撮影時間の関係で、真夜中に出勤ってこともあれば、真夜中に退勤ってこともあるし、ただただ移動中ってこともある。
大抵は寝てる。
最初は誰かが起きていて、ワイワイガヤガヤ。特にボカチの移動車は騒がしい。大抵ドギョムが歌っていて、スングァンも一人でボケて一人でツッコんで時折一人で爆笑してるから。
ジョシュアは大抵ニコニコしてるだけ。そして気づけばいつの間にか寝てる。
ウジはテンション高く乗ってきてくれることもあるけれど、電源が切れると途端に寝落ちする。
そしてジョンハンは気分次第。
まぁそれでも大抵は全員が笑ってるか、寝てるか、騒いでるか、怒ってるか謝ってるか涙流して大爆笑してるかのどれかで。多分運転してるマネヒョンが一番大変だろう。
何せパフォチはただただ静かだし。
ヒポチだって時折ボソボソ話して、時折笑いが起こる程度で、大抵は静かだから。
普段から賑やかだというのに今回はさらに煩い。何せスングァンが気づいてしまったから。車が動き出して十数分。まだ一度も信号に引っかかってないというミラクルが起こっていることに。
「テバギダ」
スングァンがそう言って、現在起きてるミラクルを口にすれば、全員のテンションが爆上がりし、思わず全員が、「お?」「おぉ?」「おぉおぉおぉおぉ?」とか言いつつも、目が冴えてしまったから。
「しゅ、宿舎まで一回も信号に引っかからなかったら、ヒョンッ、俺の部屋にブルートゥースのスピーカー買って」
何故かスングァンがドギョムに向かってそんなことを言う。
そしてドギョムがそれに頷いたと思ったら、ドギョムもまたウジに対して、「ウジヒョン、俺は新しいギターが欲しい」と言い出した。
もちろん謎なテンションで、ウジもそれを承諾し、ジョシュアに向かって「ヒョンッ! 俺の作業室に電光掲示板買って」と言う。なんだか「電光掲示板」の金額が想像つかないが、謎なテンションでジョシュアだって笑って承諾。それからおもむろに、「チングや。おれにフルコーディネートで洋服一式な」とジョンハンに希望を告げた。
当然ジョンハンだってそれに乗っかって、スングァンに向かって「ビンテージもののデニムが欲しい」とか言い出した。もちろんスングァンだってテンション高く、それに「オッケーオッケー」と承諾したけれど。
どう考えてもスングァンあたりは、自分でブルートゥースのスピーカーを買った方が安くつくんだけれど、テンションが爆上がり中なので、冷静さにかけていたんだろう。
ということで、ボカチの移動車の中に走る緊張感がハンパなかった。
いやもちろん、一番プレッシャーを感じてるのは運転してるマネヒョンだろう。
何せマネヒョンだけは気づいていたから、変にずっと青信号で帰り着いてしまえば、謎にテンションは高くなって「ヒャッハ~」みたいな空気にはなるだろうが、それで得するのはスングァン以外......な気がしないでもないから。
がしかし、こんな時に限って真夜中に青信号が続く続く。
特にスピードを調整するでもなく続くのだから、年に一度あるかないかのタイミングが良い日なんだろう。
とりあえず、事故らないようにだけ気を付けるマネヒョンをよそに、ボカチの面々はうるさかった。
とりあえず「あぁぁぁぁぁぁぁッ」とか「うぉぉぉぉぉぉぉッ」とか、叫ぶのはスングァンとドギョムで、その点いつだって勝ちにいく時にハンパないスキルを発揮するのはジョンハンとウジで、遠くに見える信号の交差してる歩行者信号を見極めて「ヒョン、ちょっとゆっくり」とか「少しスピードあげて」とか、どうにか青信号をスムーズに通貨しようとかしてくるとか。
まぁそれが功を奏してもう少しで宿舎にたどり着くんじゃないかって交差点が見えたところで、前に見える信号がちょうど赤になったところだった。
「アンデェェェェェェ」っと、全員が叫ぶ。
「俺のスピーカーがッ」
「俺のギターがッ」
「俺の電光掲示板がッ」
「俺のフルコーディネートがッ」
「俺のビンテージものがッ」
全員がそれぞれに叫んだところで、ふと冷静になったのはジョシュアだった。
「ところでウジや。電光掲示板って幾らぐらいするの?」
その言葉に、「ほんとだ。ビンテージものって、物凄い高いんじゃない? もしかして」とスングァンも気づいた。
「ヒョン、ヒョンッ。一回手前を曲がって逃げよう」ウジが言う。
「ナイスッ。そうだ。迂回だッ」ジョンハンも叫ぶ。
わざとなのか、テンションがあがっているからか、ジョシュアとスングァンの冷静な質問が聞こえてないふりをしてるのか聞こえてないのか。
「アンデアンデアンデアンデ。そんな迂回するなんてルールにないよッ」
今度はスングァンが、全部青信号のミラクルにのかったら損することにしっかり気づいたんだろう。
ルールなんてそもそも決めてもないのに、迂回はダメだと言い出した。
一人何がダメなのかが理解できてないドギョムは突然青信号で宿舎までを反対しはじめたスングァンに対して「なんで? なんでだよ」と言えば、「迂回迂回」とウジは叫ぶし、そこに冷静に「で、電光掲示板って幾ら?」とまたジョシュアが聞いてくるし、なにやらボカチの移動車の中が凄い感じになってきた。
どう考えてもマネヒョンが一番の被害者だろう。
全員一致の意見なら迂回だってしたかもしれないけれど、もはや反対意見まで出て後ろではギャーギャー言いまくっていて、収集がつかなくなってきて、残念ながら車が赤信号で止まる。
「あぁ、俺のギターがッ」と嘆いているのはドギョムだけで、後の面々はホッとしている人もいれば、謎に舌打ちしてる面子もいたりもして......。
結局残りの信号は全部また青信号で、結局一回赤信号に引っかかっただけのミラクルで。
前後を走ってるヒポチだってパフォチだって同じだっていうのに、当然ながらどちらも寝ててそんなことには気づいていなかったんだろう。
駐車場についてからはさすがに近所迷惑だから騒ぎはしなかったけれど、それでもテンション高かったボカチの面々だった。
でも実は後日談として、スングァンはブルートゥースのスピーカーを手にいれた。もう使ってないからってドギョムがくれたから。
ドギョムは新しいギターを手に入れた。ウジがお古をくれたから。
ウジの作業室にはいつの間にか電光掲示板がついていた。
ジョシュアとジョンハンが買ってくれたらしい。
なんだかんだ言いつつも、優しい兄たちだったってことだろうか......。
The END
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