人はせいぜい、2人ぐらいしか切れないらしいよ」なんて恐ろしいことをさらりと言って、3人がかりで武器には不向きって言って来るのに、ディノも思わずなるほどってなってしまった。

「よし、次々」

ホシの号令で、4人揃って「お邪魔しました~」と店を出て、次に向かったのは「飛び道具」がある店だった。

「カッコイイけど、事故率は高いらいい」ホシが言う。
「カッコイイのは飾ってる時と使いこなせたらってだけだけど。とりあえず火傷の覚悟は必要らしい」ジュンが言う。
「カッコイイかは謎だけど、コストは高いよ。飛んでいく武器は基本回収ができないからね」ディエイトが言う。

事故るだとか火傷だとか。確かにそんな危険なワードも気になったけど、ディノに一番響いたのはディエイトのコストの話だった。
打つたびに当たってくれたら嬉しいけれど、当たらなければ全てはどこかに消えてしまうってことで、「飛んでいくのに、ヒモがついてて、後から回収できるのってないのかな?」ってバカみたいなことを真剣に呟けば、店主っぽいおじさんが、店の奥から明らかに子どものオモチャっぽい、ヒモがついた弓矢を出してきてくれた。失くしはしないだろうが絶対武器にもならないだろう。でもなんでかホシがそれを買っていた。まぁ驚くほどに安かったからいいけど。

「よし、次々」

ホシの号令で、4人揃ってまたしても「お邪魔しました~」と店を出て、次に向かったのは何の店かはよく判らないけど確かに武器っぽいものは置いているっていう、ちょっとだけ謎な店だった。

「罠が売ってる。戦い方としては姑息じゃね?」ホシが言う。
「鞭も売ってる。ソフトタイプだって」ジュンが言う。
「急所辞典なんて売ってる。一撃必殺だって」ディエイトが言う。

いやなんだか微妙なものが売ってる店な気がする。
武器と言うには微妙なものすぎて、そして店の中も怪しすぎてディノが積極性を出せずにいる間にも、なんでかディエイトは急所辞典を購入していた。

「ソフトタイプの鞭、買ってやろうか?」

そうなんでかジュンに聞かれたけれど、「え、いらないよそんなの」と断ったディノに、「でもソフトタイプだぞ?」とか言われて、思わず言葉が出なかったディノだった。なんで推されたのかもよく判らないし............。

「よし、次々」

ホシの号令で、4人揃ってまたしても「お邪魔しました」と店を出たはずなのに、ソフトタイプの鞭に心惹かれていたのか、なんでか店から出たら3人しかいなかった。

「あれ? ジュニヒョンは?」

ディノがそう言ったのに、「放っておいてもアイツは問題ないだろ?」とホシは何も気にしてないし、「なんか欲しいもんでもあったんじゃない?」とディエイトも気にもとめず。ディノだけが振り返り振り返り、でも次の店へと入った瞬間に、そんなことは全部吹っ飛んでしまった。
そこは魔法使い御用達と書かれた店だったから。

「この店、俺たちには関係なくね?」ディノが感動しつつ驚いてるっていうのに、ホシが入ったことすら間違いだったと簡単に店を出ようとする。
「呪いの仮面とか売ってそうだよね」ディエイトもそう言って笑う。
「ぉ? 手品とかも売ってる?」遅れて入ってきたジュンは、そもそもこの店を本物だとは思ってないようだった。

でもディノは店の人に勇気を出して聞いた。「魔法使いじゃなくても、魔法は使えますか?」って。
ホシもディエイトもジュンも、「いや無理だろ」「魔法使えるなら魔法使いじゃん」「魔法も武器なの?」とかツッコミが入ったけれど、ディノには全然届かなかった。だって魔法が使えるかもしれないから。

それはいつから船にあったのかは判らないけど、魔法が使える世界の物語。読んでくれたのはジョシュアだったけど、物語の中でも魔法使いになるべく子どもたちが毎日勉強に励んでた。ちゃんと呪文さえ口にできたら、魔法の杖だって使えてた。

「うぅぅぅん、ほとんどが生まれつきだから、限りなく望みは薄いけど、まぁ騙されたと思ってこの杖を買ってみるといいよ。結構強いから、杖だけの力でどうにかなることもある」

店のおじさんはそう言って、棚の奥から杖を一本出してくれた。物語の中のように、木箱に入ってるその杖は茶色くて、結構細かい模様が彫られてて、何か呪文を唱えながら触れば、雷とかも落とせそうな感じで。

「じゅ、呪文はどうやったらいいです?」

そう聞けば、おじさんは「よく使う呪文100」っていう小さめの本を出してきて、「これはサービスしとくけど」って言ってくれた。

「欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい」とディノが言う。
ホシとジュンとディエイトは思わず3人で見つめあってしまった。
絶対に魔法なんて使えないはずだから。でもまぁ、放っておいてもケガをする心配はないだろう。その点で言えばヒョンたちにも怒られない。
ただの棒にしては高いけれど、みんなそれぞれ、欲しいものは買ってるし、買えない額でもない。

結局「買おう」って判断をするのにそれほど時間はかからなかったけど、そんなマガイモノを弟のために買うバカな奴らだとでも思われたのか、それとも足下を見られたのか。店主がさらにディノが喜びそうなことを言う。

「追加料金はかかりますけど、その杖を持ち主しか使えないように、専用登録ができますよ。血が一滴必要ですけど」

ディノは当然喜んで、すぐさま「ヒョ~ン」って声を出す。
でも一滴だろうとも血を流すことの方を許せなかったのか、ホシは思った以上に強く「ダメだ」と言ったし、ディエイトは物凄い殺気の籠った目で店主を睨んだ。案外落ち着いてたジュンが「血を流す以外に、何か方法はないのか?」って聞いてはじめて、店主が思い出したって顔と声を装って「血を使うよりちょっと時間がかかりますが、握ってもらって呪文を唱えることでも同じことができます」とか言い出して、追加料金もかなり安くしてくれた。

まぁそうだろうっていう3人のヒョンたちの前で、ディノは必死に杖を握りしめて、呪文を唱えて貰って、さらにはそれを頑張って復唱してた。

結局ディノは、自分しか使えない魔法の杖を手に入れた。
武器を買い与えるのを渋ってたヒョンラインにしてみれば、大満足な結果だろう。
ディノはそれを、船に戻った瞬間には取り出して全員に自慢した。自分しか使えないからって、本当は誰にも見せちゃいけない呪文の書いたやつだって、大盤振る舞いに見せまくってもいた。

温くヒョンたちが羨ましさを言葉に乗せるなか、「え? 俺のは?」って本気で言ったのはバーノンで、「そんなの絶対ニセモノだろ」って言ったのはスングァンで、「貸して欲しい」と「見せてみろ」と「俺だけのもんだもん」と、マンネラインはすぐにごちゃついていた。

ひと通り買い物が終わってみれば、船の中も結構ごちゃついていた。
ディノだけじゃなく、全員が自分が買ったものを見せびらかしたいからか、荷物を片付ける前に広げて見せるからだろう。

シンプルに洋服とか、シーツ用の生地だとか、食材とか消耗品とか新しい掃除用具とか日用品とか。そんなものに埋もれてブサカワな人形とかもある。
謎にカワイイものが好きなジョンハンが時々買ってくるから。しかも船の中、あちこちに飾ってあって密かに名前までつけている。
食材はさすがに見せた後は速やかにしまわれていく。

ミンギュはニコニコしながら、さりげなくコッソリ買った高額な食材を隠すようにしまった。エスクプスだって年代物の酒を手に入れて、それを自分の棚に隠してた。
何も隠さないのはジョンハンぐらいで、今回は人形の洋服を買っていた。ジョシュアは隠すものなんて何も買ってないけどって顔で、お気に入りの紙とペンを買っていた。
ジュンは何かをコソコソと隠してて、ホシも何かをコソコソと隠してて、ウォヌは堂々と何かを隠してて、ウジはそんなチングたちを見て呆れてた。
ドギョムだって自分が買ったものを自慢しようとしてたのに、皆が自慢するあれやこれやに負けだしたのか、結局自分が買ったものを見せびらかすのをやめようとしていた。
そしてディエイトは一撃必殺な急所辞典を真剣に読み始めていた。

「足りないものはないか?」

そうジョシュアが皆に声をかけていく。必要なものがあるなら、もう一度買い出しに行くし、足りてるなら飛び立つつもりなんだろう。
買い物メモを読み上げるウォヌに、それにあわせて食材をチェックするミンギュに。
日用品を確認するドギョムに、ホシにウジにジュンに。

「よし、じゃぁ行くか」

そうエスクプスが口にするまで、それほど時間はかからなかった。
全員がそれなりに満足した買い物だった。空に戻ってから飯を食うか、それとも食ってから空に戻るか。
エスクプスは一瞬そう考えて、空はもう自分たちにとっては戻る場所になったんだとしみじみしていた。
ジュンが操縦桿を握り、ディエイトは買ったばかりの怪しげな本を手にエンジン室へと降りてった。

ふわりと浮いた船は、一瞬で高く高く飛ぶ。
ジュンの操縦技術なのか、知らぬ間に96ラインが船をカスタマイズしているからなのかは判らない。
ミンギュが「今夜は全員の好きなものができるけどどうする〜」とのほほんとしたことを口にして、買ったものに夢中だったはずの面子が今度はテンション高くミンギュの周りに集まっていた。

「ほら、そろそろ片付けるよ」

ジョシュアがそう言えば、「はーい」と返事をするのはウォヌで、ホシもウジも素直に動きはじめる。「へいへい」とダルそうに返事をしたのはジョンハンで。ドギョムが片付ける時になって我に返ったかのように、「いやみんな、買いすぎじゃない?」とか言い出していた。

「待って待って、俺が魔法を使ってみるから」

そんな中、魔法の杖を持ってそう言ったのはディノで、「ほら、物を寄せる呪文があるから」と呪文が書かれた紙を見せながら楽しそうに言う。

「いや、物を寄せる呪文ってなに? どういう時に役立つのそれ」

スングァンのツッコみは、当然誰もが思ったことだった。
でもジョンハンが、「じゃぁ頼もうかな」って言った。ジョシュアだって笑って「楽ができるならいいよな」って笑ってた。
きっと呪文を口にしたって、ディノが張り切って魔法の杖を振り上げたって、何も起こらずにそこには「............」的な沈黙が少しの間広がって、「はいはい、じゃぁ片付け再開な」って誰かが言うような空気が広がるはずだった。

「じゃぁ行くよ」

ディノが張り切って魔法の杖を振り上げて「邪魔邪魔じゃ~ま」と、その場にいなかったディエイト以外の全員が一斉に、「なんだよその呪文」とツッコみたくなるような呪文を口にして、杖を振り下ろした。
ギャハハハハハハと、何も起こらないことに、その呪文のバカバカしさに、ディノの真剣具合に、全員で腹を抱えて笑う予定だったのに。

「ッう............そだろッ」

そう言ったのは、身体ごと持って行かれそうになったのをかろうじて操縦桿にしがみついて耐えたジュンだった。
後の面子は物の見事に、荷物とか人とか関係なくすべてが端に寄せられた。そこらに置いてあった誰かの脱いだ靴とか、誰かが後で食べようと思ってたお菓子とか、船の中に飾ってあった石とか。そういうのが全部、人もろとも、端に寄せられてしまった。
そこにはミンギュが作ろうとしてた料理の材料とかも含めて。

「船のバランスが狂うぞッ! 失速するッ! ハオッ、エンジン全開ッ! 無事かッ!」

動くものは全て寄せられたんだから、確かにバランスは崩れたかもしれない。ふわりと船が浮いた感覚は、船が飛びながら頭をあげかけていたから。
ジュンが叫ぶ間にも、ミンギュが卵にまみれてたけど一番にそれでも立ち上がって、近くにいたホシやジョンハンを引っ張り起こしていた。

「チャナッ! なかったことにする魔法を使え! せめて戻せ!」

叫んだのはウジだった。でも魔法なんて使ったことのないディノが、そんなことができるはずもない。手元には確かに色んな呪文がかかれた紙はあったけど、その中から適切なものを探す方が大変だった。
それにディノは魔法が本当に使えるだなんて想像もしてなかったから、感動と、畏怖と、それから驚きと。色んな感情に固まっていたから。

でも船はどんどん傾いていく。こんなの、はじめて船に乗った時以来だって言いながら、全員で持てる限りの荷物を移動させて船のバランスを必死に取っていく。
誰かが「俺の買ったばかりの服に肉がついたッ」と叫んでた。いやでももうそんなのどうでもいいだろうと誰もが必死な中、ディノはなんとか呪文を見つけた。ものを浮かせられる呪文を。

「あった。あったよ。これでどうにかなると思うッ」

そう叫んだディノに、ジョンハンが「バカ、止めろ」って叫んだし、ウジは「待てッ」って言ったし。ホシなんかは咄嗟にディノが持つ魔法の杖に手を伸ばしたほど。
でもギリギリ、ディノがその魔法の杖を振って、それから呪文を口にする方が早かったけど............。

「ふわふわふ~わ」

今度も大概テキトーな感じの、もっと呪文っぽい呪文はないのかと誰もが思ったけれど、今度も最初に「うっそだろッ! チャナッ! 止めろッ!」と叫んだのはジュンだった。それもそうだろう。操縦桿を必死に握ってるっていうのに、身体は浮いてるんだから。
確かに船への偏りは減ったかもしれない。だけど今度は船の中のあらゆるものが浮いていて、浮いてたら自由になんて動けない。しかも今度は呪文を口にしたディノすらも浮いていて、「ぅわ、俺まで浮いた」と驚いている。
多分ディノは役に立たない。

「いやでもこの魔法、いつまでかかってんの?」

浮きながらも冷静なことを言ったのはウォヌで、「その呪文のやつを見せてみろ」と浮きながらも手を伸ばしたのはジョシュアだった。いやもう完全にディノには任せられないと思ったんだろう。

「わーーーーーー」

船の中で浮きながらもどうにか皆が移動しようとしたり、落ち着こうとしてる中、ドギョムが叫んだ。
今度はなんだなんだと全員がドギョムが見てる方を見たら、船の外、雲が流れてた。それも結構な速さで。

「船も浮いてるんだコレ」

気づいた時にはエンジン室にいたディエイトが「なに? どうかした? エンジン全開だけど、全然振動とかしないんだけど」って伝声管から問いかけてきた。

「チャナッ、お前はとりあえずソレを手放せ」

エスクプスがそう言えば、ディノはちょっとだけ嫌そうな顔をしたけれど、だけど大人しく言うことを聞いた。
魔法が解けるまで、小一時間ほど。ホシがその間、「船だって浮いてるんだから、船からでたって俺、浮いてんじゃね?」とか言い出して試そうとして、当然ながら全員から怒られていた。

そして浮かんでるのが解除された時に、見事にバーノンの上に落ちたスングァンがいたりしたけれど、なんとか全員無事だった。まぁ船の中はごっちゃごちゃのグッチャグチャで、全然無事ではなくて、ゆっくり飯とかする前に大掃除をする羽目になったけど。

そしてディノの魔法の杖は、「本当にいざって時。最後の最後の最後の最後の最後の手段の時には使おう」とかジョシュアに言われ、船の奥底に隠された。
その場所はエスクプスとジョンハンとジョシュアの3人しか知らない............。

The END
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