LEFT&RIGHT
チョノヌしんどい
ウォヌが気づいた時には、その闘いははじまっていた。
「うっそじゃろ?」
普段なら口にしないような言葉使いになったのは、それだけ驚いたから......だろう。
何せディノが勝手に闘いをはじめていて、しかも街中で、だから武器が限られて。
勝つなら問題ない。相手に傷を多少おわせようと、店を壊そうと、まぁ譲ってビル一つ壊したって、どうにでもなる。
だけど、ジュンとディエイトに育てられてそれなりに闘えるはずのディノが苦戦していたことが、問題だった。
相手が強いというよりは、それだけ準備してたってことだろう。ということはつまり、今ディノの目の前にいる男が、自分たちが探ってるドンピシャ、ホンモノだったってことだろう。
「ディノやッ。引けるかッ?」
叫んだところで返答はない。それだけ苦戦してるってことかもしれない。
これだけ苦戦してるなら、いくらジョシュアとドギョムがヘンガレにいると知ってたって、そこに突っ込ませる訳にはいかない。
ジュンが今、リアルな世界でミンギュとスングァンを迎えに出てることが悔やまれる。
ディエイトに連絡を取ろうにも、コール音しかしなかった。
「ウジやッ」
叫んだのに返事がない。
まさかの部屋の中、リアルな世界でウジとホシはケンカの真っ最中で、そのまま放置してたら確実にホシはウジの部屋を出禁になっていただろう。
ウォヌがウジのスマホを鳴らしたから、そしてその電話口で叫んだから、そんなことにはならなかったけど......。
「ウジやッ」
「ぉお?」
「ホシを動かせ。ディノがやられる」
ウジもまた、慌ててパソコンに飛びついたんだろう。それでもってログを追いかけて、「ドンピシャかよッ」と叫んでた。
そう。ドンピシャ。それだけにディノがヤバかった。
なにせリアルな世界でもスングァンを襲うほどの人間が、ゲームの世界でも簡単にどうこうできる訳もなく、さらには何から何まで準備して、事にあたってるはずだから。
それこそシールド張って、邪魔が入らないようにして、全部木っ端みじんにするぐらいのことはするだろう。多分今の自分は、ホンモノじゃないから。ゲームの世界から消えてしまったって困らない、捨てIDなんだろう。
スングァンが狙われた理由。それは最後に仲間になったからかもしれない。
特に十三人と限ってる訳じゃないのに。
ディノが狙われる理由。それはウリマンネと皆から言われて愛されているからかもしれない。
ゲームの世界なのだから、実年齢なんて関係ないはずなのに。それにしてはウリマンネはって皆が自慢して、その愛おしいっていう気持ちを隠しもしないから。
何かに病んだ男にとっては、スングァンとディノ、どちらでも良かったのかもしれない。抹殺してしまえば、自分が十三人のうちに入れると、そうすればユンジョンハンといつも一緒にいられると、何故か確信的に信じてる。
「スニョアッ」
電話の向こうからウジが叫んだ声が聞こえて、ウォヌは電話を勝手に切る。
それからミンギュにも電話する。
「愛してるから、お前の3億ちょうだい。ホシの身体を呼び戻せッ」
それだけ言って、返事も待たずに切る。
もちろんリアルな世界でスマホを操作する間にも、ヘンガレの世界でもジョシュアやドギョムに、バーノンの位置を伝えてホシ回収予定地を特定するように連絡したし、ウジともやりとりは続けていた。
ただのゲームの世界なのに。
ただのゲームの世界だから。
あぁでも、ケガをすれば傷がつく世界。
その傷が消えるまでには、一定の時間が必要な世界。
もちろん3億も出せば、新しい身体は手に入るだろうけど。
ウォヌがしたことと言えば、慌ててユンジョンハンがいつものように立ってる掲示板横まで行って、そこにシールドを張ったこと。
多分ホシが戻れば、すべては一瞬で終わる。
そこら中にいる人間全てを巻き込む危険性はあるだろうけど............。
The END
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