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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

君と歩いたこの世界の 8 MYMY 2

注意......

「MYMY」contentsページです。

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君と歩いたこの世界の 8 MYMY 2

ジョンハンは、懐かしくはないけれど、自分の家があった場所の前に立っていた。
きっと家族はもういない。諦めてる訳ではないけれど、覚悟はしていた。だからしばらくそこに立ち尽くして、少ししたらエスクプスを迎えに行こうと思ってた。
きっとエスクプスの方がグズグズと、泣いてるはずだから。

なのに目の前には妹に似た幼い女の子があらわれて、「天使さまだッ」って、ジョンハンを見て駆けてきたと思ったら、その手を引っ張って家の中へと入っていく。

「天使さまが来たよッ! 天使さまだよッ!」

小さな手を振りほどくこともできなくて引っ張られるままについていけば、奥まった部屋の中には家族が揃っているのか、全員が驚いていた。
真ん中には布団が敷かれてて、そこには年老いたハルモニがいて、命の灯が消えかけているような状態だったから。
そんな中に突然他人があらわれたらそりゃビックリするだろうとジョンハンだって焦ったっていうのに、「ハルモニ、ハルモニ、天使さまが来てくれたよッ」って、女の子の母親らしき人もまたそう言った。
彼女もまた妹によく似ていた。いや、どちらかというと母親に似ていたのかもしれない。

「オッパ。帰って来たんだね」

今にも死んでしまいそうだったハルモニが嬉しそうに笑ってそう言った。
それが妹だとは、すぐには気づけなかったけど、「やっぱり私の天使様だね」って言葉に思い出した。
小さい頃妹はよく、ジョンハンのことを私の天使様って、嬉しそうに言っていたことを。
少し大きくなってからは、願い事を口にする時にしか言わなくなっていたけれど、妹にそう呼ばれるのは嫌いじゃなかった。

「オッパ。誉めてよね。私、物凄く頑張って、待ってたんだから」

細い声は掠れてもいて聞き取りにくかったけど、それでも妹は笑ってそう言った。
そしてそれが妹の最期の言葉だった。

ジョンハンに「ただいま」も言わせずに、妹は逝ってしまったけれど、それは本当に大往生だったらしい。

いつか帰ってくると信じて、長く長く生きることを目標にして過ごして来たらしい。もう自分の子供たちも見送ったとか。
手も顔も、あちこちしわくちゃなのに、妹はキレイだった。
見た目もジョンハンに似てキレイなのに、大雑把で大胆な性格もよく似ていて、こうと決めたら手段を選ばないところもよく似ていた。
大往生だったからか、集まっていた家族たちは泣いてなかった。
ハルモニは昔から、さらっと我が儘を言うとか、嘘とか平気でつくしとか、自分が一番キレイとか言うしとか、まるで悪口みたいなエピソードがたくさん語られたけど、でもジョンハンの美しさを前にしてしまえば、みんな、妹も昔は物凄く美しかったんだろうって、納得してしまった。

天使様がいつか来ると言うハルモニの言葉は、事実だったから......。

不意に妹に会えてしまった。それはきっと妹に根性があったからだろう。
泣くかと思ったけど、涙は出てこなかった。きっとこれは喜ぶべきことで、嬉しい出来事で、物凄い貴重な体験でもあるだろうから。
でも笑ったかと言うと、笑えもしなかった。
ただ、家族を失ったんだなって実感しただけ。
あぁ、1人になっちゃったんだな............って。

妹の子孫は確かにいて、ジョンハンを引き留めてはくれたけれど、感慨深くはあったけど家族とは思えなかった。だからお礼だけ言って別れを告げた。
最初にジョンハンを見つけてくれた幼い女の子が、「天使さまはお空に帰るのね」っておしゃまな感じで頷いていて、やっぱり妹を見てるようで泣けてきたけど。

失ったものもあったけど、得たものもあった。それももう判ってる。
妹を思えば、幸せだけを願ってしまうように。
同じように幸せを願う家族たちがいる。
気づけば愛してた男と、背中を任せても問題ないと思えるチングと、一緒にいればただただ楽しいだけの、可愛くて騒がしくてバカみたいに愛おしい弟たちと。
一緒にお空に帰るのも悪くない。

本当なら1人でそのまま帰ったって良かったけど、きっとエスクプスは泣いて、座り込んでるだろう。そう思って迎えに行けば、やっぱりエスクプスは泣いていた。
昔、家があった場所にはもう何もなくて、今や一番年上で、時に父親のように兄のように全員を守ろうとしてるこの男が、甘えたがりなことはもう知っている。
マンネで、家族全員から愛されて育ったことも。
寂しがり屋で、1人でいるのは嫌がるやつで、すぐに拗ねるくせに手を握ってやるだけで機嫌が直ったりすることも。

「ジョンハナ......」

座り込んで泣いてるエスクプスの横に座ってやれば、エスクプスが泣きながらジョンハンの名前を呼ぶ。

「迎えにきた」

そう言えば、エスクプスが縋り付いてくる。
何も見つけられなくて、時代は変わっていて、「オンマもアッパもヒョンも、俺、間に合わなかった」って言うから。
本当は笑って「俺がいるじゃん」って言いたかったけど、結局ジョンハンだって、「うん」としか言ってやれなかった。

「帰ろう。船に」

そう言えば、エスクプスが「もうちょっとだけ待って」って言う。それからまた顔を覆うようにして泣き出した。
帰ったら一番上のヒョンとして、涙は見せられないとでも思っているからか。
今度も本当は「好きなだけ泣いていい」って言いたかったけど、結局ジョンハンは今度も、「うん」としか言ってやれなかった。

だってそれ以上口を開いたら、ジョンハンだって泣き喚いてしまいそうだったから......。
妹に会えたことは、言わなかった。
もしかしたら、誰にも言わないかもしれない。
きっと誰もが少なからず傷ついていて、長く長く、共に生きてきた家族を失うのだって辛いのに............。

でもいつか、笑って話せるようになったら話そうって、そう思ってもいた。

「俺らがいない間、問題なかったか?」

って、船に戻りついた時、クプスはもう泣いてなくて、当然のように一番年上のヒョンの顔に戻ってた。
ジュンもディエイトもいつも通りに見えた。でも皆が船を離れている間、何も考えなかったはずはない。
エスクプスはそんな2人に近づいてって、「ごめんな。ありがとうな」って言いながら2人を抱きしめていた。
少し離れた場所ではジョシュアがいつものように笑ってた。その横にはガン泣きしてるドギョムが座り込んでいて、ジョンハンを見つけてさらに泣き始める。

「ハニヒョン......」

いつだって少し鈍臭いこの弟が、ジョンハンは心配だった。でもジョシュアが側にいてくれたんだろう。
本当は『お前は笑ってる方が似合うのに』と言いたかったけど、我慢した。
だってそれを言ったら余計にドギョムは泣くはずだから。
真横に座って、「泣け泣け」って言ってやっただけ。それでもやっぱりドギョムは「うん、うん」って言いながら号泣したけど。

きっと誰が帰ってきてもドギョムは泣くかも。
それに笑いながらも、後は弟たちが帰ってくるのを待つばかりだと思ってたのに。
一番に船を下りていったディノだから、きっと必死に走り回っているんだろう。オンマのことを呼び続けていたスングァンだから、諦めがつかないんだろう。そして誰よりも妹思いのバーノンだから、離れがたい場所があるんだろう。

そう思って待っていたのに............。
ディノの声はよく響く。いつもはどこにいてもその笑い声で場所が判るほど。そんな、それでなくてもよく響くのに、必死なディノの声は一瞬でジョンハンの身体を動かした。

『この音が聞こえたら、どんな時でも必死に船まで戻って来い』

船にいない時に汽笛が鳴ったら必死に走れ。そう教えたのは自分だった。それが確かに役立ったことは何度かあったけど、そんなこと言わなきゃ良かった。
だって汽笛の音に慌てて走り出したりしなければ、スングァンは足を滑らせたりはしなかったはずだから............。

走り始めた時、ジョシュアと一瞬目が合った。たったそれだけなのに、後を任せたって気持ちになる。船にはいつだってジュンとディエイトがいて、今はウジもいる。
駆け下りれば、そこにはバーノンがいた。

「状況はッ?」

その声に「こっちからは見えない。ホシの方からは見えてる。でもこのまま助けに行くのは難しいかも」と的確に答えたのはエスクプスで、もうその顔も声も、弟たちを守ろうとするヒョンの顔だった。

何が1番いいのか、どうしたらスングァンを助けられるのか。考えろ、考えろ、考えろ。
ほんの一瞬だったかもしれない。それが最善かはいつだって判らないけど、踏ん切りをつけるのは昔から得意な方だった。
リスクが伴うことでも誰かが決めなきゃいけないなら、それは自分がすることだとも思ってた。
もしも無理をして船がダメになることがあれば、その時には全員で地上で生きればいい。緩やかだった世界の流れは早くなるのかもしれないけれど、それを日々の暮らしで感じる訳でもなかったから、きっと何も問題ないはず。
それよりも、誰かが欠ける方が辛いはず。
それはつまり、全員一緒なら、どこでだって生きていけるってことだ。

「ホシや、上まで戻って船を出せってウジとジュニに伝えろ。クプスとミンギュは、どうにかしてスングァニの下に降りろ。俺とボノニがここでスングァニに声をかけ続けるから」

そう言えば、話を全部聞くまでもなく、ホシは駆け出して行った。
ジョンハンが言った。ホシにはそれだけで十分だったのかもしれない。

エスクプスは驚いて「船を使うのか?」と口にしたし、ミンギュだって無謀だって表情を浮かべたっていうのに。
それでも結局は2人とも、駆け下りて行った。

後は見てることしかできない。
信じることしかできない。
でも船を操るジュンのことも、指示を出すウジのことも、きっと船に乗ってくるだろうホシやディエイトのことも信じてる。

「ハニヒョン......」

一緒に残ったバーノンが情けない声で呼ぶ。
でもジョンハンだって、答える言葉なんて持ってなかった。

THE END
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