お湯を沸かす。それを少し冷まして、飲む。
ちょっと熱っぽい身体は、水分補給をしてやればしみ込んでいく。
濃厚接触者になるより、感染した方がマシ。そう信じて、現場に戻れる日程を指折り数えてみる。
でもまだまだ、それははじまったばかりなのに。
熱がそれほど高い訳でもないのに不安になるのは、いっとき、病院に人が溢れ、健康だった人が突然亡くなるニュースを耳にした時の衝撃を覚えているからだろう。
冷静に考えれば、数日大人しくしておけばいいだけなのに、いつもは2人で寝てるから余計に1人の今が辛かった。
だから電話には出ないってのに、ウォヌのスマホはひっきりなしに着信があることを知らせてくる。
俺からだって判るように、音を変えとくからねってミンギュが言ってたから、誰がかけてきてるのかは手に取らなくても判る。
きっと「ごめん寝てた」って言えば、許してくれるはず。
でも寝てないこともバレているかも。
ちょっとだけ全部バレてることも期待して、電話に出る。
「ヒョンッ、心配するじゃん。なんで電話に出ないんだよ。調子悪いの? 熱はそれほどないって聞いてるけど?」
ミンギュの声が好きだと思う。心配してるような、攻めてるような、慌てたような、でも優しさが滲んでるような声が。
思わず聞き入って答えずにいると、「ヒョン? ウォヌや?」って問われる。
「呼び捨てんなよ」
そう言えば、「元気だよね?」ってやっぱり心配そうな声がする。
「あぁ、俺がしっかり抱きしめて寝ておけば良かった。離れたりしなきゃ、感染するにしても一緒にいられたのに」
電話の向こう側でミンギュが勝手に喋ってる。
ウォヌは少し眠たくなってきた。そう言ったら、「そのまま寝ていいよ。電話はこのままで」ってミンギュが言う。
「なんだよ。寂しいのかよ」って笑ったら、「寂しいに決まってるじゃん」と言うから。
「あぁ、俺も寂しい。お前の声聞いちゃったら、会いたくなっちゃったじゃん」
永遠に会えない訳でもないし、離れ離れに今からなるって訳でもないのに。
カラットたちにはいつだって、会えなくて寂しいって言ってるのに、本当に寂しい時は胸が詰まるんだって改めて知る。
「会いたいよ、ヒョン」
「うん、俺も。でも、電話越しのお前の声も好きだから」
バカみたいに、グズグズと、電話をしてた。
時々ウトウトして、気づいたら電話なんて枕元ですらないところに落ちてたりするのに電話はつながったままで、あわてて耳にあてればそこからはミンギュの歌声が聞こえてたり、ゲームする音が聞こえてたり。
そんなことをし過ぎたせいか、「ウォヌに連絡がつかない」ってマネヒョンが慌ててると、エスクプスに怒鳴り込まれたミンギュだった。
まぁその声も物音も、電話越しにウォヌも聞いたけど............。
The END
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