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SEVENTEEN全員でのドラマか映画が見たいな......

天使が空に WOOZI side story

注意......

多分。続きモノです。
はじめて「天使が空に」を読まれる方は、contentsよりお進みくださいませ~ 

sevmin.hateblo.jp

天使が空に WOOZI side story

セブチの中でいえば、自分は小さいかもしれないけれど、守られる側じゃないと思ってる。

なんでお前が前に出るんだよとは、あの後95ラインのヒョンたちにもマネヒョンにも副社長どころか社長直々に言われたけれど、ないと信じてるけどもしも次があったとしても、多分自分は同じことをする。
誰もが安全地帯にいるならともかく、誰かが危険に晒されてるなら、何度だって自分は同じことをする。

でもとりあえずは、素直に頷いておいたけど............。

 

 

確かあの日はミンギュとゲームをしてたはず。どんなゲームでもミンギュとは接戦で、勝って負けてを繰り返しつつ、自分の方が少し勝ち越してて気分が良かったのを覚えてる。

「イ・チャンッ」

ディノを呼ぶジョンハンの声に、『んぁ?』って思いながらゲームの画面から顔をあげてみれば、その少し後にはジョンハンが殴り倒されていた。

見てた感覚から言うと、吹っ飛んでいたって感じだったかもしれない。

いつもならもっと理性的で、回りもちゃんと見てるはずで、状況判断をする間もなく飛び出すなんてウジらしくないと後からみんなに言われたけれど、その時だってウジは十分理性的で、それでも行くと決めたのは、ジョンハンを殴り倒した男の向こう側、ほんの数歩の距離にディノが見えたから。

その男が手にしてる凶器を持ったまま振り返れば、簡単にディノのこともなぎ倒せる距離だった。

目の端でドギョムの居場所は確認したし、ジュンが立ち上がったのも見た。何よりミンギュは何事もうまくやるだろう。倒れたジョンハンにはエスクプスとジョシュアが駆け寄っていて、スングァンとバーノンは部屋の一番奥にいて。
なんでかスニョイだけ見つけられなかったけど、きっとアイツだって大丈夫。
そこまで一瞬で考えて、「なんだよアンタ!」って言いながら近づいた。

ウジの予想通り男はディノの方には振り返らず、声を発した自分を見て、一歩近づく。
本当ならディノに「さがれ」とか「離れろ」とか「逃げろ」とか叫びたかったけど、男の意識がディノに向けられるのだけは避けたかったからそこはグッと我慢した。

ジョンハンだって吹っ飛んだんだから、自分だって吹っ飛ぶかも......とは全然考えてなかったけど、自分の方が体重が軽い分だけ、やっぱり吹っ飛んだんだろう。
でも痛みはなかった。
それが「ウジやッ!」って叫びながらも自分の身体で受け止めてくれたミンギュのおかげだったとは、その時は全然認識してなかった。

ただただ、『え? なんで俺今呼び捨てられたの?』って思っただけ。
『咄嗟だから?』とは思いはしたけれど、ミンギュがエスクプスに向かって「ヒョン」と呼びかけるのもしっかり聞いたから、思わず『ぁあ?』って言いそうになったほど。

だってなんだか、ふざけてる時に呼び捨てられるのは判るけど、咄嗟の時だと常日頃からそう心の中で呼ばれてるような気がするから。
『いやまぁ呼ばれてたって、いいっちゃぁいいんだけど......』とか考えてる間にも、盛大にガラスが割れた音がした。

その後にエスクプスの声で、「イ・ソクミンッ! ダメだッ、下がれ!」ってのも聞いた。
ジョンハンの傷口を押さえてるジョシュアの「バカッ、動くなッ」っていう、珍しい怒鳴り声も。
それからホシの「ドギョマ、ドギョマ!」っていう、ドギョムを呼ぶ声も。

全部声と気配だけでその場の状況を確認することしかできなかった。もうその頃には、大分クラクラしてて、少しずつ目の前が暗くなってきていたから。

誰かが戦ってる音も聞こえてはいて、それは多分ムンジュニだろうなとも思ってた。

いつもは驚くほど男前で整いすぎた顔を気にもとめずにただただバカな子みたいな感じで笑ってるのに、いざって時には自分をバッサリと切り捨てるその考え方と行動は、自分とちょっと似てるから。

非常ベルが鳴ったとこまでは、覚えてる。
ミンギュがディノに鳴らして来いって言うのを聞いて、あぁこれでもう大丈夫とホッとしたことも覚えてるから。

ラクラするから、ちょっと寝るから。

それは睡眠も取らずに3日ぐらい働きつづけた時の鈍い痛みと似てて、そう言ったはずなのに、声はもう出てなかったかもしれない。意識がすぅっと自分の身体の中の奥の方に落ちていく感覚にぞわってしながらも、一瞬で意識をなくしたウジだった。

それからは、ただただ寝てた。
夢を見ることもなく寝てただけ。でも常に頭の中で音楽が鳴ってて、時々ドギョムやスングァンの歌声も聞こえる気がして、その音のすべてを記憶するのに忙しかったことだけは覚えてる。

はじめて聞くその旋律を、忘れないように。それからどんな歌詞があうかを考えながら。目覚めたら、一番にスニョンに聞かせてやろうと思いながら。

当然ながら何も知らなかった。
ジョンハンの傷の状態も。ジュンとウォヌが戦った後の状態も。ディエイトの様子も、スングァンの様子も。

それでもエスクプスではないけれど、キムミンギュさえいれば大丈夫ってウジだって思ってるっていうのに、目覚めてみればミンギュはウジの側にいて、ウジの手をしっかりと握りしめていた。

「ヒョン、戻って来てよ」

しかも必死そうな声でそんなことまで言うから、一瞬『お前なにこんなとこにいんだよ』って言いかけたほど。
まぁ言った言葉の辛辣さは、それほど変わらないだろう。だって結局ウジは「鬱陶しいぞ」って言ったから。ミンギュが泣きそうなほど心配してくれてるってのに......。

目覚めたウジに驚きながら心配しながら喜びながらバタバタしながら。そんなミンギュの気配を感じながらも、次に自分の口から出た言葉は「腹減ったわ」だったから、結構な時間が過ぎたことを知った。

本当なら「今何時? どうなった?」とかが最初の言葉なはずなのに、自分でもちょっと笑いそうになったけど、目を開けた瞬間に出た言葉は「お前俺のこと、呼び捨てただろ」だった。

ミンギュは焦って「いやでもそれは、緊急事態で咄嗟にだったからだよ」と言ったけど、エスクプスのことはちゃんとヒョンって言ってたことも指摘すれば、「いやウジヒョン、めちゃくちゃちゃんと覚えてるじゃん」と驚いていた。

「覚えてるに決まってるだろ。非常ベルが鳴ったとこまでは、ちゃんと聞いてたからな」

ミンギュは1人で慌ててたけど、それぐらいで怒ることもない。
だから気にせず、「ハニヒョンは?」って聞いた。
当然次は「ジュニは?」って。それから「ドギョミは?」って。

「ドギョミは? あいつは絶対ケガなんてしてないだろ? 確かスニョイが一緒にいただろ?」

ドギョムの無事だけは確実に確認したくて、「うん。ドギョミは確実に無事」ってミンギュの返事を聞いて、心の底からホッとした。
それから当然のようにマンネのディノのことを聞いて、「大丈夫」って答えに、じゃぁもうこれで大丈夫だろうと「良かった」って言ったのに、ミンギュは微妙に沈黙して、困ったような縋るような視線を向けるから......。

「何かあったのか?」

その言葉にミンギュが情けない顔のまま「うん」というから、思わずミンギュの手を強く掴んで、その目をのぞき込んでいた。嘘は絶対に見逃さないとばかりに、力強く。

「誰も死んでないだろ?」

非常ベルが鳴るところまでは覚えてる。まさかの複数犯だったのか、どうしようもないぐらいの凶器を隠し持っていたのか、たった一瞬で色んなことを想像したけれど、ミンギュが今度も頷いたから......。

「生きてるなら大丈夫だろ」

そう口にしながら心の中で、『生きてるなら大丈夫』って復唱してた。
それは信じてると言ってもいい。
まずは生きていることが一番で、それだけでいい。頑張る余力がないなら、無理が利かないなら、辛すぎるなら動けないなら、ただただ生きているだけでいい。そうすればいつかは道が開けるから。そう信じてる。

長い長い練習生時代の中で、それだけは確実に学んだウジだったから。

みんなが少しずつ様子がおかしくて、スングァンは完璧におかしくて。そう聞いても、四人部屋で全員で固まってると聞けば、やっぱり大丈夫な気がした。
ちゃんとした病室だったとしてもバラバラだったりしたら、余計に不安になってたはず。
強気な感じのジョシュアだっていつもと様子が違ってたとミンギュは言うけれど、普段は優しく笑ってるだけに見えるジョシュアは、誰かを押しのけてまで前に出てこようとはしないだけ。

今回みたいに誰もがバタついていてどうにもなりそうにない時にはちゃんと前に出てきて、予想を遥かに超える働きを見せてくれる。
優しく笑ってるだけでないのは、頭の回転の速さや、いざとなったら誰にも譲らないその態度を見れば明らかなのに、それでも普段の柔らかいイメージが強すぎるのか、誰もがジョシュアには油断する。笑いながらも、かなり尖ったことを言うっていうのに。

その後、検査を断ったら横でミンギュが驚いていた。
病院だって広く見ればサービス業なんだから、客の意見の方が強いはず。だからしれっと断れば、特に押し切られることはなかった。

まぁマネヒョンが買ってきてくれた弁当四個をペロリと1人で食べるのを見られたからかもしれないけれど......。
車イスに乗せられて、ミンギュが押してくれるのに任せて、はじめての病院の中を行く。途中コンビニによってイチゴウユを買ってもらった。
病室のある階から病室までの間に、なんだか病院関係者じゃない雰囲気の人を見つけてドキっとした。だから自分の中にも何かは残ってるんだろう。なら、皆が少しずつおかしいのだって当たり前だと自分を納得させた。

それでも会えることにホッとしてるんだから、きっと何も問題ない。
ちょっとだけ怖かったのは、病室の前に来て、横にスライドするタイプのドアが開けられる前までだった。

一緒について来てくれた看護師さんが、そっと扉を叩けば、扉を少しだけ開けてウォヌが中から顔を出した。
ウォヌがウジとミンギュに向かって「おかえり」と声をかけてくれたから、ウジは車イスのままで片手だけあげた。ウォヌがそれにちょっとだけ笑った気がしたけど、すぐに声を低めて看護師さんに、「すみません。今、スングァニが起きてるから」と謝っていた。

一瞬だけ開けられたスライドドアは、ウジとミンギュが入った瞬間にはウォヌによって閉じられた。
視界の端でスングァンがビクついたのも、そのビクついたスングァンにさらに皆が一瞬身構えたのも判ったけど、何も言わなかった。

ミンギュが明るく、「みんな、ウリジフニが戻ったよ」と言えば、皆が喜んでくれただろう。
でも95ラインのヒョンたちが頑張って声を出してるようにも見えたし、ウジに向けられる視線には隠された意味がたくさん含まれてるような気配もあって、とりあえずウジは頷いておく。
どうやら、それは今じゃないようだったから......。

ベッドに横になりながらも、どこかから足音が聞こえた気がした。
思わず視線だけで病室の入口を見て、自分も大概、ビクついてるなって自嘲した時、バーノンの声がした。

「大丈夫。スングァナ。もう大丈夫」

見ればスングァンが叫ぶところだった。
「ダメだッ。逃げなきゃ。早く逃げなきゃッ」って叫びながらも、スングァンはピクリとも動かない。それから「チャニがいない。チャニがいないッ。ボノナ、どうしよう。チャニがいないッ」って必死に叫んでた。

慌てたようにディノが近づいて、「俺いるよ。俺ここにいるよ」って言ってるのに、必死になって叫ぶスングァンにはそれが見えてないんだろう。
ジュンが立ち上がってスングァンを強く抱きしめながら、「大丈夫。ほら、もう大丈夫」って背中をさすり続けて、ようやく落ち着いていた。

ミンギュが目を見張って驚いていた。だけどそれ以外の面子は悲しそうだったり心配そうだったりはするものの驚いてなかったから、スングァンはずっとそんな調子だったんだろう。

確かあの時スングァンは、一番部屋の奥にいたはずで、危険からは一番遠かったはずなのに。どこもケガはしなかったというのに、守りたかったのは身体だけじゃない。そう思えば、自分はスングァンを守れなかったんだろう。

「ジフナ。ミアネ」

皆の視線がスングァンに行く中、そばに来て謝ったのはホシだった。
気持ちは同じだったんだろう。
『お前はでも、ドギョミを守ってくれたんだろ』って気持ちを込めてその手を叩けば、その気持ちは通じたのか、ホシが「うん。でも、ミアネ」ってやっぱり謝ってくる。

実際に身体をはって戦っていたジュンやウォヌですらそう思ってるふしがあって、それならば余計に、95ラインのヒョンたちは後悔してるのかもしれない。
だって誰よりも弟たちを守ろうと思ってるヒョンたちだったから。

でも一番最善だったはず。
そんな非日常に慣れてるはずもない自分たちにしてみれば、頑張ったほうなはず。
それに一番傷を負ったはずのジョンハンを見れば、もういつものように笑ってた。頭には包帯を盛大に巻いていたけど。
後はもう、全員揃っていつものように、上だけを見て行くだけだった。
傷は癒えるはずだから。例え癒えなかったとしても、絶対に糧にはなるはずだから。

そんなことを考えながらも、いつの間にか眠ってた。
ベッドは1人用なはずなのに、当然のように横にはホシが居座っていた。
いつもなら側にいるのに、肝心な時に側にいられなかったことを悔やんでる感じのホシは、人が寝てるってのに「ジフナ? ジフナ? 死んでないよな?」って横から人のことを何度も起こしてくるから、鬱陶しいことこの上なかったけれど、「ぁあ?」って言う不機嫌なのが丸わかりの声にさえ嬉しそうに笑って「良かった」って言うから、なんとなく怒るに怒れない。

だから「お前起こす前に、心臓の音とかで確認しろよ」と言った瞬間にはしまった......と思ったけれど、その後からずっとホシの手が胸の上にある状態で、時々はホシの頭すら乗っている。まぁ心臓の音を聞いているんだろう。逆に鬱陶しすぎて、やはり目覚めることが多くなって、やっぱりちょっとイラついていたウジだった。

そんな時、ウジが戻って来てから何度目だったかも判らないけれど、スングァンがまた悲痛な叫び声をあげた。

「ハンソラッ。ハンソラどこッ」

隣りにはバーノンがいて、スングァンの手をずっと握ってるっていうのに。
部屋の空気が止まった気がした。ウジの隣りにいたホシが、拳を握るのも視界に入ったけど、スングァンのベッドの横で寝袋に入ってたディノがビクつくのも見えていた。
ジョンハンからもジュンからも、誰かと変わってベッドで寝ろって言われたたのに、スングァンの近くにいるって言ってマネヒョンの車から寝袋を持ち込んだディノは、どうしていいか判らなかったんだろう。

視界の端では、ジュンが動いたのも判った。スングァンを落ち着かせるために、動き始めたんだろう。
だからウジはいつも通りの声を出すために、少しだけ気合を入れたかもしれない。

「五月蠅いッ黙れッ。今何時だと思ってんだ」

気合を入れすぎたのか、思った以上に声を張っていた。
驚いたのはスングァンだけじゃなくて、全員だった。

「だってヒョン、ボノニがいないんだよ」

全員が見守る中、スングァンの言葉に、ウジは淡々と答えた。「じゃぁお前の横にいるヤツはニセモノかよ」って。
優しさとか、労りとか。それこそ同情すらそこには含めなかった。それこそ『戻ってこい。ブスングァン』って気持ちだけ込めたかもしれない。

「でもヒョン、俺数えても数えても、全然数があわなくて」

途方にくれた声で、表情で、スングァンがそう言う。
バーノンに捕まれていない方の手で、自分の胸あたりをギュッと掴んでて、きっとそのまま放っておけば不安がピークに達して、また誰かを探して叫ぶんだろう。
時には「逃げて」だったり、時には「危ない」だったり。

本当ならウジだって、スングァンを抱きしめてやりたかった。
でもきっと抱きしめることなら、ウジ以外にもっと適任がいるだろう。だからウジは自分にできることをする。

「ほんとに今何時だと思ってんだよ。あぁもう、番号ッ!」

そう叫べば、絶対にエスクプスが反応してくれると信じて。
そして当然のようにエスクプスが手をあげながら「イチッ」と口にする。ベッドに横たわっていたジョンハンは、しっかりした口調で「ニッ」と言う。ジョンハンと一緒に寝てたジョシュアは、軽く手をあげながら「サンッ」。

95ラインのヒョンたちがそこまで道を作れば、後は当然のように弟たちが続く。
移動する前に必ずそうしてるから、改めて考えることもない。頭で考えるよりも早く、全員がそれには反応するだろう。

なのに1人驚いてるスングァンのところで、それは止まった。
数えて13とならないかもしれない恐怖がそこにはあったのかもしれない。
それでもウジが「ほら、お前だろ」って言えば、スングァンが「ジュウイチ」って言った。
当然のようにその後にはバーノンとディノが続き、「13だ......」って呟いたスングァンは、本当に13までの声を聞いて心の底から驚いているようだった。
たった13って数字を全員で数えただけだというのに、それはスングァンにとっては慣れ親しんだ日常で、幸せの象徴で、安心を与えたんだろう。本当にたったそれだけのことなのに............。

その後、スングァンは寝て、朝まで起きなかった............はず。
ウジだって寝て、その後は誰かの叫びに起こされることもなかったから。
気づけば横にいたはずのホシがいなくなっていて、寝袋で寝てたはずのディノと交代してたからってのも、あるかもしれない。
少しずつ少しずつ、自分たちがちゃんと日常を取り戻しつつあると判ったのは、それぞれが遠慮なくベッドを交代で使い始めたから。ちゃんとした病人であるはずのジョンハンですら、なんでか椅子に座って寝てたりもして、当然ながらウジだって、あちこちのベッドに潜り込んで寝てた。スングァンとだって、ディエイトとだって。

移動のためにと乗っていた車イスだって、「ヒョン、ちょっとだけ乗っていい?」っていうディノに貸してやってたし。

次の日。医者に呼ばれて治療を受けに行った帰り、ウジは1人マネヒョンに呼ばれて、病院の中の会議室みたいな場所にいた。
そこにはなぜか、副社長と、事務所の偉い人と、はじめて会う事務所と契約しているという弁護士の人がいて、ウジを待ち構えてた。

「今回の実質的な被害者は、ユンジョンハンと、君だから」

それは加害者の暴力によって傷ついた......って意味らしい。だから選択権があるという。
今回の事情と、これからの話と、それからウジの選択権の話を簡単に聞いた。詳細に話してくれようとしたのは、ウジが止めた。

「俺はハニヒョンの、95ラインのヒョンたちの意見に従うんで......」

そう言えばちょっとだけ驚かれたけど、別に必死に引き留められることもなかった。
ただウジを安心させるためにか、保険適用外の検査も全部してもらっていいと言われたから、検査を断ったことがバレていたのかもしれない。

病院代は治療代や検査費、入院費や雑費も含めてすべて加害者が出してくれるという話に、無表情で耐えて「そう......なんですか」って言ったけど、その部屋を出た瞬間小さくガッツポーズをしたウジだった。

思わずルンルンとスキップしながら病室に帰りかけたけど、秒で色んなことを計算して、ちゃんと神妙な顔して病院内を移動した。途中でミンギュを捕まえて、謎にテンションはあがったけど。

そこから先はウジの意のままにミンギュが暗躍したからか、練習のたびに誰かが打ち身を作っても当分は大丈夫だろうってぐらいに、湿布やら冷却スプレーやらを手に入れた。それからウジは意味もなく脳波でも取ってもらうかと、のんびり検査だって受けた。
結果は普通の人より脳の使ってる場所が多いとか言われたけれど、別段第3の目がある訳でもないというから、「ふ~ん」程度のことだった。

不意の物音にはまだ怖がっていたけれど、それでも叫ぶことのなくなったスングァンが落ち着いてきていたから、病室の中はいつものようにワチャワチャしてた。
それでもジュンはディエイトのそばを離れなかったし、バーノンもスングァンのそばから絶対離れなかったけど。ホシはディノと一緒に買い物に行ったりしてたから、ちょっとだけ心の中で『は? お前なに?』って気持ちでいたけれど、まぁそれだってほんとにちょびっとだけだったから、特に問題でもない。

ジョンハンが傷の状態を見せてくると言って95ラインで出て行ってなかなか帰ってこなかったから、きっとウジの時と同じように、謎な部屋に連れて行かれたんだろう。ウジと違うのは、その話し合いには時間がかかっているはずってだけで......。

ヒョンたちに任せておけば問題ない。ウジはそう信じてる。それこそ長い付き合いだからかもしれない。
簡単には騙されないユンジョンハンがいて、案外強かなジョシュアがいて、メンバーのためなら1人泥を被ってもいいと本気で思ってるエスクプスがいるから。

その3人が納得するなら従うし、戦うというなら一緒に立ち上がるだけのことだから。

もちろんそこに歌や曲が絡んでるならウジだって譲らないけど、今回のことはウジの範疇じゃないだけ。少しだけ後からホシが怒るかもとは思ったけど、結局はホシだって、お前がいいんならいいって、きっと言ってくれるはずだった。
しばらく、機嫌は悪くなるかもしれないけど......。

その後、ウジに今回の件で話しかけてきたのはジョシュアとジュンだけだった。
ジョシュアからは、「特に希望もなくていいのか?」って確認のように聞かれただけ。

「任せるよ」

って答えたら、シュアヒョンは「ウジらしいな」って笑ってた。
それから何故かジュンには、「ありがとな」って言われた。

「何がだよ」

って強めに答えたけど、あの時犯人の男の側にディノとディエイトがいることに気づいてウジが動いたことに、ジュンは気づいていたんだろう。
ヒョンたちにも「なんでお前が前に出るんだよ」って言われたけれど、ジュンは確かに次は辞めろなんて言わなかった。きっと自分だってもしも次があったとしても、同じことをすると思っているからだろう。
たくさん話すことなんてないのに、なんでか通じ合ってる。ジュンとはそんな感じだった。

スングァンの側に居続けるバーノンもきっと、ウジに『ありがとう』って言いたかったはず。気づけば目が合うことが増えたから。
逆にウジが気になって目で追ってしまうのはディエイトだった。いつもと様子が違うっていうディエイトは、しばらくの間、ボーっとしてたから。普通の呼吸を深呼吸で賄ってたり、目を閉じていたり、誰かに声をかけられても頷くだけだったり。
でも明日には退院するって日には、「もう大丈夫」って笑ってた。

「どこが大丈夫なんだよ」

そうジュンは心配しながらも怒ってたけど、でもディエイトがそう言うなら、きっと大丈夫なんだろう。

色んな緊張がほどけて、もう少ししたら全員で退院できて、それから少しずつ日常を取り戻していうはずだったのに、ウジの心を揺すぶってきたのはやっぱりホシだった。
1人で車イスを扱うことにも慣れて、検査帰りに売店でも寄ろうと思っていたら、そこにホシがいた。イチゴウユを手にして、きっとウジのことを待っていたんだろう。

病院の中、車イスを押してくれたのはホシで。
まるで病人と付き添いの人みたいな顔して移動した。少しだけ人がいない場所に。

「怖かったか?」

ホシがそう聞くから。
『無我夢中だったから』って言おうか、正直に『怖かった』って言おうか悩んで、結局頷くだけになったウジだった。

「怖かった。怖かったけど、同じことがあれば、また動くと思う」

正直に言えば、ホシがじっと見てくる。そしてホシもやっぱり頷いた。

「俺も。俺の方が近かったら、多分そうする」

ホシがそう言うから、ウジが頷く。
何かあればセブチを守るために、支えるために、前に進み続けるために、頑張ってきた2人で。ウジがボカチのリーダーになると決まった日だって、エスクプスをもっと俺たちが支えなくちゃって話し合った日だって、それぞれの場所で頑張ることを誓ったはず。

2人でならきっとなんだってできるのに、一緒にいられない時だってあった。だってウジはボカチのリーダーで、さらにはプロデューサーでもあって。それにホシはパフォチのリーダーで、振り付けや動きの組み立てもしてて。
辛くて不安な時も、どこかでウジが、そしてホシが頑張ってるはずって思いながら耐えたこともあったはず。
だからお互い、何かの時に一緒にいられないことは理解してた。
まさかこんな事件が起こることまで想定はしていなかったけど、お互いがお互いの側に駆けつけてそこに居続けることよりも、それぞれセブチのためにできることをすることを、ホシもウジも当然のように選ぶだけ。

それだけお互いにとっては、セブチは特別で、愛してて、何があっても守りたくて。
たぶんこれからも、お互いが目の前にいなくても、どこかで戦っていて守ってて攻めてて。セブチのために最善を選んでいると信じて進むだけ。
だからお互いに、お互いにだけは嘘はつかない。

辛いことも悲しいことも悔しいことも堪らなかったことも。傷を舐めあうことはないけれど、それでセブチの全部を知れるとも思ってないけれど、2人の中にあるセブチを持ち寄って、いつだって何かに立ち向かってるつもりだから。

だから怖いって、ホシだけには言った。
そうしたらホシが、「俺も怖かった」って言う。

「本当は、お前のそばにいたかったよ」

なんでかホシがそれを小声で言うから、「知ってる」ってウジも小声で答えた。
お互いが、お互いのことを、知っていると知っていればいい。
誰も知らなくても。誰も判ってなくても。

2人きりのその時間は、それほど長くもなかったっていうのに、ようやくそれで本当にウジの中では区切りがついたかもしれない。多分それはホシだって一緒だろう。

「おしッ。なんか俺、やる気出てきた。踊りたいけど、病室で踊ったらやっぱり怒られるかな?」

そりゃ当然、病室で踊るのはダメだろう。
そう言えば、「じゃぁ屋上とか、裏庭とか、地下駐車場とか、どこか踊れそうなとこ探すわ」って言いながら、ホシが消えてった。

「いや、俺のこと病室まで連れて帰れよ」

きっとそんなウジの文句は聞こえてなかったんだろう。なんでかステップ踏みながら、ホシは颯爽と消えてったから。
いや後から病院関係者に、病院で踊られるのはちょっと......って、マネヒョンに苦情が入っていたけれど、ウジとホシはそんな感じでこの件に決着をつけた。

 

 

退院が決まった日。雨だった。
最初は全員に対して事情説明がされる予定だったのに、まだ時々様子がおかしいスングァンには負担になるだろうって理由で、スングァンは呼ばれないことになった。
だから当然「俺が残るよ」とウジが言えば、全員が納得した。

「みんなは? どこに行ったの?」

スングァンが少しだけ不安な顔をしてたけど、「ハヒニョンは最終の検査だとか、クプスヒョンとシュアヒョンは会計の話だとか、あとの奴らはこの際だから医者にちょっと見てもらうだとか言ってたけど。お前も行きたかった?」って聞けば、「俺はいい」って顔をしかめてた。

叫ぶことはなくなったけど、やっぱり見知らぬ人たちに対峙するのは苦手なようだった。
外は雨で、窓は閉まってた。
それでもスングァンが何気なく窓に近づいて立つだけでウジはドキってしたけれど、そんな自分もまたまだまだ元に戻ってないなって苦笑する。

「うちのジョンハニヒョンは天使なのにさ。こんな日に青空じゃないってどういうことだよ……。ほんとに、ハニヒョンは天使なのに。飛んでく日に、こんな天気だなんて……」
「縁起でもないこと言うなよな」
「そんなことないよ。だって飛んでいくのは、天使だけなんだよ。ハニヒョンは残るんだから」

スングァンがあんまりにも普通にそう言ったから、ウジは何も言い返さなかった。
それでいいって思ったから。それで何もかも、スングァンの中で何かが決着するなら、それでいいって......。

 

The END
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